協奏曲
「ねえねえ。大魔女様ってもう1000年も大魔女様をやっているって本当なの?」
「どこからそんなデマを聞きつけたのさ。あたしはまだ80歳のぴちぴちの大魔女だよ。」
「嘘だぁ!あたしわかるよ!大魔女様って1200歳くらいでしょ!魔力の感じとかお肌の感じとかそんな感じだもん!」
「肌の話はするな。」
失礼な妖精族だ。
…ただ少し前に1500歳になったので1200歳に見えるというのはまだまだ若く見えているという事だろう。
昔のあたしは見た目に気を使うような余裕はなかったが今のあたしは身なりにもそれなりには気を使っている。
「えへへ!ごめんね。そうだよねえ。大魔女様も最近はめっきり美しくなったってみんな言ってるもんね。」
「へえ。そうなのかい?あたしが美しいとみんな喜ぶならあたしももっと頑張ろうかねえ。」
「別に喜んではないよ!めっきり美しくなったからきっといい人でもできたんだろうかねって!大魔女様ってずっと独りじゃない!だからみんなすっごく心配してるんだよ!」
「…あたしはギルドの民の皆のお嫁さんだからね。独りで寂しいってわけじゃあないんだ。その気になれば男の一人や二人や千人万人だって手玉に取って見せるが…それは戦争を終わらせてからの話だねえ。」
「そうね!頑張って終わらせないとね!…でもねでもね。大魔女様ったらね。時々すっごく寂しそうな顔してるのよ。ギルドの男の人も女の人もみんなね。大魔女様を心配しているんだから。大魔女様の事大好きなんだから!」
「…ありがとうね。あたしもギルドのみんなの事が大好きだよ。それにしてもあたしのことを心配するだなんてね…他にもっと考えることはいくらでもあるんだからあたしの心配をしている場合じゃあないんだよ。ほら。あんたもはやく仕事に戻りな。」
どうやらあたしは上手に笑えていなかったらしい。
ああ。笑う事すら上手くできないとはほとほと自分が嫌になる。
あたしは。大好きな皆を守るために。大好きな皆を戦場に送り出さなくてはいけない。
あたしがどれだけ最前線で戦って皆を守ろうとも。戦争は終わらない。戦争で死ぬ人はいなくならない。
ずっと慣れないと思っていたけど近頃はようやく自分をだますことが上手になってきたと思っていたけど。ギルドのみんなに心配をかけてしまっていたらしい。
ああ。どうしてもっとうまくやれないんだろう。
アルなら。ガレスなら。きっともっとうまくやっただろう。
あたしは運よく生き残ってしまっただけだ。
あたしよりも勇敢であたしよりも頭がよくってあたしよりも優しい英雄たちは、みんなあたしよりも先に死んでしまった。
彼らと比べればあたしはただ強いだけの女だ。
強いだけのあたしは生き残ってしまうから。みんなに置いてかれてしまう。
…こうやってうじうじしているからみんなに心配をかけてしまうんだろう。
あたしは『大魔女グィネヴィア』なんだから。
全身を美しく飾り立てて。背筋をピンと伸ばして。いつだって不敵にふふんと笑おう。
弱気にうじうじしていたらそれは『大魔女グィネヴィア』ではないのだから。
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「ねえ…助けて…お願いだよメルナちゃん…グィネヴィア様が…ギルドの仲間たちが…みんな死んじゃうよぉ…。あたしは…あたしだけはみんなが逃がしてくれて…でも…今のままだと…グィネヴィア様でも勝てなくって…あんな人たちがいるなんて…ああ…お願いだよ…メルナちゃぁん…。」
ピリカさんはボロボロになりながら。ぽろぽろと涙をこぼしながら決死の覚悟で願いを届けてくれた。
報告を受けて私は急いでグィネヴィアさん達の所へと向かう準備をする。
とにかく急がなくてはいけない。
私は急いで眠りこけていたロクスケさんを急いでたたき起こしてギルドへ向かう旨を伝える。
今すぐに行こうというとロクスケさんは体中が痛いと言うので仕方なく回復魔法を少しきつめにかけてあげるとする。
「さあ。行きますよ。転移の六道でちゃちゃっとおねがいします。」
「いやいやいや。なんでもうすぐに行くつもりでいるんだよ!」
「緊急事態なんです。今すぐにいかないと…。」
「いやだから待てって!まだいまいち状況把握できてねえんだって!つかそんな一気に回復魔法かけていいのかよ!」
「ですからグィネヴィアさん達がピンチなのでギルドにある譜面台という建物までぴゅーんって連れてってくださいっていう話ですよ。回復魔法は…まあロクスケさんなら大丈夫ですよ。多分。」
「多分ってなんだよ!ああもう。大将にちゃんと相談はしてんだろうな!」
「…それは。」
そういえば話を聞いて急いで飛び出してきてしまった。
「でも今はそれどころじゃ…。」
「いや緊急なのはわかってる。今から行くこと自体は反対もしねえし何日もかけて話しあったうえで動けって話じゃねえよ。」
「それなら…」
「いますぐにぼろ雑巾みたいになってる俺と大した準備もしてない師匠の二人で突っ込んでいってどうにかできる状況なのか?動くなとは言わねえ。冷静になってくれよ。」
「私は冷静ですよ…とにかく急いで向かわないと…。」
「いや待てよ。大魔女グィネヴィアってのはセンゴクにいたころから何度も聞いた名前だ。つええし優秀なんだろう。俺達にとって必要な仲間だってのもわかる。ただ…俺が言いたいのは。」
「大魔女グィネヴィアがピンチになるような相手と戦う準備はできてんのかって話だよ。」
言われて初めて思い至ったが…確かにそうだ。
グィネヴィアさんは強い。
守られているお姫様のような人ではない。
仮にもギルドの最高戦力であり戦場に出ればセンゴクの人達からも恐れられるほどの人だ。
そしてグィネヴィアさんの周りを固める人達も強く優秀な人ばかりだ。
そんなグィネヴィアさんが命の危機に瀕しているということは。
その相手というのは一筋縄ではいかない人達ということになる。
「…そうですね。私がうかつでした。」
「なんにしてもまずは大将に相談してからだ。大将だって助けに行くなとは言わねえだろ。」
「…はいありがとうございますロクスケさん。それじゃさっそくコトさんに…。」
「あぁ。よかったまだいた。メルナさん。なんとか思いとどまってくれたようでよかったです。」
「おおコトさん。いつの間に。」
「何とか飛び出す前に追いついてよかったです。」
「…すいませんでした。考えなしに飛び出してしまって。」
「いえ。僕にとってもグィネヴィアさんは大切な仲間ですしこれからの闘いにおいても必要な人材ですのからもちろん救出する方向で話を進めたいのですが…。」
「…敵はいったい何なんだろうな。」
「そうなんですよね…。そこが問題です。グィネヴィアさんが追い詰められているということは…ほぼ間違いなく敵の固有取得者の誰かが出てきていると思われます。」
「まあ、『侵略者』はいるよなぁ。」
「ほぼ間違いないでしょう。最低でも一人。最悪ならば複数人。…いえ。多くても二人…ですかね。」
「それ以上いる可能性は?」
「…ほぼないでしょう。」
「根拠は?」
「それだけ沢山の固有取得者がいてまだグィネヴィアさん達が耐えているという事は考えにくいです。いえ。もし複数人いたとして攻めあぐねているというなら、むしろこちらとしては好都合と考えるべきでしょう。」
「なるほどな。固有持ちって言っても色々だ。例えばミヨの嬢ちゃんが3人いたところであの大魔女相手にどうこうできるわけでもねえしな。」
例えば私とロクスケさんとコトさんの3人いたとしてグィネヴィアさん相手に時間を稼がれるということは確かに考えにくい。
いやそもそもコトさん一人いれば全部終わりそうではある。
「…あいつ…。名前なんだっけ。あの赤い奴もやっぱり敵だよなあ。」
忘れてた。
あの赤い人通称ナナホシさんもやっぱり『侵略者』になるのかな。
あれだけ強い人なのだからほぼ間違いなく固有を持った人だろうし。
…この世界の住民で固有を持った人ならば私達が把握していないはずがない。
「まあ間違いないでしょう…あの人は行動が謎ですが…ロクスケさんと互角に戦える人がただの一般人であるというのはさすがに考え辛いですからね。」
「あのぅ。それで…どうするんですか?」
しっかり考えて動く必要があるのもわかるが今は一刻も早く助けに向かいたい。
なんにしても現状余裕はないだろう。
「…では。3つ。僕から条件を出させてください。」
「条件ですか…。」
これだけ考えてのコトさんの発言だ。無茶なことは言わないだろう。
むしろコトさんが出す条件ならばきっと必要な事なのだから従う必要があると考えるべきだろう。
「わかりました。なんでも言ってください。コトさんが必要だと思う事ならきっとそれは正しく必要な事なんでしょう。」
なんにせよ向かう算段が整ってよかった。
これでグィネヴィアさんを助けに行くことができる。
「では一つ目。救出不可能だと判断したらすぐに帰ってくること。」
「わかりました。」
「続いて二つ目。可能な限り戦闘は避ける事。」
「はい。戦闘はできる限り避けます。」
「そして三つ目。…ヨハネさんを連れていき彼に判断を仰ぐこと。」
「ええ…?それ…本当に必要ですかぁ?」