魔王が生まれた日 ~中編~
なんだか騙されたんじゃないかって気がしてきた。
私が今何をしているかというと石斧を使って木を切っている。
神様として人類を誕生させる前に最低限自分が生きていくための拠点やら食料やらを確保してからがいいかなと判断したのだ。
ひとまず水源を確保して住む場所は確保してある。
ただ洞穴に住んでいては神様としての威厳もくそもあったもんじゃないので最低限神様が住んでてもおかしくはない建物を建てることにしたのだ。
丈夫で見た目も立派な建物を作ろうと思ったら本来ならば石を加工するのが一番いいのだがここには金属の道具もないし何より時間がかかりすぎるので手軽に作るならばやっぱり木で作るのが一番だ。
だいたい同じくらいの太さの木を探して切り倒していきある程度たまったら枝を落として丸太に加工する。
切り落とした枝などは並行して作っておいたかまどの燃料に使う。
かまどは粘土を捏ねて簡単なものは作った。
ゆくゆくは金属の加工ができるタイプの物も作っていかないといけないなあ。
丸太の量産に飽きてきたら狩りに出かける。
狩りといっても主目的は木の実や果物の採集、そして栽培できる植物などを探す目的の探索だ。
森や川に仕掛けた罠には毎回それなりに獲物がかかっているのでわざわざ必死に探し回ることもないがたまに大きな獲物をみつけた時には確保して干し肉を作ったりもする。
…あっちで食べたご飯美味しかったよなぁ。
こっちでも再現できるように頑張ろうっと。
そんなこんなで3日経ち何とか家は形になった。
昨日完成した金属製のナイフと斧があったので途中からは作業がかなり楽になったしそれなりにちゃんとした家になった。
ガラスの加工もできそうだが材料になりそうな砂がなかったので今後に回そう。
食料もある程度保存食として加工できたし、コトさんの言う「周囲の安全が確保出来たら」という条件は満たしていると思う。
確か耳に付けてあるこの石を手で触りながら軽く力を籠めたら…
「あっ!つながった!メルナさん大丈夫ですか?」
「はい!コトさんに言われた通り周囲の安全を確保していました!」
ふふん…。言われたことはしっかりとこなす、私は優秀ですからね!
「それなりにしっかりと作った拠点と数日間は過ごせる食料は用意できたので連絡しましたよ!」
さあ!どうだ!やってやったぞ!褒めてもいいんですよ!と胸を張って返事を待っていたが
「…………………えぇ………?」
なんかドン引きされた…なぜだ…。
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メルナさんはやる気になってくれていたのでとんとん拍子に話を進めたのがよくなかったのかもしれない。
新世界へ送ってから説明をすればいいと考えて転送直前に
「向こうに着いて、ある程度周囲の安全を確保出来たら耳に付けた石を使って連絡してください。」
と確かに僕は言った。
言ったがそれは着いてすぐ周りにモンスターがいるとかの危険がなければすぐに連絡してくださいというつもりであって。
まさか3日かけて家を作り食料を確保してから連絡してくるとは思わなかった。
というかなんで3日で何もないところからこのクオリティの家を作れるのか不思議でならない。
いや、厳密には連絡がないのはおかしいと思って転送してからすぐにこちらの様子は見ていたので手順はわかるのだが。
木を素手でへし折り石を打ち付けて加工し蔦のような植物を使って石斧を作りその石斧で木をものすごい勢いでなぎ倒し始めた時は驚愕と感心しかなかった。
この3日間を観測していたが大変見応えのある作業風景で正直面白かったのは内緒にしておこう。
それよりも驚いたのは
「メルナさんはこちらの話が聞こえていなかったので自分が生き残るためにしかたなくサバイバルを始めたのだ」
と思っていたら
「ちゃんとこちらの話は全部聞こえていてその上で生活拠点を作っていた」
ということが判明したので…なんというか言葉が出なかった…。
そんなもし僕が身一つで行ったら半年はかかるであろう過酷なミッションを要求をしていると思っていたのか…いや過酷だという自覚すらなさそうなのが逆に怖い。
とりあえず誤解を解いた方がいいのかな…?いやまあこのままメルナさんがやりたいようにさせればいいのかな…?
と考えていたのだが画面の向こうのメルナさんは
「褒めてくれると思ったのに何故ドン引きされないといけないのだ」と顔に書いてあったのでひとまず役割分担ということでミヨさんに交代しつつ説明してもらうことにした。
「ではミヨさんここから説明をお願いします。」
「交代しました!ミヨさんです!メルナさんすごいすごいすごいすごい!」
「斧って手作りできるものなんですね!すっごくてきぱきと斧は作られるし木はすごい勢いで切り倒されるしその木を使ってどんどん家はできていくしすごくびっくりです!」
そこからしばらく興奮したミヨさんが独特な語彙でメルナさんを褒め続けてメルナさんから蒸気が吹き出し爆発するんじゃないかと思ったあたりでミヨさんからの説明が始まった。
「では前に渡してあった『創造端末』を取り出してください。耳の石を触りながら『創造端末』と言えば出てきますよー。端末の横にあるスイッチを押すと画面が光るのでその中にある人が笑っているアイコンをタップしてみてください!」
「そ、そーぞーたんまつ…!ふぉお…すいっちおして…たっぷ…!」
苦戦しているようだ。
まあメルナさんの世界はそこまで高度な文明レベルはなかった。
そもそも魔法がある世界では科学は発展が遅れるのだろう。
これまでそれなりに沢山の世界を作ってきたが魔法がある世界では例外なく科学は発展しなかった。
ならば魔法を全く使えない世界を作ってみたこともあり魔法がある国と比べたらある程度は機械やからくり人形などが作られる世界もあったが結局僕がいた世界ほどの科学の発展をした事は今まで一度もなく思い通りにならないものだと歯噛みしたものだ。
思えば遠くきたものだなぁとしみじみしていたらどうやらミヨさんによるレクチャーも済んだようだった。
メルナさんの周りにはいくつか卵が設置されていた。
「大きな卵ですねえ…本当にこの中に人間が入っているんですか…?」
「はい!ここは森なのでエルフの里にしましょう!あと数日もすればエルフさんが生まれてくるはずなので神様としていろんな事を教えてあげてください!」
始まりの卵から生まれてくる人間はある程度成長して生まれてくる。
自我は薄くこちらが教えた事をどんどん吸収して出来るようになる為ある程度生活できる事を確認したら放置していてもよっぽどのことがない限りは生きていける。
「神様…そうかわたし神様なんですよねぇ…」
「そうですよ!神様は民を教え導くものです!」
「まずは食べ物をどうやって取るのかを教えてあげないといけないですね…!後は家の作り方とか道具の作り方とか…!ふふふ忙しくなりますね…!」
「メルナさん神様らしくなってきましたねぇ…!ここの集落がある程度落ち着いたら他の場所にもいろんな種族の集落を作っていきましょう!たくさん村ができるので楽しみですね!」
「ミヨさん!わたし!がんばりますよ!」
「その意気です!メルナさんならできますよぅ!」
どうやら話もまとまったようでよかったあと少し話をしたら通信を終わりにしよう。
「メルナさん、それでは最後に僕からいくつか注意事項というか話しておくことがあるので聞いてもらってもいいですか?」
「はい!がんばりますよ!わたしは!」
「やる気十分で何よりですでは3つだけ」
「ではまず一つ目」
「始まりの卵をつかって人を増やすのは最初だけにしておいてください。各集落でそれぞれ10人ずつくらいにしておいてください。」
「それは…」
少し考え込むとメルナさんはすぐに答えを出した。
「魔力を消費しすぎてしまうからですか?」
「そうです。さすがはメルナさん。察しがいいですね。」
「いえいえ〜そんなことないですよぅ〜!」
「では続いて二つ目」
「その創造端末を使えばある程度自由に色々な物を作れますがそれをこの世界の人達にみられないようにしてください。」
「え?そんなに色々つくれるんですかこれ?」
そうなんですよ。
「…そうですね…生物以外なら大抵は少ない魔力消費でなんでも作れますね…。」
「たとえば…石斧とか?」
やっぱり気付かれましたか…。
「金属製の斧でも余裕ですね…」
「家なんかも…?」
「大きさにもよりますが4〜5人で住む家くらいなら複数作っても問題ないですね…」
「えー…えぇ…?」
「では最後に三つ目」
「人をあまり助けすぎないでください」
「メルナさんは色々なことができるし優しい人なのでいろんな事をやって助けてあげようとすると思うのですが」
「人間たちが自分自身の力でいろいろなことができるようになるのを見守ってあげてください」
「もちろん色々なことのお手本を見せてあげたり困っているのを助けてあげることも大切です」
「ただし自分たちで考えることをやめてしまえば人は成長できません。」
「神様は教え導く。しかし万能ではないし願いをすべて叶える存在でもないのです。」
「なるほど…。難しいですね…。」
「そうですね。大変なことです。」
「私にできますかね…?」
「そう思ったからこそ僕もミヨさんもメルナさんにお任せしているんですよ」
「…そうでしたね…!」
これであとは任せても大丈夫そうだ。
「では何かあったらまたその耳についている通信端末を使って連絡してください」
「わかりました…でもできるだけ…一人で頑張ってみようと思います…!」
「そうですね。その意気です。」
「ミヨさんも応援しています!メルナさんならできますよ!」
「はい!お二人に選んでもらえたわたしなので!きっと大丈夫!」
そう。この人は優秀な人なのできっと立派に成し遂げられるだろう。
「じゃあいい報告をお待ちしてますね!」
「はい!がんばります!またいい報告を頑張りますよ!」
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さあ。ここから私の神様としての仕事が始まる…!