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前奏曲

あたしは、昔から神童と呼ばれていた。

魔法の適正というのがそれぞれにあってあたしはそれがすごく高いんだって言ってた。

エルフは、寿命が長いから子供の時には適性が低くって大人になって何年も頑張ってやっと一人前って人が多いらしくって。

だから子供の頃から適性が高いんだってわかった時には「君は大人になったらすごい魔法使いになるぞ」ってよく言われてた。


よくわかんなかった。


あたしが魔法の適性が高いってわかったのは3歳の頃だ。

1人になっちゃって行く当てが無かったあたしが大長老のおじいちゃんに保護された時に試験を受けたら結果が他の人達よりもすごかったらしい。

その日はお父さんとお母さんがセンゴクとの戦いで死んじゃってその時にお家も燃やされちゃったらしくて家の前でしくしくと泣いていたらしいけどあんまり覚えていない。

ギルドの人達が見回りをしていた時に保護されたらしい。


あたしはそのままギルドの人に連れられて大きな家に連れていかれた。

その大きな家は「譜面台(スコアスタンド)」って呼ばれていた。


譜面台(スコアスタンド)にはあたしみたいな子供が沢山いた。

その場所は色んな子供が十把一絡げにされててあたしよりも小さい子とかあたしよりもちょっとだけ大人な子とかが数えきれないくらいいたからみんなの名前はあたしも覚えきれなかった。

あたしは何もわかんないままに譜面台(スコアスタンド)に放り込まれて「みんなと仲良くしなさいね」って言われたけどあたしはどうやって仲良くしたらいいのか、これからなにをしたらいいのか全然わからなかった。


「なあ。お前さ。魔法すごいんだってな。」

「わかんない。言われたからやったけど。すごいって言われたけど。何がすごいのか全然わかんない。」

「大人がすごいって言ったんならそれはすごいってことだよ。お前そんなこともわかんないのかよ。」

「…わかんないよ。あたし…なんにもわかんない…。」

「おい泣くなよ。やめろよ。俺が泣かしたみたいじゃん。大人に怒られるだろオレが。」

「だって。わかんないんだもん。なんで。なんで。ああ。なんであたしここにいるの。ねえ。」

「おい。わかったよ。オレが教えてやるから。泣くなよ。」

「泣くなって言われたってわかんないよ。どうしたら泣かなくていいの。ねえ。わかんないよ。」

「せんせいが言ってたぜ。悲しいことを考えるから泣いちゃうんだって。だからがんばるんだって。いろんな事を頑張って悲しいことを考えなくてもいいようにするにはがんばることが必要なんだって。」

「がんばる?がんばるってあたしいったい何をがんばればいいの?」

「全部さ。ここだとやらなきゃいけないことはいっぱいある。ごはんを取りに行ったり魔法のれんしゅうをしたり家の中を掃除したり洗濯をしたり…色々さ。」

「あたし…できるかなあ。やったことないから。わかんない。」

「だからオレが教えてやるって。まずはそんなとこにいないでこっちこいよ。」

「…わかった。がんばる。がんばって。ついてく。」

「おう。がんばるのはいいことだってせんせいが言ってたからな。おまえさ。名前なんて言うの。」

「グゥって。あたしのおとうさんとおかあさんは呼んでた。」

「そっかグゥか。じゃあグゥついてこいよ。教えてやるよ。」

「わかった。えっとあなたは。」

「おれはアルだよ。はやくこっち来いよ。」

「アル。わかった。アル。あたし。がんばる。」


アルはあたしと同じエルフであたしよりも少しだけお兄さんだった。

アルは魔法はちょこっとだけ苦手だけど身体を動かすのが得意で将来はまほうけんしっていうのになりたいって言ってた。

あたしはよくわからなかったけどアルはすごいからきっとなれるんだと思っていた。


アルが言った通り譜面台(スコアスタンド)での毎日はやることが沢山あった。

朝になるとチャイムが鳴ってみんな起こされてまだ薄暗いうちからみんなでご飯を取りに行ったりしていた。

こんなにたくさんの子供がいるけどギルドにご飯はほとんどなかったからみんなすっごく必死だった。

たくさん取れた日はみんなでおいしいねってご飯を食べたけど大体の場合はみんなが食べれるほどのご飯は取れなくって毎日毎日みんなお腹を空かせていた。


「なあグゥ。二人で魔物を狩りに行こうぜ。」

「ええ?危ないよ。」

「大丈夫だろ。グゥが魔法で魔物の動きを止めて俺が剣でとどめを刺すんだ。」

「でも魔物は…あぶないよ。」

「いけるって。いざとなったら俺がグゥを守るから大丈夫だよ。」


その後二人で魔物を捕まえたと大喜びで戻ったらせんせいにすっごく怒られた。

すっごく怒られたけど二人で魔物を倒せたっていうことはすごいことだってほめてもらえた。


「おい。これ。二人で食べるぞ。」

「なあにこれ。」

「長老の爺のとこからとってきた。きっとうまいぞ。」

「わかった。えへへ。おいしそうだね。」

「ああ。ばれる前に食べちまおうぜ。」

「…うえっ。にがい…。」

「…なんだこれ。…うわこれくすりか?」


後でばれて二人ともすっごく怒られた。

アルは「グゥはなんもしてねえよ。オレが無理やり食べさせただけだよ。」とかばってくれていたけどあたしも一緒に食べたんだから同罪だと思ってあたしは大人しく一緒に怒られていた。


譜面台(スコアスタンド)での生活は大変だったけどアルと一緒だったから楽しかった。

樂器(ムジカ)の演奏技術だったり魔力操作の練習だったり。

樂曲(スペル)を沢山覚えたり戦場でうまく立ち回るための技術だったり。

自然の中を生き抜くための知識やギルドの戦争の歴史。

連合国やセンゴクがいかに恐ろしく残酷な存在であるか。


あたしは魔法が得意だったから他の子達と違う部屋で大長老様と魔法の特訓もしていた。

大長老様の特訓はあたしにはすっごく難しくってすっごく大変だった。

でもあたしはすっごくすっごく頑張った。

10歳になるころには樂器(ムジカ)は誰よりも上手に弾けるようになったし魔力は大人にも負けないくらいいっぱい練ることができた。

樂曲(スペル)譜面台(スコアスタンド)にある者は全部残らず端から端まで覚えたし体術も…それなりに優秀だった。

でもいいんだ。あたしは魔法が使えればそれでいい。


「いつか二人で一緒に戦場で戦うんだ。オレは剣を持って前で戦うからグゥは後ろで俺の援護をするんだぞ。」

「うん。あたし。魔法を頑張るよ。体術はちょっとだけ苦手だけど。アルが守ってくれるんだもんね。」

「おう。オレがグゥを守るよ。グゥは後ろで魔法を使って他の仲間を守ってやるんだ。オレと二人でギルドに住むみんなを守るんだ。」


アルはいつだって勇敢だった。

体術の訓練ではいつでも一番成績が良かったしみんなでご飯を取りに行くときも魔物相手に真っ先に切りかかっていた。

あたしはいつでもアルの後ろで魔法を使っているだけだ。

あたしが魔法で動きを止めてアルが剣でとどめを刺す。

2人でいるときは怖いものなんて何にもなかった。


アルはあたしよりも年上だったからあたしよりも2年早く譜面台(スコアスタンド)を出て行った。

譜面台(スコアスタンド)を出た子供たちは例外なくギルドの兵として戦場へと赴くことになる。

あたしはアルがいなくなっちゃってすっごくすっごく寂しかったけどあたしもアルみたいに立派になるんだと思ってアルがいなくても一生懸命に頑張った。

アルはもうギルドの人達を守るために頑張っているんだからあたしもギルドでちゃんと活躍ができるようにもっともっと頑張らないといけないなって思った。


「なぁ。グィネヴィア。大魔女グィネヴィア。お前さんに話がある。大事な話だ。」

「大長老様。なんでしょうか。もう…大魔女だなんてやめてください。あたしはまだまだ未熟な小娘です。」

「大魔女に大魔女といって何が悪いか。いまやこの譜面台(スコアスタンド)では私も含めて誰もお前よりも優秀な魔法使いはいない。ギルドにいくらかもいない大魔導士や大魔女と比べてもお前はあまりにも優秀な魔法使いだ。」

「まったくもう。それで。大事な話とは何でしょうか。」

「しっかりと落ち着いて聞きなさい。お前の二つ上の…優秀な剣士だったアルが。先日戦死した。」




─────────────────────────────


「うわぁ。素敵な家具類ですね。やっぱりコトさんってすごい。」

城の内装はもうほとんど完成と言っていいほどに仕上がっている。

コトさんは『創造』を使っていろんなものを作って提供してくれた。

城のほとんどの材料はコトさんが創ってくれたものだし家具なども色々創ってくれた。

ヨハネさん達、連合国のメンバーも内装を設置するお手伝いをしていてくれていたみたいでコトさんの横で嬉しそうにしている。

生活に必要な物はほとんどそろっているしなんとコトさんの部屋にはこたつもある。


「シロクロさんが言うには僕らはもう『隷属者』らしいですからいくら手伝っても大丈夫みたいですからね。僕にできる事はなんでもやりますよ。他に必要なものはありますか?」

「そうですね…それじゃあ…ちょっとこちらへ」

そう言うとコトさんと私は少し他の人達から距離を置く。

「そろそろ…『農場』があると便利かなあと思いまして。」

「…なるほど。」

「いやあ私達って今あまり大手を振って外へは出られないじゃないですか。他の人達へは内緒にするとしてあったほうがやっぱり便利かなあって思うんですけど。」

「わかりました。確かにそうですね。空いている部屋の一つを『農場』にしておきます。」

「あ。私の部屋の奥にある空き部屋にお願いしてもいいですか?あそこにあれば私の部屋でご飯を作るからすごく便利なんですよ。」

「ではその部屋にあとで作っておきますね。ただ他の人達に見つからないように…と思うと今すぐにというわけにはいかないですが…。」

「それはもちろんコトさんの都合のいいタイミングで結構ですので。よろしくおねがいします。ああ。これでみんなに美味しいご飯を食べてもらえますね。うふふ。」

ああ。計画はかなり順調に進んでいる。

他にも気になることは沢山あるけど。私はやれることを一生懸命に頑張るのだ。


「なあ。コト君メルナ君。二人で仲良く内緒話をしているところ悪いんだが。ちょっといいかい?」

「うわぁ。ああ。えっとなんですかヨハネさん。大丈夫ですよ。どうされました?」

「どうやら。門の前のカメラにお客さんが映っているようなんだが…。君たちの知り合いかい?どうやらとても小さなお友達のようだが。…あれは妖精族(シルフ)かな?」


「えっ?」

ヨハネさんに言われてディスプレイに目を向けると確かに門の前にシルフが…倒れていた。

「え?ええ?いつからですか?あれは…ピリカさんです。グィネヴィアさんの側近の妖精族(シルフ)で…。大変!大けがしてる!すぐに助けないと!」

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