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イゾルデ。ザッパ。トルーケン。

聖騎士イゾルデ(わたし)は魔力をほとんど使わずに戦っていた。

まあよくある防衛線の一種じゃあるんだけど。

敵は元ギルドの『英雄』達。

魔法使いが魔法使いと戦うって言うのはなかなかある事じゃないから勝手が分からず敵さんはかなり困惑してるみたいだ。


この数日で考えたんだけれど。

きっと突き詰めれば、対魔法で重要なことは「いかにして主導権を奪うか」という話になる。


結局のところ個々の力では防御魔法を破る事なんて言うのは出来ないから。

じゃあ力を合わせて威力の高い砲撃魔法を使おうという事になる

そしてそうはさせないのが私の腕の見せ所ってことになる。

ま。私はそれなりには優秀だからね。

聖騎士(バンマス)としてみんなを先導するのは最も得意な仕事の一つ。


私は大魔女グィネヴィアみたいに単騎でセンゴクのやばい奴ら相手に圧倒するようなことはできないから自分がやれることをやるだけ。

というかなんであの大魔女はそんなことができるのかしら。

やっぱりあの魔女は頭おかしい。


頭がまともで賢くて可愛い私はちゃんと力を合わせて戦う。

幸い子供ばっかりだとは言え頭数は揃っているから魔力総量ではどっこいどっこいってところ。

後は…ふふ。じゃあやっぱり魔法の主導権を奪えるかどうかって話になるよね。



だったら話は簡単だ。

まずは敵の指揮者と聖騎士(バンマス)をブッ飛ばせばいい。


鳴らすは短音。音色は鈍色。

斥力(ハンマリング)

重樂器(ベース)のネックを掴んで振り回す。

がいんっと大きな音を鳴らしながら敵の聖騎士(…なんて名前だったかな?)は樂器ごと吹き飛んでいく。


周りの『英雄』達はポカンとした表情でこちらを見ている。

引力(プリング)

吹き飛んでいった樂器だけを引き寄せる。

殴打(スラップ)

よし。聖騎士(バンマス)の樂器は粉々に破砕した。


ふふ。思った以上に上手く嵌っている。

たーのしっ!

ぼがんぼがんとギルドの面々をなぎ倒していく。

なかには見知った顔もあったがまあ今は敵だし気にせずぶん殴っていこう。


敵の樂團(オルケストラ)の魔力を全部こっちで使ってぶん殴ってるからこっちはガンガン馬力出して殴れるし向こうは魔力が魔法の形を成していない。

それなりに動ける聖騎士(バンマス)の樂器は壊したし主要な所は殴り倒したから…あれこれもう勝ちなんじゃないかな?

うふふふふ。

殺しちゃダメって言われてるからメインは樂器をガンガン壊していくだけにとどまるけどもはやギルドの奴らはもうほぼ無力化できちゃった!

やっちゃれやっちゃれ!


このまま勝っちゃってもいいんじゃないの?

ちらりとザッパとトルーケンそれに子供たちの方へ眼を向ける。

いつの間にか囲まれていて彼らの様子は見えなかったけれど。

精鋭である彼らがこの機を逃すわけないという信頼があった。




─────────────────────────────




鉱人族のザッパ(おいら)はこれはチャンスだとそう考えた。

子供達(ガキども)の子守に飽き飽きしてたってのもある。

いやさそもそも守ってばっかりって言うのが性に合わないんだわな。


大魔女グィネヴィアが殺すなと言うのもわかる。

元々は同じ釜の飯を食った仲間だからそりゃおいらだって殺したくはないさ。

後ろに控えてる奴らも…まあまずいんだろうな。

だがイゾルデがめちゃくちゃに暴れた結果今や『英雄』の樂團(オルケストラ)は総崩れだ。


ここでこいつらは完全に再起不能(リタイア)させとくべきだわ。


まずなんにしてもここでおいら達が生き残るのは最優先だしあのよくわからんメルナっちゅうエルフの…娘?も来るかどうかわからんし当てにはできん。

大魔女グィネヴィアはよっぽど当てにしちょるみたいだが…ハンドベルしか鳴らせんのはなぁ。

いや。強いのは間違いなく強いんだろがなぁ。

センゴクの蛮族共を腕一つでぶちのめして頂点に立ったロクスケっちゅうバケモンが師匠って呼んじょるらしいしな…。

…いや。それもさすがにぶっ飛びすぎててまともに信じるのも難しいわ。


ま。

結局よくわからん奴らを当てにするってのより今勝てそうならちゃんと勝ちを拾っちまったほうがいいだろってこった。

難しいこたぁ後で考える。

それになぁ…後々こいつらを味方にしたいって話にしてもちょっと全体の練度が低すぎるわ。

数いりゃそりゃ魔力の足しにゃあなるがそれを言うならまあ変わりはいくらでも効くってこったからなぁ。


「よっしゃ。トルーケン。ガキども纏めろ。いっちょやんぞ。」




─────────────────────────────


巨人族のトルーケン(おらぁ)は迷っていた。

ずっとずっと。

戦いの間ずっと迷っていた。


やるぞ。とザッパは言ったが…大魔女グィネヴィアの指示は「時間を稼げ。敵を殺すな。」というものだったし…。

「…いいのかぁ?大魔女グィネヴィアは…」

「構うこたねぇ!大魔女グィネヴィアもいつも言ってたろ!自分たちで考えろって!」

「…そうだなぁ。」


そうなんかなぁ。

おらぁは頭があんまりよくねえ。

だからでっきるだけ頭のいい奴のいう事を聞くようにゃあしてる。

ザッパはいつも迷わずに答えを出すから…なるったけいう事聞いてるがグィネヴィアのネェさんが言ってたこったぁ逆だよなぁと思う。


だがなぁ。

イゾルデもザッパもやる気になっちまっちゃあ…おらぁにゃ止めらんねえしなぁ…。

腹ぁくくるかぁ。


「…よっし。みんなぁ!」

子供達に声をかける。

遂に防衛線じゃあねえ本物の戦いが始まる。


ああ。

ついに子供達を戦いに参加させることになっちまったなぁ。

まだ戦うにゃあ早えが…しゃあねえわなぁ…。

このまま何もせんで死ぬわけにゃいかんし。

戦力になんだったら子供でも年寄りでも引っ張り出すのが常識だ。


でもなぁ。

…いんや、迷わねえって決めたじゃねえか。

おらぁが迷ってたら子供達も迷っちまうわ。

せめて背筋をピンと伸ばして見た目だけでも迷ってねえみたいに振舞わねえといけねえ。


「おらぁが音出してくから音出してくぞぉお!」

大声を張り上げて気持ちを少しでも鼓舞する。

どうせやんなら全力でやんなきゃなんねえ。


「おお!いいんかぁ!いいんかぁ!!やっていいんかぁ!トルーケン!」

「許しが出たぞぉ!やったんぞぉ!ぶっ殺すぞぉ!」

「おらぁああああああああああああああああああ!やったんぞぉおおおおおおおお!」

「あっははあああぁ!遂にかぁ!いいねぇ!防御魔法なんてつまんねえよなぁ!」

「ぶっとばすっぞおおお!」

「やったんぞぉおおお!」


譜面台の子供達…思ったより生き生きしてんなぁ…。

おっし。

やると決めたからにゃしっかりやってくぞ。

ここで下手ふみゃたっくさん死ぬんだ。


深く息を吸って打樂器(マギカ)を構えて息を吐く。

スゥっと自分で集中したのがわかる。


ダンダラダンダラダカダカダカダカ

ダンダラダンダラダカダカダカダカ


全員に聞こえるよう。

全員がしっかりと合わせられるよう。

音の粒をそろえてリズムキープを心がける。


ザッパを見ると準備万端だと言わんばかりに大きく息を吸い込んだ。

さて。やっか。




─────────────────────────────


うっわ。

アイツらなにやってんだ!防御に徹しろって言ったろうが!

くそ!ここからでもわかる!あれは…止まらないよなぁ…!


あぁ…もう!だったらもう覚悟決めるしかないか…!


出してある手の上に飛び乗り戦線を離脱してイゾルデの近くへ飛ぶ。

本来この魔法はこんな使い方するもんじゃないんだけど。


「イゾルデ!あたしが引き継ぐ!」

「あら。引き継ぐも何もこれ。貴方の為の曲だと思うけれど。」

「…そうか。まぁいい。ひとまず全力で演奏するぞ。」

「ふふ。言われなくとも。」

「グィネヴィア!細かいコントロールは任せんぞ!」

「ネェさん!頼んます!」

「「「うぉおおお!やったんぞぉおおお!!」」」


…はぁ。


「鳴らすは全音合奏(フルオーケストラ)


まあ。あたしとしてもずっとイライラしていた。

どうにもならないなら。せめて気持ちを乗せよう。


「音色は白・青・鈍色・黄金色」


イゾルデ。ザッパ。トルーケン。そして子供達の音を練り合わせ。あたしの音で輪郭を整える。


「災厄の獣よ。月光の使者よ。神に仇為す暴虐の牙よ。」


『英雄』達を真っ直ぐに見据える。その後ろに控える者達も巻き込む。あぁもう。


「穿て。引き裂け。噛み千切れ。」


()()()()()()()()()()()


「月光歌『フェンリル』」

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