始まりはいつでも
物事の始まりというのは大抵の場合は何かきっかけがある。
美味しいご飯を食べる為には「美味しいご飯を食べたいなぁ」という欲求と「それじゃあ頑張ってご飯を作ろう」という決意が必要だ。
夢を持ってそれを叶える為にもまずは夢を持つ素敵な出来事が始まりとしてあるだろう。
大きな争いも始まりは案外どうしようもない口喧嘩からだったりする。
そういえば。コトさんが神様になったのは、一体何が始まりだったのだろうか。
私やロクスケさんやシロクロちゃんはコトさんに追従する形で神様となったけれど。
コトさんは何故神様になったんだろうか。
いや。どうやって神様になったのか、と言った方が正確だろうか。
コトさんはどうにも謎が多い人物だ。
ずっと神様をやってきているようではあるが今回の現世での活躍を見る限りでは…いや、これまでの行動や発言を見てもそうなのだが。
コトさんからは神様らしさが全くと言っていいほど感じられない。
常識があるし集団に入っても浮か事はないしなんというか世間擦れしている。
創造という常識外れな固有を持って、それを使いこなして、ロクスケさんやヨハネさんという常識外れな強さを持つ人達と正面から対決して勝利する程の強さを持ちながら。
コトさんからは彼らが持つ特別性を有する人達特有の異常性を全く感じない。
三国をまとめる立場にある今でもだ。
異常な強さを持つダイミョウを始めとした異常集団センゴクの総大将ゲントク。
広大な敷地を持ち数多の魔法を使いこなし自然を操るギルドの大魔女グィネヴィア。
兵器や科学で力を持たない一般兵を一騎当千に変える連合国の工場長ヨハネ。
一筋縄では行かない一癖も二癖もある人達である。
しかしその人達をまとめるコトさんは、同時に常識ある普通の男の子でもある。
…これだけすごい人であるのにまともで常識的で普通であるっていうのはある意味では異常でもあるのかもしれない。
そんな普通でもあり異常でもあるコトさんが、神様になったきっかけとはいったい何だったのだろうか。
コトさんの始まりとはいったい何だったのだろうか。
聞く機会があればいつか…と思って何度か聞いてみようかなと思った事はある。
しかし聞いてもいいことなのか私にはよくわからないので…そのあたりの機微に明るいロクスケさんあたりを唆して聞いてみてもらってもいいのかもしれない。
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物事の始まりというのは大抵の場合曖昧でありどうでもいいものだ。
行動を始めるにあたって決断をしているつもりの人達もいるんだろうがその決断をするに至る理由は曖昧だ。
夢や目標を持つきっかけとして印象の深い出来事を上げる人は多いがほとんどが自分がやりたかったことの理由を他人に押し付けているだけに過ぎない。
自分達の種族の生命の誕生の理由を詳しく知る人はほとんどいないだろう。
…きっとこの戦争を始めることになった理由も曖昧でどうでもいいものなのだろう。
噂によれば国のお偉いさんが何かを言って始めたらしいが私が生まれた時からこの惑星への憎悪や侮蔑は存在していた。
曖昧な理由で始まる戦争。
曖昧な物事の為にこれから沢山の人が死ぬ。
始まりは曖昧だったのだろうが進み続けるうちに様々な意図や利益や決めつけられた理由が積み重なっていまや誰にも止められない戦争になっている。
曖昧に始まって勝手に意味を持たされ確固たるものへと変貌していく。
きっと世の中の大抵の事はそういう風にできているんだろう。
ゆったりとした絶望感を感じながら私は仕事をこなす。
攻め入るための準備はもうすでに完了しているが許可や承認が下りていないのでそれらの手続きを行っている段階だ。
何事も上からの指示で動くという事は徹底されなければならない。
確固たる勝利をつかむためには全員が勝利の為に団結することは必要不可欠だ。
その為にも人の上に立つ者は思考を重ね指示を出し続けなければならないし末端の者達は命令に忠実であるべきだ。
今回の任務も命令に忠実に予定に忠実に歴史に忠実に。
滞りなく行っていくことになるだろう。
私はずっとそうやって星の命を消し去ってきた。
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「メルナおねーちゃん!今日のおやつは何だい?」
私が朝ごはんの片づけをしているとふんふんと楽しそうにシンクンがやってきた。
他の国のメンバーがそれぞれ連合国やセンゴクへ帰って行ったが、シンクンは能力を使って毎日ご飯を食べに来るのでいつもギルドのメンバーに混ざって食事をとっている。
ギルドへもともと捕虜として来ていたシンクンなのでギルドの面々とも面識はあるし人懐っこい性格をしているのでみんなから可愛がられている。
今日もおいしそうに朝食をみんなで食べていたがその後におやつが何かを聞きに来たらしい。
「あらおはようございますシンクン。今日のおやつは…なんにしましょうかねえ?」
「決まってないならケーキがいい!ぼくメルナおねーちゃんが作るケーキ大好きなんだ!」
「うふふそうですか。最近シンクンは忙しそうにしてますからね。それじゃあ頑張っているシンクンの為に大好きな木の実のケーキでも作りましょうかね。」
「やったーーーーー!最近食べてなかったからすっごくうれしいぞ!それじゃあメルナおねーちゃんのケーキを楽しみに今日もお仕事頑張る!」
「はい。今日もお仕事頑張ってくださいね。」
シンクンはいつもとてもおいしそうにご飯を食べるからついつい食べたいものを作ってしまう。
…まだ小さい子供なのに頑張って仕事をしているんだからこれくらいのご褒美はあげても罰は当たらないだろう。
「それじゃ行ってくるね!ケーキケーキケーキ!ケーキのために頑張ってくるよ!」
「ケガや事故なんかには気を付けてくださいね。危ないと思ったらすぐに能力を使って逃げてくるんですよ。」
「メルナおねーちゃんは心配性だな!大丈夫だよ!ぼくが負けるわけないじゃん!」
「そうやって油断しているときが危ないんですからね!気を付けすぎなくらいに気を付けてください!」
「はいはいわかったよ!それじゃ頑張っていってくるからメルナおねーちゃんも頑張ってケーキ作っておいてね!」
そうやってにぎやかにしていたシンクンだったがふと目を離すとその場からいなくなっていた。
シンクンはいつも元気いっぱいで人懐っこい。
その上超人集団であるセンゴクの民の中でも飛びぬけて貴重な転送能力の持ち主である。
天真爛漫な性格と貴重な能力を持っているのでセンゴクでも異常なほどに可愛がられていた
ロクスケさんはシンクンがいたら勝負にならないとシンクンを連れ去ってきたと言っていたが。
実際のところシンクンを連れ去ったことでセンゴクのダイミョウ達の怒りを買ってあの戦いが起こったんじゃないかなと私は睨んでいる。
それだけシンクンはセンゴクのメンバーから可愛がられていた。
ロクスケさんがダイミョウ達と戦った時にも大抵の第一声は「シンクンは無事なのか!どこにいる!」というものだった。
…もしかしてダイミョウ達と戦いたいがためにシンクンを連れ去ってきたんじゃないかとすら思う。
ロクスケさんならやりかねないよなあ…。
ちなみに。
ロクスケさんが言うにはシンクン本人もダイミョウ達に匹敵するほど強いらしい。
そもそもセンゴクの人達は大人も子供も関係なく強いしシンクンはその特殊能力を駆使した戦い方をすることで大人顔負けの強さを発揮していたらしい。
…まあ大抵の人間は音もなく背後に立たれて突然武器で攻撃されればなすすべもなく死ぬ。
しかもシンクンは六道の練度も高く六道のオーラで体を包めばほとんどの攻撃は届かなくなる。
六道の基本は防御にあるらしく六道を使う人たちは基本的に素肌に刃物を突き立てたとしてもダメージを受けることはないらしい。
「シンクンと戦えって言われたときにはどう加減しようか迷ったもんだったがシンクンはめちゃくちゃつええから加減して戦うのも大変だったんだよ。いや…最初は手加減できる余裕なんて全くなかったかな。」
…ロクスケさんが強いと認める子供っていうのはなかなかにあり得ないよなあと近頃は思いつつ私は木の実のケーキの仕込みを始める。
しかしシンクンがそのケーキを食べることはもう二度となかった。
そうとも知らずに私は暢気にケーキを作り続けていた。
お待たせしました!3章本編いよいよスタートではありますが結局まだプロローグのような内容でしたね!
今後は多少不定期になりつつもできる限り毎日更新をして行こうと思いますが…お休みしたらごめんなさい!