三国を制する為に
「さて。今回ですが僕も現世へ行こうと思っています。」
ぐっすりと眠った次の日の朝。少しぼんやりとしているところにコトさんからの衝撃発表である。
「え?コトさんって…現世へ行くことって…ああ。そりゃありますよねえ。」
そう。よく考えたら別に不思議なことでも何でもない。
私が来るまではコトさんとミヨさんのどちらかが最初の人類を創っていたのだ。
現世へは一人一回しか行けないので…その後の世界へ行けるのは必然的にもう一人となる。
コトさんが世界を創った時にはミヨさんが。
ミヨさんが世界を創った時にはコトさんが。
それぞれ世界を見に行っていたのであろう。
あれ?でもよく考えたらコトさんとミヨさんってずっと一緒なのかな?
コトさん一人の時もあった…んだっけ?その時はどうしていたんだろう。
んー。まあ今は関係ないしそもそも疑問がぼんやりしてるから今聞く必要はないんだけど。
「大将がついに参戦かぁ。まあそんだけ重要な局面だわな。」
「そうですね…。今回は僕、メルナさん、ロクスケさんの三人で向かうことになります。」
「ミヨさんはお留守番ですか?」
「そうですね。まあ前回の事もありますので…ミヨさんには今回は隔世に残ってもらいバックアップをお願いしようかなと思っています。」
「バックアップですか…頑張りますね。」
「今回僕らが赴くのはシロクロさんが作り上げた戦争世界『ジハード』で時期は侵略者が攻めてくる1年前くらいを予定してます。目的は…現世の戦力統合が第一目標。可能であればそれらの統治及び指揮権の獲得が第二目標。最終目標は『侵略者』の討伐もしくは撃退、およびその後の世界の存亡となります。ここまでで何か気になる部分などありますか?」
「えっと…期間1年って短くないですかね?できればもう少し期間を取ったほうがいいのかなとは思います。」
「そうかぁ?前回の現世じゃ1か月もかからずに制圧してたんだしまあ1年ありゃ何とかなるんじゃねえの?」
「…またあの手段で行くんですか…?私正直あれを使うの嫌なんですが…。」
前回はミヨさんを助けるためだったので『魔王』を全力で活用していったが…できればあの手段は使いたくはない。
というかよく考えたら前回だってそんなに使う必要がなかったわけだから今回もできればあんな手段は使うことなく済ませたい。
「メルナさんの意見も尊重はしたいですが…必要となれば利用するつもりではあります。なにせここまで高い科学力戦闘力を有しつつ崩壊絶滅しなかった世界は貴重なので…今回を逃せばいつになるのかはわからないので…。必要となれば使っていただきたいです。メルナさん。」
「…まあ。いざとなれば仕方ないですかねえ。」
「そして期間ですが…あまり長くしすぎてもだれてしまうと思うので制圧までを半年。そしてその後『侵略者』への対策に半年。…制圧は早ければ早いほうがその後の対策の時間を長くとれる形になりますね。」
「まあ妥当なところだろうな。それで?具体的には何をどうするんだ?」
「僕ら三人はそれぞれ別の勢力へ参加しそれぞれの目標を果たすため努力する。といった形を考えています。」
「なるほど。三つの勢力に三人がそれぞれ潜入か。誰がどこへ行くかは決まってんのか?」
「はい。まず『連合軍』ですが。ここは兵器開発に優れた国であり人間族の国であるため僕が潜入しその開発された兵器を僕が再現量産できるよう分析収集するつもりです。制圧に関しては…流石にこの規模の戦闘国家に対して僕一人で制圧をするというのはまあ不可能であると考えますので内部に入り情報収集や多少僕達が有利になるよう誘導する程度に抑えておきます。」
「次に『ギルド」へはメルナさんにお願いしようと思っています。…色々な種族が入り乱れているので森人族であるメルナさんはぴったりですし領地の範囲で言えば最も広いため最初に陥落させるならギルドが一番適切かと思われます。メルナさんはこの場所で高度に発達した魔法技術を分析そして習得していきつつ可能であれば即座に制圧してもらって他の二つの勢力を攻める足掛かりにしてもらいたいですね。」
「最後に『センゴク』へはロクスケさんを。…この勢力は。他の二つにない特徴として「戦闘力がそのまま組織内での地位につながる」という点ですね。少数精鋭でその分強者が揃っていると言われるセンゴクを制圧するには間違いなく高い戦闘能力が必要となりまして…。僕はロクスケさんが適任だと思います。ロクスケさんの固有と…その高い戦闘力があれば問題なくセンゴクの頂点へと立つことができるのではないかと。」
「ここまでで何か質問異論反論などある方は居ますか?」
「はいはい!いあいあ!反論異論あるよ!どうして私はこの世界に行けないんだよぅ!せっかく私が創った世界なのにさぁ!」
「…それに関しては先ほども説明した通り現世へ行けるのは一人一度までとなりますので…。」
「それは聞いたけどさ!いあ!いあ!なんで1度しか行けないの?何度だって行けるようにしたほうが便利に決まっているじゃん!」
「それに関しては…そのように決まっているからとしか…。」
「だったら!私はこっちでそのルールをぶっ壊すために戦うことにする!」
「…ええ?そんなことして…いいのかな…?そもそもそんなことできるのか…?」
「どちらにしても私はこっちの世界でお留守番なんでしょ?だったらさ!私も一緒に行けるように努力したほうがいいに決まってるじゃんかよぉ!」
「…言いたいことはわかりますが…。そんなことできちゃうの…?ただそれに伴う危険性を考えると…。」
コトさんはうんうんと考え込んでしまっている。
確かに…シロクロちゃんに任せるのが不安だっていうのは…まあそうなんだろうなあ。
ついこの間やらかしたばっかりだし…。
まあそのやらかしにしたってある意味ではファインプレーだったわけだからそれを引き合いに出すのも難しいか…。
そう考え続けているとミヨさんがぴょこんと手を挙げた。
「ああ。それなら私が危険なことにならないように鑑定りましょうか?」
「いあいあ!見張りは結構だよ!私がちゃんと周囲への配慮をしつつ丁寧に作業するから!」
そうか。ミヨさんならシロクロちゃんの行動を見て危険性を判断しつつ危険だと判断したら止めることもできる。
「まあ…ダメと言って求められるタイプの人ではないですよね。…ではミヨさんにおねがいしてもいいですか?」
「はい。私も私で他のみんながしっかりと頑張れるように何かできないかなとは思っていたので仕事がありそうで少しうれしいです。」
「ああ…ミヨさんには実は他にもお願いしたい仕事がありまして…。」
コトさんとミヨさんは二人で少し離れてひそひそと内緒話をしている。
うーむ。それにしても私は『ギルド』を任されるのか…。
それに他の勢力にしても私の固有頼みの戦略になっている気がするけど…。
「あっはっは。師匠よぉ。あんまり難しい顔すんなって。」
「…そんな顔してましたかね。…とはいえ今回の作戦も結局のところ私の固有が頼りになっていると言いますか…。また今回も頑張らないといけないのかなって思うと少し不安はありますかね。」
「そんなこと気にしてたのか。まあ最悪別に師匠が何の役に立たなくったって俺はそれでいいって思ってるけどなぁ。」
「は?」
「いや怖い顔で睨むんじゃねえよ。たまにそのめちゃくちゃ怖い顔するよな。」
「…怖い顔なんてしていませんが。…私なんて必要ないってことですか?」
「いや?そうじゃねえよ。師匠はめちゃくちゃつええしいろんなことができるし固有だってめちゃくちゃつええから必要ないなんてことはありえねえけどよ。」
「…そうですかね。」
「ただ俺としてはそれを当てにしないで俺一人でも目的を果たせるように考えて動くべきだと思ってるって話だよ。師匠だっていろんなことができるけどいつだって完璧じゃねえんだからやりたいように出来ねえタイミングはいくらでもあんだろ?」
「…そうですね。」
前回の。ルミナスさんの件を指して言っているんだろうか。
「それで師匠がうまく動けなかったってときにそれじゃみんな揃って大失敗でした。じゃやっぱりカッコわりいじゃねえか。」
「そんなもんですかね。」
「ああ。一人に頼りきりで結果その一人がうまく動けなかったから負けるなんて言うのはめちゃくちゃだせえよ。だから俺は…少なくとも今回の件に関しては一人でちょっと頑張って何とか制圧してみようって考えてるよ。」
「できるんですか?ロクスケさんに?」
「あっはっは。難しいだろうなぁ。でも、俺の固有って聞いたところによると万能で何でもできるって固有らしいんだよ。」
「…そうなんですか?」
「まあ。だから難しいのは難しいんだろうけど。出来そうなら俺一人でもやれるってんなら…それで何とかするっていうのはやっぱり一人の漢としてはやっとかなきゃいけねえことだろ。」
「ふふふ。よくわかりませんね。」
「そうか。そんならまあ理解はしなくてもいいけどよ。たださ。」
「ただ?」
「師匠もそんなに深く考えずやれることやってりゃいいってことだよ。まあどうせ放っておいてもいろんなことをガンガンこなしちまうんだろうけどさ。」
「…。」
「まあ最悪全員が完全無欠にミスったところでそう大したリスクもねえんだ…気軽にやろうぜ。」
「そうですか…それじゃあ今回はロクスケさんに任せて私は気楽にやらせてもらうことにしますね。」
「おう。任せとけ。あっはっは!前回の現世じゃ碌に活躍できなかった分今回は俺が張り切って何とかしてやるとするさ。」
そうロクスケさんは嘯きながらもからからと笑っていた。