魔王と哀れなピエロ~後編~
「ついた!ここが白黒城だ!」
「ありがとうございます!入り口はあそこですね!」
「いきましょう!みなさん!」
「ああ。そのまま目の前に階段があるそこを登れば頂上まではすぐさ。」
「いえ。待ってください。」
「うぇあ。えぁっと…なんでしょう!」
「多分入り口はそこじゃないです。」
「…他に入り口があるということかい?」
「ええ。それを今から探します。」
「…知っているのかい?」
「いいえ。初めてきましたしこの場所の事はさっき知りました。」
「へえ。面白いじゃないか。やはり君もただ者じゃあないってことか。」
「…おっしゃっている意味が分かりませんが…。」
「いいさ。わからなくともね。今は先へと進もう。」
「そうですよ!今は何はともあれあの巨人を止めるべきです!」
ミヨさんは張り切っている。
…ブランさんはどうやらなにか思うところがあるようだ。
「ありました…ここに…えっとパスワードは…『*********』」
「あ。鍵もついてますね。私が空けます。」
これくらい単純な鍵くらいなら私でも開けられる。
「さて行きましょうか。ミヨさん。ここから先は危険な場所である可能性が高いのでみんな固まってそばから離れないようにしてね。」
「はい!私も頑張りますよぉ!」
「…私も最大限警戒するとしよう。」
扉を開けると地下へ続く階段がどこまでも続いていた。
「あ…まずは私が一人で先行して安全を確保してきます!」
階段の下に何か危険な気配を感じたので杖を構えて先行する。
…機械兵や合成獣が陣形を組んで一声に襲い掛かってきた。
ああよかった。私一人で先行しておいて。
もし他の人達がいたら巻き込んでしまっていたかもしれない。
「戻りました!進行方向安全確保されました!急いで進みましょう!」
「…ああ。危険はなかったかい?」
「はい!色々ごちゃごちゃいましたが危険なく無力化できました。」
私達は安全になった進路を進む。
途中にいくつか鍵がついた扉があったが入り口のようにとくには問題なく突破できた。
そして。歩き続けてしばらくが経った頃。沢山の機械が置かれた広い空間へ着いた。
「えっと…。ここですかね。」
思ったよりも障害なくたどり着けた。
…きっとここがこの世界を操る黒幕がいる場所なのだろう。
「…ちょっといいかい。みんな。」
「え?ブランさんどうしました?多分目的地に着きましたが。」
「ああ。そうだね。それも含めて話をさせてもらいたいんだ。」
ここにきてブランさんからの話というのは何だろうか。
「えっと…なんでしょう…。」
「話す機会をありがとう。メルナへは私が『端末』であるという話は以前にしたね。」
「ええ。そうですね。」
「『端末』があるということは。『中枢』があるということになる。」
「はあ…たしかにそう…ですかね?」
「では私にとっての『中枢』とはなにかというと…この場所なんだ。」
「…えっと。どういう意味でしょうか?」
「うーん。やはり私はこういうことは向いていないな。…メルナ。最後に一つだけ言っておこう。」
「え?最後?最後って何ですか?」
「君との旅は楽しかったよ。君のおかげで私の人生は素晴らしいものとなった。ありがとう。」
「…え?なんですか?突然。」
「それじゃあ。私は『端末』としての役割を終えるよ。中枢に変わろう。」
ブランさんは。笑っていた。
いつものニヒルな笑顔ではなく。
何か愛おしいものを見るような。
優しく。暖かい笑顔だった。
次の瞬間その笑顔はすっと消えた。
ガクンと肩を起こしたかと思うとゆらゆらと揺れて。
こちらを見て…にんまりと笑った。
「いあいあ!どうもどうも初めまして!あっはっは!私としては全く持って全然初めましてではないしここしばらくはずぅっとあなたの事を寝ても覚めても夢の中でも考えて考えて考えてたからお馴染みなじみのもはや幼馴染以上友達以上の関係なんじゃないかなって思っちゃったりもするんだけれどもね!それは結局のところ私が一方的に君たちに恋い焦がれて魂燃やして好き好き大好き超愛してるしちゃってただけの片思いだったんだけれどもね!おつかれちゃんです!長らくこの世界で私と戦ってくれて本当にありがとう!すっごくたのしかった!こんなにも私が無力だとは今まで全く思ったこともなかったし私としても打てる手は全部全身全霊全力で全方位から尽力したっていうのにここまで見るも無残に敗北できちゃうとはね!いやあ!世界は広いね!いあいあ!よく考えたらば私の世界とあなた達の世界は違うんだったっけか?まあそちらの世界の事は私はよく知らないんだから勘弁してあげてね!いやあでもそちらのメンバーやっぱりちょっと理不尽じゃない?強さだけが取り柄の端末二人を送り込んだら二人とも気づいたら無力化されちゃうし念の為にスペアとして置いといた分析と謀略が得意な端末はすぐに攫われてすぐに意図を言い当てられちゃってなおかつ戦意も敵意もめちゃくちゃにされちゃってそれじゃあ数で攻めるか!世界を相手に君たちはどう戦う!とか考えてたのに世界相手でも圧勝しちゃうんだもんね。なんなの!なんで私が大切に増やしてきた新人類達をすぐに無力化できちゃうの!びっくり!ありえないんですけど!とはおもっちゃうよね!もうこの時点でこちらも完全に戦意喪失しちゃうわけ!すっごく楽しかったけどね!もう勝ち目はないなって!だってさ!こちらが用意できる最大戦力は難なく倒されちゃうし私の白と黒もなんでか青く染められちゃうしさ!何とか布石として逃がしておいたその娘も逃げきれるはずだったのに捕まっちゃうしさ!もう最後にはどうにもならなくなっちゃったから魔王出したよ!これが本当に最後の最後うてる手段でもはや負けは決まっちゃってるからどこまで嫌がらせできるかなあって思ってたのにこれもすぐに種を見抜いちゃうし。厳重に隠して封鎖して飛び切りの護衛を用意したってのにここまで全部ほぼ素通りしてきちゃうんだもん!もはやこれで負けを認めなかったらいつ負けを認めたらいいんだって話になっちゃうよね!」
ブランさんは立て続けに話を始めた。
その表情は今まで見せたことのないような口の端を吊り上げ目尻は下がり…恍惚の表情を浮かべている。
「えっと…ブランさん?」
「いあいあ!私はブランじゃないんだよん!この体は確かにブランと呼ばれる個体ではあるんだけれども!私の事はDr.BW…んー!流石に長すぎるかな!ブライトちゃんって呼んでね!」
「ぶ…ブライトちゃん?」
「いえす!アイムブライトチャン!にゃはは!話がそれちゃったかにゃ!長々と沢山しゃべっちゃったけどさ!結局のところ私に打てる手はもう何にもないんだよ!」
「つまり…?」
「事実上の敗北宣言!降参だよ!もう絶対に勝てないってわかっちゃった!狂った頭で歪めて伸ばして曲解して何とか私は負けてない!って言い聞かせてきたんだけど!もうだめ!狂っても狂ってもどうにもならない事ってあるのね!にゃっはっは!初めての体験ができたからまあよしなのかな!」
「えっと…つまりはもう…戦う意思がないってことなんですか?」
「そうだよん!もうどうあっても私の負け!勝ったのはあなた達!ゆるぎない真実!」
「では…外のでっかい魔王たちを…止めてください!」
「ああ!そういうことね!砂でできた生き物はそこにあるボタンを押したら全部砂になって消えるよ!」
「それじゃあ…!このボタンを!」
「待って!ボタンを押すのを待って!お姉さん!」
急に。ノエルさんは私にしがみついて私の動きを止めた。
「ええ?どうしたんですか?早く巨大な魔王たちを止めないと!」
「今あの人なんて言ったか聞いてましたか?「砂でできた生き物」ですよ!?」
「ええ?だからあの巨大…な。え?まさか。」
「ブライトさんでしたか。質問です。嘘をついても私にはわかります。」
「この期に及んで嘘なんてつくもんかい!」
「では聞きますが…砂でできた生き物というのは…この世界の住人も含まれますか?」
「にゃはは!鋭いね!そうだよ!この世界にいる新人類!この体も含めた全部!全部だよ!」
「つまりは…このボタンを押せば…。」
「そうだね!全員砂になっちゃうね!もちろん一回砂になったら元には戻らない!でもでも生物はいずれみんな死ぬんだしいいんじゃないの!ダメなの!ええ!わがままだねぇ!」