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夜想曲

「大魔女グィネヴィア…えっと何と言っていいのかな…あのね。変なエルフがいるの。」

側近の妖精族ピリカが困惑したような顔をしてあたしに報告してくる。


変なエルフねえ。

…いやエルフってのは変なやつばっかりなんじゃないかな。

あたしの周囲のエルフが特別なのかもしれないが、エルフは一癖も二癖もあるような奴らが多い。

まともなのはあたしだけなのかもしれないね。

きっと長年生きているうちにどんどんと気持ちが鬱々としていきこじれてしまうのだろう。


「なんだよピリカ。あたしは今忙しいんだ。今はそれぞれの国が落ち着いてるからまたでっかい戦争が始まるだろう。今は各国次の戦争のための準備をしてるんだから。あたしもしっかり準備しておかないといけない。変なエルフくらいいくらでもいるだろ。適当にそっちで処理しといてくれよ。」

ピリカは優秀な妖精族だ。

あたしの手のひらほどの小さな体で文字通り飛び回りながら色々な雑務をこなしてくれている。

今ではほとんどあたしと同じくらいの権限を持たせてあるからいちいちあたしに許可を取る必要は本来ならばない。


「いやあのね。表に貼ってあった『ギルドはいつでも新しい仲間を募集してます』って張り紙あるじゃないのよ。」

「ああ。譜面台(スコアスタンド)の子供たちに作らせた奴ね。可愛く描けてるよなあ。」

「あれ指さして『募集を見てきました。』って言ってきたのよ。」

「…はあ?どういう意味だ?」


あの張り紙は昔からの伝統で子供達がギルドへの帰属意識を持ってもらう為のものだ。

あれを見て「自分達もギルドの為に頑張るのだ。」と考えるのはさらに小さい子供達くらいの物だろう。

あたしが子供のころに最早形骸化していた募集を見て真に受けるような奴はこの国にはいない。


「全然わかんない。もしかしたらよそから来たのかもしれないけどエルフで…しかもあたしにはよくわかんないんだけど年齢もかなりいってるみたいで…イゾルデが言うには多分1000歳超えてるみたいなのよ。」

「それで。見た事ない顔だってのか。」

「そうなのよ。きれいな青い髪をして変な服着て。初めてこの場所に来たみたいできょろきょろして。」

確かにそれは怪しいな。

青い髪のエルフはまあいくらでもいるが1000歳を超えたエルフっていうのはあたしはほとんど知らない。

あたしが知っている青髪の1000歳を超えたエルフは…あたしくらいか。


「…センゴクにも確かエルフはいくらかいたはずだろ。」

「うぅん。多分それもないのよ。だってセンゴクの人達って…なんというか目つきとか怖いじゃない?」

「そうだな。あいつらやたら目つき鋭いっていうか。強い奴になると笑ってるやつもいるけどそいつらもどちらかというと目が座ってるって感じだ。」

「でもそのエルフさんはねぇ…。なんというかぽわぽわしてるの。」

「…はぁ?」

「目をキラキラ輝かせてね。子供が描いたポスターを指さしてね。『募集を見てきました。』ってね。ぽわぽわしながら言うのよ。あたしどうしたらいいかわかんなくって。」

「なるほど。…確かに意味が分からない。…というか素性が全く分からないな。」

連合国にいたというのもない。あそこは人間族以外はいないから。


「ギルドにいる高齢のエルフならあたしが知らないわけないはずなんだがなぁ。」

ここでふと。数か月前にあたしを訪れたヨハネの言葉を思い出す。

「もうすぐこの世界の戦争が終わる。」

一体どのように終わるのか。

なぜそれだけをわざわざ敵地のど真ん中にいるあたしに言いに来たのか。

どうやって誰にも見つからず来れたのか。

そしてどうやって帰っていったのか。


わけが分からない。


…あいつ本当に言いたいことだけ言ってどっか行ったよなあとあらためて腹が立ってきた。

まあ人間族にしては顔だけはよかったが…妙に自信がありそうで少し話せばそれは虚勢を張っているだけだとわかった。

いや。度胸はあるのだろう。そうでなければ連合国の首領は務まらない。


「まあいいさ。その『変なエルフ』の件はあたしが預かるよ。ここに連れてきな。」

色々考えたがひとまずはその『変なエルフ』が何者なのかを尋ねなければいけない。

…その『変なエルフ』はもしかしたら。この戦争を終わらせるような『何か』なのかもしれない。


「…いやあ。さすがにそれは考えすぎかもねぇ。」

「うん?何か言ったの?大魔女グィネヴィアそれじゃあ案内するけどいいかしら?」

「ああ。…よっぽど平気だとは思うが…敵かもしれないんだ。注意しておきな。」




─────────────────────────────


夜になって敵の攻勢も少し落ち着いたので見張りを数人立てて休むことにした。

食料は豊富にあるわけではないが以前メルナに大量に作ってもらったお菓子や保存食があったので全員がこれから数日過ごす分くらいはまだ残っている。

まだ戦いが始まって2日経っただけだがみんなの消耗が顕著に出ている。

それもそうだろう。

こちらの人数は50人ほどなのに対して敵の軍勢は数万を優に超えている。

それに加えて敵は英雄連合だ、ギルドの仲間だった奴らも沢山いる。

もともと味方だったギルドの仲間が全力であたしたちを殺しに来ているという現実は思った以上に辛い。


「ねえ。大魔女グィネヴィア。ピリカは無事にメルナちゃん達の所にたどり着いたかしらね。」

「…正直。望みは薄いが。あたしたちは待つしかない。」

「あらあらグィネヴィア。ダメよそんな顔していたら。いけないわそんなことを言っていたら。貴女は胸を張って堂々と『絶対に大丈夫だ』って言わないといけないでしょう。」

「…お前相手に虚勢を張る意味もないだろうイゾルデ。…ピリカは優秀だ。逃げ足の速さで叶うやつはそうそういないだろう。ただ…どこにいるのかを探せるかどうかは…わからない。」

「通信端末を抑えられちゃったからね。そこを最優先で抑えに来てたからどうしようもなかったけれども。敵さん達はどうしても助けを呼ばれたくはなかったってことなのかしら。」

「そうだなあ…ピリカが離脱できたのもかなり早めに状況を把握できてたからなんとか捻じ込めただけであれ以降誰一人逃げられていないからな。」

「あらあら、優秀な参謀がいち早く気付けたからでしょう。ほめてくれたっていいじゃない。」

「ああ。そうだな。この件に関してはお前に頭が上がらないよイゾルデ。お前がいてくれて本当に良かった。」

「素直ですこと。こんな素直なグゥちゃんを見るのはずいぶんと久しぶりね。」

「また懐かしい呼び名を…どうせマルクあたりから聞いたんだろ。」

「ふふふ。おじい様が昔よくグィネヴィアの事を楽しそうに話していたことを思い出しちゃってね。」

「お前から見てどうだ。あとどれくらいは持ちそうだ?」

「…どうでしょうね。かなりギリギリ…全員生存を条件にするならば持ってあと一日かしら。いえ。相手がどう考えても手を緩めていてくれているから。それを前提とした話になるのだけれど。」

「やっぱりそうだよなあ。できれば現状維持に努めたいが…。」

「この場所と子供達を見捨てるっていうのならば。あなたと私とザッパとトルーケン。この4人で逃げだすっていうのならばかなり確率は上がるでしょうね。」

「それはダメだ。…いや。そうするしかないんだったら…。全滅するよりはそうするべきなんだが…。」

「わかっているわ。大魔女グィネヴィア。私は意地悪を言った。私の尊敬するあなたはそんな手段を取らない。絶対に仲間を見捨てたりはしない。そして必要となればそうするしかなければ。少しでもたくさんの人を守るためにそうするのでしょう。そんなあなただから私は忠誠を誓っているのよ。」

「…やめてくれよ。あたしは。そんな立派な奴じゃあない。勘違いするな。少しでも多くの戦力を確保しなけりゃ逃げ出したとしても負ける。それだけの話だよ。」

「それじゃそういうことにしておきましょうか。それで。運よくピリカが逃げ出せていたとして。更に運よくメルナちゃん達のところにたどり着いていたとして。幸運が連鎖してメルナちゃん達が来てくれたとして。私達の誰も死なずに間に合ったとして。私達は。無事に生還できると思う?」

「ああ。もしもメルナ達が来てくれたのなら。…きっとなんとかなる。いやもしメルナ達が来なかったとしても。あたしが何とかしてみせるさ。この大魔女グィネヴィアが。全力でお前達を守るよ。」

「格好いいこと言っちゃって。そんな風だからみんな貴女をかばって死んじゃうのよ。」

「うるさいな。お前はあたしをかばわないから大好きだよ。」

「あらそう嬉しい。あたしもあたしが大好きよ。」

「そうかい。それじゃとっとと寝な。今後の事はあたしが考える。」

「貴女は寝ないの?」

「寝るよ。みんなが寝静まってからじゃないとあたしは安心して眠れないのさ。」

「そう。それじゃあおやすみ。大魔女グィネヴィア。お願いだから無茶なことはしないでね。」

「ああ。おやすみ。聖騎士イゾルデ。」


暫くするとすぐにすぅすぅと寝息が聞こえた。

…はあ。どうしたものかねえ。

あたし達50人を除いたおおよそ全ての人達が二日前から突然おかしくなってしまった。

きっかけは英雄連合からの通信だった。

「みなさん。戦争を始めましょ。英雄連合本部に集まってください。」

「はあ?誰だあんた。誰に断ってそんなことやってんだ?」

問いかけても返事はなくすぐに通信は切れた。

そして間もなく異変は起こった。

英雄連合は大挙をなしてあたし達を排除するために動き出したのだ。

そこから2日間の防衛線を経て現状になる。


…もしかしたらあたし達がおかしいのかもしれない。

あたしたちが生まれる前からずっと戦い続けているこの世界で戦争を終わらせたいというあたしはおかしいのかもしれない。


でもあたしは。

ずっとずっとずっと戦争を終わらせたかった。

だからメルナが来てすごくすっごく嬉しかったんだよ。


突然やってきて食べるものをたくさん作ると言って。

連合国の奴らを連れてきて停戦を取り付けて。

センゴクの奴らを力尽くでねじ伏せて。


最後に『侵略者』っていう共通の敵を撃退できればそれで戦争は終わるって言ってくれた。

それで本当にもう戦わなくっていいんなら。あたしは…。


メルナ達はきっと来てくれる。

他の奴らのようにおかしくなっている可能性も考えたが…あたしたちが無事であいつらが無事じゃない(おかしくなってる)とは考えにくい。

それにあたし達がピンチだってピリカが伝えてくれたらきっとすぐに助けに来てくれる。

だからメルナ達が来るまで…あたしは…みんなを守るんだ。

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