輪舞曲
「職人仕事は俺達ドワーフの領分だ。エルフのあんたに出張ってこられるといい迷惑なんだよ。ひっこんでな。」
「なぁに言ってんだい!樂器の数が足りてないんだろう!このままのペースじゃアンタらが寝る暇もないって言うからあたしが手伝ってやってんだ!」
「俺らは俺らで仕事に誇り持ってやってんだ!あんたが出てきたところで邪魔でしかねえ!」
「ったく誰があんたに金槌の振り方教えてやったと思ってんだいバルザック!この国であたし以上の樂器職人はいないんだ!引っ込むってならお前が引っ込みな!」
「…グィネヴィアさん。こんなところにいたんですの?明日貴方が先頭に立って指揮をするんですのよ?こんな所で油を売ってる暇があるんなら早く自室に戻って休んでくださいまし。」
「げぇ。いやね。リア。あたしは作戦の可能性を少しでも上げるためにね。バルザックたちの手伝いをしようと思ってね。」
「バルザックさん。お手伝いが必要なんですの?」
「いや全く。はやくこのわがままな大魔女を連れてどっか行ってくれ。」
「おい!バルザック!このあたしが手伝ってやろうってのに何て態度だよお前!あーあー!あたし傷ついたからな!ギルドで一番偉いこのあたしが!傷ついたからな!あーあ!」
「そりゃよかった。そのままとっとと寝室に引っ込んでベッドで枕を濡らしてくれや。はやく連れてけフィーリア。」
「了解ですの。行きますわよ。グィネヴィアさん。」
「くっそぉ!お前ら!ただじゃ済まさないからな!このあたしを引きずって!おーぼーえーてーろーよー!!」
「行ったか。全くとんだお転婆だ。あんな歳にもなって。…あんまり根を詰めるもんじゃないぞグィネヴィア。あんたがずっと頑張っているのはみんな知っている。」
「…小声で言ったって聞こえてんだよ。全く…どいつもこいつも。」
ドワーフのバルザックは連合国が樂器工房に破壊工作を仕掛けた際に爆風に巻き込まれて死んだ。
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「なぁ…リア。みんな死んじゃうんだ。あたし。あたしはさあ。何で生きてんだろうな。どうしてみんなさあ。うああ。」
「貴女はたくさんの人を守ってきましたの大魔女グィネヴィア。人はいずれ死にます。こんな戦争ばかりの世の中では貴女のように長生きできることは稀ですわ。」
「そうなんだよお…なんでみんな死んじゃうんだよお…。」
「生きている人はいずれみな死にますわよ魔女グィネヴィア。早いか遅いかの違いはあっても。そのなかで為すべき事をなしたと。そう納得してみんな死んでいるものだと思いますの。」
「あたしはみんなに生きていて欲しいんだよお…あたしよりもほんのちょっとでいいからみんな長生きしてあたしより後に死んでくれよお…。」
「あなたは優しいから。きっとみんなも同じことを考えたのでしょうね。だからきっとみんな貴女を守って。貴女よりほんのちょっとだけ先に死んだのです。大魔女グィネヴィア。」
「お前は絶対にあたしより先に死ぬなよリアぁあ…。お前はでっかくて強いんだからぜったいに死ぬんじゃないぞお…。」
「あたしのような貞淑な獣人を捕まえて何をおっしゃるのかしらこの大魔女様は。言われなくたって私は貴女を盾にしてでも絶対に生き延びますのよ。」
「…そうか!そうだぞ!絶対だぞ!うんうん。あたしの事なんていいからみんな何があっても自分自身を守るべきなんだ!あたしが死んだらお前がギルドをまとめるんだぞぉ。わは。わははは。」
「ようやく泣き止みましたの…。2000年も生きていてまるで赤ん坊のような人…。」
「おい!まだあたしは1950歳だ!」
「…誤差ですのそんなの。」
獣人族のフィーリアは夜中に攻め入ってきたセンゴクの暗殺者を相手に一歩も引かず戦い続け相手を全滅させるも。暗殺者の毒によって眠るように死んだ。
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「おはよう。大魔女グィネヴィア。今日も美しいね。」
「うふふ。ありがとうね。メイガス。あんた奥さんにも同じことを言ってあげたのかい?」
「はははは…妻の話はいいじゃないか。」
「いつも違う女を口説いているってカンカンだったよ。ちゃんと大事にしてやりな。」
メイガスはセンゴクダイミョウとの戦闘で奥さんをかばって死んだ。
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「グィネヴィアさんあんたよお。もう引っ込んでなよ。そんなんで戦えるわけないだろう。俺達に任せときなよ。」
「そうですよ。我々だってあなたに守られてばっかりの存在じゃないんだ。我々だけでどれだけの戦場に勝利をもたらしてきたか。」
「大魔女様…頼むから少しだけでいい。我々に任せて休んでくれ…。」
ノルアとマシューとリンドは少数で自分達よりはるかに多い軍勢を相手に最後の力を振り絞り勝利を収めた後に死んだ。
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ラグナが死んだ。
ミルが死んだ。
ルイネが死んだ。
ウィステリアが死んだ。
ラッハが死んだ。
レドラが死んだ。
ルーシンが死んだ。
ユイネスが死んだ。
ミネストが死んだ。
ハルウィスが死んだ。
アザレアが死んだ。
ベスが死んだ。
ウネリアが死んだ。
マインが死んだ。
ルクレが死んだ。
アジルスが死んだ。
ザフィが死んだ。
レンドラが死んだ。
ウィラーが死んだ。
スペチアが死んだ。
ゲストアが死んだ。
ランドルが死んだ。
ネネスが死んだ。
ラプルが死んだ。
ミアスが死んだ。
ポポが死んだ。
ルーネが死んだ。
イオが死んだ。
マークスが死んだ。
リンディスが死んだ。
ブルアーノが死んだ。
リコスが死んだ。
イグタイトが死んだ。
ベンジェスが死んだ。
イデアが死んだ。
ペイジが死んだ。
マドラスが死んだ。
プルアが死んだ。
イドが死んだ。
ロコスが死んだ。
ビストが死んだ。
ラクリアが死んだ。
サッハラが死んだ。
ネルが死んだ。
あたしは死ななかった。
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いっぱい死んだ。
もうあたしは。
名前を覚えるのをやめた。
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「…そこにいるのは誰だ?このあたしが。大魔女だって知った上でそこに立っているのかい?」
「ああ。もちろんだとも大魔女グィネヴィア。わざわざ会いに来たのさ。人目を避けてね。」
「何か私に用でもあるのか?いや。聞くまでもないか。あんたは。」
「いやいやいや。それは違うぞ大魔女グィネヴィア。僕は君に助言をしに来たのさ。」
「助言?何を助言してくれるんだいあんたは。あたしにはあんたの助言を必要だって?それをまともに聞く理由がどこにある。今すぐに…。」
「待て!待って!いや待ってくれ!待ってください!お願いだよ!僕だってとんでもないリスクを負ってここに立ってるんだ。」
「…話だけならきいてやる。」
「ああ!そうじゃなくっちゃね!いやあこれもやっぱり年の功というやつかなあ僕には理解できないけれどもね!…いやすまない!よく秘書に怒られるのだよ。「あなたはどうしてそうなのですかぁ」ってね。この間も…。」
「あんたはあたしと世間話をしに来たのかい?世間話がしたいなら…」
「いや!そうだな!要点だけを話そう!悪かった!僕が全部悪かった!」
「早く話せ。さもないと。」
「今話すから!だからその怖い顔をやめて!こちらとしても突拍子もない話だから前置きが大事だって考えただけなのに!ああ!要するにだ!」
「これが最後だ。次ふざけたことを言ったら…。」
「もうすぐこの世界の戦争が終わる!もう戦わなくてもいい世界になるんだ!」
「あたしが…お前のその言葉を信じると思うのか。」
「僕もとてもそうは思えないんだけれどもね。でもきっと君は信じるんだろうね。」
「工場長ヨハネ…。どうしてお前の言葉を信じられるって言うんだ…。」
「知らないよ。僕だっていまだに信じられちゃあいない。でも僕は必要だからここに来たんだ。…必要なことは話したから僕はもう行くよ。」
「無事に連合国に帰れると思うのか?」
「…少なくとも君が僕を殺すことはないさ。それならばどうにかなる。」
ヨハネは。死ぬことなくギルドから帰っていった。あたし以外のだれからも気付かれることなく。この国を去った。