クッキーとおにぎり
今私の目の前にはミヨさんと知らない人がいる。
知らない人は私に向かって…まるでミヨさんのような口調で話しかけて来た。
「ミヨさん!その人…とっても強いです!気を付けてください!」
「…ノエルちゃんは下がっていてください!わたしが…なんとかしますから。」
えっ?なにこれどういうことなの?
知らない人がミヨさんって呼ばれているしミヨさんがノエルちゃんって呼ばれてる。
「コトさん…?これなんでしょうか…?」
「えっと…間違いなくミヨさんなんですが…ミヨさんと呼ばれている方は…予想するに最初にマヨさんを攫っていったシャーロット・ノエルなんでしょうけど…」
「でも見た目が全然違いますよね??」
「なんで1人で喋っているんですかぁ!えいっ!」
「ひゃ。」
「ぎゃあ!」
「あっ…。」
そこらに落ちてた棒で殴りかかってきたのでつい咄嗟に杖で気絶させてしまった。
「ミヨさんに何をするんですか!」
「ええ?あなたがミヨさんじゃないんですか?」
「何を訳わからないことを言ってるんですか!私はノエルです!」
何が何だかわからない…ええ?何これ私どうすればいいの?
「コトさん。これ、この状況私どうすればいいんですか?」
「…すいません少し僕も考えます。」
…コトさんからの提案を待つ間とりあえず会話を試みてみよう。
「えっと…ひとまずお話ししませんか?私はこれ以上あなた達に危害を加えるつもりはないので…。」
「危害を加えるつもりがない?信じられません!どうしてミヨさんに危害を加えたばっかりでそんなことが言えるんですかぁ!」
ミヨさんには危害は加えて無いし知らない人がいきなり殴りかかって来たから反撃しただけなんだけど…なんだかこんがらがってきたな…。
「いえ…そちらから殴りかかってきましたので…仕方なく。」
「そうやって私にも乱暴するんですかぁ!」
「えっと…お互いに暴力はやめましょう。まずは話し合いをしませんか?」
「…まあ…戦いになったら絶対にあなたが勝つ訳ですからこちらとしてはそうせざるを得ません…」
まあ移動してるとは言え密室の中ですしね。
ひとまず話し合いをしようという提案は無事同意を得た。
一歩ずつ着実に歩み寄っていこう。頑張れ私。
「えっと。ノエルさん。あなたとそこにいるミヨさん…はどういう関係なんですか?」
「私達は…友達です。2人で一緒に研究施設を抜け出して…ずっと2人で逃げてきました。」
「大変だったんですねえ。ずっと2人だったんですか?」
「はい。謎の部屋で目が覚めて…そのままずっと2人で逃げてきたんです。」
よく見れば2人ともかなり汚れたボロボロの服を着ている。
…2人でずっと苦労して逃げてきたんだろうなぁ。
「えっとお二人とも体に痛いところとかお腹減ってたりとかはしないですか?」
「…あなたは研究施設からの追手じゃないんですか?」
「えっ?違いますよ。私は研究施設とはなんの関係もありません。」
「それじゃあ…なんで私達を追いかけてきたんですか?」
「えっと…信じてもらえないかも知れないけど…私はあなたの…お友達なんです。友達が急にいなくなって…追いかけても捕まらなくって…それで今やっと見つけたんです。」
「…そうやって私達の事を騙していないって保証はないでしょう?」
「…そうですね。えっと…もしお腹減ってたらでいいんですけど…これ…良かったら食べますか?」
私は荷物の中からクッキーを取り出す。
ミヨさんを見つけた時のために一通りは用意してきていたので良かった。
「…え!…んぅ…!それに…、毒やおかしな薬が入ってないってことはないですよね…?」
「ええこの通り。」
私は沢山あるうちの一枚をひょいと手に取って食べた。
「えっと…!こ、これを食べてみてください!」
「はい。こちらはおいしいチョコクッキーですね。」
疑り深いようでもう一枚食べるように言われたので私はひょいとつまんでチョコクッキーを食べた。
「うん…最悪私一人なら…えいっ。」
ノエルさん?は疑いつつもクッキーを一枚食べた。
「変な味はしないでしょう?なにもおかしなものは入ってないですよ。」
黙ったままクッキーを咀嚼している…そしてゆっくりと飲み込んで…次から次にと食べ始めた。
「ああ。そんなに急いで食べたら…。」
「けほっ。ごほっ。」
「ああ。むせちゃった。」
私は急いで背負った荷物から水筒を取り出し中の水を手渡す。
「んっ。」
彼女は慌ててその水筒を受け取り水をごくごくと飲み始めた。
そして…。相当に張り詰めていたのか彼女はそのまま涙を流し始めた…。
「…おいしい…。」
よく考えればずっと逃げ通しだったはずだ。
周り全部が敵に見えていただろう。
きっと食事も水分もろくにとっていなかったんだろう。
「沢山あるのでいくらでも食べてください…。」
「…でも。ミヨさんにも食べさせてあげないと…。」
「そっかそれもそうですね。…クッキー以外にもおにぎりとかもありますが…。」
「え…?…もうどちらにしても食べちゃったから…食べます…。」
「はい。じゃあこちらどうぞ。水もおかわりありますからね。」
ひとまずクッキーで少し落ち着いたのか、おにぎりはゆっくりとよく噛んで食べ始めた。
「えっと…それじゃあひとまず…そちらの彼女を起こしますか…?」
「…そうですね。私が起こします。」
「はいどうぞ。起きたらあなたから食事や水も渡してあげてください。」
「…わかりました。」
「ねえ。ミヨさん。起きて…起きてください。美味しい食べ物と飲み物がありますよ。」
「…むにゃ。」
「あっ。目が覚めましたか。私が誰かわかりますか?」
「えっと…ノエルさん…?あっ!あの恐ろしい女は!」
恐ろしい女とは…私の事か…?いや違うはず。私は小柄でかわいらしい(ミフネさん談)女の子のはず。
「…どこまで信じていいかはわかりませんが…今のところ私達に危害を加えるつもりはないみたいです。」
気を失っていたミヨさん?はきょろきょろと周りを見渡しこちらを見つけるとキャッと悲鳴を上げた。
「…えっと。怖くないですよ。そちらから何もしてこなければ少なくとも危害を加えることはありません。」
「…本当ですか?そうやって油断させる作戦なんじゃないですか…?」
二人とも疑り深いなあ…。
まあでも話を聞いてくれるようになっただけでも前進だ。
「ミヨさん…多分あの人なら私たちくらい油断させなくても力ずくで捕まえられると思う…それをしないっていうことは…少なくとも話を聞いてあげてもいいと思う…。」
「ノエルさん…本当に大丈夫なんでしょうか…?」
「ミヨさん…あの人から食事と水をもらったんです…。私も食べましたが…今のところ体調に問題はありません…。」
「え…でも。」
「それにあの人ならもし殺したり眠らせたりしたいなら食べ物に混ぜるよりも…直接殴ったほうが早いと思うので…。」
「うぅん…。それは確かにそうですね…。」
嫌な納得のされ方だなあ。
まあでもひとまず私が渡した食べ物を食べてくれるのならばそれが最優先だ。
お腹が減っているとどうしても気が立ちやすくなっちゃうしね。
「これが…見た目はおいしそうですが…。」
「私も食べたけど問題なかったって。」
「それじゃあ…」
そういってクッキーやおにぎりをのどに詰まらせながら。それを水で流しながら。ゆっくりと食べ始めた。
二人ともとてもお腹が減っていたようで私が渡した分はすぐになくなってしまった。
二人が残念そうな顔をしていたので私は残っていた分も出して手渡してあげる。
沢山持ってきておいて本当に良かった。
「…そろそろお腹いっぱいになりましたか…?」
「…はい。…ごちそうさまでした。」
「お腹いっぱいになったみたいでよかったです。それでは…聞きたいことがあるんですけど…お二人に質問してもいいですか?」
「…ええ。答えるかどうかはわかりませんが…。」
「はい。答えたくないことに関しては答えなくとも大丈夫です。」
お腹がいっぱいになったところで会話を再開しよう。
「ではまず…もしかしてなんですけど…お二人ともここ最近以前の記憶を失ってはいませんか?」
「えっ」
「あ…」
二人のハッとした反応を見るに…どうやら…正解のようだ…。
うーん困ったことになったなあ。