眼帯剣士と白黒少女
白と黒の髪をしたまだ少し幼さを残したシロクロという少女は快活に笑う。
「ここが隔世なんだね!思った以上に普通!話だけ聞いて神々しい空間なのかなって思っていたけどそんなわけでもないんだね!いあ!否定を、非難をしているわけじゃないんだよ!むしろすっごく面白い!全然知らない全然見たことがない物ばっかりだ!そもそもここに来るのもどういう理屈?わけわかんねー!ねえママ!あれは何?」
「どれの事ですか?ああ。あれはこたつですよ。あったかい机で落ち着くにはピッタリなんです。」
メルナさんは慈しむような眼でシロクロさんを見ながら答える。
「へー!意味わかんない!でもすごいね!不条理の中にある理屈こそ真理なんだきっと!」
「ふふふ。そうですよ。やっぱりシロクロちゃんは賢いですよねえ。」
「えっへっへ!ママの子だからね!私お腹減った!」
「それじゃあご飯にしましょうか?何が食べたいですか?」
「カレーライス!あの甘いやつがいい!」
「はい。それじゃあフルーツカレーを作りますね。えっと…皆さんの分もおつくりしてよかったでしょうか…?」
「えっはいおねがいします。」
「ああ。俺は何でもいいよ。」
「…おねがいします。」
なんでしょう。
メルナさんが…母親の顔になっている…。
前々からとてもやさしい人ではあったし色んな事に気が付く人で親切にしていたけど…。
何かメルナさんの中で大きく変化があったような感じだ…。
「師匠なんかおかんって感じになったな。まあそりゃそうか。おかんだもんな。」
「…ロクスケさん。『おかん』っていうのはやめてもらっていいですか?というかそんなに私自身変わったつもりもないのでいつも通りにしてほしいです。」
「あん?いいじゃねえか別に。実際そいつのおかんなんだろ?あんなちっこかった子供がもうそんな大きくなってるのも違和感すげえが師匠もそんだけ歳重ねたからそりゃ変化はあるだろうさ。」
「えっと…こちらでは実はそんなに時間がたっていないんですか…?」
「ああ。俺たちの体感としてはこっちにきてそのすぐ直後に師匠達2人がきた感じだな。」
「はー。そうなんですか…。まあ私としてはそう大きく変わったわけでもないと思うのでこれまで通りでよろしくおねがいします。それじゃあご飯作ってきますね。」
…うーん。
これは想像以上にこの隔世を取り巻く環境は変化していきそうだ。
「ねえコトちゃん!ミヨちゃん!聞きたいんだけどさ!」
「えっと…なんですか?シロクロさん。」
「なんでしょう?シロクロちゃん。」
「二人って何歳なの?見た感じ…私よりもだいぶ若そうに見えるんだけど。」
「ああ。確かに僕達は見た目はかなり若い年齢で固定されていますからね。でも実はそこまで若いわけでもないんですよ。」
「そうなんだ!何歳なの?」
「えっと…僕はもう50歳くらいだったかな…?ミヨさん確認してもらってもいいですか?」
「あっはい。…確認したところ53歳らしいです。」
「はぁ?旦那そんなに年取ってたのかよ。まあ物腰やら話し方でそんなに若くはねえんだろうなとは思ってたが…。」
「それとミヨさんは26歳ですね。えっと…シロクロさんは…。」
「私は15だよ!なんだぁ!みんな私よりも年上なんだねえ!」
「そうですねえ。でもシロクロさんもその若さで知識も沢山あって大人っぽいしすごいですよねえ。」
「いあ!おほめにあずかり!…ただ私はさあ。それよりも知りたいことがあるんだよね。」
「そうなんですか。何を知りたいんですか?」
「ママの年齢。私が小さいころから全然変わってなかったし私よりも確実に年上なんだけど…よくわかんないよね。みんなは知ってるの?」
─────────────────────────────
「なあ。旦那よぉ。俺ずっと考えてることがあってさ。旦那に相談したいんだけどさ。」
「…そうなんですか?ロクスケさんほどの人でも何か困りごとがあるんですね。」
「あっはっは!そうなんだよ。俺さあ。前の現世でつくづく思ったんだけどよ。」
「俺の固有弱すぎねえか?」
「ロクスケさんの固有は『超越』でしたね。」
「ああ。そうらしいな。つってもどういうもんなのかも全然わかんねえんだけどよ。」
「『超越』は…。ミヨさんに聞いた話だとかなり強いはずなんですけどね…。」
「まあ何となく察するに。やりてえことを最終的にできるようになる。みたいな能力なんだろ?」
「ええ。まあ大体そういう感じらしいですね。ミヨさんが言うには『万能で最強の固有』らしいです。」
「万能で最強ねえ。とてもそうは思えねえけどな。師匠にはずっと勝てねえままだし。現世でもろくに活躍出来てねえ。」
「…そうですねその二つの事柄に関していえば…間違いなくメルナさんが悪いですよね。」
「『魔王』か…あれどう考えても強すぎるんだよな。」
「そうなんですよね。困っているときにロクスケさんなら解決できる問題ばっかりだったとは思うんですけど…ロクスケさんが解決に至る前にメルナさんが全部解決しちゃうんですよね。あとは…。」
「はい。メルナさんって…戦闘の時になかなか全力出さないんですよね。」
「ああ。だから全力を出してねえ師匠にしか追いつけねえって話か。」
「はい。メルナさんの強さを受けてロクスケさんは…確実に強くなってはいるんですが…。」
「なるほどな。俺が多少強くなったところで小出しに強さを見せてくるからなかなか師匠以上に強く慣れねえってことだな。」
「メルナさんの強さと能力はハマればめちゃくちゃ強い分安定性には欠けるので…」
「師匠の強くなる速さが異常だからなかなか追いつけないってだけで俺自身もかなり強くなってはいるってことか。…なるほど…確かに強えが…。」
「ええ。まずもってメルナさんが強さも能力も固有も強すぎるんですよねえ。」
「そういうことか。何となく腑に落ちたよ。師匠って身体能力もくそ強え上に『魔王』がかなりおかしいくらい強えもんな」。
「ただ…考えていたのですが。結構弱点もしっかりありそうなんですよねえ。」
「ま。そうやって師匠が困っててどうにもならねえってときに俺の固有はうまくかみ合ったりするんだろうな。」
「ええ。つまりはそういうことですね。なんにせよ。ロクスケさんは強いですし優秀なのでそんなに焦る必要はないのかなとは思います。」
「なるほどなあ。まあまた師匠がどうにもならなくなったときに俺が何とか出来ることもあるっていうんならその時の為に修行していくしかないわけだな。」
「ええ。僕個人としてはやっぱりロクスケさんがこのメンバーの要なのかなと思うので…これからもよろしくお願いします!」
─────────────────────────────
「よう!ロクスケちゃん。元気かい?」
「まあそれなりにはな。そっちも元気かよ。」
「いあ!とっても元気だよ!それでロクスケちゃんにお願いがあるんだけどさ!」
「おぅなんだ?聞いてやるよ。」
「私に稽古をつけてくれないかな?」
「おお。いいぞ。それじゃあ基礎体力からだな。」
「いあ!そうじゃなくってさ!」
「あぁん?なんだよ。」
「私と戦ってくれないかな?全力で!」
「なるほどな。そういうことかよ。」
「いいぜ。どこからでもかかってこいよ。」
そうやってロクスケが構えるとシロクロはメルナやブランやスカラから教えを乞うた技術を最大限利用してロクスケへと襲い掛かり…。
そして少女はそのまま見るも無残に。完膚なきまでに大敗北した。