どうやら今回は楽しい計画になりそうです。
私は気付いてしまった。
この世界には神様はいない。
いや。もしかしたらいるのかもしれないが。
少なくともみんなが言うように世界の為に頑張っているような。
誰からも崇拝されるような。
世界を愛し世界に愛されるような神様はいない。
この世界は理不尽で満ちている。
神様というのがいるとするならばきっとそれはとても残酷で、
我々が不幸であるならばそれを喜び。
我々が幸福であるならば意を唱え弄ぶような存在なのだろう。
両親を失った私は一つの決意をした。
神に喧嘩を売ることにしたのだ。
世界と神に唾を吐きこの世界の思い通りにならない総てを思い通りにしてやる。
神が殺した私の大切な人は、もう願ったとしても悲しんだとしても帰っては来ない。
だったら神が大切にしているものをすべて奪うしかない。
神が大切にしている世界を壊してやるしかない。
神が守っているこの国の偉い人をみんなめちゃくちゃにしてやるしかない。
神が不要だと切り捨てた死にゆく人をすべて救うしかない。
私は神の総てを否定する。
正気を手放し。
狂気を手に入れる。
きっと神を殺すのに必要なのは、狂気だ。
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今日の晩御飯は『トンカツ』というものらしい。
ミヨさんは色んな料理を知っているなあ。
『ハムエッグ』も『ハンバーグ』も『オムレツカレー』も信じられないほど美味しかったのできっと『トンカツ』もとっても美味しいに違いない。
夕方になると部屋にいても、とっても美味しそうなにおいがする。
私はこの「美味しそうだなあ」「今日は何が食べられるのかなあ」という時間が大好きだ。
とってもお腹が減ってきて、食べたいな。食べたいな。という気持ちがすごく大きくなってきて、ミヨさんの「皆さんご飯が出来ましたよぉー」という弾むような声がして、みんなが集まっていく時間が大好きだ。
食事に呼ばれるのが楽しみでいつも私は一番最初に食堂に到着する。
ミヨさんは配膳などの準備をしているので私はいつもそれを手伝う。
手伝っているとロクスケさんがきて、最後に少し疲れた様子のコトさんが入ってくる。
コトさんが席に着くころにはちょうど全部の準備が済んだころだ。
テーブルには『ハクマイ』と『トンカツ』と細く切ったキャベツにトマト、ポテトと卵のサラダ、ミソ味のスープにいろんな色の野菜の漬物が置かれている。
最後にミヨさんが持ってきた『トンカツソース』なる調味料を『トンカツ』にかけて食べるらしい。
「それではみなさん手を合わせて!いただきますー!」
みんなそれぞれに『いただきます』という掛け声と共に晩御飯を食べていく。
私以外の3人は『オハシ』という2本の棒を使って器用にご飯を食べている。
私も仲間外れは嫌なので練習しているが、まだうまく扱えないのでフォークとスプーンで食べていく。
まずは『トンカツ』に『トンカツソース』をかけて食べてみる。
口に入れて噛むとサクりと心地の良い触感と共にジューシーな肉汁が口いっぱいに広がる。
『トンカツソース』というのも少し酸っぱくてしょっぱいが『トンカツ』と絡むとすっごくおいしい。
ひと口ふた口食べて口の中がしょっぱくなってきたところに『ハクマイ』を口の中にほおばる。
この『ハクマイ』という食べ物もふかふかでもっちりとしていて私は大好きだ。
ミソ味のスープも『カツオブシ』とか『コンブ』というものから美味しい成分を煮出してあるらしい。
ミヨさんの『ワショク』という種類の料理はとっても優しい味がする。
うふふ。ミヨさんの作るご飯は何を食べてもおいしいんですけどね。
「ミヨさん!今日の料理も全部とっても美味しいです!」
「そうですかぁ?トンカツは初めて作るからお口に合うか心配でしたけど…美味しかったならよかったです…!」
いつも天真爛漫なミヨさんも食事が美味しいって言う時はなんだか嬉しそうにテレテレしている。
「おう!今日の飯もうまい!嬢ちゃんは料理上手だな!」
「うぇへへへ!ロクスケさんもありがとうございます!」
ロクスケさんが褒めてまたテレテレした後にミヨさんは何も言わないコトさんに目を向ける。
そのまましばらくじっとりとコトさんを見ている。
「…。」
コトさんはもごもごとミヨさんのご飯を食べながら何かを考えこんでいる。
「…。」
ミヨさんはじっとコトさんを見ている。
「…えっと。コトさん?何か考え込んでますけど…気になってることでもあるんですか?」
…耐え切れずに口をはさんでしまった。
「…。んっ。そうですね…皆さんにお話しするかどうか迷っていましたが…相談させてもらってもいいですか…?」
「ええ。それは勿論大丈夫ですが…まずは晩御飯の感想をどうぞ。」
「え?いつも通りとっても美味しいですが…?ああそうかメルナさん達はトンカツを食べるのは初めてでしたね。ミヨさんが作る料理は全部美味しいですけど僕トンカツは特に大好物なんですよねえ…。」
「はいありがとうございます。それで相談したいことというのは…?」
ミヨさんの方をちらりと見ると誇らしげな表情をしている。どうやら食卓の平和は守られたらしい。
「…えっと。いま進行している新しい現世なんですけど。」
「ああ。国ができてから1000年ほど経ったって言ってましたね。」
「はい。そこからさらにまた1000年経過して…だいたい2000年ほど経ったんですが…どうやら急に科学力が発展していってるんですよね…。」
ほう。科学力。
「おお。すごいですねえ。私魔法は一応は使えますけどコトさんが使ってる創造端末だったり『でぃすぷれい』だったり『農場』だったり科学のことはよくわからないんですよねえ。」
「実はこれまでこんなにも科学が発展したケースっていうのはかなり稀でして…。」
「いいことじゃねえか。なんか問題でもあんのか?」
「問題があるというよりかはとても良い事なのですが…様子を見に行ってもらおうかどうか迷ってるんですよ。」
ああ。そういうことか。
今回の現世はコトさんが最初の人類を創造しに行った。
一通り済ませてからはすぐに戻ってきてそこから人類がある程度発展するまでは放置する方針らしい。
ただ問題は『一度現世に行って帰ってきた人は2度とその現世へ行くことができない』ことにある。
つまりもうコトさんは現世に行って様子を見ることはできないのだ。
行くならば私とロクスケさんとミヨさんのうちの誰か、あるいは複数人で様子を見に行くということになる。
「それじゃあ…私が行ってきましょうか?」
私一人なら大丈夫だろう。
私は見た目も地味だし行動も目立たない自信がある。
「えっ?…うーん。」
「…いやあ。師匠一人ってのは…。」
「メルナさん一人で行くのは危ないですよ!女の子一人だなんて!」
ミヨさんは心配してくれているようだが他二人は…どこか不満気だ。
「なんですか?私ひとりじゃ危険だっていうんですか?」
「いや。師匠がやられるってこたねえと思うんだけどよ…」
ロクスケさんは珍しくなにか迷っているようだった。
「はっきりしないですね…何かほかに心配な事でもあるんですか?」
「いや…師匠って自覚あるんだかないんだかわかんねえけどめちゃくちゃ目立つだろ?」
「はぁ?こんな地味な女の子を捕まえて!何を根拠に!」
ロクスケさんは考え込んでいる。どうやら言葉を慎重に選んでいるようだ。
「前の現世でさ。師匠がふらっと旅に出たことあったろ?そん時に俺とヤスケで追いかけてたんだけどさ。」
「行く先々でこんなエルフ見てねえかって聞くわけだよ。」
「そうしたらさみんな口をそろえて言うんだよ『ああ!あの変わったエルフさん!』ってさ。」
「人助けをした先で覚えられてるのはまあわかる。」
「でもどう考えても買い物がてら通り過ぎてるだけの村でも全員覚えてたんだよ。」
「どうやら初めての場所で緊張してたのか色々やらかしてたみたいでさ…」
ロクスケさんは噛んで含めるように丁寧に言葉を選んで私に説明をしてくれた。
「…ぅぐ。わ、わかりました。まあ私ひとりでは現地の人と敵対したときに捕まってしまうかもしれないのでロクスケさんも一緒に行きましょう!」
「…まあそうだな。俺も退屈してたし一緒に行くかぁ。頼むから俺の言うことは聞いてくれよ?」
「なんですか!一緒に行きたいならそういえばいいじゃないですか!」
まったく!
きっとついてきたい一心で一生懸命理由をひねり出したに違いない。
愚かな人間め!滅ぼしてやろうか!
とここで意外な声が上がった。
「ええ!メルナさんとロクスケさんが行くなら私も行きたいですよ!」
おぅ。ミヨさんも参戦?
「え?嬢ちゃんもついてくんのかぁ?」
「いいじゃないですかぁ!楽しそうですもん!私もずっと行ってないからたまには行きたいです!」
…いいのかな?ちらりとコトさんのほうを見てみる。
コトさんも考え込んでいる…。
「コトさんはどうするのがいいと思いますか…?」
「んー。いいんじゃないですかね?」
「え?いいんですか?」
てっきり「ミヨさんはいっちゃだめです!なぜなら危ないから!」とか言うのかと思ってた。
「ミヨさんが行きたいって言いだしたら止まらないですしねえ。それに今回はミヨさんにも明確なお仕事がありますから。」
「お仕事…ですか?」
なんだろう。ご飯係かな。
「今回科学力が急に発展したので。その原因になっている『科学者』がいるはずなんですけど…。」
おっと。思ったよりもちゃんとした感じだった。
いやそれよりも
「え?誰か一人の人が原因で発展してるってことですか?」
そんなことがあり得るんだろうか。と思ってしまう。
「…まあ確かなことは言えないんですけどこういう不自然に急発展する時って大抵固有を持った個人が原因になっていることが多いんですよね。」
「なるほどなるほど!それじゃあこのミヨさんがその『科学者』さんを見つけて仲間になるようにお話してくればいいんですね?」
「いや…正直そこまで急務っていうわけでもないので半分観光に行くくらいの感覚で…。もし該当者が見つかれば…様子見って感じですかね。」
「え?そんなに緩い感じでいいんですか?」
「はい。正直に言いましてそんなにリスクを背負ってまで急ぐような内容でもないのでダメそうならすぐに端末を操作して戻ってくる感じでもいいと思いますよ。」
思ったよりも緩い感じだった。
今回はそんな感じでいいの?
「いや…なんだか前の現世でも非常に好調で2万年まで行きましたけど。」
「そもそも毎回そんなに成果が得られるってわけでもないんですよ。」
「だから今回は本当に観光ついでって感じで行ってきてもらえれば。」
「もちろん。『科学者』さんがいて、可能であればコンタクト取ってもらいたいとは思いますけど」
「その『科学者』さんが僕らに協力してくれるとも限らないじゃないですか。」
「だからまあ本当についでにちらっと見てきて『この人が仲間になっても大丈夫』と判断したら声をかけてもらうっていう程度で…。」
ほむん。そんなものなのか。
「ええっと。魔力は大丈夫なんですか…?」
「はい。まだまだ余裕はありますよ。」
なるほど。
まあよく考えたらそんなに余裕が全くなければ有無を言わさず私たちが派遣されていたか。
科学者を何とかして捕まえて『侵略者』を倒すために協力させないといけないのかと思っていたが、どうやらそんなに急ぐわけでもないらしい。
「それじゃあ…。私たち三人で観光がてらいろんな場所を偵察してくるって感じでよかったですかね…?」
「戦えねえんじゃつまんねえな。俺は行くのやめとくかな。」
「いやいや。どんな危険があるのかもわからないのでロクスケさんもついていってくださいよ。」
コトさんは急いで断っていた。
まあ確かに、安全が保障されているわけではない。
私一人でミヨさんを守り切れるかどうかといわれるとまだ本調子ではない私では護衛として不安は残る。
それにきっとロクスケさんが一人で残ったらコトさんに手合わせを頼み続けるだろうしね。
「まあそうだな。危険がねえとも限らねえしな。」
まるで危険な場所であってほしいかのような口ぶりだ。全く戦闘狂はこれだから困る。
「それじゃあ…皆さん準備ができたら送りますので準備をよろしくお願いします。」
さてと何を準備しようかな。
どうやら今回は楽しい旅になりそうだ。
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わかった!わかったわかった!!
全てを理解した!そういうことだったのか!
神という存在は確かにいる!
この世界ではない他の場所に!
ああ!すべてを理解した!
あはははは!あはははははは!こんなに愉快なことはない!!
ああ!ああ!そうだ!きっともうすぐ神はこの世界に来る!
ここではないどこかの世界から!ずっとこちらを見ていたのだから!
こちらに来るはずだ!きっともうすぐに来るはずだ!
ああ楽しみだ!ああ楽しみだ!
一体どうしてくれようか!なにをしてやろうか!
いやいやまずは聞かねばならないことがある!
どうしてあなたは神であるのにどなたもお救いにならないのか!
どうしてあなたは神であるのに世界のために働かないのか!!
他にも!他にも他にも他にも!聞きたいことはいっぱいある!
ああ!もうすぐきっとあなたに会える!胸が高鳴る!血が滾る!
どうしてくれようか!どうしてくれようか!
ああ…神がこの世界に来るのが…とても楽しみだ…。
ふふふ…まずはどんな風に歓迎をしようか…。
ああ。とてもとてもとても楽しみで今夜は眠れそうにない。
ふふふふふふふふふふ。
あははははははははははははははははははははは!!!!