2人の神様
気が付くと白い部屋で座っていた。ここはどこだろう。
塔から身投げをしたところまでの記憶はあるのでここは死後の世界かもしくは死ぬ前にどこかに連れ去られたということになる。
目の前には若い2人の男女がいる。若いと言っても見た目の話なら私だって若い(はず)なので本当に若いのかどうかはわからないが。
この男女からは敵意や警戒は感じられないのですぐにどうこうされるということはなさそうだ。
そうなるとこの2人は死後の世界の案内人と言ったところか。
そういう威厳や権威とは無縁そうな見た目ではあるので違うかもしれない。
「初めまして、こんにちは。私の名前はメルナ・リードです。あなた達2人のお名前を教えて下さい。」
1000年とちょっとぶりの自己紹介だ。少し緊張はしたがうまく出来たと思う。
「こんにちは。メルナリードさん。僕は…コトと呼ばれています。こちらはミヨさんです。」
「こんにちは。わたしがミヨさんです!お会い出来てわたしはとても嬉しく思います!」
コトさんとミヨさんか。いい人そうだ。
「コトさんとミヨさんですね。丁寧な対応嬉しく思います。質問があるのですが…ここはどのような場所であなた達はどのような役割を持つ人物なのでしょうか?」
率直に聞いてみた。
久しぶりの会話…楽しいなぁ…。
ふとコトさんを見ると何か考え込んでいる
「その前に少しの時間お待ちして下さい」
あれ。なにか気に障ったかな?と思っているとコトさんはどこからか四角い板?みたいな物を取り出して指でポコポコと叩いている。何だろあれ。そもそも何でできてるんだろあれ。
「これでいいかな…?メルネリーさん試しになにか話してみてもらっていいです?」
メルネリーとは誰だ。コトさんは結構うっかりした人らしい。
「なにか…?それじゃあ改めて自己紹介しますとメルナ・リードといいます。メルナって呼んでください。自分の体の好きな部分は長くて青い髪の毛です。好きな食べ物は木の実ケーキで…。あとは何だろう…ドラゴンの効率的な狩猟方法でもお話しましょうか?」
「えぇ…ドラゴンを…?…それも気にはなりますがひとまず会話に問題はなさそうですね。」
うん?なにか問題があったのかな?
久しぶりの会話でテンションが上がりすぎているのかもしれない…気を付けよう。
「それでこの場所と僕たちの役割ですか…。えぇっとどこから話そうかな…?」
「お困りのようですね!こんな時こそ私の出番です!」
コトさんが迷っているとミヨさんが胸を張り助け舟を出すように説明をしてくれる
「私たちは世間一般的に神様と呼ばれる存在なのですよー!」
えっ?
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…まるで時間が止まっているようだ。
メルナさんは目をまんまるに見開いて口をぽかんと開けている。
ミヨさんはドヤ顔ここに極まれりといった表情で、自身が考える威厳たっぷりのポーズで神々しさを演出している。ふははこやつめ。
別に僕が時間を止めたわけではないがこのままでは話が全く進まない。
話す順番を頭の中で整理していたがゴールに話す予定だったものがスタートダッシュ…いやフライングして交通事故を起こしたので改めて思考を巡らせなければいけない。
何から話すかなぁ…
「えーっと、まずは話を整理しましょうかね。」
「ほぁっ?えぇ…はい…?」
「メルナさんはどこまで記憶がありますか?」
「記憶…覚えているのは一人で塔に上って…空を飛んで…」
「なるほどそれ以前の事はおぼえていますか?」
「えーっと…一人になって…世界を旅して…諦めて家を建てて…色んなものを作って…」
「すごいですね。家をご自分で建築できるんですね。」
「そうなんですよ。あの塔も自分で建てたんですよ…ではなくて。」
「私死んだはずですよね?いや…死んだ記憶もなくて気付いたらここにいたんですけど…。」
記憶に混濁はなさそうだ。いや全部おぼえてて最初のあの態度っていうのはなかなか肝が据わっている。
やっぱりこの人すごいな…色々と規格外だ…。
「そう。あなたはあの世界で最後の一人になりその後1000年生きて自分で作った塔から飛び降りたんです。」
「でもここで生きていますね。なんででしょう。」
「厳密にいえばあそこであなたは死にました。そして僕たちがあなたをここに呼んだのです。」
「…なるほど。それで神様だと。」
「いえ、厳密には僕たちは神様ではありません。」
「厳密ではなくザックリ言えば神様ですよ!」
確かにそうなんだけど黙っててくれないかな自称神様。
「…どっちなんですか?」
「…今は僕が説明をしているのでミヨさんはちょっと静かにしてもらえましたら…」
「ふふん。その願い聞き届けよう…!」
腕を組みながら得意げにドヤ顔をする自称神様はどうやらおとなしくしてくれるようだ。
「それでは改めて」
「かみ砕いて説明しますと今ここはメルナさんの世界の物語に出てくる異世界のような場所です。」
「そんなにこの世界は大きくはなくこの部屋と同じような部屋がいくつかある感じですね」
「異世界に神様のような存在それがこの場所で僕らの立ち位置となります。」
「メルナさんがいた場所とは違う世界で、こちらからメルナさんの世界を観測することはできますが基本的に逆はありえません」
「こちらからそちらの世界をある程度かいつまんで観測させていただいていたのですよ」
「そういう意味では神様のような存在であるとも言えますね」
「いえ、全部を見ていたわけではないですよ。基本的に全部を見れるわけでもないです。」
「案外不便ですねって?そうなんですよ、僕らも全て世界を思い通りにできるすごい人なのかと言われるとそういうわけでもないんです」
「世界がそこにあって新しい人類を生み出して観測しつつある程度の調整をするくらいはできるんですけど」
「そもそもが今メルナさんが何を考えているのかとかミヨさんが何を思っているのかすらわかりません」
「万能の力があるならメルナさんの世界が滅びるのを何とかできてたわけですからね。」
「いや…メルナさんの世界が滅びたのはメルナさんの責任ではないと思います」
「メルナさんが一人になった時点でもう確定事項でしたからね」
「色々と一度に話してしまいましたが…何かほかに聞きたいことはありますか?」
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「えーっとつまりはこの世界は異世界で、二人は神様みたいなものってことでいいですかね?」
「そうですね。だいたいはそんな感じです。」
なんか想像をはるかに超えてきたなあ…。
つまりは死後の世界ってことになるのかな…まあ今生きてるからいいか。
これ以上考えるのは色々と危険な気がする。深く考えない方がいい時もあるのだ。
「では質問をさせてもらいますが…」
ここに来た理由はわかった。
だけど
「私はここで何をすればいいんですかね?」
ここに来ることになった理由は今の説明ではわからなかった。
「はい。大変話が早くて助かります。」
「おっしゃる通りメルナさんにやって欲しいことがあってこちらにお呼びさせてもらいました。」
「僕らにはある目的があり新しい世界に人の国を作り人類に長きにわたる繁栄を続けてもらいたいんです。」
「つまりは」
「メルナさんには新しい世界の神様になって世界を創ってもらいたいんですよ。」
「なるほど…そういうことだったんですねえ。」
「それじゃあ引き続いて質問なんですが。」
「なんかミヨさんが美味しそうなもの食べてますけどわたしもそれ食べていいですか?」
「…どうぞどうぞ」