なにをするにも準備はとても大切
スカラさんは色々なことを教えてくれた。
この世界は白の街と黒の街という二つの勢力が大陸全土を支配しているらしい。
それらの勢力は50年ほど前から徐々に勢力を伸ばしていきつい先日ほぼすべての国を二つの国が支配を終えたらしい。
だから白い街というよりかは白い国であるし黒い街というよりかは黒い国である。
スカラさんはどちらの勢力に属するのかと聞いてみたがスカラさんはどちらにも属していないらしい。
かなり貴重な例外なのかと思いきや意外とそういった人はスカラさん以外にもいると教えてくれた。
そもそも小さすぎる集落などはまだ抵抗しているらしいし統一して支配されることを嫌った住民が
旅をしながら支配を逃れているとのことでスカラさんは後者だと言っていた。
それぞれの街の代表者は白の街のDr.WHITEと黒の街のDr.BLACKと言われているがほとんどの人はその姿を見たことがないらしい。
さて。今は私が何をしているのかというと斧を使って木を切っている。
流石に今回は石斧を現地調達した材料から作ってというわけではない。
ちゃんと木を切ることに適したサイズの金属の刃の斧だ。
今回は前回の反省を生かしてこの現世へ来るにあたりある程度の荷物を背中に背負ったリュックに入れて持ち運んでいる。
一応何があってもいいようにある程度警戒はしてある。
こちらで創造端末を使って作ってもいいのだが作っているところを現世の住人に見られてしまっては困る為、最低限の荷物を入れておいたと言うわけだ。
「いやいやいや。流石はメルナさま。大変に鮮やかな手腕でございますね。ここまですごい技術を持った方は初めて拝見しました。メルナさまはとても立派な学者様であるのかと思いましたがどうやら愚かなる不肖目も節穴であるとそう言わざるを得ませんね。こうして僕が話しているうちにもどんどんと木がが切り倒されており更地になった土地に次々と枠組みが作られそれを埋めるように壁が出来上がっていくのは驚きしかございませんとも。いえいえ。メルナさまが優秀であることに対して意外であるとそう僕が思ったのだと。そのように思われたのならそれは大変失礼をしてしまいましたが勿論そのようなわけではなく身体能力や思考能力だけではなくそのような建築技術を持っているという事実に驚きを隠せないと。ええ。ええ。素晴らしい手腕だと愚かなる不肖感服してしまいました。」
「それはどうもありがとうございます。」
スカラさんは近くで見学をしている。
最初はせっかくなのでスカラさんにもお手伝いをお願いしてみたのだがこういった経験はあまり無いようで私一人でやった方が早いなと判断し自由に行動していいですよと放置した結果私の仕事を見学したいとそういう話になった。
それなりに頑張ったので昼を過ぎ夕方に差し掛かる前くらいには小屋は出来上がった。
木をほとんど加工しないで丸太で組んだだけなので見た目は悪いが丈夫にはできたはずだ。
ちなみにスカラさんは今食料の調達のために出かけている。
どうやら最低限のサバイバル知識はあるようで食べられる木の実の収集や近くの川で魚を捕獲してきてもらえるようお願いしてある。
「スカラさんがいないうちに何とか内装も完成させられたからよかったな…」
持ってきたものだけでは足りない物もあったのである程度は創造端末を使う必要もあったのだ。
ベッドやトイレなどはちゃんとしたものを作らないと辛いだろうし最低限のプライバシー保護の為にカーテンも必要だろう。
「あとは…スカラさんが帰ってくるのを待つだけですね…」
「なんということでしょう。メルナさまが僕の帰宅を心待ちにしていてくれるとは大変うれしい限りで」
「…おかえりなさいスカラさん。」
スカラさんからの返事はなかった。
さて。
私はスカラさんを小屋に残し食料調達の為に出かけていた。
スカラさんは必要最低限の食糧は調達してくれてはいたものの、これからしばらくこの場所で過ごすことを考えると数日分の食事は用意しておいたほうがいいだろう。
幸いしばらく歩いていたら魔物が群れになりあちらのほうから襲い掛かってきてくれたので3匹ほど仕留めることができた。
イノシシっぽい生き物なのでまあ多分美味しいだろう。
戻って処理するとしよう。
「戻りましたー。お。スカラさん目が覚めましたか、おはようございます。」
「…えっと。」
「お肉が大量に手に入りましたのでまず適当に処理しちゃいますね。食べ物の好き嫌いとかありますか?」
「…あの。」
「ああ。お肉ばっかりだと飽きちゃいますか?それなら果物だったり穀物だったりも用意しないとですねえ。」
「なぜ僕は…この場所に閉じ込められているのですか?」
「申し訳ありません。実はですね。この場所は最初から牢獄として作ってたんですよ。」
「…理由を教えてください。どうして僕は牢獄に手枷を付けて閉じ込められているのですか?」
「いやあだってですね」
どうやらまくしたてるような長文で話していたのは何かの演技だったようだ。
「…どう考えてもあなた…めちゃくちゃ怪しいじゃないですか。」
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「…というわけでごめんなさいコトさん。ミヨさんとロクスケさんは捕まってしまいまして…そちらに戻るにしても全員が合流してからのほうがいいかなって思うんですけど…。」
「…そうですか。思った以上にそちらは大変な状況になってしまったんですね。」
「はい…。現状としては『協力者』を収容する拠点を作成しつつミヨさんとロクスケさんの奪還に向かおうと考えてます。」
「そうですね。戻ってくるにしても端末を持ってるのメルナさんだけですからね…。」
「まあいざとなればロクスケさんは自力で脱出してきそうではありますし…最悪あの人なら『死に戻り』してでも帰ってきそうではありますけど…ミヨさんは絶対に助けないといけないですよね…。」
「…いえ。お二人とも出来る限り助けてあげてください。最悪の場合…」
「死ぬこともできずに1000年単位で生かされてしまう可能性があります。」
「えっ…でもお二人は短命種ですよね?」
「そういえば…お話していませんでしたね…メルナさんは長命種なので分かりにくいのかもしれませんが…。」
「僕達にはもう寿命というものはありません。」
「えっ。」
「僕達は死なない限りはいつまでも老いることなく生き続けてしまう体になっています。」
「そんな…。それじゃあもし私が一人で戻って…この場所に来れなくなってしまったら…。」
「はい。最悪の事態も考えられます。」
「…。」
「さらに言えば普通の世界であればそこまで心配する必要もないですが…」
「そうですね…。この現世は…どう考えても異常です。」
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さてと。
スカラさんが食べる食事も用意したし時間もそろそろ夕方になってきたし…。
近くにあるらしい黒い街への移動をそろそろ開始するとしよう。
「今夜は城攻めかぁ…。一人で何とか…やれることをやっていくしかないかな…。」