役立たずの魔王と昼行燈
私は思わず目の前の砂に手を伸ばした。
これが一体なんなのか、それさえ理解出来なかったけど何故か手を伸ばさないといけない気がして。
砂に手を触れると。
砂はなめらかですべらかで手に握りしめようとしてもサラサラと手からこぼれ落ちて手に何も残らないほどサラサラだった。
その後私はどれくらいの間かわからないくらいそのまま砂をかき集めていた。
でもその度に手からこぼれ落ちていくので何度も何度もかき集めていた。
「おい!師匠!あいつら全員砂になっちまった!ルミナスは…。」
「ロクスケさん…。この…この砂…ああ…あああ…やっぱり…。」
「…ルミナスも砂になっちまったのか…。」
「…そうなんですかね。カレーを…二人で食べてたんですよ…ルミナスさんは美味しいって…喜んで食べてくれていて…私…ルミナスさんに…いつか…みんなのご飯を作ってもらおうと思ってて…。」
「…そうか。とりあえず俺はスカラを呼んでくる…。」
そう言うとロクスケさんはどこかへ行ってしまった。
なんでスカラさんを呼ぶんだろう。
この砂は…いったい何なんだろう…。
「メルナさま。…ああ。ルミナスも寿命がきてしまったのですね。メルナさま。メルナさまはこの世界のことを詳しくご存知でないとの事ですので愚かなる不肖が解説させていただきます。」
解説してくれるらしい。何をだろうか。
「そちらの砂は死者の砂と言い僕やブランのような新人類は寿命が来たときにそのような形で死を迎えます。」
スカラさんが何を話しているのか。よくわからない。
「ルミナスは…きっと寿命が短く設定された新人類だったのでしょう。」
寿命が設定される?何を言っているんだろうか。
「そうなってしまった人を弔う…儀式があるのですが。ルミナスの為にもその砂を弔ってよかったでしょうか。」
「あの…。ルミナスさんは…死んでしまったということなんでしょうか…。」
「はい…。心中お察ししますが…そのようです。」
ルミナスさんは。どうやら死んでしまったらしい。どうしてだろう。
その後のルミナスさんだった砂はスカラさんが丁寧に運んで行ってくれた。
専用の器具があるらしく少し豪華な見た目の箱と箒で砂と衣服を回収していった。
どうやら白の街で救助した人達は全員砂になってしまったらしい。
スカラさんは手際よく儀式の準備をしてくれたので私はあれよあれよといわれるままに椅子に座らされていた。
儀式を取りまとめてくれるちょっと豪華な服を着た人が「死者の砂になるのは大変名誉なことで」とか「死者がいなくなってしまったことを前向きにとらえましょう。」とよくわからないことを解説していた。
そして死者の砂が入った箱は別の場所へと運ばれ私達はそれについていく形で会場を移した。
「時間があれば像などにする場合もあるのですが今回はひとまず一般的な箱型でお願いをしました、」
スカラさんが解説をしてくれるがよくわからない。
私が呆然としている内に儀式は終わっていた。
そしてそこにはルミナスさんの名前が彫られた石が置いてあった。
「これは…。」
「ええ。それはルミナスさまが残された死者の砂を加工して作られた白の石です。」
スカラさんはこの石はルミナスさんから作られた石だと教えてくれた。
でも私にはその白くて綺麗な石がルミナスさんだとは思えなかった。
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師匠が完全に使い物にならなくなった。
いや、『魔王』の力は無くなったわけじゃねえからそれを頼りにした支配はまだまだ有効なんだが。
街に攻めてって道中の道を間違えたり大将首取ろうって時に何にもないところですっ転んだり立ってる時も妙にふらふらしてたりしてるらしい。
大丈夫かって聞いても「大丈夫です。私頑張ります。」としか言わねえしかなり厄介だ。
原因はルミナスの事を引きずってるんだろうなってのは誰が見てもわかる。
本人は平気なふりをできてると思ってるらしい。
師匠は「私千年生きてるので経験豊富ですから!」みたいな面してる癖に他人の死や別れにあまりにも耐性がない。
…まあ、ここまで師匠に頼り切りだったからな。
こういう時は俺がなんとかしてやんねえといけねえわな。
「おい。師匠はしばらく拠点に閉じ込めとけ。」
「お前はいったい何を言っているんだ?メルナさまは大丈夫だとおっしゃっていただろう?この作戦はメルナさま抜きでは成り立たない。メルナさまの友人を助けたいんじゃないのか?」
「あれが大丈夫なわけねえだろ。スカラは頭いいようで結構阿呆だな。下手にあいつを戦わせてたらどっかで怪我するかぶっ倒れるぞ。しばらくしたら多少マシになると思うからしばらく休ませとけ。代わりに俺が出る。」
「お前にメルナさまの代わりが務まるわけがないだろう。全く思い上がりも甚だしい。」
「なにもあいつの支配を使うなってわけじゃねえよ。顔合わせるくらいは出来るだろうよ。最近はあいつらとの戦争も増えてきたろ。その辺は全部俺が出る。」
「…お前にまで死なれてはメルナさまは完全に立ち直れなくなるだろう。僕はメルナさまに敵対できない。下手な策は立てられない。」
「だったら上手に俺が死なねえように作戦を立てろよ。得意なんだろ?」
「…くそが。無理だと判断したらすぐにお前を作戦から排除するからな。」
…こいつの口振りはむかつくがまあこんなもんだろ。
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おっかしいなあ!どーぅしたんだろーぉね!
せっかく楽しくなってシビアなスケジュールに咽び泣いてたっていうのになんか侵攻してくるのがかなーりゆっくりになっちゃった!
計画狂っちゃうじゃん!いあいあ!よく考えたら狂うのは何を隠そう大好きだしまあいっか!!
狂い狂いてずんずん進めー!
あっちがあーくるならこっちのあれは一旦あれしてそれはこーなるからこれをこーしてあーして!
にゃっはっは!我が計画に狂いなし!いあいあ!我が計画の狂いに狂いなし!
さーてさてさて!どーしよっかな!選択肢増えちゃった!色々できちゃうな!
それじゃあそうだね!とりあえず間に合いそうになかったこれをなんとか間に合わせちゃうかな!
なんでこんなにも予想外ってのはおもしろーいんだろね!
こっちが予想を立てても全部外してきちゃう!ねるねるねるねるねるねるねる!
それじゃあこっちも予想を外されるのを予想した方がいいのかなかな!でもどうせその予想も外れちゃうか!
変わらないなら計画に変更なし!
予想外の対策に必要なのは予想外でも対応できる計画を立てる事なのさ!私って賢い!
さーてさーてどんどん進めてどんどん壊してこー!
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「コトさん元気ですか。私は今拠点の一室に閉じ込められています。やる事がないので皆さんの料理が日に日に豪華になっていってます。もう私は平気ですのでロクスケさんに私を働かせてくれるように言ってやってください。あの人酷いんですよ。私の事をまるで役立たずみたいな目で見るんです。全く許しがたい人間ですよね。普段私の事を師匠師匠って呼ぶ癖に全然敬意なんて感じませんよ。ねえ聞いてますかコトさん。ちゃんとロクスケさんに言ってあげてくださいね。よろしくお願いしますよ。」
メルナさんは立て続けに僕に話しかけている。
うーむ…。
「…えっと僕にはそちらの詳しい状況はわからないので判断はロクスケさんに任せようと思ってますが…。」
そう言うとメルナさんは極めて心外だと言うような目でこちらを見ながらずっとこちらに話しかけてきていた。
…まあ話し相手になって少しでも気が晴れるなら気が済むまで話を聞いてあげる事にしよう。