スコーンの食べ方には個性が出るらしいですね。
サクリとした食感で口に入れればほろほろと崩れる。
少し口の中がぱさぱさとするので紅茶を口に含み潤す。
最初の一口は何もつけずに食べてその後にジャムやクリームチーズなどを少しずつつけて色々な味を楽しむのが好きだ。
他の3人もまずはスコーンから食べているようだ。
コトさんは何もつけずに食べていてヨハネさんもそれを横目で見て真似をしながら食べている。
グィネヴィアさんはいつも通りたっぷりのジャムとクリームチーズでべたべたになったスコーンをお砂糖をたっぷり入れた紅茶で流し込んでいる。
一心地着いたところでわたしは話を切り出す。
「私は。」
この世界に来て思った沢山の事を。
まとまってはいない思考を無理やり言葉にして口から紡ぐ。
「この世界の人達全ての食糧難を解決したいと思っています。」
「そしてこの世界の戦争を終わらせようと思います。」
「侵略者達へと対抗する為に。」
「3つの勢力『連合国』『ギルド』『センゴク』の力を合わせて立ち向かうために」
「一つの国になってみんなで協力してもらいたいと。」
「そう思っています。」
「そのために私は協力を惜しみません。」
「この世界の人達がみんな仲良くなれるためだったらなんだってします。」
「これまでだってそうでしたしこれから先もそうしていきます。」
「『なぜそんなことを?』とか『今までずっと戦争してきたのに止められるわけがない』と思うのは当然のことだとは思います。」
「実際このギルドに来てから私はそのセリフを何度も聞きました。」
「それでも私は…この世界の人たちみんなと仲良くしたいと思っています。」
「これまで戦争で苦しんできた人。他の国に大切な人を奪われた人。戦争をすることでしか生きられない人。戦争があるから生きられている人。戦争が終わると困る人。戦争が大好きな人。」
「いろんな人がいると思います。」
「それでも。いろんな人の思惑があって簡単には止まらないとは言っても。」
「私は私ができる事。私の仲間ができる事。私が仲間を作ってできる事。」
「そのすべてを駆使して戦争を終わらせます。」
「必要とあらば私がすべてを支配して。他に適した人がいるならばその人にお任せしたいところではありますけれど。」
「誰も争う必要のない国を創りたいと思っています。」
この世界の人達はずっとずっと戦争をしている。
シロクロちゃんが言っていたようにそれは必要なことだったのだろう。
実際のところこの現世の人達の技術力はすごい。
ギルドの魔法はとっても便利でとっても強いし。
連合国の科学技術は見たことがないほど高い水準であるし。
センゴクの人達はロクスケさんでも勝てない人がいっぱいいたのだ。
人々はきっと侵略者ともまともに戦うことができるほどに強くなった。
なによりも、この現世の人達はとっても強い。
戦闘面でもそうだが。それだけではない。
みんながみんなこの世界で生きるために必死で努力している。
闘いに負けて死んでしまわないように。
食べ物を確保する為に魔物と戦えるように。
大切な家族や仲間を守れるように。
みんな一生懸命に生きているのだ。
わたしはそれを見て。みんなを一生懸命に守りたいと思ったのだ。
私達の勝手で戦争をさせたのならせめて私達の手で戦争を止める必要があると。
そう思ったのだ。
「それで?具体的なプランはあるのかい?言いたいことはわかった。本気の願いであることも分かった。止められないことも分かった。だが実現できない計画であるならばそれは『精巧に描かれた絵画』と同じだ。美しいし崇高であることはわかるが。それだけでは意味がない。」
「そのために。ヨハネさん…あなたやコトさんを呼びました。」
「なるほどね。」
「私はこの戦争を止めるために…空腹の人間を一人残らず満腹にしようと考えています。その手段は…これですよ。」
わたしはいま食べているスコーンを指さした。
「…そのお菓子がどうかしたのかい?…確かにワタシも食べて確かに美味しかったが…」
「私達は小麦や野菜果物などの安定供給。家畜を利用したミルクや食肉の量産。それらのノウハウを全員に伝えようと思っています…。」
「へえ。何かおかしいと思ったらギルドはそんなことができるようになったっていうのか。…それで…ギルドはその技術を使って連合軍相手にどんな交渉をするつもりなんだい?」
「交渉?なんのですか?」
「とぼけるなよ。食料の安定供給の代わりに我々は何を差し出さなければいけないんだい?」
「それは」
「食料の安定供給は人類の悲願だった。これまでどれだけ沢山の人が挑んできたか知っているかい?そんな沢山の人が夢を見て努力をしてその人生をささげて。それでもなしえなかったんだ。」
「私は…」
「そんなとんでもない情報を受け取るために我々は何を失うんだろうか。我々が必死で作り上げた兵器かい?我々が長年をかけて積み重ねてきた技術かい?それとも労働によって我々から時間を奪うのかな?」
「そんなつもりはありません。私は。あなた達から何かを取り上げるつもりというのは全くありません。…いえあえて言うならば農業をしていただくことになる方たちの時間や手間はお借りすることになるとは思いますが…。」
「それを信じられると思うかい?我々は何をも差し出さずそして勝負し奪い取るわけでもなく最も欲しがっている物を与えられるという。そんな都合がいい話があるかい?」
「侵略者とも戦っていただくことにはなりますが…」
「それだってこちらの都合だ。さっきからずっと気になっているのは…こちらには都合のいい話ばかりで…君たちにとって必要な理由が全く分からないことだよ。」
「理由は…皆さんに幸せになってもらいたいから…。」
「大変に綺麗な『きれいごと』だ美しすぎて恐ろしくなるね。疑り深すぎるとそう思うかい?そうなのかもしれないね。ただ…僕らは納得させてほしいのかもしれないね。それが今のままだと難しいんだ。」
「それに関しては僕が何とかして見せますよ。うまく納得がいくようなストーリーを考えて連合国のみんなを納得してもらいます。それでいいんでしょう?」
「…まあ。君がそういうのならばワタシが何を言っても意味も何もないんだろうさ。ただこれだけは聞かせてくれ。そっちのギルドの大魔女はどう思っているんだ?」
「あたしは…。」
「グィネヴィアさんへは…まだ話していなかったのであなたと同じく意見はまだまとまっていないと思います…。」
「いや。いい機会だ。せっかくだからこの場であたしの意見も言わせてもらうことにしよう。」
「前々から考えていたんだが…あたしとしては食料が手に入るのならば戦争は終わっても構わないよ。」
「だが。」
「あたし一人が戦争をやめたところで他の二つの勢力は戦争をやめないだろう?そうなれば戦うしかないんだよあたしたちは。」
「だからさ。あたしの条件を言わせてもらうならさ。『他の二つの勢力が絶対に攻めてこない』と確信が持てるならば。私は喜んでこの戦争から手をひこう。」
「…だがそれには。ワタシ達連合国の意見だけではどうにもならないだろう?センゴクとはどうするつもりなんだい?」
「あっはっは。面白れぇことになってんな。センゴクの使いなら今ここにいるさ。遅くなって悪かったな。」
「おいおい!ロクスケ!なんだよここ!ぼくお菓子が食べれるからってここに来ただけなのにさ!どうしてなんかすっげえ強そうな人ばっかりいるんだよ!」
気が付くとロクスケさんが小さな子供を連れてそこに立っていた。
「わりいなシンクン付き合ってもらってさ。ああでも嘘はいってねえよ。お菓子はそこにあるぞ。師匠。こいつに食わせてやってもいいだろ?」
「ええ…。どうぞ…ええっと…その男の子は誰ですか?」
「ああ!センゴクから連れてきたシンクンっていうんだが…ああそうだ。センゴクの総大将のゲントクにも停戦を持ち掛けたんだけどさ!」
ロクスケさん待ち合わせになかなか来ないと思っていたが…もしかして結構難航していたのかな?
「うちの総大将は戦わないで戦争終わるのはありえねえってさ!ギルドと連合国まとめて相手になるからかかって来いって言ってたよ!あっはっは!もうあいつらはボコって仲間にするしかねえよ!俺もこっちで協力するからよ!いっちょ侵略者と戦う前に前哨戦と行こうぜ!」