灰色の世界とチゲ鍋と豆乳鍋
今日はみんなで鍋を囲むことにした。
この隔世の人達も今や5人もいるので食事も作り甲斐がある。
せっかく全員が揃って隔世で食事を取るのだからみんなで食べれる物がいいだろうと考えたのだ。
お鍋は2つ用意した。
片方は海鮮中心で作るチゲ鍋というピリ辛なお鍋で。
もう片方はコトさんの故郷のトウニュウという豆を使って作ったミルクを使ったお肉とお野菜がたくさん入ったトウニュウ鍋だ。
2つとも以前にミヨさんが作ってくれた事があるのを私なりに頑張って作ってみた。
どちらも美味しい『お出汁』が出ていい味に仕上がっていると思う。
「さあ!みなさん!ご飯ができましたよ!今日はお鍋ですよー!」
人数が増えてみんなを呼ぶのが大変になってきたのでコトさんが作ってくれた『カンナイホーソー』と言う物を使ってみんなを呼び出す。
するとゾロゾロと集まってくる。
コトさんが来て少し間を空けてミヨさん。
しばらく経ってからロクスケさんとシロクロちゃんが一緒にきたがどうやら様子がおかしい。
「ロクスケさん。シロクロちゃんに何かしたんですか?」
私は努めて冷静にロクスケさんへと質問をする。
「うおっ。いやただ稽古つけてくれって言うから相手をしてやっただけだよ。」
「ええ?本気でやったんですか?」
「んなわけねえだろ。ああ…いやそれなりに本気だったかな…!」
ロクスケさんはちらちらとシロクロちゃんの様子を伺いながら話している。
シロクロちゃんはと言うと顔を真っ赤にして頬っぺたをぷくーっと膨らませてその上で半泣きになってそっぽを向いている。
「へぇ!ロクスケちゃんは私相手に本気なんてこれっぽっちも出さなくても余裕綽々へいっちゃらで一方的に勝っちゃうんだ!へぇ!へぇ!ロクスケちゃんってほんっとうに強いんだねぇ!」
「えっと…シロクロちゃん怪我はないですか?」
「どっこも!これっぽっちも!かすり傷ひとつないよ!ロクスケちゃんはとっても強いから優しく傷一つ付けずに私の攻撃全部をさばいちゃうんだもん!強いんですねえ!私みたいな雑魚は相手にもならないみたいだねえ!」
…ロクスケさんなりに気を遣って優しく傷一つ付けずに実力の差を理解させてあげたのだろう。
どうやらシロクロちゃんはそれが大層気に入らなかったらしい。
…うぅん。シロクロちゃんも十分強いんだけどなぁ。
「シロクロちゃん…そのロクスケさんは戦闘に関してはどうにもならないくらいには強いのであんまり気にしない方がいいですよ…まあひとまずご飯にしましょうか。他の人も待ってますし。」
みんなで鍋をつつきながら色々な話をする。
シロクロちゃんが馴染めるか少し心配だったがシロクロちゃんは誰が相手でも物怖じせず会話をしている。
少し無遠慮でヒヤリとする時もあるがそう言う時は決まってロクスケさんが茶々を入れている。
…ロクスケさんのあのバランス感覚は本当に見習いたいなぁ。
ロクスケさんは何も考えていないように見えて全体のバランスを取るのが絶妙に上手い。
シロクロちゃん相手にも適当に相手をしているようできっちりとケジメを考えて動いている。
私も先の現世でそれなりに経験を積んだつもりではあるけど、まだまだ自分の至らなさが気になってしまう。
…私も頑張らないとなあ。
「そういや今の世界ってどんな感じなんだ?俺達がいなくなってからもう結構経つだろ。」
「ああ。そうですね。確かまだ残っているはずなので見てみますか?メルナさん達がこちらに来てから1000年ほどですね。」
「あれから1000年ですか…。一体どうなっちゃったんでしょうね。」
「私達が知ってる人はもういないでしょうしね。…色んな人に助けてもらったから…もういないんだと思うと…少し寂しくはありますが。」
ミヨさんはお鍋をもむもむと食べながら少し寂しそうにしている。
…ルミさんの事を考えているんだろう。
2人は色々と話し合って最後には笑顔で別れていたが…。
まあそんな簡単に割り切れるものじゃないのだろう。
私も色々な世界で色々な人と出会い別れを繰り返した。
もう二度と会うことはできないと理解はしているつもりだが…。
また会いたいなと寂しくなってしまうことはある。
「まあ…そうだよな。もう会えない奴らがいて、俺達だけが生きているっていうのは…なんつーか。何とも言えねえ気持ちになるよなぁ。」
「そうですねえ。」
「…この隔世に来てしまったことを…後悔したりしますか?」
「…いんや。少なくとも俺はねえなそういうのは。あっちの世界にはもうとっくに飽きてたしこっちに来てからそれなりに楽しめてるしな。」
「私は…この隔世に呼んでもらえてから…大変なこともありましたけど…楽しいことのほうがたくさんたくさんあるので心から来てよかったと…おもいます。」
私はきっとあのまま死んでしまっていたら後悔ばかりの人生だっただろう。
「私はよくわかんないけど楽しそうだと思うよ!いあ!まだまだ来たばっかりだからわかんないんだけどね!少なくともすっごく楽しそうになりそうな予感はするよ!」
シロクロちゃんは楽しそうだ。私はいつも楽しそうにしているシロクロちゃんが大好きだ。
「私は…よくわからないですが…少なくともここにいる皆さんと出会えたことはすごくうれしいと思っていますよ。」
ミヨさんは…まだ全部の記憶は戻っていないのだろう。
「…それじゃあ画面を接続しますね。…えっと…これは…?」
しんみりとした空気を読んでかコトさんは現世の映像を画面に出したのだが。
そこにはとんでもないものが映っていた。
「あっはっは!!!なんだよこれ!最高じゃねえか!」
「あっ。あっ。あっ。あああああ。」
しまった。完全に忘れていた。
…いや。記憶から消してしまっていた。
「そうだそうだ!いあいあ!これすごいよね!私これ大好きだからできればこっちにもほしいなあ!」
「さすがにこの大きさのこれをこっちに置いておくのは…むりじゃないですかねぇ?」
画面いっぱいに映し出されていたのは。
白の街に設置されていた巨大な…私の石像だった。
「あの…メルナさん…これはなぜこんなことになったんですか?」
「私じゃなくてですね…スカラさんがですね…あの巨大な魔王が攻めてきて討伐したときに大量の砂があったんですけど…。」
私とロクスケさんが巨大魔王からそぎ落とした砂は箱に詰められ。石へ加工された。
その加工された石で…スカラさんはあろうことか私の石像を作ってしまったのだ。
しかも大量にできた石の全てをふんだんに使ってきっちり全部を使い切るように計算までして。
勇ましいポーズをとる私の石像はとても精密に加工されていた。
何度あの石像を壊してしまおうかと思ったが。
スカラさんが持てる力をすべて駆使して作ったものであり。
なおかつ住民からも謎の信仰を得ていたあの石像を私は結局壊して今うことはできなかった。
どうにもすることができなかったので。せめて記憶からは消去していたのだ。
「そういや俺の現世にも師匠の像があったよな。これから先全部の世界で師匠の像を作るのか?」
おのれこの人間族め。
滅ぼしてやろうか。
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そうして白と黒で作られ。その後青に染められた世界は。
彼女たちが去ってから1000年と少し。
私が。何とかほんの一握り自意識を保ち続けた1111年が経過した後。
ぬいぐるみとなった私も朽ち果て。新人類達もすべて砂となり。
最後の自意識を手放した瞬間に終わりを迎えた。
狂い続け創り続け壊し続けたこの世界だが。
消え去るというのは我ながら少し寂しい。
だが。私の分身でもあるあの少女。
白と黒がしっかりと共存しなおかつ分離した。
私の理想を体現したあの少女が生きているならば。
私が狂い。もがき続けた意味もあったと言えるのだろう。
意味を求めた人生ではなく。意味があった人生だとは思えないが。
その中でもきっと意味あることだったのだろう。
ブライトなんて名乗りはしたが。私はただの灰色だったのだ。
私は…グレイというただの灰色の私は。
こうして世界とともに終わりを迎えた。
第2章これで完結です!
いつの間にやら3000PVも突破し毎日のPVも順調に増えているのでうれしい限りです!
仕事が少しバタついており更新時間が多少前後したりしましたが何とか毎日更新を続けられてよかったです!
今後も可能な限り毎日更新頑張っていこうと思います!
お話気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価などしていただけると執筆のモチベーションとなりますので気が向きましたら是非お願いします!
これからも拙作をよろしくお願いします!