モダンとクラシック
「現代魔法は何故樂器を用いるのか。」
「そもそも杖と詠唱で行っていたはずの魔法を何故樂器で行っているのか。」
「今日はそのあたりをこのあたし、大魔女グィネヴィアが詳しく話していこうかね。」
「とはいえまあほとんど知らない人はいないだろうけど。それじゃあ…何故か目を逸らしたメルナに答えてもらおうか!」
「…そうだ。なんだよく勉強してるじゃないか。」
「まあ概ねメルナが言った通りだな。」
「『合奏』ができるかどうか。」
「これが樂器最大の利点であり樂器が作り出された理由でもある。」
「要するに。昔の魔法使いは魔法は1人で使うものであり、協力して魔法を行使することができなかったんだ。」
「いや、全くできないわけではなかったらしいけどな。」
「杖を使った魔法が主流だった頃には協力魔法って言うのは高等技術であって、誰にでも簡単にできることじゃあなかったんだ。」
「樂器を得て『合奏』ができるようになったことで魔法は格段に進歩していった。」
「それまでの魔法使いというのは個人の強さを求めていたが、力を合わせてより効果的な『合奏』を行う方向性にシフトしていったんだな。」
「複数人が協力して放つ魔法は従来の魔法とは比べ物にならないほど高出力になったし防御魔法は連合国の兵器やセンゴクの六道では打ち破れないほどに強固になった。」
「それに様々な魔法を組み合わせることによって複雑な魔法がどんどんと生まれていった。」
「例えば一人で火の魔法と水の魔法を組み合わせようと思ったら右を見ながら左を見るという曲芸のような真似をしなければいけないが二人いればそれぞれが火と水の魔法を唱えて『合奏』すればいいだけだろう。」
「各属性を組み合わせた高威力な攻撃魔法や強固な防御魔法。あとは…特殊な魔法も沢山開発されていった。」
「あとはだ…これまで戦争で活躍していた魔法使いというのは魔力が高くて詠唱が得意で沢山の魔法を知っていて身体能力が高い。所謂『古典的な魔法使い』だけだったんだ。」
「個人が強い魔法使いが複数人集まってそれぞれが魔法を使う事で戦っていたわけだな。」
「だが『合奏』が生み出されてからは魔法使いの戦い方は激変した。」
「これまでのような万能な魔法使いだけじゃあなく色んな魔法使いが力を合わせて
活躍することができるようになった。」
「魔力が高いけど詠唱が苦手な奴だったり。魔力は低いけど詠唱が得意な奴だったり。『合奏』をするのに人をまとめるのが上手な奴も大活躍だ。」
「そして魔力が弱くて詠唱も苦手だっていう奴らも沢山集まって『合奏』する事で一人の『古典的な魔法使い』よりもよっぽど協力で複雑な魔法を使うことができるようになったんだな。」
「そうそう。お前たち譜面台のひよっこ達が最初に防御魔法を教わるのも力を合わせて自分達の身を守れるようにってことだ。」
「子供でも力を合わせれば大人一人が使う魔法の何倍も何十倍も強力な魔法を使うことができる。」
「力を合わせて。得意なことがある奴は他の奴らをその得意なことで助けてやれる。」
「あたし達ギルドは力を合わせることで昔の魔法使いよりも格段にいろんなことができるようになったし強くなった。」
「だからこそみんなには絶対に守ってもらいたいことがある。」
「それは一人では戦わないこと。」
「センゴクの奴らは言うまでもなく一人一人が強いし連合国の奴らも強力な兵器を使うから一人でも沢山の人を殺すことができる。」
「そんな奴ら相手にあたし達ギルドの魔法使い達が一人で戦ったところで到底敵わない。」
「一人で戦えるのは昔のような『古典的な魔法使い』の中でもほんの限られた奴だけだからな。」
「お前達には力を合わせて戦う『現代的な魔法使い』として優秀になってもらいたいんだ。」
「敵を倒すことよりも絶対に自分が死なない事。」
「その為に仲間と力を合わせる事。」
「それは絶対に忘れないでくれ。」
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「嘘だろ…いくら強いって言っても…この人数で魔法使い一人倒せねえのか…?」
「あっはっは。まだ3人動けなくなっただけじゃないか?一斉にかかれば行けるかもしれないぞ?」
ああ。よかった。やはりあの三人は別格だったようだ。
沢山を傷つけずに戦意を喪失させることは成功した。
ただ…やりすぎればきっと後ろに控える得体のしれない奴らが出てくることになる。
「おい!連合国!お前らも出てきてそいつ止めろ!」
「いやいやいや。なんでそんな魔法使い一人止められないんですか。君たち戦闘特化集団じゃないんですか?あっちの防壁の破壊を優先させたいんですが…。」
「このババア止めなきゃどうにもならねえって話だよ!わかんねえのかよ!ここで俺らがこいつ止めてるからお前らもそっちに専念で来てたってことだろうが!」
「…尻ぬぐいですか。まあ仕方ありませんね。助けてあげますよ。ただあちらも放置すれば挟み撃ちで全員が危険にさらされる。全員でそちらに回ることはできませんよ。」
「ああ。それでいい。ひとまずあの動かなくなった3人を何とかしねえと…。」
連合国の奴らか。
アイツらは色々な兵器を使うが、大抵の銃器は魔法で対処できるはずだ。
つまり厄介なのは…。
「機械人形達を前線に配置しましょう。後ろで銃器を持った我々が支援に入ります。しかし敵は魔法使いです。銃器の類は対策されていると言っていいでしょう。」
「じゃあお前らはどうすんだよ。」
「ですから支援ですよ。隙が無ければ銃器は無効化されますがつまり必ずこちらに気を払う必要があるという事です。まあ相手はあの『大魔女』ですから。気休め程度ではありますが。」
「ねえよりましか。いや…違えな。そうじゃねえ。協力してかねえといけねえんだったな。」
機械人形が出てきてこちらに捕縛用の兵器を向けてくる。
…鬱陶しいな。あれらは数が多い。全部壊して回りたいがセンゴクの奴らが守るように位置取っている。
連携し始めてきたな。
結局人数や地力で負けているのだからそれをされるのが一番こちらとしてはきつい。
「そうですよ。我々はラクネ様の為に成果を持ち帰る必要がある。こんな圧倒的優勢で結果を残せなければ最悪です。」
「…おう。…もともとは敵だったとはいえこれからは仲間としてやってくんだ。すぐにあのバケモンババアぶっ殺して防壁の方へ合流するぞ。」
「こちらでも分析は進めています。時間さえいただければあの『大魔女』一人を討滅するくらいはわけ有りません。お互いにできることをやっていきましょう。」
「おう。こっちはこっちのできることをやる。」
冷静になれ。
なんとかして時間を稼ぐ必要がある。
…いや。時間を稼いだところで…本当にメルナ達は来てくれるのか?
「自動人形の攻撃を集中させることはできるか?集中さえしてくれりゃ俺らで合わせる。」
「そうですね。やってみます。アレは機械ではありますがあれが壊されれば戦力が一つ減ると考えてください。」
「ああ。言われなくともしっかり守るさ。分析しっかり頼むぜ。」
「ええ。あれは魔法使いの頭領だけあってやはり厄介な相手です。きっちりとお互いの役割を果たして処理していきましょう。」
あたし達だけで逃げ出すしかないのか?
子供達を見捨てて?
いや、それは絶対にあり得ない。
逆ならばいい。
あたしのような老魔女を見捨てて若い奴らが生き残るならばあたしの命はいくらでも犠牲にしていい。
だけどその逆は絶対にあり得ない。
だめだ。弱気になるな。
ピリカは。あいつは優秀だ。確実にメルナ達に危険を知らせてくれた。
来てくれる…はずだ。
わざわざこんな危険な場所に?
こんなあたし達を助ける為だけに?
敵の罠かも知れないのに?
…いや、だめだ。
弱気になるな。
あたし達を助けるメリットがあるのか?
助けを求めるような弱いあたし達の為にわざわざ来てくれるのか?
いや、メルナは来てくれるはずだ。
あの子は優しい。あたし達がピンチだと分かれば迷いなく駆け付けてくれるだろう。
だが、メルナ以外の奴らはどうだ?
あたし達を助けるメリットデメリットを冷静に考えたら…。
違う!そうじゃない!
…もうあたしはメルナ達が来てくれると信じるしかないんだ。
もう、あたし達だけではこの危機を乗り越えられそうにない。
だからあたしは、あたし達には、もう『信じる』以外の選択肢は残されていない。
腹をくくれ。
メルナを。あたしの可愛い教え子の一人を。
今は信じるしかない。
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「こっちでいいんだよな!俺はセンゴク以外は全然わからねえぞ!」
「はい!こちらで大丈夫です!…多分。」
「はぁ?師匠お前!ほんとに大丈夫かよ!」
「メルナ君!僕も詳しくは知らないのだから君だけが頼りなんだよ!君がしっかりしてくれないと困るんだ!大丈夫なのか!本当に!」
ロクスケさんの高速移動で想像以上に速くギルドの領地に着くことができた。
多分もうすぐ…なのだとは思うが詳しい位置がわからない。
私は詳しい位置関係を知らなかったのだが。
ヨハネさんが「僕は何を隠そうギルドへは足を運んだことがあるのだよ!ははは!大船に乗ったつもりでこの工場長ヨハネを存分に頼ってくれ給えよ!」とか言っていたので。
まあ大丈夫かと思っていたのに、近くに来たら急に「え?詳しい位置?僕にわかるわけがないだろう?僕は連合国の人間だよ?」とか言い出したので私のかすかな記憶を頼りに譜面台を探しているところだ。
…今は余計なことを考えていても仕方がない。
急いで譜面台を探さなければ。