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魔法と六道

「…ふぅ。ひとまずこんなものかな。」


ようやく辺り一帯の木を切り倒すことができた。

やっぱり体を動かすのはいい。

私は色々と考えすぎてしまうとうまくいかない。

あまり深く考えずに単純作業をしているのが性に合っている。


「つってもまだ木を切り倒しただけだろ。こっから根っこ取んのが大変なんじゃねえの?」

「ああ。それなんですけど。」

私とロクスケさんはそれぞれ斧と刀で木を切り倒したので今はそこいら中に切株が残っている。

普段は杖などを使って力ずくで引っこ抜いていたが…今は違う!


私は懐からハンドベルを取り出してガラガラと鳴らす。

「えっと…。鳴らすは単音。音色は弁柄(ベンガラ)。もぐら。」

私が呪文をゆるーい感じで唱えるとゆるーい感じに地面が盛り上がってきた。

「こうやって土を突き上げてあげてですね…。えいっ。」

ガランッ!とハンドベルを鳴らしてあげると盛り上がった土の先が尖って土の槍が切株を貫いた。

少し高い位置に切株が突き上げられている。

「あとはこうやって…」

ガラガラガラと魔力を散らしてあげると土の槍になった地面がどろりと形を失いそこには抜け落ちた切株だけが残された。


「おおすげぇ。そんなこともできるのか。魔法ってのは便利なもんだなぁ。」

ロクスケさんはからからと笑いこちらをみて拍手をしている。

「…ギルドの人達はみんな戦闘用としてしか使ってなかったですけどね。」


そもそも魔法は戦争の為の技術だ。

ギルドの人達の中でも魔法が得意な人もいれば上手く使えない人もいる。

そして魔法が得意な人達は国を守る為に全員が戦場へと徴兵された。

魔法が得意な人を日常で便利に使う余裕はこの国にはなかったということだろう。


「ロクスケさんも魔法を勉強してみたらどうですか?両方使えた方が便利じゃないですか。」

「ま。そりゃ両方使えた方が便利なんだろうけどなぁ。」

私とロクスケさんは話しながら作業を続けている。

私が引っこ抜いた切株たちをロクスケさんが人間離れした挙動でかき集めて一か所に集めていく。


「知らねえのか師匠。魔法と六道ってのは噛み合わせが悪くて片方を習得したらもう片方は使えなくなっちまうんだとよ。」

「え?そうなんですか?」

ギルドでは六道の話など全くでなかったので初耳だ。

「ああ。昔さ、連合国がすげえ強かった時期があってこのままじゃまずいってギルドとセンゴクが手を組んだ事が一回だけあったらしいんだよ。」


「一回だけなんですか?」

「ああ。一回だけだ。というのもギルドとセンゴクが手を組んだからまあめちゃくちゃに強くて勢いがあった連合国も流石に勝てなかったみたいでな。壊滅寸前まで追い込まれたらしいんだけどギルドとセンゴクがあと少しってところでどちらからともなく裏切って今度はギルドとセンゴクの大喧嘩になったらしくて危うく連合国ギルドセンゴクの三国揃って滅びるところだったらしい。」

「…なんで喧嘩ばっかりしてるんですかねえ。」

「そりゃそういう現世に創ったからだろ。あの問題児(シロクロ)が。話はそれたがギルドとセンゴクが手を組んでた時にいたらしいんだよ。魔法と六道両方に手を出そうとした奴がさ。」

「ほうほう。」

両方とも戦闘用の技術として優秀だしそういう人もいるだろうね。


「お互いにかなり協力的だったのもあってギルドもセンゴクもかなりの人数が相手の技術を吸収しようと躍起になってたらしい。ただ、最終的に両方使えるってやつは1人もいなかったんだってさ。」

「…1人もですか。お互いに自分の所の技術は教えたくないから適当に教えてたとかじゃないんですか?」

共通の敵がいたからといってこれまで戦ってきた相手なのだから簡単に手を取り仲良くしようといっても難しいだろう。

そんな相手に自分達の生命線ともいえる技術をおいそれと提供するとは思えない。


「まあそれはそうなのかも知れねえけどさ。センゴクで生まれたまだ六道を使えねえくらいの小せえ子供(ガキ)達がいてそいつらが魔法を習ったらすぐに使えるようになったんだとさ。」

「子供の方が飲み込みが早いらしいですからね。」

「最初はその子供(ガキ)共の両親も喜んでたんだとさ。うちの子供は魔法と六道を両方使える優秀な戦士になるって。だが魔法を覚えたから今度は六道だって教え込もうとしたら全然上手くいかなかったって話だ。」

「…なるほど。」

自分の国の出身者に真面目に戦闘技術を教え込まないはずもない。

きっとその子供達は期待をもって育てられたことだろう…だが全く六道を使えないということが分かりその子達やその両親たちは…がっかりしたんだろうな。


「ま。魔法で言う所の魔力って奴と六道で言う所の気ってのは同じだから一回片方で慣れちまうとそっちの理屈に引っ張られちまうんだろうな。」

「理屈…ですか。」

「ああ。感覚って言ってもいいのかもな。」

「…理屈と感覚って真逆の事では?」


「あっはっは。言われてみりゃそうだな。まあ結局それだけ多くの奴らが挑戦して誰もできなかったからどっちかしか習得できないって結論になったのさ。」

「なるほど…でもロクスケさんは…ロクスケさんの固有(ユニーク)はそういう事でもできちゃうもんなんじゃないんですか?」


そう。彼の『超越』はそういう固有(ユニーク)だ。

異常なまでの適応能力及び学習能力。

その固有(ユニーク)を持っていたからこそ。

彼は。タタラ・ロクスケは六道を習得できたのだろう。

しかもただ身に着けただけではない。

周囲の人達が使う六道を彼はどんどん吸収していった。

シンクンの転移やリンドウさんの治癒能力を始めダイミョウと呼ばれる人たちの六道をほとんど使えるようになっている。

ダイミョウの人達はセンゴクの中でもほんの一握りの強者達だ。

そんな彼らが人生をかけて習得した能力を。

ロクスケさんはこの短期間でほとんど身に着けた。


「『超越』なあ…一応ミヨの嬢ちゃんが言うには「やろうと思ったことは何でもできる」みたいなこと言ってたけど…そこまでなんでもできるわけじゃねえ。真似できねえ能力ってのもある。」

それは…

「…固有(ユニーク)は真似できない…ですか。」

「ああ。師匠だったり他の皆だったりが持ってる固有(ユニーク)は完全に無理だ。そもそも真似してみようって発想にもならねえけどさ。理屈が全く分からねえんだもんよ。」

「まあ…そうですよねえ。私も他の人達のやってることを見て…私もできるかどうかって考えた事すらないですからねえ。」

「何でもできるって言っても俺ができると思ったことだけなんだろうさ。できると思ったことができるだけってそれは…ある意味で普通の人間と大して変わんねえってことなんじゃねえのかな。」

「コトの大将みたいに何でも出せるのはまあもちろん無理だけどさ。ああいう方向性だとほとんど真似できねえな。六道っていってもカネズミみたいに鎖を出す能力とかだと全然真似できる気がしねえし…そもそも『これを絶対にやってやる』ってならねえと真似しようと思ってもできねえんだよな。」


「師匠や大将だとか嬢ちゃんだとかみたいに人類ができるわけねえことができるってわけでもねえからな。俺やあの問題児(シロクロ)は…人間にできることができるってだけだ。」

…え?もしかしてこの人自分の事を私達に比べてまともだと思ってる?

「ロクスケさんやシロクロちゃんも間違いなく人間離れしていると思いますけど。」

「そうかい。まあ。俺も戦闘に関しちゃ今や引けを取るとは思わねえし問題児(あいつ)も他人にはとてもじゃねえができねえ芸当をやってのけてるわけだしな。」

「そうですよ。それに比べたら私なんて…かわいいもので」

「それはねえだろ。師匠の能力は俺達の中でもぶっちぎりでやべえ能力だ。圧倒的に異常だよ。」

「そんなことは!」


「いや…実際今だってその能力を最大限に生かすために城作ってんだしな。あっはっは。意味わかんねえよな。よし。切株全部抜き終わったか。」

「…それじゃあ次は整地を済ませて基礎工事を始めましょうか。」

「ああ!そうだな!最高の城を建てるとすっか!」


そう。

私達はこの世界を救うために。

この世界の人達を改めて支配する為に。


私達が持てる技術や能力を駆使して『真・魔王城』を建築しているところである。

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