円卓と勇者パーティ
さてと、ロクスケさんとは話が付いたので残りのやるべきことをやってしまおう。
まずはテーブルを引っ張り出してくる。エルフ特製のラウンドテーブルだ。
さっきの広間ではさすがに埃っぽいので食堂で食事をとることにしよう。
私が普段使っているテーブルとイスは片づけておく。
イスは私の分も含めて5個でいいかな。食器やカトラリーは鉱人族特製のお気に入りの品だ。
テーブルを設置してざっと拭いてお気に入りの柄の布をびびっと皺一つないように伸ばしながら被せて椅子を等間隔で置いていく。
「真ん中には花瓶に花も置いておこうっと。何の花がいいかな。」
冷蔵庫にはケーキが入っているしお酒も特製の果実酒、麦酒、鬼人族が作った蒸留酒もある。
お肉は…ドラゴンの肉のハンバーグをかまどオーブンで焼けばいいか。若い子はお肉食べたら喜ぶだろう。
野菜類はざっくり切って油とリンゴ酢と塩コショウで和えたらそれなりにおいしくなる。
あとはパンとスープとピクルスは作り置きがあるし…野菜のオムレツを作って…余っていたイノシシの干し肉を甘辛く炒めてナッツとあえたらお酒に合うからそれも出してあげよう。
よし。メニューは決まったのであとは段取りをしよう。
彼らが目を覚ますまでには作れるかな。
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夢を見ていた。
4人でドラゴンと闘った時の夢だ。
ドラゴンはすっごく強かった。
クリフはドラゴンが爪やら尻尾やらを振り回すのを盾でなんとか止めるのに精一杯のだったしヘルメスの弓矢は硬い鱗にほとんど弾かれていた。
ロクスケが何度も刀を同じ場所に打ち付けて漸く少し傷がつく程度だった。
ドラゴンはそこいら中に炎のブレスを吐き散らすもんだからみんなあちらこちらをやけどして回復担当の吾輩は大忙しだった。
吾輩の仕事は仲間を回復することと死なない事だ。
死なないのは得意だった。
吾輩は鼻が利くし耳もいい。
身軽で素早いしちょっとやそっとの攻撃なら毛皮ではじけるのだ。
ドラゴンの爪や尻尾何度か体に当たったが一瞬で治せるくらいの傷しかつかなかった。
時間はかかったが吾輩たちはドラゴンを倒したのだった。
吾輩たちは強い。
ドラゴンでも倒せる吾輩たちは誰にも負けるわけがないんだ。
「…さん…」
「…ヤスケさん…!」
誰かが吾輩の事を呼んでいる。
優しい声だ。あごの下に手を差し入れて撫でてくれている。
昔は父上と母上が吾輩の事をよくこんな風に撫でてくれてた…。
どうやら寝てしまっていたようだった。起きなければいけない。
重たい瞼をゆっくりと持ち上げると
目の前にドラゴンよりも強い生き物がしゃがみ込み吾輩の喉元を片手でがっちりとつかんでいた。
「目が覚めましたか。食事の時間になったので一緒に来てください。」
え。わ、吾輩を食べるつもりなのか…?
…お肉の焼ける匂いがする…!
え?うそだ。
「お仲間の皆は先に行ってますよ。あとはヤスケさんだけですので迎えに来ました。」
ななななかまのみんなは、た…食べられちゃったのか…?
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ヤスケさんはおとなしくついてきてくれている。
誤解されたままだと思ったがどうやら私が心優しいエルフだということをわかってもらえたようだ。
やっぱり犬獣人族さんはもふもふだなあ。また後で撫でさせてもらえないかな…。
そう考えてる間に他の三人がいる食堂についた。
「み…みんなぁ!い…生きていたのか!よかったぁ!」
「おう…うわやめろ!抱き着くな!涙とよだれでべちゃべちゃじゃねえか!」
「うぉおおおおん!生きてたぁ!よかったぁ!もうみんな食べられちゃったかと思ったぁ!」
…え…?誰が食べられちゃったって…?
おいおいと泣き縋るヤスケさんをロクスケさんがなだめる。
「さすがの魔王様も人間の肉は食わねえよ…。食わねえよな…?」
「食べるわけないでしょうが!!何言ってるんですか!!」
しまった大きい声を出し過ぎた。
ヤスケさんがこちらをおびえるような眼で見ている。
「そもそも魔王だっていうのも誤解だって何度言えばいいんですか…ちゃんとお仲間に教えてあげてください…。」
「そうだなぁ。まあまずは飯にしようや。めちゃくちゃうまそうなにおいがするからもう我慢できねえよ。」
「え…どういうことなの?ロクスケは何で魔王と仲良くお話してるの?」
「んー。まあ飯食いながら話す。安心しな。この人は魔王じゃねえしもう俺らに襲い掛かったりはしてこねえよ。」
「そ…そうなの…?」
「そうなんです!とりあえず食事にしましょうか!急いで料理を持ってきますね!」
急いで料理やお酒を運び込む。
まずは時間をおいても大丈夫なサラダやピクルスからだ。
次にオムレツ、パン、スープの大鍋など次々に運んでいきそれぞれに最後にはメインディッシュのドラゴンのハンバーグを人数分の皿に分けて持っていく。
「うっわ。めちゃくちゃうまそうじゃねえかなんだこれ。」
「見た事のない料理ばかりだな…。野菜もたくさんある…。」
「おお?それは鬼人族が作る酒じゃないか?こんな貴重なものも飲んでいいのか?」
「うふふ。皆さん気に入ってもらえて何よりです。ヤスケさんは食べられないものとかありますか?」
「いや…吾輩もみんなと同じで何でも食べられるけど…。この丸いお肉は何だい?」
「それはドラゴンのハンバーグですよ。ドラゴンのお肉は固いけど細かく潰して捏ねてから焼くととってもふわふわでおいしいんです。」
「「「「ドラゴン!!??」」」」
声をそろえて驚かなくてもいいでしょうに。
「あんたドラゴン一人で倒せるのかよ…。やっぱり魔王なんじゃねえの…?」
「…まあ冷める前に食べましょう。おかわりもあるのでみんな好きなだけ食べてくださいね。」
「ろ…ロクスケぇ…?」
ヤスケさんは怯えた目をしている。…コワクナイヨ。
「まあ大丈夫だ。殺す気ならもうとっくに全員殺されてる。」
…殺すだの殺さないだの物騒なのでやめませんか?
「えぇ…?」
「おお?ヤスケよ、いらんならわしが代わりに食べてやるぞ?」
流石に取られては敵わないと思ったのかヤスケさんは覚悟を決めた顔をした。
「わかった…!食べる…!食べるよぉ!」
ヤスケさんはハンバーグをフォークで刺して恐る恐る口に運ぶ。
そして一口食べて目を見開く
まだ口の中に残っているでしょうにフォークに刺さった残りのお肉ももがつがつとすぐに食べてしまった。
「う…うまい……うまい!おいしい!なんだこれ!」
「…お代わりいりますか?」
「…うん!食べたい!エルフのおねーさん!これとってもおいしい!こんなおいしいお肉初めて食べるよ!」
「うふふふふ。美味しそうに食べますねえ。今追加で何個か焼いてますので焼きあがったらまた持ってきますね。」
やったぁ。お口に合ってよかったぁ。
よく見ると他の3人も一心不乱に飲み食いしている。
ここまで大変な旅をしてきたからそりゃあ疲れているよね。
「肉もうめえ!野菜もうめえ!酒もうめえ!パンもやわらけえ!このスープもめちゃくちゃうめえ!全部うめえ!」
「この野菜のオムレツ…思い出した…昔よく食べた味です…懐かしい…これ大好きだったなあ…。」
「なんじゃこの酒しっかり冷えておる!この肉とナッツの料理もうまい!いくらでも酒が飲めてしまう!」
おなかが減ってたのもあってかみんなすごい勢いで食事も酒も平らげていく。
これだけみんなにおいしそうに食べてもらえたらこちらも作った甲斐があるというものだ。
せっかくなので私も食べよう。
うん。ハンバーグはいい火加減で焼けている。一口食べれば肉汁が口いっぱいに広がる。
ドラゴンのお肉は少し固いのが難点だがうまみが強く肉汁も噛めば噛むほど出てくる。
ハンバーグにするとやっぱりおいしい。
スープもしっかり肉や野菜の味が出ておいしい。
少し酸味を加えてあげるとより美味しくなるのだ。
『農場』で作られる食べ物はみんな美味しい。
野菜はみずみずしく噛めばうまみが口いっぱいに広がるし、ナッツや小麦粉も上質なものがたくさん取れるのでパンやケーキを作るのに重宝する。
果実酒も『農場』で取れた果物を使って作られているのでとっても美味しい。
…それよりなにより…みんながとっても美味しそうに私が作ったご飯を食べてくれていることが一番うれしい。
「エルフのおねーさん!お肉まだ焼けないのかい?」
「そうですね、そろそろ良さそうな頃なので持ってきますね。」
「やったぁ!おねーさんとってもいい人だね!」
「うふふ。わかってもらえてよかったです。」
「おいおい!ヤスケぇ!お前そんな簡単に信じでもいいのかよぉ!」
「ロクスケ!いいことを教えてやるよ!悪い人はこんなにおいしいご飯は作れないんだ!」
「めちゃくちゃ言い出しやがった!まあ説明の手間が省けるならいいかぁ!」
楽しそうに話しているのを聞きながら料理のお代わりを取りに行く。
他にも少なくなっている料理があったので持って行ってあげよう。
ハンバーグのお代わりを持ってくる頃にはほとんどの料理がなくお酒も主にクリフさんが全部飲んでしまったようだ。
「他の料理のお代わりもいりますか?」
「いる!」
「いただきます!」
「酒のお代わりも欲しい!」
「うまい…うまいなぁ…」
うふふ。
まだ材料あったかな…。
お代わりも食べて一段落したところで最終兵器を投入する。
「ケーキもあるのでデザートにどうぞ。お茶も入れましたので飲んでください。」
冷蔵庫で冷やしてあったケーキをどんとテーブルの真ん中に置く。
ある程度切り分けてあるのでみんなで取り合いを始めた。
私の分のケーキはちゃんと確保してある。抜かりはない。
「これも…甘くておいしいや…。」
「うめえ!うめえ!」
「お茶に合いますね…流石は『旅のエルフ』様!」
見る見るうちにケーキもなくなった。
お茶もぐびぐびと飲んでみんな満足そうな表情をしている。
さて。
みんながお腹いっぱいになったところでそろそろ話し合いをしなければいけないかな。
「ではそろそろ…」
「あ。すまんな酒はまだあるか?」
「…果実酒でよければありますよ。おつまみのナッツも一緒に持ってきますね。」
「かたじけない…。果実酒も大層うまかった。ナッツもいただけるとはありがたい限りだ…。」
そういやこの鉱人族さん結局目が覚めてから一度も私を怖がらないな。
何度か吹っ飛ばしたけど気にしてなさそうだ…大物だな…。
いかんいかん閑話休題閑話休題
「さてさて。皆さん落ち着いたところでそろそろ本題に入ります。」
「もう私が魔王ではないということはわかっていただけたようですが」
「この世界の災いについて、今後どうしていくのかを話し合っていきましょう。」
真面目な話を始めたことを察したのか急に4人ともきりっとした表情になる。
みんな口元にハンバーグのソースやらケーキのクリームやらついているから滑稽なことになっているんだけど。
「まず。単刀直入に言いますがロクスケさんにはこの世界の王様になってもらいます。」
「ロクスケが?世界の王様に?なんで??」
ようやく話し合いが始まったがまだまだ先は長そうだ。