ヨハネ
工場長ヨハネ。
この人に対する私の印象は…なんだろう。
あんまりよくわかっていないけどコトさんに引っ付いて仲良さそうにしている弱気な男の人という感じか。
正直なところグィネヴィアさんやゲントクさんと同じくらいすごい人だとは私にはとても思えなかった。
ゲントクさんは言うに及ばずグィネヴィアさんも…あの人はあの人でかなりの危険人物だ。
ぱっと見温厚で優しく上品な女性ではあるが…戦闘をしているときのあの人はあまりにも恐ろしい。
そんな二人に比べればヨハネさんは優秀ではあるのだろうがあまりにも地味だ。
コトさんに聞いたところコトさんがヨハネさんの側近になってからはほとんどの雑事をコトさんがやっていたらしい。
コトさんが来る前も本人が何かに対し直接指示を出したりということはほとんどなく直属の部下に各部署を任せて本人はほとんどお飾りのような状態であったらしい。
いや。そうだ思い出した。
以前直接本人に「ヨハネさんは普段どんなことをしているんですか?」と聞いたことがあった。
その時本人が「あはは。僕の仕事は立派なお飾りになることと他人にうまく任せる事さ。」と胸を張って言っていた。
本人が言うのだからきっとそうなのだろう。
自信家で人の前に立って先導しているのかと思えば弱気で他人に任せてコトさんの陰に隠れている。
私はヨハネさんに対する印象は…やはりよくわからないというのが正直なところだ。
戦ったら強いのかなと直接戦闘をしたらしいコトさんに聞いてみた事もあるが「よくわからない」と言っていた。
…そのよくわからないヨハネさんが。
よくわからないタイミングでよくわからないことを言い出した。
ボロボロの格好で。
走ってきたのか足元もふらふらの状態で。
今にも泣きだしそうな、この上なく真剣な表情で。
「頼む!待ってくれ!その手を取らないでくれ!その手を取ってしまったら…この世界は終わってしまう!」
と私をまっすぐに見つめて言っている。
その真剣さに鬼気迫るものを感じ、私は思わず身を引いた。
「あぁん?なんだよ。ヨハネ。ここはセンゴクだよ?君なんでここにいるの?」
ゲントクさんは…にっこりと笑いながら怒っている。
「今ボク達は協力して強大な敵と戦おうってところなんだ。邪魔をするなら潰すよ。頼むから空気を読んでくれよ。なあ?」
「うわぁあ!ロクスケ君!メルナ君!僕を!守ってくれ!」
がぃん
と突然金属音が鳴り響いた。
思わず私も急いで身を引き、刀を抜いたロクスケさんの隣に立ち杖を構える。
「あっはっは。ユヅキ。落ち着けよ。ヨハネは別にお前らダイミョウと敵対をしろって言ったわけじゃないんだぜ。」
ロクスケさんは。楽しそうに笑いながらヨハネさんの前に立つ。
「そうなのかな。そうなのかもね。でもね。その人ね。多分すっごく危険なんだよ。」
小柄な女性が身の丈よりも大きい弓を構え次の矢をつがえている。
今ヨハネさんを狙ったのはどうやらユヅキさんらしい。
「ボクもユヅキと同感だね。いやね。ユヅキに指示を出したのはボクだよ。その男は。ヨハネは危険だ。この場で殺しておいたほうがいい。なに。そんな奴いたところでこれからの戦いで我々に得になることはないだろうさ。害になることはいくらでもあるだろうけどね。」
「ぼぼぼぼ僕を!こっこ殺してしまうことによる世界への損失は計り知れないぞ!」
「うるせえな。いいから死ねよ。」
赤い。烈火のような槍がロクスケさんを避けるような角度から。つまり私の方からヨハネさんをまっすぐに狙った。
私は槍を杖で受け止め、絡めとるようにして槍を奪おうとしたが重く鋭い突きにうまく対応できず結局弾くので精一杯だった。
「アカネもか。一体どうなってんだよ。あっはっは。」
「笑ってんなよクソロクスケ。状況理解してんのか馬鹿。それとも理解したうえで笑ってんのか。狂ってんのかお前はよ。」
…ロクスケさんはなぜかうれしそうに笑っている。
この男はもしかしたら本当に狂っているのかもしれない。
そして周囲のダイミョウ達の雰囲気は、なお一層怒りに包まれていっている。
いや…これは怒りだけではなく…焦り…?も感じる…ような気がする。
「あの!私状況がよくわかっていないので!まずは話し合いできませんか!なんなんですかこの状況は!まずはヨハネさんの話を聞きたいので皆さんヨハネさんを殺そうとするのやめてください!」
私は挙手をして意見を述べる。
「ああ。そうだね。確かに人の話を聞くのは大事だ。だけどいつだってそうだとは限らないだろう?がはは!その男は今すぐに殺すべきなんだよ。」
遂にゲントクさんが直接切りかかってきた。
ロクスケさんがゲントクさんの一撃を受け止める。
何なんだこの状況は。どうしてセンゴクの人達は話も聞かずにヨハネさんを殺そうとしている?
ヨハネさんにしてもどうして詳しいことを何も話そうとしない?
わけがわからない。
しかし混乱している暇はない。
ひとまずセンゴクの方達の攻撃からヨハネさんを守らないといけない。
だが…ゲントクさんはロクスケさんが抑えるにしても他のダイミョウ達も次々と身構えこちらに襲い掛かる準備をしている。
これは…かなりまずい状況じゃないか?
「くっそめんどくせえ。なんで死なねえんだよお前。なんで殺させねえんだよお前ら。そのクズに生きる価値なんて全く持って無えんだからさっさと死にゃあいいんだよ。」
「そうだよね。そうなんだよね。その男はね。死んだほうがいい人間なんだ。そうなんだよ。」
さっき攻撃してきた二人は攻撃を続けようとこちらの隙を窺っているしそのほかのダイミョウ達も続々と私達を取り囲もうと集まってきている。
と。さっきからなぜか腕を気にしていたヨハネさんが急に顔を上げた。
「よし!時間は稼げた!来い!ミハイル!グレゴリー!」
腕につけている…端末?を操作するとヨハネさんが持っていたカバンから二つの影が飛び出す。
「なんだよそのおもちゃ。連合国ではおもちゃ遊びが流行ってんのか。俺も好きだよおもちゃぶっ壊すのはさあ。」
「人型の機械人形…と四足の魔物型機械?アカネちゃん気を付けて。それ多分最新の兵器だよ。この場で出すってことはきっと…。」
「ご明察だお嬢さん!我が連合国最新鋭の兵器さ!私の優秀な部下たちが多大なる予算と莫大なるアイデアを注ぎ込んで作り上げた…。」
人型の機械ががしゃがしゃと音を立てて体の中からいくつもの筒のような何かを出した。
「逃亡特化型の兵器だよ。私が生み出した最高傑作と言ってもいい。」
沢山の筒から一斉に白い煙が噴き出された。
そして周囲は…瞬く間に真っ白な煙で何も見えなくなった。