文明と神
「ただ今戻りましたー。」
私はスカラさんとブランさんの2人を両肩に担いで研究施設に帰ってきた。
「まだ出てってから10分も経ってねぇんだけど…」
「いやあ、場所さえ分かればすぐですよ。」
「街の外で確か結構遠いんじゃなかったか?」
「ふふふ。お二人にできるだけ早く会いたくてちょっとだけ急いじゃいました。」
2人とも両手両足を拘束したらすぐに大人しくなったから運ぶのも楽だったしね。
「意識はあるのか?」
ロクスケさんが声をかけるとスカラさんはもぞもぞと動き出して答えた。
「ええ。ええ。ございますとも。メルナさまはお優しい方ですしこちらが抵抗しないと分かれば扱いは大変に丁寧でしたから。」
「おお。元気そうだな。逃げようとは思わなかったのかよ。」
「ふふふ。街からそれなりに距離をとったつもりだったのにありえない速度で真っ直ぐにこちらへ向かってくるメルナを相手にどう逃げろって言うんだい?戦闘したとしても敵わないのは流石にもう理解しているしね。」
ブランさんもなぜかうれしそうな様子で答えている。
「まあそりゃそうか。逃げようとして無駄に痛い思いするよりよっぽどマシだわな。」
「ええ。まさしくその通りです。」
「それに、やっぱりメルナを目の前にするとどうにも抗えないからね。」
「なるほどな。今でも師匠には抗えないのか。」
「ああそうさ。メルナにはね。」
「なるほど。師匠に敵対する態度は取れねえって事だな。」
「…ええ。そうなりますね。」
「つまり俺とは敵対できるってことになるもんな。よくもまあ屁理屈こねくり回したもんだ。」
「ああ。もう観念したよ。どちらにしてもあの一回で逃げきれなかったんだ私達の完敗だよ。」
「殊勝なこった。まあお前らが油断ならねえことはわかったよ。」
「だからこそやっておかなければやらないことがある…ってことですね。」
「まあそれじゃあ。一応やっとくか…。師匠。頼んだ。」
そう。これはきっと必要なことなのだろう。
「スカラさん。ブランさん。お二人に大事な話がありますので…嘘偽りなく答えてください。私は…あなた達と敵対したくはありません。」
「ええ。わかりましたとも。」
「あぁ。了解したともさ。」
「今後…ロクスケさんへの個人的なものであっても私達への敵対はイコールで私との敵対になります。いいですか?2人とも。」
「ええ。不本意ながら。その…ロクスケさまとも仲良くしますとも。」
「ああ。ロクスケとも仲良くするよ。なあにもともと彼とは親友さ。」
「今後私達への誤魔化しや事実の隠蔽はたとえそれが恣意的なものであったとしても私への敵対とみなします。いいですね?」
「ええ。メルナさんやロクスケさん…それ以外にもメルナさまの仲間に対して嘘や誤魔化しはいたしません。」
「ああ。私もだ。君たちへの嘘や誤魔化しをしたときはそれは君たちへの敵対をした時だけだ。」
「今後私達の情報をどなたかに教える事を私は許可しません。誰かに私達の情報を無許可で教えた場合も私への敵対とみなします。」
「今後私達は仲間です。これから先私に許可なく居なくなっちゃったら寂しいので…私への敵対とみなします。いいですね。」
「…ええ。わかりました。決して許可なく居なくなりません。」
「ああ。これからはずっと一緒ってことでいいのかい?」
「ふふふ。そうですね。これからどこかに行っちゃう時は私へ許可を取ってください。」
「承知しました。ではこのスカラ今後ともメルナさまのお隣に。」
「ああ。我々も仲間に加えてくれたようで何よりだよ。」
「ということで。私たちは今からお二人に大切な秘密をお話しします。」
「ほう。いきなり信用してくれるじゃないか。」
「信用してくださるということは大変にありがたいのですが本当にいいのですか?」
「いえいえ。信用しているしていないではなくこれを話すことで今後色々な話を他人にできないように…という配慮と…ある種の脅迫ですね。」
「なるほど。それは恐ろしい話ですね。愚かなる不肖心して拝聴しましょう。」
「脅迫か。内容にもよるが…どんな恐ろしい話を聞けるんだろうね。」
「私達…私とロクスケさんとミヨさんは…俗にいう神様という存在です。」
「ええ。そうですね。」
「ああ。続けてくれ。」
…え?
「どうしたんだい?かわいい口をあんぐりと開けて…ああ。もしかして私達がそれを把握していないと思っていたのかい?ふふふ。かわいらしいね。」
「えええ?お二人とも…いつ私達が神様だって知ったんですか?ええ?なんで?」
「そうですね。愚かなる不肖が愚かにも解説させていただくとすれば…順番が逆ですね。」
「メルナさまが神様であると知ったわけではなく。我々は神を殺すために…集められあの場所でお待ちしていたのです。」
「そう。神であることをいつ知ったのかといわれればあえて言うならば生まれてすぐにあなたという神がいることを知りました。」
「そしてあなた達神を殺すためだけに色々な人間が育てられたのです。」
「そう。それが僕たち『端末』なのですよ。」
「神を殺す為だけに生まれ神を殺す為だけに育てられ神を殺す為だけに生かされているのです。」
「しかしその存在理由もいまや完膚なきまでに打ち砕かれてしまっているのですけどね。」
「ええ。ええ。あまりにも滑稽でしょうとも。神を殺す為だけに存在する我々がいまや神であるメルナさまとロクスケさまに対して完全敗北し絶対服従を誓っているのです。」
「あまつさえ仲間という対等な立場を与えられてしまいました。これが滑稽でなければ何が滑稽なのでしょうと言わんばかりでございます。」
「そして存在理由を完膚なきまでに奪われその空いた心の中に新たな存在理由を捻じ込まれ。我々は歓喜してしまっているのです。」
「ええ。ええ。これは最早歓喜という言葉では足りぬほどです。狂喜といってもよいでしょう。」
「そしてこの喜びに魂を焼かれてしまった我々にできる事といいましたら服従することしかありません。」
「まあ大体私としても同意さ。スカラのように気色悪く長々と話すつもりはないけれどね。」
「そうですか…それじゃあ一応他にも話しておこうと思いますが…えっとそれじゃあ通信はじめますね。」
「お…連絡ありがとうございますメルナさん。お二人とはしっかりお話しされましたか?」
「はい。色々とお話をして私達に協力してくれることになりました。」
「え…?いったいなんだ…?それは?」
「なんだと言われましても…コトさんへの通信ですよ…?」
「コトさん…というのは?」
「えっと…ここに写っている人で…私達の神様の先輩ですね。いまこのコトさんは別の世界にいます。」
「スカラさんとブランさん。こんにちは。初めまして僕はコトといいます。えっと…一応僕も神様になりますね…。」
「あ…ああ。よろしく…ではなく!なんだこの技術は!?」
「あん?どうかしたのかよ。」
「どうかしたじゃなく!メルナ達は…映像を遠くに飛ばせるのか?しかも世界を超えて?なんだそれは!意味が分からない!」
「ええ。全く。ええ。全く。驚くばかりです。その技術力は…いったいどうなっているのですか?メルナさまとロクスケ様を見る限りは文化レベルはこの世界よりも低いものだと思っていましたが…。あまりにもアンバランスであると。ええ。そういわざるを得なく…。」
二人は…よくわからないポイントで驚いていたようだ。
私からしたらこの世界のこともよくわからないしコトさんたちが使っている技術もおんなじくらいよくわからないけど…二人にとっては違うようだった。