災害
さて。それぞれがやるべきことの為にそれぞれの勢力に向かったわけだが…。
俺が来たセンゴクっていうのは想像していたよりも文明が発達しているとは思えなかった。
いや。さすがに俺がいた村なんかよりは圧倒的に進んではいるが前の白の街やら黒の街よりも文明が進んでいるとはとてもじゃねえが思えねえ。
ある程度は建物もちゃんと作られてて道も最低限舗装はされてる。
だがそれ以上の文明は何も感じなかった。
武器やら防具やらはかなりしっかりしたもんが売られてるんだけどな。
それ以外の街の設備やら照明やら移動手段やら色んなもんがなんというかその気になりゃ師匠でもすぐに作れる程度のもんでしかなかった。
そして何より食事があまりにも貧相だ。
魚やら肉やらを干したもんが御馳走として扱われていて穀物で作ったいろんなもんは高級品だ。
見る限りだと製鉄技術やら武器を作る技術だけは異常に発達しているから食いもんを金で買うよりは武器を買って自分でそこらの魔物やらを捕まえて食ったほうが早えんだろう。
実際そこら辺の住人は一人残らず刀やら薙刀やら弓やらで武装している。
一人残らずだ。
赤子を背負ってる母親なんかも腰に刀を差してるし背負われてる赤子のほうも自分の身の丈くらいの刀を背中に差している。
そこらで遊んでるガキどもは剣や槍を振り回して遊んでいるしその振り方やらは遊びとは思えねえほどにしっかりしている。
…多分ここには誰一人戦えねえ奴はいねえんだろうな。
下手をするとあの赤子ですら油断してたら武器を振り回して殺しに来るんだろう。
俺もふらふらと町中を歩いてたら何人かに喧嘩を吹っ掛けられた。
一応全員返り討ちにして傷ひとつつけずに無力化したが…。
そこらの雑兵だとはとても思えねえほど全員が強かった。
構えからしても雑に構えてるやつは一人もいなかったし無駄な動きがほとんどなかった。
武器の扱いも全員慣れたもんだったし…全員妙な動きや不自然な軌道で武器を振ってきやがるからやりにくいったりゃねえ。
まあ最初は驚きはしたもんだが慣れてくるとある程度は形態化されてる動きらしくて問題なく見切れるようにはなった。
どうしたもんかねと適当な店に入って一番安い串焼きを適当に食ってたら店の入り口が騒がしくなっていた。
ああ。ようやく迎えが来たか。
「あいやどうも。お騒がせして申し訳ないでござる。いやいや!用事を済ませればすぐに出ていきます故!あいや申し訳ない!」
…なんか背が高くて手足が長え…頭巾をかぶった変なのが店に入って来た。
そのままきょろきょろと店内を見渡してたがこちらを見つけ。
のしのしとこちらにまっすぐ歩いてきた。
「ああ。貴殿が噂の『派手な頭をした眼帯の剣士』殿でござるか!探していたのでござる!」
「探していたねえ。何の用だよ。というか誰だよおめえ。」
「あいや!名乗り遅れたようで申し訳ない!拙者はサルタヒコと申すものでござる!この集落を取り仕切る…ダイミョウの一人でござるな!よければ貴殿の名前も聞かせてほしいでござる!」
「へえ。サルタヒコさんてのか。俺の名前は…タタラ・ロクスケって名前だ。それで?そのダイミョウさんが俺に何の用だよ。」
「あっはっは!そう構えずとも!何も取って食べたりはしないでござるよ!」
この男。めちゃくちゃ強いな。
この町の頭はってるからってのもあるだろうが…。
そうか。こいつ何かおかしいと思ったら。
「あんたは何にも武器を持ってねえんだな。」
「お?…いやいや!そう見えるでござるか!実は体のいろんな部分に隠し持ってる武器がありまして…」
「なるほど。隠したってことは…その手あたりか。」
「ほう?」
「まあいいさ。それで、用事はなんだ?」
「…ふふ。あいや!失礼した!用というのはうちの仕事の斡旋というか…うちの総大将に会って欲しいのでござるよ!」
「総大将っていうと。災害のゲントクか?」
「あっはっは!やはりロクスケ殿はよそ者でござるなあ!その通り名はこのセンゴクでは使わない方がよろしいかと!」
「へえ。じゃあなんて呼べばいいんだ?」
「仏のゲントクと。我々はそう呼んでいるでござるよ。」
へえ。仏ねえ。
なんにしてもこんなやべえ奴らの総大将やってんだ。
一筋縄で行くような相手じゃねえんだろうさ。
「がはは!君がロクスケ君か!いやあ!とっても強そうだ!このセンゴクに今までいなかったのか不思議なくらいだねえ!」
案内された先でとんでもねえ大男が目の前に座っていた。
長え黒髪を後ろで束ねてる。
胡座をかいて座ってるが座ってても俺と目線の高さは変わらねえ。
傍には…とんでもなくでけえ薙刀が置いてある。
あんなもん振り回してたらそりゃあ敵からしたら災害だろうさ。
「ああ!これが気になるかい?セイリュウトウって言ってね!かっこいいだろう!どうだい?使ってみる?ああロクスケ君のサイズに合わせたのもあったはずだから用意させようか!」
「あっはっは。立派な武器だもんな。やっぱり強そうな武器を見ちまうと気になっちまうのが男ってもんだよなあ。」
「お?ロクスケ君話がわかるねえ!ああそうだ。後でボクの武器コレクションも見てもらおうか!いっぱいあってね!」
「まあそれも楽しみではあるが。…まずは要件を聞かせてもらいてえもんだな。」
「がはは!そうだったそうだった!ごめんねえ!ロクスケ君にはまだ何にも説明してないんだっけ?サルタヒコ?どうなの?」
「あいや!簡単には説明しましたが…総大将が以前自分で説明したかったと言っておりましたので全部は説明してござらんよ。」
「がはは!そうだったね!それじゃあ総大将のこのボクからロクスケ君に直々にお願いさせてもらうとね!ボクたちと一緒にお国の為に戦ってもらいたいんだよね!」
「いきなり総大将直々に戦争のお誘いかよ。恐ろしいねえ。そんなに人手が足りてねえのか?」
「いやいや!がはは!人手ならいつだって足りてないけどさ!君を直々に誘ってるのはもちろん君を評価しているからだよ!ここまで直通で来れる人なんてなかなかいないからねえ!強いんだろう?君?」
「どうだろうな…まあいいさ。ただ一つ条件がある。」
「条件?一つでいいのかい?ロクスケくんは謙虚なんだなあ。」
「あんたと一回サシでやらせてくれよ。」
「ええ?ボクと?一対一で戦うの?すごいねえ!面白いねえ!ああ!もちろん大丈夫だよ!それじゃあ場所を移そうかあ!」
「おーい。大丈夫でござるかあ?」
「がはは!ロクスケ君はとっても強いけどそうか『六道』はまだ知らなかったんだね!いやあ『六道』なしでそこまで強いんだったら将来有望だ!サルタヒコ!とりあえず君の部下に付けるからまず色々とおしえてあげてね。」
「あっ…がぁっ…!」
「ああ。まずは動けないようだから癒者のところかなあ!いやあ!それにしても最近はボクに一対一で挑んでくる人も全然いないから楽しかったなあ!サルタヒコ!よかったら君もどう?うん?」
「勘弁してください。ひとまず拙者はロクスケ殿が動けるようになったら道場にお連れして基礎から叩き込むことにするでござる。」
「がはは!そうだね!ロクスケ君もサルタヒコもいつでも相手になるからね!また勝負しようね!」
そういうと大男はウキウキと楽しそうにその場を去っていった。
なんだありゃ。でたらめだろ。
何がどうなったら個人があんな強さになるんだ…?
くっそ。あれに勝たねえといけねえのか俺は…。
動かねえ体と打ちのめされた敗北感を強く感じながら。
俺は…心の底からこの世界に来て良かったと痛感していた。