アルペジオとパワーコード
終わらない戦いは得意だ。
あたしはずっと。
ずっとずっとずっと。
戦いながら生きてきた。
戦争ばかりのこの世界で、死なずに3000年間戦い続けられているのはきっとそれなりに戦いが得意なんだからだと思う。
好きか嫌いかを問われればあたしは戦争は大嫌いだ。
だけど。
あたしは戦う事の才能を持って生まれてしまった。
その才能を十全に活かすことができる立場になってしまった。
気が付けば周りの人を守るための手段が戦う事だけになってしまった。
だから。
あたしはずっとずっと戦ってきた。
これからもきっとずっとそうなんだと思ってきた。
いやだけど嫌いだけど私が得意なことでわたしが大切な人を守ることができるんだったらもう少しだけ頑張ろうって。
そう思ってここまで長生きしちゃって。
こんなことがいつまで続くのかなって思っていた。
でもそれが。
もうすぐ終わるって言われて。
半信半疑で見ていたら本当に平和になって。
あたしは本当にうれしかった。
だから。
だからこそ。
あたしはここで絶対に負けられない。
絶対にこの最悪の戦場を乗り切って。
あたしが大好きな人たちとみんなで平和な世界で笑って過ごすんだ。
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「状況はどうなっていますか。」
「ラクネ様!本日はご機嫌麗しゅう!」
「ありがとうね。でもそう言うのは。今はいいですので。報告をお願いできます?」
「はい!現在英雄連合は前衛センゴク。後衛ギルド。支援を連合国と配備しており…」
「攻めあぐねているのですね。極少数の相手に。」
「…はい。」
「まあ腐っても一国の主とその側近という事ですか。仕方がありませんね。」
「申し訳ありません。こちらもまだうまく連携が取れておらず…。」
「いいですよ。言い訳をしても始まりません。あと一日です。」
「一日…ですか?」
「ええ。一日だけ待ちます。そこで結果を出せなければわたくし達が終わらせます。」
「わかりました…なんとしても。」
「ええ。ええ。期待しておりますので。あなたたちには。きっとうまくやるでしょう。」
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「それで?どうにかなりそうなのか?」
目の前の女ラクネに訊ねる。まだいまいちこの女の事を把握しきれていない。
有能なのか無能なのか。
こちらの言う事は従順に従う。能力は有用。感情に振り回されるようなクズではない。
ただ要素だけを抜き出せば有能であると思うが。
有能な人間か無能な人間かというのは要素だけでは測ることはできない。
結果を出せるかどうか。
評価できるかどうかを測るのはその一点のみだ。
「んー。まあ。ええ。無理でしょうね。雑兵ではさすがに相手が悪いです。あれは。大魔女グィネヴィアでしたか。難しいでしょう。きっとあれは。わたくしたちに近い何かになる。そういう。気配がします。」
なるほど。状況判断は最低限はできているか。
しかしその上で適切な判断をしているとは到底思えない。
「だったら有無を言わさず殺してしまうべきだろう。」
「わたくしとしてもですね。そうしたいのは山々です。ええ。ええ。そうでしょうとも。今すぐにでも殺してしまえればそれに越したことはない。ですが。」
回りくどいな。鬱陶しい。
ああ。これはそういう事か。
「便利なようで使い勝手が悪いという事か。」
「ええ。御理解いただけまして。多少ブランクもありますので万全とは言い難いのですよ。」
要するにこいつらを支配するのに必要だと言う事らしい。
「1日の猶予を与えたのは何故だ。」
「すぐに上が出しゃばって解決してしまってはねえ。やる気を失ってしまいますので。わたくしは無能を従えその上に立つ伽藍洞のお姫さんをやりたいわけではないのです。それに…敵さんがどう出るかは見ておきたいですからねえ。」
考えあってのことらしいが、やはり人を思うように操ると言うのは一筋縄ではいかないのだろう。
この女は相手に主導権を握らせる。そうして操る。
特殊な力を使ってはいるようだが能力だけで十全に操る事はできない。なので持てる手札を可能な限り切って操っているのだろう。
「…ある程度は貴様に任せると言ったが。興味を優先しすぎるな。」
「ええ。わかっておりますよ。敵さんがどんなもんかある程度把握しときたいっていうのはそんなわがままでもないでしょう?」
ころころと笑いながら答える。
こういった一つ一つの所作がこの女の武器なのだろう。
「それを考えるのは貴様ではない。話は終わりだ。」
ああ。気持ちが悪い。
私に預けられたこいつらは揃いも揃って気味悪い。
全員が全員常軌を逸している。
自分もそうであるが故にこの場にいるのだとは思う。
それが本当に気持ちが悪い。
こんな奴らと一緒なのだと思うとそれだけで心底最悪最低な気持ちになる。
はやくこんなカスみたいな仕事を終わらせて帰還してしまいたい。
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前線で戦うセンゴクの『英雄』達は20~30人ってところだ。
相変わらずまっすぐに突っ込んできてくれている。
この程度の奴らならパワーはそんなに必要ない。
連弾奏法で十分だ。
「くっそまたこのでっけえ手かよ!死ねやババア!」
「年長者は敬うもんだってんだろうが下っ端ァ!子供共の面倒をまとめてみてやらないといけないなんてねえ!」
「その弦樂器をぶっ壊せ!数人でまとめて叩きつけりゃぶっ壊すくらいできんだろ!」
「昨日もそう言って遊ばれてただろう?あんたらそんだけ頭数揃えてこの手一つまともに攻略できてないじゃないか!あっはっは!こりゃ戦いとも呼べないねえ子守だよ子守!」
「クソが!いくつあんだよこの手!ガハッ!」
「おい!挑発に乗んな!前に出過ぎたらぶっ飛ばされる!」
『白い手』を複数具現化して操作する。
鳴らすは連弾。音色は白。
詠唱は最初に一度済ませればいいので白の具現魔法は使い勝手がいい。
「じゃあ固まってりゃ勝てるってか!この大魔女グィネヴィア相手に!あははははははは!まとめて消し炭にしてやろうか!」
「なんなんだこのクソ婆ぁ!くっそ演奏隊!さっさとあのでっかい家ぶっ壊してこっち手伝えよ!」
「…うるさい。こっちは集中しているんだ。」
譜面台をちらりと見るが障壁は強固に保たれている。
イゾルデたちはしっかりと協力してくれているようだ。
こちらはこちらの仕事をきっちりとこなさなければいけない。
「鳴らすは幅音!音色は朱色!」
どうせ当たらないがはったりは効かせないといけない。光と音が派手な爆発魔法をジャキジャキと鳴らす。
「散れ!爆発だ!」
ごぉぅん
がらがらがらがら
固まっていたセンゴクの『英雄』達が蜘蛛の子を散らすように散り散りになる。
深く息を吸う。
視野を広く全体をイメージでとらえる。
集中しろ。
現在動かしている『白い手』は14個でわたしに向かってきている奴らは20人ぴったり。
あの手を横薙ぎに大きく動かせば沢山巻き込めそうだ。
何人かは巻き込めたがやはり精鋭揃いのようで何人かちゃんとこちらの攻撃を的確に避けている。
…厄介だな。
気取られぬようペースを作っていく。
「さあさあ!動きが鈍ってきたんじゃないか!あっはっは!」
「てめえら気合入れろ!全員で一斉にかかれば捌ききれねえだろ!」
「なるほど一斉に来るって!わかっててやらせるわけないだろう!」
そうだ。一斉にこちらを攻撃されるのが一番まずい。
いかにあちらの攻め手を乱しつつ行動をパターン化させられるかだ。
…いざとなれば全員を殺してでも生き残らなければならないが。
その選択はまだ選ぶ時ではないだろう。