短命種と長命種
「そう。僕達の平均寿命はだいたい30年ほどといわれていますね。実際にはその年齢になる前に病気などでなくなることも多いですが。まあ30年経ったら全員がすぐに死ぬというわけでもなく実際にはそれよりも長生きする人もざらにいますが。一応データとしては30年であると。そういう事になっていますね。」
「私たちはだいたい2歳になる頃から教育機関に行くことになるね。これに行くことは子供にとっての義務だし。通わせることは親の義務だ。2歳から6歳までを教育機関で過ごしてその後6歳で成人だと認められる。ふふ。そのころから私は今のポジションについていたのさ。」
「ええ。そして成人と認められたらその後はブランのように人から必要とされる仕事に就くか…。僕のように研究の道へ進むか。という選択肢が与えられるわけです。ちなみに6歳というのは結婚適齢期となっていて普通は10歳までに相手を見つけて結婚をして子を作る…というのが我々の常識ですね。つまり。ブランは11歳で未婚のままでありますがこれは非常に珍しいケースであり、俗にいう『いきおくれ』という存在になります。普通は11歳にもなって結婚もしていない更に結婚する予定もない。というのはかなり珍しいので。僕としてはそんなブランを見て「ああこの人はとても残念な人格をしているから相手がいないのだな」と。そう思っています。実際に会って何度か言葉を交わした結果それはまあ間違いでないのだなと。あくまでも仮説であったものが実際にそうであったなと。そう判断することが容易であり確信を持てました。ええそれほどまでにこのブランという女はあまりにも品性というものが欠けています。」
「へえ。なるほど。それじゃあスカラにはもうそういった相手はいるんだろうね。8歳だなんて俗にいう女盛りだ。スカラほど魅力にあふれた女性であればきっとそういった相手は両手では数えきれないほどにいるんだろうねえ。さあ教えてくれよ。その相手と君はどういった蜜月を過ごしたんだい?」
「……………チッ。」
「はっはっは。さあ早くこの『いきおくれ』らしいこの私に自慢してみてくれたまえよ!よっぽど素敵なパートナーがいるんだろうねえ!さあ!ぜひとも!自慢してみろよ!さあ!」
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「えっと…。」
驚くべきことにこの現世での平均寿命は30年ほどらしい。
2歳から学校へ通い6歳で義務教育を終えたら成人であり研究の道へ進むか仕事をするかで別れる。
大抵の人は6歳から10歳くらいまでに結婚してしまうらしく11歳で相手がいないブランさんの事をスカラさんは長文でねちねちと小ばかにしていた。
しかし逆にブランさんに自分はどうなのだと突っ込まれると黙ってしまっていた。
そして私達二人はというと…思考が追い付かなかった。
ドルルンドルルンと自動車は舗装された道を進んでいる。
車の中の空気は最悪だ。
私は1000年以上生きているしロクスケさんも40年くらい生きていたと思う。
私からしたらロクスケさんも十分に短いが…エルフの成人は20才であり20歳を越えてからは見た目がほとんど変わることがないので人間族のロクスケさんに対して変わっていると思ったことはない。
エルフの私は『余白』が多いだけだとそう思っていた。
だが2歳から義務教育が始まり10歳までにはほとんど結婚してしまうというのは…。
正直信じられないが二人が嘘をついている様子もない。
あの様子で嘘をついていたとしたらそれはそれで驚きだ。
二人とも目は血走っていたし恐ろしいオーラを纏っていた。
そもそもがこんなことで嘘をつく理由もないだろう。
「なあ。ブラン。俺が42歳だって知ってたよな。それ聞いてどう思ったんだ?」
「いやあ別に。長生きだなあとは思ったが…。」
そしてブランさんは考え込む。
じっくりと考え込んだ結果こちらを不安そうに見上げていた。
「…できれば正直に答えてほしいのだが…。もしかして…我々はおかしいのか?」
「いんや。この世界でそれが普通だってんならそれが普通なんだろう。この世界ではおかしいのは俺達だ。」
「俺達…?え?まさかメルナも…?」
まずいこちらに矛先が来た。
この空気で1000歳以上だというのは…かなり嫌だな…。
なにせ二人とも圧倒的に私よりも年下なのだ。
「えっと…私は…」
「もというかこいつに至っては1000年以上生きてるぞ。」
おい!お前!なんで言った!
どういうつもりだ!この人間族め!
いや言わないといけない空気だったけど!
せめて自分自身の口で!言わせて下さいよ!
「え?…冗談だろう?」
「流石に。その冗談は笑えませんが。メルナさま。どうなのですか。」
うわあ。二人とも…困惑した目でこっちを見てる…。
確かに…この世界の人からすれば私は…異常なのかもしれないが…。
「えっと…。ロクスケさんのいう事は正しいです…。私は…1000年以上生きています…。」
「ええ。」
「そうなのか…いや…そうか…。」
二人とも…驚いている。
何と声をかけたら…。
迷っている私をよそに。スカラさんもブランさんも…考え込んだ結果…なんだか表情がどんどん明るくなっていた。
「ええ。ええ。いやいやいやいや。とんでもないですね。流石はメルナさま。いえいえ。むしろそうであるからこそのその素晴らしい思慮や思考であり。ああ。なるほど合点がいきましたとも。なぜ故にメルナさまはそんなにも素晴らしい人間性を獲得しているのか。納得しましたとも。ええ。ええ。」
「ふふふ。まさかそんなことだったとはね。いやあ確かに納得がいった。スカラの意見に同意するのは癪だが概ね同意だね。ああ。納得がいったよ。」
何故か二人とも嬉しそうにこっちを見ている。
…なんで?
「長く生きていると言う事はそれだけたくさんの知識や経験を重ねてきていると言うことになりますからね。これまでにきっと貴重な経験や苦労や努力などがあったことでしょう。」
「そうだね。1000年も生きていると言う事は流石に予想はできなかったけど言われてみればそれしかないと。そうおもうかな。長く生きて経験を積むと言うのは素晴らしい事なんだろう。メルナを見ているとそう思うよ。」
どうやら長く生きていることを評価してくれているらしい。
…とはいえ知らないことばっかりなんですけどね。
「長く生きるのは素晴らしいか…それにしちゃお前ら俺に対しては特に何とも思ってなさそうだな。」
「ええ。別に何とも思いませんね。42歳くらいなら別に珍しくはありませんから。」
「そうだね。まあ数は少ないがいないわけではない。それにそれくらいの年代の人は…めんどくさい人が多いからね。」
「何とも思わない、と言うよりはあえて言えば嫌な感情すらありますね。これはまあ僕らに限ったことではないですが。それくらいの年代の人達はかなり嫌われてますよ。」
そうなのか…いや…流石にそれはちょっと…かわいそうじゃないかな。
頑張って長く生きてきて…それを否定されるのは少し可哀そうだなって気もする。
「…ああ。まあ確かに。年寄りってのはめんどくせえよな。」
ただ…ロクスケさんには理解できているようだった。
ロクスケさん達も上の世代が権力を持っていたはずなので思う所があったのだろう。
「むぅ…。」
私は…。みんなに対して嫌われないようなふるまいをできているだろうか。
正直なところ自信はない。
品行方正に生きているわけでもないし、相手が何を考えているのかわからないときもある。
「その点師匠は…年寄りって感じもしねえしあれこれ言ってこねえからってことか。」
そうなんですか?
「まあそういう視点も無きにしも非ず。といったところですかね。少なくとも僕はメルナさまに対して…高齢者に対する嫌悪感のようなものは感じないですから。」
「ああ。むしろ言われるまでは同年代か少し下かなと感じていたくらいだ。」
おお。どうやら若く見られていたらしい。
喜んでいいのか侮られていると憤ればいいのか。
「えっと…ありがとうございます…?」
ああでもこれは。高齢じゃないと思われていたわけではないのだろう。
下手に年上だとめんどくさいけど、すっごく年上だと…現実感がない。
そういうものなのかもしれない。
「まあ…実際の所俺と師匠もそうだがお前らとも年齢に差があるとはあんまり思えねえしな。」
「そうですね。…ロクスケさんはいつも私に生意気な口をきいてきますよね。」
この男は私の事を師匠と呼んではいるが私の事を敬っているなと感じたことは一度もない。
ええ。
そうですとも。
ただの一度もありませんですとも。
「ああ。それはあまりにも愚かですね。この男はあまりにも救いようのない。愚かで愚鈍でどうしようもない男なのですね。」
「まあロクスケにもきっと悪気はないのだろう。きっとメルナに対して深く粘着質な劣情を抱くがあまりに素直ではない態度を本能的に取ってしまうのさ。ああ。そう考えてみればかわいらしく思えてくるじゃないか。」
「有り得ねえよ!お前らと一緒にするんじゃねえよ!そもそも俺は既婚で子供だっているわ!」
どうやらロクスケさんへと矛先は向かったらしい。
「ああ妻子があるにも関わらずメルナさまに対して劣情を向けるなどとあまりにも下劣であり不潔であり最低最悪であると。ええ。そう言わざるを得ませんね。ああ。なるほど言われてみれば確かに獣のような見た目をしています。納得がいきました。」
「まあそう言ってやるなスカラよ。年を重ねた男性はきっとこういうものなのだろう。汚らわしいとは思うかもしれないがそれを受け入れる度量というものも必要だよ。ふふふ。きっと君に足りないのはそういった度量なのだろうね。まあ仕方ないが君はまだまだ未熟なのだね。ふふふ。そういった未熟さをいいと言ってくれる人もきっといるはずさ。」
なんだか話がめんどくさい感じになってきたのであとの会話はロクスケさんに任せることにしよう。
私は…なんだか疲れたので少し眠ることにしよう…。