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各々に求めるもの

「それで、どれくらい説明してもらったんですか?」

「あぁん?どれくらいっつわれてもなぁ…。ほとんど何にも聞いてねえぞ。」

「ほとんどと言いますと?」

「コトって名前なのと師匠がここにいる事くらいだな。」

「ええ?他には??」

「何にもわかんねえ。そもそもきたばっかりだしなあ。」

「普通気にならないもんですかね…?ここはどこだとかあなた達は誰か…とか。」

「まあそれも気にならねえワケじゃねーんだけどさ。」

…流石にもう少し気にした方がいいと思う。

…まあでもロクスケさんは「強え奴と戦えれば何でもいい」ってタイプだしなぁ。


「…いや。そういや俺もすっげえ気になる事あるから師匠に聞きてえんだけどさ。」

「お。なんですか?」

「なんでそんなすっげえ弱くなってんだ?」

「…なんででしょうね。」


そう。私は今「稽古だ稽古だ」と張り切るロクスケさんに付き合って久しぶりに手合わせをしてコテンパンにされたところだ。

「…ロクスケさんが強くなりすぎてるんじゃないですか?」

「いや…それもあるかも知んねえけどさ」

軽く目を瞑り考え込む。


「どう考えてもそっちもめちゃくちゃ弱くなってる…まず構えからしてぎこちねえし前はひたすら動きに無駄がなかったのに今は無駄だらけだった…一回杖振り回した時すっぽ抜けてたよな。」

噛んで含めるように私の弱さを指摘してくる。

丁寧に私の短所を指摘するのはやめてほしい。

「うぇ…まあ確かにこっちに戻ってからずっと体に違和感はあるんですよね。」

「…こっちに戻ってからか…それじゃ単純に鈍ったんじゃねえの?ずっとダラダラしてたのか??」


「え…そもそも私昨日こっちに戻ってきたばっかりですけど。」

帰ってきてすぐにミヨさんとご飯を食べてたらロクスケさんが来たんだから鈍るも何もそんな時間はない。

「はぁ?こっちはお前が居なくなってから20年以上は経ってるぞ!計算が合わねえだろうが!」

「ああ…。ずれがあるんですよ。こっちの世界とそっちの世界で。」

そういやこの男まだ何も知らないんだよなあ。

私も偉そうに言えるほど詳しいわけじゃないけど。


「ずれ?えぇ?じゃあお前はヘルメスの馬鹿に殺されてすぐこっち来たばっかりってことなのか?」

「そうですねえ…。」


あっ

「あぁぁああああああ!」

「うぉ。なんだよ突然。」

「そういえば!わ、忘れてた!フーちゃんとスーちゃんって!どうしてますか!?わたしがいなくなった後!」

「あぁん?あの竜2匹か。あいつら大変だったぞ。」

「た…大変だったとは…?」

「いや。お前がいなくなってから…家にいるかと思ってお前の城に行ったらさ。あいつらぐったりしててよ。」

「え…それから…どうなったんですか?」


「怖え目でこっちにらむんじゃねえよ!ちゃんと飯食わせてやったよ!近くに生えてたよくわかんねえ木の実も飽きてたみてえだから姉貴に頼んで飯作ってもらって何度か食わせてさ」

「あああああ。よかったあああああ!ありがとうございます!孤独に飢えて死んでたらどうしようかと…えっと…その後もずっと面倒見てくれたんですか?」

「いや。さすがにそれは無理だと思ったから早い段階で「飼い主は帰ってこねえから自立しろ!」っていい聞かせて野生に返したぞ。」

まあ理想を言えば一生面倒を見てもらいたかったが冷静に考えればそれは無理だろう。

そもそもが短命種のロクスケさんよりドラゴンであるフーちゃんとスーちゃんのほうが寿命は長い。


「ああ。よかった…。そうだったんですか…それは大変ご迷惑を…おかけしまして…。」

「いいんだよ。俺が放っといたら後味悪いからってやったことだ。感謝されたくてやったわけじゃねえ。」

ああ。心の底からほっとした。なんだよ!ロクスケさん!いい奴じゃん!

「この恩は…いつか何かの形でお返しできましたら…。」

「はっはっは!そうか。」

ロクスケさんは豪快に笑うとこちらを見て

「それじゃまた俺よりも強くなって俺に稽古をつけてくれよ!」


いい奴だと思ったらなんか無茶振りしてきた。私の感動を返せ。

「えぇ…。」

「楽しみにしてるからな!はっはっは!」

どうやら私は一刻も早く強くならなければいけなくなったようだ。

…どうしようかなあ。



─────────────────────────────


弱くなっちまった師匠には何とかしてまた強くなってもらわなきゃ困る。

師匠がこのまま弱いままじゃ俺が退屈で死んじまう。

せっかく退屈な世界からちょっとばかり面白そうな世界に来たんだ。

師匠には頑張ってもらって俺の楽しい人生の彩りになってもらいたい。

いや。もう死んでるんだっけか?


そもそもが俺は自分の子供(ガキ)に斬られて死んだはずだ。

というかそもそもが師匠はとっくの昔に死んでたはずだから俺は天国にでもいるんかねえ。

しみじみと考えていると昨日俺を何度もぶちのめしたコトっていうガキが顔を出した。

「よう!コトって言ったか!お前も稽古に交じりたいのか?よし!いっちょ組み手でもしてやるよ!」

「二人ともここにいたんですね。みんなで大切な話があるので食堂に集まってください。」

「まあまず一回くらい組み手して行ったらどうだ!」

「組み手はしません。それじゃあ待ってますよ。」

ちぇ。組み手しねえのか。

まあまたいつでも機会はあるだろう。

「それじゃ私は自分の部屋に行って着替えてきますね。」

「おう。」

そういうと師匠はそそくさと部屋を出て行った。

まあ俺も着替えて食堂に向かうとするかね。


迷った。

人生の歩む道を決めかねてるとかじゃなくて単純に迷子になった。

食堂に向かおうと外に出てそういや食堂の場所がわかんねえなと思い至りまあいいやと適当に歩いていたらこのざまだ。

まあウマイノシシも迷い迷って大きくなるというし適当に迷子になりながらふらふら歩いてみるかと思っていたら急に死角からちっせえ女に手をつかまれた。

「もう!眼帯さん!迷子になっちゃだめですよぅ!他のみんなもう待ってるんですからね!」

「ん?ああ。悪かった。迎えに来てくれたのか…えっと」

昨日師匠と一緒にいた女だ。名前は…なんてったかな。

「はい!ミヨさんが迎えに来ましたよ!ごはんが冷めちゃうので急ぎます!」

「ああ。ミヨだったか…おぼえた…まて!引っ張るな!速いって!」

なんだこの女!めちゃくちゃ速えし力も強ええ!

結局あっという間に食堂まで引っ張られていった。

「お。ミヨさんおかえりなさい。ロクスケさん捕まりました?」

「捕まえました!ほら!」

ぐったりしている俺をミヨって女は虫みたいに片手で掴んで持ち上げる。

「うふふ。ロクスケさん虫みたい…!」

「さあ!みんな揃ったのでご飯の時間ですよ!」

俺はまた引きずり回されては敵わんので慌ててイスに座る。

テーブルの上にはうまそうなよくわかんねえ料理がたくさん並んでいた。

「さてミヨさん。ロクスケさんを連れてきてくれてありがとうございます。」

「いえいえー!それは言わないお約束ですよ!」

「…それではロクスケさん。まずは簡単にこの場所と僕たちについて説明を…それじゃあせっかくなのでメルナさんからお願いします。」

「ふぉあ!私ですか??」

「はい。今回のことで色々分かったこともあるのでその報告も含めてお願いします。」

どうやら師匠から話してもらえるらしい。

…難しそうな話だったら適当に聞き流しておこう…。




─────────────────────────────


「ということで。私たちは神様…?のような存在としてずっとみんなが幸せに暮らせる世界を作るのが目的になります。」

「ふぅん。まあだいたいわかった。」

本当かなぁ。口もごもごさせて。


ロクスケさんはメルナさんが話している間食事を食べながらずっとぼんやり上の空だったように見えた。

「まあ要するに俺がここに呼ばれたのはつええ奴が出てきてどうにもならなかった時にそいつをぶちのめせばいいってことなんだろう?」

「えっ?」

「まあ師匠…メルナって名前だったか…が呼ばれたのは知識だったり経験だったりを生かして世界をよりよくするためって感じなんだろう」

「…まあ。そうですね…?」

「だがそれだけが仕事だったら俺が呼ばれる理由がねえからさ。なんか他に仕事があるんだろう?」


なるほど…この人何にも考えていないようで結構勘がいいというか結構色々考えてるんだな…。

「半分正解。半分不正解ですね。」

「あぁん?」

「僕がロクスケさんに求めている物はその腕っぷしだ。というのはまあ正解ですが「知識や経験」を新しい世界の人たちに伝えてほしいということなので僕がロクスケさんに求める物はメルナさんと概ね同じですよ。」


そう。そしてメルナさんに来てもらった理由とロクスケさんに来てもらった理由は。

実はほとんど同じ理由だった。


「よくわかんねえな。結局俺になにをしてほしいんだ?」

「現状の打破ですよ。実は僕とミヨさんはずっと困っていることがありまして。」

「って言われてもわかんねえよ。わかるように言ってくれ。」

「わかりました。それじゃあ時間もちょうどいいので見てもらったほうが早いでしょう。」

そう言って創造端末を取り出し少し大きめのディスプレイを出す。


「うぉ!なんだこれ!板?絵が描いてあんのか?」

「ふふふ!ロクスケさん!これは『でぃすぷれい』ですよ!これでロクスケさんたちが住んでいた世界をのぞいてたのです。」

「あぁん?」

「そう。メルナさんが言ったようにこの機械でロクスケさんたちの世界を覗けるのですが…ロクスケさんたちの世界も生まれてからもうそろそろ2万年が経ちます。」


「えええ?そんなに???」

「メルナさんが作った世界はとっても優秀だったのですねぇ…!私が作った世界は1万3000年で終わっちゃいましたよぉ…!」

ミヨさんがじっとりとメルナさんを見ている。というか今回の世界はミヨさんの提案で作られた世界なんだからミヨさんの手柄でいいと思うのだが…まああとで言っておけばいいか。


「話を戻しますね。僕やミヨさんが作った世界もこの2万年経過までは何度かたどり着いてはいるんですがこの先はまだ一度も見ていません。なぜなら」

ディスプレイに映像が流れる。

どうやら2万年経過して訪れるべき未来が訪れているようだ。


「2万年経過したこの世界には。例外なく地球外から侵略者が現れてこの星をめちゃくちゃに破壊してしまうからです。」

そう。僕が彼らに求めているのは。

宇宙人を打倒しうる人類の育成である。


「ロクスケさんとメルナさんにはゆくゆくはこの地球外生命体たちから地球を守ってもらいたいんですけど…できそうですか?」

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