白と黒と灰と青
私は。
産まれてすぐに私の使命をを告げられ、誇らしさで胸がいっぱいになった。
使命を告げられた後におまけのように「あなたの名前はデント・ブランです。」と教えられて自分の名を知った。
おまけのように告げられたその名前に大した愛着はなく。私は私よりも私の使命を大切に生きてきた。
使命を告げられたその直後から私は様々な教育を受けた。
人心を操作する術や機械の操作、身体を思う通りに動かす技術や対人戦闘技術。
街を支配するためのありとあらゆる知識を私は毎日毎時間毎分毎秒詰め込まれた。
身の振り方も表情も笑い方もしゃべり方も何もかもを詰め込まれ続けた。
成人する頃に身体を改造する旨を告げられていたので改造手術もただの通過儀礼のように行われた。
内容はあらかじめ決められていたのでそこに私の意志は介入していない。
体躯は伸ばされ力は強化された。
容姿も人の上に立つべく造られた。
私は。
私の容姿は。私の力は。私の知識は。私の行動は。私の意志は。
私の全ては他人から与えられた物だ。
もちろんそれらに疑問を持つような『私』は与えられていない。
私は与えられた『私』を忠実に全うし続けた。
街を与えられ。街の責任者となり。街を運営し。街を守るため闘い。街の人達を誑かし。街の為に生き続けた。
稀に与えられる街の外での任務も忠実にこなした。
私は様々な『私』を与えられて生きてきたが。
『嬉しい私』や『悲しい私』や『怒る私』や『楽しい私』は与えられることはなかった。
ただただ忠実に任務をこなし街を守り人々を愛し愛される。
それがこれまでの私であった。
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僕は。
『僕達』は産まれてすぐに何かを与えられることはなかった。
僕と同じような人間が沢山いた。
そして森へと放り込まれた。
魔物が我が物顔で闊歩する灰色の森へ。
『僕達』に知恵や知識は与えられることはなく灰色の服とナイフ一本のみが与えられただけだった。
それと唯一与えられた命令は「1週間後に迎えに来るからそれまで生き残れ。」というもの。
簡素な服に簡素な道具に簡素な命令。
それだけが僕に、『僕達』に与えられた全てだった。
最初の1時間くらいは楽しかった。
自分の好きなように行動し。食料を確保するために冒険し。ナイフで魔物を倒す想像をしていた。
他の僕と同じような人達も似たような様子で全員でまとまって行動をしていた。
1時間が経過したときに魔物を見つけた。
四つ足で歩く熊のような。のそのそと歩く魔物だった。
その一匹を全員で取り囲みナイフで倒そうと考えた。
ぼんやりと正面に立つ『僕達』を見ていたので死角に立った一人がナイフを片手に襲い掛かった。
背中にナイフを突き立てようとしたが。ナイフは刺さらず毛皮の表面をすべるだけだった。
そして背中に何かをされたと理解した熊の魔物は振り返り前足を振り回した。
ナイフを滑らせていた『僕達』はそのまま弾けて砂になった。
『僕達』は砂になる『僕達』をしばらくぼんやりとみていたが我に返った『僕達』から半狂乱になりその場を走って逃げだした。
僕はじっとその場で動かずにいたら熊の魔物は逃げ惑う『僕達』に順番にとびかかり砂へと姿を変えていった。
何とか正気を取り戻した僕は刺激しないよう熊の魔物の死角へと移動し見えなくなるくらい遠くまで逃げた。
半分ほどになった『僕達』はそれぞれ生き残るためにあらゆることをした。
なにもせずぼんやりと立ち尽くすものはすぐに砂になった。
一人でふらふらと行動したものはすぐに魔物に見つかり砂になった。
数人で固まって移動し役割を分担し拠点を作り食料を調達し生存の基盤を固めようとしたものは拠点を魔物に囲われて砂になった。
僕は。あらゆることを必死で考えた。
何をすれば危険で何をすれば襲われ何をすれば生き残ることができるかを必死で考え続けた。
3日が経つ頃には死なない手段は何とか理解できた。
5日経つ頃には出し抜く手段を理解し。
7日目には壊す手段を理解し確立した。
迎えが来る頃には僕以外の『僕達』は誰もいなくなっていた。
唯一生き残った僕にはなんと名前を与えられた。
ロウという名前でありこれは大変に名誉なことであると教えられた。
正直なところあまり興味もなかった。
そして名前を与えられた僕は教育機関へと連れられ知識を与えられることになった。
僕は生き残るためにありとあらゆる知識を頭へと放り込み詰め込み押し込んだ。
いつ捨てられいつ間引かれるかという考えから逃避するためにありとあらゆる試験を首席で合格した。
そして卒業と同時にスカラの称号を与えられ僕はスカラ・ロウを勝ち取った。
それは余りにも虚しい戦利品であった。
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「私はこのシロクロちゃんを育てることにしましたので他の二人はもう元いた世界へ帰りましたが私はこの世界へ一人残ることになりました!どうかもうしばらくよろしくお願いします!」
「…そうなのかい?メルナがその子を育てるのか…。」
「はい!立派な人に…はならなくってもいいですが。優しくて思いやりがあって…誰からも好かれるような子になってほしいです!」
「ええ。ええ。そちらのシロクロさまは大変恵まれ。大変名誉であり。大変に…幸福ですね。」
「うふふ。そうですかねえ。シロクロちゃん本人もそう思ってくれたらうれしいんですけど…。ああいえ。そういうことが話したかったわけじゃなくって…お二人にも協力してもらいたいんですよ。」
「私達が…協力を…?」
「僕達が…メルナさまに…?」
「ええ。そうです。私はお二人の事を大切な友人だと思っていますので…助けてほしいんです。」
「それはとてもうれしい申し出ではあるが…我々はそんな小さな子供を育てるどころか接した経験すらも皆無なんだよ。」
「僕もそういった経験は皆無で…。ええ。もちろんメルナさまのご命令とあればなんなりと従いますが…我々には不可能な任務であると。そう思案いたしますが…。」
「ええ?いや別に一人でこの子を育ててほしいとかそういうわけじゃなくって…私が頑張って育てるのをお手伝いしてほしいんですよ。お二人ともとっても優秀な方じゃないですか。いろんなことを教えてあげてほしいんですよ。」
「うん?メルナが一人で育てたほうが良い結果になるんじゃないかな?」
「遺憾ながら同意です。メルナさまがお育てになるのが最善であるかと愚かなる不肖も考えますが…。」
「えっと…私が一人で私の思い通りの子を育てたいわけじゃあなくって…この子にはいろんな経験そしてほしいんですよ。」
「私達が間違った経験をさせてしまうかもしれないよ?」
「ええ。なにせ僕もブランも…メルナさまが言うところの常識を知りません。」
「それでもですよ。正しいことも間違ったこともいいことも悪いこともうれしいことも大変なことも。いろんな経験をしてほしいなって思うんです。」
「それは…」
「よいのですか?」
「だってそもそも私も自分の子供を育てたことはないんですから。…私自身が正しくこの子を育てる自信もないんです。だから…みんなで育てたいんです。」
「うーむ。まあメルナがそういうなら。協力は惜しまないが…。間違っていたら教えてくれ。」
「メルナさまの為に粉骨砕身することはもはや僕の義務ではありますので。全力を尽くしますとも。ええ。愚かなる不肖全身全霊この身の全てをこの知識の全てをシロクロ様へと注ぎましょう。」
「そうですね。他にも…ブライトさんだったりいろんな人から助けてもらって…頑張っていたらほめてあげて…間違えたら慰めてあげて…たまには叱ってあげて。みんなでこの子を育てていきましょう。」
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「つーわけで。先に俺達だけ帰ってきたぜ。さすがに全員であの子供育てるために残る必要はねえだろ。」
「ああ。おかえりなさいロクスケさん。それに…ミヨさん。」
「ええ…。どうも…。」
「僕の事はまだ思い出せていませんか…?」
「いえ…知識としては思い出しています…コトさんは…すごく優しくて…私にとっても大切な人で…でも…知識と考え方がまだいまいち合致しないと言いますか…知っているのによくわからないんです…。」
「そうですか…大変ですね。えっと記憶のほうは徐々に取り戻してもらえればいいですので…ひとまずはお二人が無事に帰ってきてくれて何よりです。」
「ああ。しかし師匠を一人で残してきてもよかったのかよ。」
「ええ。それは大丈夫…というか多分もうそろそろこちらに来ますよ。」
「あぁん?そうなのか?子供育てるんじゃねえのかよ。」
「あちらとこちらでは時間の流れが違うんですよ。あ。いっていたら来ましたね…どうやら…一人ではなく二人でこちらに来たようです。」
「えっと…お久しぶりです…コトさん…ミヨさん…ロクスケさん…ああ。みんな元気そうですね。よかった。」
「メルナさんおかえりなさい…。えっとそちらの女性は…?」
「あはははははは!本当に私がいた世界とは違う世界だ!すごいなすごいな楽しいな!そろそろあっちの世界も飽きてきてたからね!いあ!すっごく楽しそうになりそう!ああ。どうもどうも初めましておはようこんにちはこんばんは!私はシロクロだよ!メルナママからはシロクロちゃんって呼ばれてるよ!どうもどうも!コトちゃんにミヨちゃんにロクスケちゃんか!今後ともよろしくね!えっへっへ!」