ユニーク
出来そうですかと聞かれてしまったが。
…これは無理じゃないか?
「これを俺と師匠とあんたら二人で倒すのか?流石に…無理じゃねえの?」
あっさりと口火を切ってくれる。まあわたしも乗っかっておこう。
「そうですね…これは個人の強さでどうこうできるレベルではないんじゃないかなと…」
「…まあそうですよねえ。」
私達の「無理」という答えをコトさんは案外あっさりと認めた。
「これが僕達が今直面している問題です。」
そしてその眼には
「僕達だけではどうにもならなかった世界が。今例外が沢山起きて変化しようとしています。」
諦めるという意思は欠片も見つけられなかった。
「例えば。どんな例外が起こればこの問題を解決できると思いますか?」
そしてそんな諦めない様子のコトさんを真正面からにらみつけていたロクスケさんは。
「はっはっは!面白えじゃねぇか!」
不敵に笑い飛ばしていた。
楽しそうに嬉しそうに。
…なにも理解なんてしてないんだろうなぁ。
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二人に恐る恐る質問してみたけど案外二人とも平然としていた。
いや泰然自若としているって感じなのかもしれない。
ロクスケさんはなんだか楽しそうにしているしメルナさんは…いつも通りだ。
「えっと…いくつか質問いいですかね?」
「はいどうぞメルナさん。」
「そもそもちきゅーがなんちゃらって言ってましたけどどういう意味ですか?」
「えーっと。」
そうかまずはそこから説明しなければいけない。
「人類が生まれて生活をする場所で…メルナさんやロクスケさんが生まれた星の事をまず「地球」と言います。」
「地球ですか…」
「そう。そして地球の外…。空の向こうには宇宙というすごく広い空間が広がっています。」
「宇宙…!?」
「えっとイメージとしては海という宇宙があってその中に島という星がある感じですね…。」
「えぇと。宇宙っていうすっごく広い海みたいなものがあってその中に私たちが住んでいる星…地球がある…って感じですかね…?」
「はい!その通りです!それで地球外生命体というのは…」
「なるほど…海を渡って別の…地球みたいな星から来た外国の人…?って認識でいいですかね?」
「おお!やっぱりメルナさんは優秀ですね!」
「えっへっへ…!そんなことないですよぅ。」
「師匠よぉ…おだてられたときには警戒する癖をつけたほうがいいんじゃねえかな…。」
「なっ…。うっ…。ぐぅ…!気を、付けます…!」
どうやら何か心当たりがあるようだ。
「では2個目の質問を…あの『地球外生命体』に…私やロクスケさんが戦いを挑んだところで勝てるわけないと思うのですが…どうして私達をここに呼んだんですか?」
それは…まあそろそろちゃんと答える必要があるか…。
「それに関しては…そうですね…。ミヨさんから説明してもらいましょうか。」
「ほいきたミヨさんですよ!」
今回は予め僕の方からできる限り説明すると言ってあったのでミヨさんはおとなしくしていた。
しかしこの質問に関しては間違いなく僕が答えるよりはミヨさんが答える方がふさわしい。
「実はですねぇ…!メルナさんとロクスケさんにはある重大な共通点があります!なんだと思いますか!」
ミヨさんは指をビシィ!と突き立てて解説を始める。
「共通点…。言われてみると俺と師匠って共通点ほとんどねえよな。」
「確かに…性別も違うし種族も違う…私は長命種のエルフだしロクスケさんは短命種のヒューマンですよね。」
「強えってのは…まあ当てはまらなくはないが共通点ってほどでもねえか。」
「今の私はかなり弱いですしねえ…。」
そういえば弱体化についても聞いた方がいいか、後でいいけど。
「…わかんねえな。ミヨの嬢ちゃん。教えてくれ。」
「ふっふっふ!それはですね…!」
ミヨさんは溜めに溜めて決め台詞のように威厳たっぷりのポーズで答えた。
「固有!!です!!」
えっと…二人ともポカンとしているな…まあ…この説明だけじゃわかんないよな…ただどう説明していいかも難しいんだよな…固有って…
「ミヨさん流石にそれだけじゃみんなわからないと思うので詳しく説明をお願いしてもいいですか?」
「そうですね!メルナさんの固有は『開拓者』でロクスケさんの固有は『超越』で…ふふふ…わたしの固有は何と!『鑑定』なんですよ!」
…説明をしようという気持ちは感じられたのでまあ…いいかな…。
「…仲間外れもどうかと思うので僕のも教えてあげてください…」
「ふふふ…!コトさんは固有の中でも更に特別!『創造』です!」
「…ということで…皆さん分かりました…?」
メルナさん…めちゃくちゃ物分かりいい人だけど…これでわかってくれるかな…?
「えぇっと…要するに…私達は他の人と違う技能だったり能力だったり適正だったりを持っていて…それをミヨさんは『鑑定』する事ができる…ってことになるんですかね…?」
メルナさん…信じてました…!
今の説明でわかるのは本当にすごい。しかもほぼ外してない。
「そう!さすがはメルナさんです!しかもメルナさんはなんとなんと前回のロクスケさん達がいた世界で2個目の固有を獲得していました!」
おっと。それは僕も初耳だ。
「えっ?そうなんですか?…というかそもそも複数所持できるものなんですか…?」
「かなり珍しいですよぉ!そもそも一個持ってる人でもかなり貴重ですからねぇ…!」
「それで…私のもう一つの固有って…なんですか?」
「メルナさんの第二の固有はですね!」
「なんと!『魔王』です!!」
「…………………………はぁ…」
「それじゃあ最後の質問なんですけど」
おお。かなり大胆に聞き流したな。なかったことにしようとしてる…?
「これは…聞くべきか迷いましたが…どうして2万年経つと毎回来るんですか…?」
おお。完全にさっきのやり取りはなかったこととして話を進めるようだ。
…ぼかしてたけどこれはまあ…無理かなぁ…。
僕もメルナさんを習って聞き流そうかなとも考えたが不信に思われても困るしなぁ。
「そうですねえ…。メルナさんは何故だと思いますか?」
「え。えぇっと…。仮説として成り立つのは…。」
「世界が崩壊する度に昔の…地球外生命体?が来てから2万年前の時点での地球に戻っているから…とかになるんですかねえ…。」
「そうですね…。僕達も実は詳しくはわかっていないんですが…まあそういう事なんじゃないかなって結論になりました…。」
「えっと…つまり…。」
「過去に戻れるってことなんですか…?」
そうなりますよねえ。
「なるほど。コトの旦那の固有ってのはそんなにもすげえのか…!」
「いや。僕の力は…そんなに便利なだけのものではないですよ…。」
実際かなり便利ではあるのだが。使い勝手がいいものばかりでもない。
「ある程度不自然な現象を起こそうとすると規律がかなり厳密に規定されるんですよ。」
不自然な現象。時間が戻るなんて言うのはこの上なく不自然であると言える。
「なるほどな。世界を元通りにしようってのはかなり不自然な現象になるわけだ。」
「絶対に同じ時間に。地球外生命体が攻めてくるまでにしっかり猶予がある時間に。寸分違わず戻ってくるってことか。」
「そんでここはさらにその不自然よりもさらに不自然だ。ここだけ時間の流れがおかしい。」
「そんな風に不自然に干渉してるから制限も多いんじゃねえのか?」
「例えば」
「こっちの世界とあっちの世界でやり取りできるのは記憶だけで師匠の体はこっちに来る前のまんまだから体がうまく使えずに弱くなってるとか。」
「こっちの俺の体も作りもんで、例えば一回作ったらもう二度と作り直せねえとか。」
「あっちの世界の俺の体も一回しか作れねえから俺も師匠も生き返れねえとか。」
「まあそんなところか?」
…この人…何も考えていないようでしっかり核心をついてくるな…。
「そうです。まあ詳細は多少異なりますが概ねロクスケさんの言う通りですね。」
「はっはっは!90点ってところか。どこ間違えてたのかも教えてくれよ。」
「『やり取りできるのは記憶だけ』いうあたりですかね。こちらから記憶だけではなく物や肉体を送ることもできます。」
「ただそれ以外は全部…といっていいほど正しいといって差し支えないですね。」
「気になる言い方だな。」
「僕たちも全部を把握しているわけではないということですよ。」
「まあそりゃそうか。どうにも探り探りやってる感あるしな。」
「…お見通しでしたか。」
うーむ。メルナさんとは違った感じの察しの良さだな。
メルナさんはこちらの意図を酌もうとして察してくれるけど。
ロクスケさんはこちらの意図の裏を読んで察してくる。
まあこういう人達が世界を変えていくってことなんだろうね。
「そう。僕達も本当に探り探り…手当たり次第にいろいろと試している段階にになります。」
ここまで来たらしっかり腹を割って話そう。
きっと二人なら全部を話したうえで協力してくれる…はずだ…。
「メルナさん。ロクスケさん。ひとまずこれからの僕たちの目標は有用な固有を持った人達を集めることに定めようと思いますのでお二人にはこれからも協力していただきたいと思っています!」
「…あなたたちこそがこれから世界を変える特異点になってください。」
「それというのも…普通固有を持つ人っていうのはかなり貴重で1回の世界で1人いるかいないか…という程度のものなんですが…」
「あなたたち二人がいた世界では固有を持っている人が2万年で20人もいたのですから。」
「あなた達の固有で僕らを…助けてください。」