もう存在しない世界と今存在している世界
「そういやぁさ。この場所って名前なんて言うんだ?」
現在進行中の人類の様子をディスプレイを4人でぼんやりと眺めている。
今はコトさんが短命種の人間だけで始めた世界で5000年くらいたったあたりだ。
「この場所というのは…今いる場所ですか?あっちの世界の話ですか…?」
「んー、まあ両方かな。あっちの世界だとかこっちの世界だとかじゃわかりにくいだろう。」
「確かにそうですねえ。…ああ。そういえば前任者が何か言っていたような…。」
「あん?前任者?この場所に前任者なんていたのか?」
「そうですね。実は僕もこの場所託されただけなんですよ。」
「前任者はどうしたんだ?今もこの場所にいるとは思えねえけど。」
「ああ。僕にこの場所を託したらどこかに行っちゃいましたよ。」
「ほーん。どんな奴だったんだ?」
「どんな…。女の人でしたけど…。そんなに会話したわけでもないんでよくわからなかったですね。」
「なるほどなあ」
「結構前の出来事になるんで…。ああ。そうだ。」
「確か隔世とか現世とか言ってましたね。」
「特に意味があるとは思わないので好きに呼んでもいいとは思いますけど…。」
「はいはい!みんなで新しい名前を考えてみるっていうのはどうでしょうか!」
「なるほど。じゃあミヨさん候補を出してみてください!」
「コトさんの世界と異世界ってことで異世って言うのはいかがでしょう!」
「んー。却下で!」
「そんなー!いい名前じゃないですか!」
「自分の名前がついてるっていうのは個人的には好みじゃないですね…別にこの場所も僕の場所って感じもしないですしねえ。」
「なんでですか!異世と御世って名前で完璧な布陣だと思ったのに!」
「コトさんとミヨさんの仲良しコンビからとるのはいいかもしれませんねえ」
「…却下で。まあ僕達が今いる場所が隔世で新しく作った世界を現世と呼ぶことにします。はい決定。」
「えー!横暴ですよぉ!」
「一応この場所の最高責任者ですので。」
「ぶー!」
「カクリヨにウツシヨねぇ…まあ俺はわかりやすけりゃ何でもいいよ。異論はねえ。」
「コトヨにミヨもいい名前ですし捨てがたいですけどねえ。」
「メルナさん…!」
「えっへっへ。まあ最高責任者には逆らいませんよ。」
みんなでのんびりと会話をしながら世界は進んでいく。
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どうしてこの世界はこんなにも理不尽なことばかりなんだろうか。
私は小さいころから神様がいるから悪いことはしてはいけないよと言われて育ってきた。
神様はずっと私を見ているから私が例えばこっそりご飯をつまみ食いしたら私に罰を与えるらしい。
私が毎日ご飯を食べられているのは神様のおかげであると父と母は言っていた。
嵐で村が大変なことになっている時には「この嵐は神が我々に与えた試練である」と神父さんは言っていた。
結局神の試練とやらで村の人は何人も死んだり怪我をしたり行方不明になったりした。
私達の父と母が一生懸命に育てていた作物もめちゃくちゃになった。
それでも神父さんは「神様は我々に乗り越えられる試練のみを与えられる。この試練も乗り越えられるはずだ。」と言っていた。
毎日毎日とっても大変で父と母は辛い思いをして。それでも私達家族のために頑張っていた。
私は辛く苦しい日々を送り続けているうちにどこかにいるであろう神様の事がだんだん嫌いになっていった。
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「なあ。そろそろ手合わせしねえか?」
「しません。」
「知ってんだぞ。最近毎日一人で稽古してんだろ。」
「…してません。」
「嘘つくなよ!俺が誘ったときには断ったっていうのに…まあいい。師匠には師匠なりの考えってのがあるんだろう。」
「…コトさんにお願いしたらいいじゃないですか。」
「旦那はなぁ…。勝てねえんだけどなんか強いから勝てないって感じじゃねえんだよなあ。」
「ほう…?コトさんは弱いと…?」
「弱いとまでは言わねえけどよ。構えなんかも素人くせえしこっちの行動を見切ってるような感じもしねえ。」
「はあ。でも何回も勝負して全部負けてるんですよね?」
「そうだ。何回も挑んだけど一回も勝てなかった。毎回毎回何で負けたのかってのも考えて次また戦うんだけどよ。毎回毎回どうして負けたのかってのが全然わかんねえんだよ。」
「へえ…。コトさんの固有が何か関係してるんですかねえ。」
「まあ十中八九その辺でインチキしながら戦ってるんだろ。だから俺がいくらまっとうに強くなったところで旦那には勝てねえ気がするんだよなぁ。」
「なるほど。それで勝てそうな私をいじめようって魂胆ですね。」
「言い方キッツいな!いや…そうじゃねえよ。俺に勝ってた時の師匠はなんというかまっとうに強かっただろ?」
「まあ…。コトさんみたいに固有を使いながら戦うってことはなかったですね。」
「もしかしたら『魔王』ってのが何かしらの強さの底上げをしてたのかもしんねえけどな。」
「うーん。でも今もその…固有自体は持ってるからそんなに関係あるとも思えないですけどねえ。」
「まあなんにしても俺と殴り合いの喧嘩で圧倒的に負かしたのは師匠だけなんだからまた俺と対等以上に殴り合い出来るのも師匠だけってなるだろう?」
「そうなんですか?そんなこともないと思いますけど。」
「だから師匠には強くなってまた俺と喧嘩する義務ってのがあると思うんだよ。」
「ないですよ。そんな義務。私は戦闘担当ではなく『開拓者』として世界を助けていくんです。」
「でも『魔王』でもあるんだろ?『魔王』なんていかにもな戦闘担当だろう?それとも後ろから指示を出すだけの『魔王』なのか?」
「…魔王魔王言うのはやめてください。私は魔王ではないんですから…その固有も何かの間違いできっとすぐになくなりますよ。」
「んなわけねえとは思うけどなぁ。」
「それよりもロクスケさんも現世で誰かに殺されたからこちらに来たんじゃないんですか?」
「ん?まあそうだけど。」
「じゃあその自分を負かした相手を呼び出してもらって戦えばいいじゃないですか。きっと私なんかよりも強い相手でしょう?」
「ああ…俺を殺した相手か…。それは…微妙なんだよなぁ…。」
「微妙って…お相手は誰だったんですか?」
「誰って…俺の子供だよ。」
「…え!?ロクスケさん子供いたんですか????」
「そりゃいるだろうがよ!俺一応王様やってたんだぞ!跡取りもいない王様だなんて誰が認めんだよ!」
「へえ…!それじゃあ結婚した相手も…いるんですよね…?いや…いるのか…?」
「いるに決まってんだろ!師匠もあったことあんだろ?俺の姉貴だよ。」
「ええ!?おねえさんと!!!いいんですか!?そんなの!?いやあ!でも確かに奇麗な人でしたからねえ!」
「何言ってんだ…別に俺の村じゃ普通の事だよ…というか姉弟でっておかしいことなのか??」
「いやあ…!物語で読んだお話ではですね…!なんというか禁断の愛と言いますかなんというか…!」
「そんな色っぽいもんじゃねえよ…。ただ相手探して俺の強さに釣り合う相手が姉貴しかいなかったってそんだけの話だ。」
「へーーっ!でもですねえ!あの奇麗なお姉さんですよ!すっごくいい人でしたしね!いやーーー!なんというか!!すごく!!いいですよねえ!!」
「なぁに盛り上がってんだよ…。まあいいや。師匠だって自分の世界で結構長く生きてたんだろ?結婚相手だったりそれこそ色っぽい相手みたいなのはいなかったのかよ?」
「いませんよ。」
「え?いねえのか?いねえわけねえだろう?」
「いません。」
「…。」
「…。」
「いや…!師匠だってさ!結構な…!美人さんだって姉ちゃんも言ってたしさ…!そういう風に思ってくれてる相手もいたんじゃねえかな!」
「いませんよ。私以外の男の人も女の人も全員私がまだ子供だった頃に死んじゃいましたから。」
「…へえ。」
「そもそも私よりずっと年上の人ばっかりでしたから。一番親しくしていた人はもうおじいちゃんでしたね。」
「…いやなんというかさ…悪かった…。」
「なんで謝るんですか?結婚も恋愛も経験がないまま1000年以上生きてることが何か悪いんですか?」
「いや…そんなことはねえよ。ただ…嫌なこと思い出させちまったなら悪かったかなって。」
「…嫌なことですか。まあ確かにずっと一人で生きてきたのは…寂しかったですね…。」
「そんなもんか…。まあ一人は退屈だよなぁ…。」
「退屈…ではなかったですけどね。一人でしたけど色々やりたいことはありましたし。」
「違うのかよ。…俺は1000年なんて全然生きてねえし…42年で死んじまったから師匠なんかより全然短い時間だったけどさ。師匠がいなくなってからずっと退屈だったよ。つまんねえつまんねえって言いながら生きてたよ。」
「王様になったんですから…色々大変なこともあったんじゃないですか?」
「はっはっは。大変なことなんて何にもなかったな。俺が解決しなきゃいけないような問題なんて碌になかったよ。」
「…私が旅していた時にはみんな結構困っていたように思いましたが…。」
「そうやって師匠が全部解決したからなんじゃねえのかな。」
「…え?」
「師匠がいなくなってさ。俺師匠の事追いかけてたんだよ。全然追いつけなかったけどな。」
「…そうだったんですか。」
「それで色んな人が師匠に感謝してたよ。しかもその恩を関係ない誰かに返してやれって言ってたらしいじゃねえか。」
「…そうでしたっけね。」
「多分それでみんな助け合おうって気持ちが生まれたんだと思うよ。気が付いたらさ。誰かが困ってたら他の誰かが助けるのが当たり前の世界になってた。」
「…。」
「だから俺が王様になる事にはもう王様が解決しないといけねえことなんてほとんどなくなってたんだよ。」
「それは…なんというか…ご迷惑をおかけしまして…。」
「はっはっは!そもそもが迷惑だっていうんだったら師匠が死んだことが一番の迷惑だったよ!何で俺との決着付ける前に死んでるんだよ!」
「…そうですか…みんな…幸せだったんですかね…?」
「あん?まあ…みんなそれなりには幸せそうにはしてたよ。困ってたら王様を頼ってただろうしな。」
「…ああ…私がいなくなった後の皆が…すごく心配だったんですけど…そうですか…みんな…幸せだったんですね…。」
「…まあ。全員がどうかはわかんねえけどさ。俺が知ってる限りではさ。師匠が助けた人達はみんなすげえ嬉しそうにしてたよ。」
「そうなんですか…。ああ…。そうなんですか…。」
「泣くんじゃねえよ!」
「泣いてないです…。この涙は…目にゴミが…入っただけです…。」
「…まあいいや。とりあえずさ、オレが言いたいのは。俺も含めていろんな奴が師匠にすんげえ助けられてたんだよ。」
「…。」
「だからよ…あんまり悲しそうにすんじゃねえよ。また俺と楽しく喧嘩してくれよ。」
「…そうですね。私が頑張ったことでみんなが少しでも…幸せそうに暮らしてもらえたんだったら…そんなに嬉しいことはないですね…。」
「ああ!だからさ!また強くなって俺と喧嘩しようぜ!」
「…まあ喧嘩はしないですけど。なんか頑張ろうって気持ちにはなってきました。」
「まあ元気が出たならいいさ。」
「…ありがとうございます。」
「ああ。気にすんなよ。まあ俺も師匠には助けられてるからな。」
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父と母が死んだ。
私はよくわからないけど大人の皆は神様の呪いだって言っていた。
どうして。
どうして神様は私の両親を殺してしまったんだろう。
私の父と母はとても立派な人だった。
朝から夜までずっと一生懸命に働いていた。
私がわがままを言うと叱りつけながらも私のために一生懸命に色々考えて行動してくれていた。
私にはずっと「周りを助けられる大人になりなさい」と言っていたし本人も自分の事よりも他人の事を気にしていたし他人の為にずっと一生懸命に生きていた。
そんな両親がなぜ。
死ななければいけなかったんだろうか。
神様に殺されなければいけなかったんだろうか。
わからない。
何も、わからない。