魔王城の闘い
遂にここまできた。この魔王城までの道のりは長く険しいものだった。
わしは鉱人族の洞穴で生まれてからずっと魔王を倒す為に生きてきた。
生まれてからずっと斧を振り過酷な山越えをするための訓練もしてきた。
喧嘩をして負けたことはなかった。
子供のころから大人でも一人では倒せない魔物を一日で何体も倒して周りを驚かせたものだ。
周りの大人たちはわしを見てこの子はきっと将来魔王を倒す立派な戦士になると言っていたからわしも将来は魔王を倒すんだと思って大人になっていった。
15歳になり儀式を済ませた時に大人になったから魔王を倒しに行こうと山に一人で挑んでみた事もある。
結果は散々だった。魔王の住む山はあまりにも過酷過ぎたのだ。
魔王の口と呼ばれているどこまで続くかわからない谷を目の前にこの谷を越えるのは不可能だと判断した。
しかし持ってきていた食料も残り少なくこのまま戻ろうにも戻ることは出来ずこのまま死ぬのかと思っていたところに3人の冒険者と出会った。
最初は幻覚かと思った。軽口をたたきながら大量の荷物を持ってここまで登ってきたのを見てありえないと判断したのだ。
しかし幻覚はこちらを見つけるとき安く声をかけてきた。
「おぉ?お前ドワーフかぁ?なんでドワーフが一人でこんなとこにいやがる?」
「山を登ってきた。魔王を倒すために。だが準備が足りなかった。谷を越えられない。」
「ここまで一人できたのかぁ?…一人で魔王を倒すためにこんなところまで来るなんてドワーフは頭おかしいのかぁ?」
「ドワーフは勇敢な種族だ。一族の誇りを汚すのは許さん。」
「上等だぁ!喧嘩売ってやらあ!氏族の誇りは血で拭うってなぁ!」
人間族ごときに負けるはずがないが誇りを汚す相手に容赦はしない。
そこから戦いが始まった。要するに喧嘩だがなかなか勝敗がつかなかった。
この人間族は動きが早すぎるのだ。こちらの攻撃が一度も当たらない。
それに対してこちらは何度も盾で剣による攻撃を受けている。
しかも一撃一撃が迅く重いためこちらには一方的に疲労がたまっていく。
「ドワーフ!お前強いなぁ!俺の刀を受けて吹き飛ばなかった奴なんて初めてみたぜぇ!」
「こちらの攻撃を全部避けておいてよく言うわ!貴様の剣の重さは何だ!そんな重い剣を振りまわして!」
思うように戦わせてもらえず怒りがたまってくる。
「だいたい貴様こそなんでこんなところにいるんだ!」
「俺かぁ?見りゃわかんだろぉ。」
「お前と同じで頭おかしいからだよ!」
何が面白いのか大笑いしながら剣を振りこちらに思いっきり打ち込んでくる。
「お前も一緒に来いよ!ほかの二人も魔王を倒そうって頭おかしい連中だぁ!」
「頭おかしいのはお前だけだ。私には先王の敵を取るという使命がある。一緒にするな。」
「吾輩はなんとなく面白そうだから付いてきただけだからその人間族と一緒にされても困るなぁ。」
「ガハハ…どうやら頭がおかしいのは貴様だけのようだぞ…」
「ふっざけんな!魔王に挑む連中なんてのは全員頭おかしいんだよ!常識だろぉ!」
「お前が常識を語るなんて世も末だな。非常識の塊のような男だろお前は。」
「人間族の中でも非常識だってそいつのねーちゃんが言ってたぜ。吾輩の常識からしても非常識だなぁっていつも思ってるしやっぱり常識ないんじゃないかなぁ。」
「あぁん!!上等だよ!まずはお前らからぶっ殺してやる!」
「ガハハハハハ!では全員で喧嘩するか?」
何なんだろうこいつらは。まあきっとこの人間族の言う通り全員頭がおかしいのだろう。
「あぁ?これからこの谷越えようってのに全員で喧嘩すんのか?お前こそ常識がねーんじゃねえか!」
「…そうだな。きっとわしも頭がおかしいし常識がないんだろうな。」
「そうか。それじゃあ常識のないドワーフ、この谷に橋をかけようと思うんだが…お前ドワーフだし手先器用なんだろ?手伝えよ。」
「材料があれば橋くらいはかけられるが…。その呼び方は流石に無礼だろうが。」
「あぁん?」
「デッドクリフだ。黒鉄のデッドクリフと呼ばれている。」
「そんじゃクリフだな。よろしくなクリフ!」
「原初の森に住む森人族のヘルメスだ。一人で橋を作らされるかと思っていたので安心しているよ。歓迎する。」
「吾輩はヤスケだよ。犬獣人族のホズミ・ヤスケ。このヒューマンとは同郷なんだ。」
「そして俺がリーダーのタタラ・ロクスケだ。橋は作れねえがこん中じゃ一番つえぇ!」
「確かにこいつは強いよ。ただこいつ他の事は何にも出来ねぇんだ。しかもねーちゃんには一回も喧嘩で勝ったことないらしいぞぉ。」
「なんで言わなくてもいいこと言うんだお前はよぉ!ねーちゃんは今関係ねぇだろうがよぉ!」
そこから10年かけてここまで来た。今目の前に魔王がいる。
女だというのは流石に予想外ではあったが構えを見るにただ物ではない。
右手に杖を構えてこちら全体を見ているようだ。ぼんやりとしているように見えて隙らしい隙は全く無い。
だがそこに隙を作るのがわしの仕事だ。
慎重に盾を構えつつ魔法に気を付けながら一歩前に踏み込んだ。
その瞬間。
魔王が目の前にいた。すでに杖を振りかぶっている。
横薙ぎにこちらを殴りつけてきた。何とか盾を合わせたが腕がなくなるほどの衝撃が少し遅れてやってくる。
とんでもない膂力だ。このままだと盾ごと身体を砕かれる。飛ばなければ。
「うおおおおおおおおおおおおおお。」
斜め後方に飛びながら何とか衝撃をいなした。いや。一撃で盾は歪んだし腕もとても無事とは言えない。
ただ死ななかっただけだ。これが魔王か。まさかここまで強いとは。
「クリフ!」
「無事だ!ただ者ではない!あの杖の攻撃を正面から受け止めるな!」
「わかった!ヘルメスは援護を!俺が前に出る!」
「まかせろ!」
ヤスケは回復の魔石をもってこちらに向かっている。
盾はもう使い物にならないが腕さえ治してもらえればまたわしが前線に出れる。
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失敗したなあ。
盾を構えていたからそこを狙って吹き飛ばせば気絶してもらえるかと思ったが立派なカブトを付けたドワーフさんは思ったよりも身軽だったので衝撃をいなされてしまった。
一発で気絶させてればかなり楽だったよなあ。
しかも黒い犬っぽいコボルトさんは回復の魔石を持っているようで多少のけがをさせてもすぐに回復してしまうようだ。
今やりあっている眼帯さんはこちらが杖を振りまわしてもほとんど避けてしまうしたまに当たりそうな時もカタナ?を使ってうまくさばかれてしまう。
もう一人のエルフは後方から弓矢で的確にこちらの邪魔をしてくる。なんか見覚えがあるな…多分エルフの里で見た最初の方に生まれた子供じゃないかな…。
赤ん坊のころにおしめを替えてあげたり大きくなって遊んであげたおぼえがある。ヘル坊だったかな…。
あ。向こうも気づいたっぽい。でもすぐに目をそらした。ほーん。こやつめ…許してはおけぬ…!
眼帯さんの横をすり抜け杖で矢をはじきながらまっすぐにヘル坊の方に向かっていく。
振りかぶったあたりで間にカブトさんが入って斧と腕を使ってこちらの攻撃をそらそうとする。
よし、狙い通りだ。
私はグルンと体を翻して一人取り残されている黒犬さんに向かって石を投げつけた。
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「ギャンっ!」
ヤスケがやられた。ヘルメスを守ろうとした一瞬のスキを突かれた。
今一体何をした?魔法か?ヤスケはかなり素早く毛皮で守られているので普段は一撃で気を失ったりはしない。
考えているうちにこちらへの攻撃が再開される。ヤスケに気を取られて思考が遅れる。
重い一撃が来ると身構えていたら足を払われた。
これはまずいと思っているうちに杖の先が腹に突き付けられる。
そしてわしは気を失った。
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よし。二人気絶させた。
この雷の魔石の杖は気絶させるのにとても便利だ。
直接相手に当てて魔力を通さないといけないが魔物を狩る時なんかでも新鮮なまま持ち帰れるので便利なのだ。
残りは二人だが…ひとまず話を付けておこう。
「あの。エルフさん。はいそこのあなたです。」
「ま…魔王め!仲間を二人もやりやがって!どうするつもりだ!」
しらをきるつもりらしい。エルフはプライドが高いからいやだね…。私はプライドは高く…ないと思う。
「あなたリンゴの森のヘル坊じゃないですか?わたし昔あなたと遊んであげたと思うんですけどおぼえてないです?」
「り…リンゴの森なんて知らない…うちの森は原初の森だ…勘違いじゃないか…?」
「私が最初に名前つけた時はリンゴの森だったんですけどね…今はそんな風に呼ぶんですか。ヘル坊も昔は可愛かったんですけどねえ…。おねーちゃんと結婚する!って言ってたじゃないですか。初恋の相手を忘れてしまったんですか?」
よし。プライドが折れる音が聞こえた。
確かヘル坊はおおきくなって族長になりお嫁さんを貰っていたはずだから別に気にしなくてもいいのに…。
「さて。ということでもうそちらに勝ち目はないと思うので話し合いをしませんか?」
「…俺はまだ負けてねぇ。」
「まだやるんですか…?そもそも全部誤解なので私としては誤解を解いておきたいのですけど…。」
「俺と一騎打ちをしてくれ…。あんたが強いのはよくわかった。多分敵わねえのもよくわかった。」
「だが何もしないで負けるのはだめだ。俺にも意地がある。」
「だめだリーダー!見てただろ!その人に一対一で勝てるわけない!」
なるほど。まあこの人たちのリーダーですもんね。
「わかりました。その代わり私が勝ったら私のいう事を聞いてくださいね。」
「恩に着る」
眼帯さんの纏う空気が変わった。
きっと本来この人は仲間を気にしないで戦う方が強いのだろう。
「それじゃいつでもどうぞ。安心してください殺しはしませんよ。」
「ああ。それでいい。」
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ミヨさんと二人で手に汗握る戦いを見ている。
「メルナさんあんなに強いんですね…驚きました…」
「ふふふ…ミヨさんは実は知っていたんですよ。」
「そうですよね…できれば早く教えてほしかったです…。」
「えー教えちゃったら面白くないじゃないですかー?」
「確かに…これは知らないほうが面白くみられそうですね。」
…どうやらミヨさんはネタバレしない派だったらしい。