青と砂
いやあ!まさか真っ向から喧嘩を買ってくれるとは夢にも思わなかったよね!
うふふふ!そもそもが私が一方的に神の奴に喧嘩を売ってやるつもりだったんだけどね!
でもでもそれだって本当に相手が神様なのかなって思いながらだったけど!
全力で叩き潰そうとしたらむしろ全力でこちらを潰しにかかってきている!
こんな風に強い力で抵抗されるっていうのもあまりにも久しぶりの出来事だから私戸惑っちゃう!
えっへっへ!戸惑う私なのだけれどこんなにも胸躍っちゃってる!
だってだってだって!つまんないものばっかりのこの世界でこんなにも私の予想を裏切ってくれるなんて!
ありえないでしょう?そうありえないんだよ!
神様を叩き潰そうっていう私もとってもありえないけど逆に私のこの遊び場をここまでめちゃくちゃにできるなんて!
えっへっへ!ありえないでしょ!
さぁてさてさてこれからどうしようかとは思うけどね!難しいよね!
だって私が有利な部分はあの小さな女の子一人なんだもん!
いやあねえ!私が圧倒的に有利だったはずなんだけど!
気が付いたらもうどうすることもできないんじゃないかって気すらするほど私!追い詰められちゃってるぅ!
でもでもでもでも!どこまで行っても全力で最後までやれることは全部やるっていうのがきっと大事なのさ!
そう!打てる手は全部打つ!勝つためだったら何でもしてやる!
あっはっは!だって!相手が神様なら何をしてもいいんでしょう?
そうだよね!何でもしてやるって態度じゃないとむしろ相手に失礼!
相手は神様なんだからこっちがやるべきことをやらなかったらそれこそ天罰を落とされても文句は言えぬ!
そうだね!方針は決まった!
何だってやってやりますとも!えっへっへ!
ああ!だめだだめだだめだ!
楽しすぎるぅ!!
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私達第3勢力の計画はかなり順調に進んでいる。
スカラさんとブランさんの二人が協力的になってくれたことがかなり大きい。
最初に制圧した白の街からブランさんが住んでいた黒の街までひとまずまっすぐ制圧していったのだが…。
何一つ苦労することなく順番に、まるで木を順番に切り倒すように私達は白の勢力の街を支配下に加えていった。
「青の街の領域どんどん増えて行っております。ああ。さすがはメルナさまです。ここまで順調に事が進んでいるのは紛れもなくメルナさまのお力です。このままのペースで行けばあと1か月も経てば大陸全土が青の街になります。」
そう。いつの間にか青の街と呼ばれるようになった私達の支配する街は順調に支配域を増やしていっている。
「ふふふ。まさかここまで順調に行くとはね。ああいや。誤解を招く言い方をしたね。失礼した。そうさ。青の街ならばこれくらい当然だとも。何せメルナは世界を支配するがために…ああ。世界征服をするために生まれてきたような存在だからね。」
いや。何故かわざわざ言い直したが今は変わってはいないし私は断じてそのようなことの為に生まれてきたわけではない。
私は…みんなでおいしいご飯を食べておいしいねと笑いあうために生まれてきたのだ。きっと。多分。
「あっはっは。まぁ俺としてはこの侵略の速さに若干ドン引きしてるけどな!…ただ師匠のすごさもあるがお前ら2人は協力してくれるとなると本当に優秀なんだな。」
「そうですよね!この快進撃はスカラさんとブランさんの二人があまりにも優秀すぎるが故の…」
「いや間違いなく一番の功労者は師匠だろ。」
「…ぐぅ。」
…最近なんだかずっと「どうしてこうなってしまったんだろう」と考えてしまう。
考えたところで答えが出るわけでもないのだけど。
いや…手段を選ばないと決めたのは私なのだから仕方ないんだけど…。
それでも…「どうしてこうなった」と言わざるを得ない状況が続いている。
スカラさんとブランさんが協力してくれることになり二人とも積極的に手伝ってくれるようになったのだが…。
スカラさんは研究と解析に関してあまりにも優秀で私の固有の特性をうまく利用して大変効率のいい侵略を考えてくれる。
ブランさんは持ち前のカリスマと知名度と指揮能力をうまく使い侵略後の住民たちをうまくまとめて無駄なく作戦に組み込んでいる。
最早私なんかは何を考えることもなくスカラさんの指示に従って侵略を行い集まってきた住民達の処遇はほとんどブランさんに丸投げしている。
ちなみにロクスケさんは特に何もしてない。ただ偉そうに笑いながらふんぞり返っているだけだ。
一度「ロクスケさんも何か手伝ったらどうですか?」と聞いてみたが「これだけ効率よくやってるところに俺一人割り込んでも邪魔になるだけだろ。」と一蹴された。
まあスカラさんとブランさんがまた裏切らないように目を光らせてはいてくれるんだろうけど…まああの二人がまた裏切ってしまったら大切な仕事を任せている以上大変なことになってしまうのでロクスケさんも重要な仕事を頑張ってくれていると言えなくもない。
…まあロクスケさんはいざという時には結構頼りになると思うので今は活躍の時じゃないのだろう。
そういえばロクスケさんみたいな人をコトさんの故郷ではヒルアンドンというらしい。
存分に心の中でロクスケさんを乏し心の安定を図ったところで今日も元気にこの世界を侵略し続けていく。
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計画は順調!頑張って考えた甲斐があるね!
表の街はどんどん侵略されていっちゃってるけどまあコラテラルダメージって奴よね!割り切り大事!
うふふ!あちらもあちらで頑張ってくれてるからこちらもこちらで頑張らないといけないね!
あーあーあーあーあー!ひっさしぶりにこんなに楽しいなあ!
いあいあ!むしろこんなに楽しいのは生まれて初めてかもしんない!
脳汁沢山出ちゃうわね!えっへっへ!
結局のところ手札をどう使うかの勝負になるんだけどあちら様どんどん私の手札奪ってくるからね!
卑怯よ卑怯!と叫びたいけど私だってまあ似たようなことを続けてきたんだし文句は言えないよねえ!
あれをああしてこれをそうしてとパズルをくみ上げるように計画を練っていく!
こうやって作業に没頭しているときがいっちばん楽しいよねえ!
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私とルミナスさんは私達が拠点として設定した施設の一室で向かい合って座っている。
「なんで…メルナおねーさん達は青の街をどんどん広げているんですかぁ?」
ルミナスさんは私が作ったカレーを食べながら無邪気に私に尋ねてくる。
「そうですねえ。私も本当はやりたくてやっているわけじゃあないんですけどねえ。」
私も口の中に残っていたカレーを飲み込んでから答える。
今日のカレーは色んな果実を使って作ったフルーツカレーだ。
フルーツカレーは濃厚でコクが出るし子供でも食べられる優しい味になる。
「本当は私の友達を助けられたらそれでいいんですけど…。私が追いかけても捕まえられないんですよねえ。」
お肉は大きめに切ってあるし煮込む前に油でいためてあるのでかぶりつくととってもジューシーでおいしい。
「そうなんですかぁ。おねーさん足も速いしなんでもできるのにそんなおねーさんでも捕まえられないんですねえ。」
野菜はしっかりと煮込んであるので味はしっかりしみ込んでいるし溶けた部分もある。
「そうなんですよー。場所はわかってもよくわからない手段で逃げられちゃうので…多分全部取り押さえてからじゃないと難しいんですよねえ。」
「そうなんですかぁ。」
ルミナスさんは野菜もお肉もバランスよく食べている。
さっきはお肉を美味しそうに頬張ってニコニコしていたので多分お肉が好きなのだろう。
「それに…ルミナスさん達みたいに辛い思いをしている人たちがいるならやめさせてあげたいですからねえ。あれから結構いろんな街でそういうことがありましたから…。」
「メルナおねーさんは自分のやりたいことをやりながら他の人達も助けちゃうからすごいですよねぇ。私も大きくなったらメルナおねーさんみたいに沢山の人を助けられる立派な人になりたいです。」
ルミナスさんは本当にいい子だ。
私が作る料理も全部美味しいと言って食べてくれるし。
自分が助かったからそれでよしとはしないで他のいろんな人たちを救出している私たちのお手伝いを頑張ってしてくれている。
今日もみんなのためのご飯を作って配るのを手伝ってくれていた。
今は全員に配り終えたので二人でご飯を食べているところだ。
「それにしても…おねーさんの作る食事は本当においしくて…まるで魔法みたいです。」
「ふふふ。そういってもらえるならもうちょっと頑張ってみましょうかね。」
「あっ。でも…そうですね。一人で全部作るのは大変ですよね…。私も任せてもらえるように頑張らなきゃですね!」
「そうなんですよねえ。他の人にも手伝ってもらえるように…何か考えたほうがいいのかなあとは思っているんですけど…。」
この現世の調理技術はあまり発展していない。
私が当たり前に作った料理はこの現世の人達にとってかなり特別なものであり私以外に調理を任せるにはまだ不安がある。
ルミナスさんは頑張ってくれているが…まだ少し難しそうだ。
「ふぅ。美味しかったぁ。…ごちそうさまでした!」
「はい。おかわりまだ少しありますが大丈夫でしたか?」
「はい!もうお腹いっぱいです!食器を片付けますね!」
そう言うとルミナスさんはお皿とスプーンを持ってとてとてと食器を片付ける為にキッチンへと入っていった。
ルミナスさんも色々と考えてくれているなあ。
…ミヨさんとやっぱり似ているのか優しくて可愛くて…周りの為に一生懸命だ。
この現世での目的を果たした後は…どうするんだろうか。
周りの人達の為に頑張るんだろうか。
私達がいなくなったとして…いやいっその事隔世に誘ってしまってもいいのかもしれない。
…流石にそれは軽率かなあ。
ああそうなるとミヨさんとミヨさんそっくりなルミナスさんが2人いる事になってしまうのか。
どちらにしてもコトさんやルミナスさんだったりと相談して決めないといけないなあ。
ガシャン
ぼんやりと先のことについて考えているとルミナスさんが入っていったキッチンから物音が聞こえた。
何かあったのかなあとキッチンを覗いてみたら。
そこには洗いかけのお皿とルミナスさんが身に付けていたのと同じ服と大量の砂がさらさらとあるだけで、ルミナスさんの姿はそこになかった。