魔王と勇者
「魔王…はあんたのことだろ…?」
「違います。私は魔王じゃないです。」
「え?でも今私の代わりにって言っただろ?あんた魔王じゃねえのかぁ?」
「…今私はどうやら魔王と呼ばれているようですが。私は魔王じゃありません。」
「それじゃあ各地の集落を襲っている嵐や呪いは…?」
「私のせいじゃありません。私にそんな魔法は使えませんよ。」
「え…。じゃあそのめちゃくちゃな強さは一体何なんだ…?」
「…これはあなたたちより…ほんの少し長生きしているので多少経験を積んでるだけです。」
「なるほど。俺より若そうに見えるが結構長く生きてんのかぁ。エルフの年齢はわからんな。」
「…ほんの少し?」
「ヘル坊?何か言いました?」
「なにも。何も言ってないです。何も言いませんのでヘルメスと。私の事はヘルメスとお呼びください。お願いします。」
「そうですか。ヘルメスさん。あなたが代わりに魔王になってもいいんですよ?」
「いえ。私に魔王など務まりませんとも。あなた様の代わりなど私には到底…。」
「あなたもエルフの里の族長でしょうに。そもそもなんで族長のあなたがこんなところにいるんですか。」
「そいつ嫁さんがすっげえこええから逃げ回る大義名分が欲しくて俺たちについてきたって言ってたぜ。」
「ほう?素敵なお嫁さんを貰ったと聞いてますが…そうなんですか?」
「違います違います違いますよ!魔王を倒して世界に平和をもたらすという族長としての使命を果たす為です!」
「へえ?私を倒すんですか?ヘルメスさんも私と一対一で勝負してみますか?」
「いや…今のは言葉の綾で…。あまりいじめないで下さいよ…。」
「ふふふ…そうですね。懐かしい顔でしたのでついはしゃぎすぎてしまいました。」
「ヘルメス…聞くタイミングを逃してたが…。お前こいつと知り合いなのか…?」
「えっと…ロクスケは短命種なので遭ったことはないと思うが今から100年くらい前にうちの里にいたのだよ」
「旅のエルフさんと呼ばれていて里のいろんなことを手伝ってくれていたよ。小さい子供だった私もよく子守をしてもらっていてね。」
「そのころのヘルメスさんは可愛かったですね…。」
「私のことを将来およめさ「そんなわけで昔にとてもお世話になったお方なんだがね!いやあ小さな時の事だから忘れていたというのもあるが…そもそもが不思議な人だったのだよ。」
「なにせ私たちは自分の親より年上の人を見たことがないだろう。」
「その両親も私たちが少し大きくなったときにはもう別の集落に移動していた。」
「そして転々と色々な場所に集落を作り50年ほど前に亡くなったとのうわさを聞いた。」
「小さいころに面倒を見てくれていた大人がいたはずだがいつのまにかいなくなっていて誰もどこに行ったのか知らなかったんだ」
「私の記憶違いかそうでなくとも私の両親たちが死んだときに一緒に死んだんだって判断するのが普通だろう?」
「そういったわけでしてね…決して『旅のエルフ』さんだとわかっていて攻撃を仕掛けたわけではないと言いますか…『旅のエルフ』さんだとわかった今敵対する理由はまっっったく存在しないので私としても全面的に協力させていただきたいと思っておりまして…。」
「うふふ…まあ。そういう事にしておきましょうか。」
「協力するってんならお前が魔王やればいいじゃねえか。俺はめんどくせぇからいやだぞ。」
「私は里の族長で精一杯の男なのだよ。それに私よりはきっとロクスケの方がうまくやれるさ。」
「なにせ俺たちのような癖の強いやつらをまとめて魔王城まで来てしまったんだ。きっと世界の王になるっていうんならお前のような奴なんだろうよ。」
「…まあ詳しい話を聞いてから考える。」
「話がまとまったようでよかったです。やっと詳しい話ができますね。」
「それじゃあえっと」
「タタラ・ロクスケさん。」
「あなたにはこの世界の王様になってもらいます。」
「何もここに住めというわけではないですよ。ここは私も気に入っていますのでこれからもできればここに住み続けていきたいです。」
「じゃあ何をすればいいかって言いますと私がしていたらしいことの逆をしてください。」
「そうです。いや私がしていたわけじゃないんですけどね。」
「嵐や呪いなどで苦しんでいた人達が苦しまないようにしてあげてください。」
「他にも山火事だったり雷だったり地震だったり津波だったり。」
「私が引き起こしているとされる色々な災いに対処できるように色々な工夫をして死なないようにしてあげてください。」
「それらは魔王であるあんたが起こしてるって言われてるがそうじゃないっていうならその災害を起こしてる他の誰かを倒せばいいんじゃねえのか?そいつは誰なのかはあんたは知らねえってのか。」
「いえ…ここは大事なことなのでしっかりと聞いてほしいんですが」
「『災害を起こしている誰か』なんて人はいないんですよ。」
「あぁん??どういうことだぁ?」
「災害を起こしているのは自然現象によるものです。」
「嵐も雷も地震も津波も山火事も呪いも誰かが悪意を持って引き起こしているわけじゃないんですよ。」
「基本的にあれらはだれにも止められません。だからこそ起きるということをこの世界の皆に知ってもらって起きても誰も死なないように対処するしかないんですよ。」
「そうやってこの世界の人たちを守ってあげて欲しいんですよ。」
「魔王と呼ばれる私に挑むほど立派な勇気を持つあなたに。」