自由であるということ
うわぁ!自動車ってすごい!はやい!
最初はかっこいいなとは思ったものの、こんなものが私が走るよりも速く移動するとは思えなかった。
しかしブランさんの案内で乗せられ椅子に座りドルルンドルルンと音を上げながら私が思うよりもとても速く走り出した時には驚いた。
「すごい!これすごいですね!うわぁ!景色がどんどん後ろに飛んでいきます!」
「あっはっは!あんまりはしゃぐなよ!師匠!」
「ロクスケさんこそずっと外を見てるじゃないですか!うふふ!それにしてもすごいですよねえ!」
「ああ!そうだな!」
私達2人は完全にはしゃいでいた。
「メルナさま。お楽しみのところ申し訳ありませんが窓からは手や顔などを出さないようお気をつけください。」
「そうですね!わかりました!気を付けます!」
「そしてシートベルトは絶対に外さぬよう。ええ。この女が車をどこかにぶつけないとも限りませんからね。」
「全く。相も変わらず無礼な奴だ。大切なメルナを乗せているんだ。事故など万が一にも有り得ないと思ってもらいたいね。」
ブランさんが用意してくれた車に私達4人は乗っている。
彼女は車を用意するだけでなく、自動車の操作も担当してくれている。
「それにしてもすごくカッコいい自動車ですよね!私とっても気に入っちゃいました!」
「気に入ってもらえて何よりだよ。君達2人は自動車に乗るのは初めてなのかい?」
「そうなんです!ロクスケさんも私も乗るのは初めてで…あっ。み、見た事はあるんですよ。ただ乗る機会が無かっただけなんですよ。」
しまった。
見た事もないのがバレたら多分まずい。
「へえ。珍しいものだね。車についてもほとんど知らない。街についても知らない事だらけ。メルナ達は一体どこからきたんだい?」
ぎゃー!
どうしよう!
どうやって誤魔化そう!
ええっとええっとええっと
「この世界の外からだよ。俺達はここじゃない世界から来た。」
私が必死で考えていたらロクスケさんがしれっと白状してしまった。
「へえ?外の世界?そんなものが存在するのかい?」
「えっとあのその」
「ああ。っつーかとっくにわかってんだろ?どう考えてもこんな一般的に普及してるであろう技術を知らねえっておかしいもんな。」
「ふふふ。まあそうだね。車を知らない人なんて見た事ない。そこらを歩く子供でも知っているし乗ったことがないなんて人はいないだろうさ。」
そうだったのか。
つまり私はバレバレの誤魔化しをしていたことになる。
はずかしい。
「それに俺たちが最初にお前らと遭遇した時も明らかにおかしかったよな。お前らは他の何でもなく俺達が目的であの場所に集まっていた。」
「下手に泳がせて見失うよりもあの場で全員を捕まえた方がいいと判断したからね。結局大失敗だったわけだが。」
「そんで結局お前ら何者なんだよ。全然大事な部分話しやがらねえ。」
確かに最初に会った時にはおかしいとは思っていた。
あの場所に最初から居合わせているのはおかしいし、たまたまだったとしてもいきなり襲いかかってきて更に目的を持って拘束されると言うのは…やっぱりおかしい。
「ふふふ。我々も多くは知らされていないんだよ。『端末』と呼ばれているのさ。なあスカラ。」
「ええ。不本意ながら。僕らは何の目的があってメルナさま達を拘束することになったのかは知らされておりません。」
「はっ。そんじゃ知ってる事だけは話してくれるのかよ。」
そういえばこの2人は…ブランさんは責任者だったしスカラさんはそのブランさんと対等に話している…知っている事は多いはずだ。
「メルナになら話してもいいかな。」
「メルナさまにしか話したくないです。」
「…だってよ。」
「…そう言わずにロクスケさんの質問に答えてあげてくださいよ。」
「ふふふ。お断りするよ。」
「メルナさまにしか話したくないです。」
ええ…めんどくさすぎる…。
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「えっと。それじゃあまずはお二人の名前を教えてください。」
「スカラ・ロウです。」
「デント・ブランだ。」
「お二人は仲良しなんですか?」
「いいえ。全く。」
「そうだね。あくまでも仕事上の仲だね。」
「お二人はいつから…お知り合いなんですか?」
「今回の任務で初めて会ったんですよ。」
「ああ。スカラのように住む場所を決めない『端末』もたくさんいるからね。会ったのはあの場が初めてだよ。」
「私たちのもう1人の仲間を連れ去っていった…白い人についてはご存知ですか?」
「彼女の名前はシャーロット・ノエル。あまり詳しくは知りませんが…性格が最悪でしたね。」
「そう。あいつの性格は最悪なんだ。だからこそ優秀であると、そう聞いた事はあるが…実際に話した印象はまさしく最悪だったね。」
「ノエルさんの居場所は知らないんですか?」
「残念ながら…。我々は本当にただ指示を受けて任務を全うする為だけの存在ですから。」
「多分白の街のどこかにはいるんだろうけど…。詳しくは知らないね。私のように多くの人に知れ渡っている訳でもないし…裏でコソコソと何をやってるんだろうね。あいつは。」
「えっと。お二人に指示を出している人は…なんという方ですか?」
「以前にもお話したことがあるとは思いますが。Dr.BLACKとDr.WHITEですよ。」
「おや。私にはDr.BLACK一人からの指示だったが…そうか君は中立だったね。」
「Dr.WHITEとDr.BLACKは…それぞれどういう方なんですか?」
「会ったことはなくいつも指示だけを送ってこられるだけなのでどういう方かというと。わからない。ですね。」
「まあ私はDr.BLACKの方だけだが…概ね同じような印象だね。ただ…わからないというよりかは…何もない…無機質な印象…といったほうが正しいかな?」
「無機質…ですか。」
「確かに。何も感じないとは思ってはいましたが…言われてみればあまりにも印象が皆無ですね。」
「そうだろう。私もこれまでいくつもの指示を受け取ってきたが…そこに何かの感情を感じたことは…これまで一切なかったと思うね。」
「なぜ…お二人はDr.WHITEとDr.BLACKの言うことを聞くんですか?」
「なぜ。とおっしゃられましても。指示をされたから。という意外にはありませんね。」
「そうだね。ああ。きっと我々は幼い頃からそのように育てられてきたから。とでもいうのかな。」
「えっと。その方たちのことが好きだから。とかそういう理由ではないんですか。」
「いえ。そもそもそういう感情を持つ対象ですらないですね。ただただ。我等は指示を聞くことが当たり前。という感覚ですね。」
「ふふふ。そもそも好きも嫌いもないさ。だって我々は会ったことがないんだから。どういった感情もない。」
「そうなんですか…ちなみに私たちに対してはどのような指示が出ていたんですか?」
「この日この時間のこの場所に…われらの理解を超えた何かが突然現れるから3人で確保しろと。」
「そうだね。だから私は機械兵を複数派遣して君たちを迎えに行ったというわけさ。」
「なるほど…随分とざっくりとした指示だったんですね…?」
「そうですね。そもそもが協力しろだとかどのように捕まえろだとかは言われてはいませんでしたからね。」
「ああ。少なくとも私は一人で全員捕まえるつもりだったしノエルは君たちのうちの一人を捕まえただけで満足して帰ってしまった。」
「捕まえた後にどうしろとは言われてたんですか?」
「いえ。なにも。そもそも僕はあなた方3人の誰でも捕まえられるとは思っていませんでしたから。」
「私はみんな捕まえるつもりだったけれどもね。ただ。その後のことは特に指示はされてなかったよ。」
「…もし私たち全員が捕まっていたらどうなっていたんでしょうね。」
「きっと何かの実験に利用されていたのでしょうね。あの方達が人を必要とする場合というのはそれしかありえませんから。」
「そもそもが私のところに全員が捕まっていたら指示を待つことなく実験を始めていたさ。」
「結構ピンチだったんですね…。私達…。」
「ああ。しかしそんなピンチもまったくものともせずにすべてを解決されるとはさすがはメルナさまと。そういうしかないですね。」
「あくまでも我々は『端末』だからね。やるべきことをやるようにしか作られてはいないのだが…。」
「…結構そういう割にはお二人とも自由ですよね?」
「ああ。それは紛れもなくメルナさまのおかげですよ。」
「そうだね。メルナが我々をつないでいた鎖を壊してもらえたから。今きっと自由なんだろうね。」
「えっと。私があなた達に自由を与えられたというなら…。それはよかったんだと思います。」
「ええ。我々には生まれてからずっと自由はなかったですからね。メルナさまが与えてくださったおかげで自由というものを始めて手に入れたわけです。」
「…我々には子供のころから自由というのは与えられてはいなかったからね。」
「そう…ですかね?小さなころから大変だったんですね。」
「いや。そもそもが大変だと思うこともなかったですね」
「そうだね。まあもうこの立場になってから5年も経つからね。嫌でも慣れるさ。」
「5年…ですか。そういえば…お二人って何歳なんですか?」
「僕は8歳ですね。2年前に成人した立派な大人です。」
「私は11歳だよ。ふふふ。私のほうが年上だ。スカラはもっと私をねぎらうべきだね。」
「え?」