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私は帰ってきた

気が付くと白い部屋で座っていた。ここは…

ここは…なんで…私はこんなところに座っているんだろう。


「ああ。おかえりなさいメルナさん。」

コトさんが私に優しく話しかける。


「メルナさんお帰りなさいー!おせんべいとケーキどちらが食べたいですか?」

ミヨさんが無邪気に質問してくる。


「えぇっと…それじゃあ…おせんべいで…」

「はい!どうぞ!目の前に沢山ありますよ!」

促されるままにおせんべいを手に取る。しかしあまり食べる気にはなれない。


「えっ?わたし。どうなったんですか?」


…二人は顔を見合わせてしばらくじっと黙り込んだ。

「では僕からお話します。…まあだいたいお察しの通り。あの世界でのメルナさんは…死んでしまいました。」


ああ。…そうか。…やっぱり…。


「私が…私が悪いんです…。いう事を聞かなければ…。」

「…相手が堂々と戦う相手であるならメルナさんはきっと負けなかったんでしょうね…。」

「あんなことになるなんて…かわいらしい人で…ヘルメスさんの奥様で…目と耳をふさいでって楽しそうに言われて…なにか…楽しいことがあるのかって期待しちゃった私が…悪くって…。」


「…ひとまず…落ち着いてください。おせんべいはいっぱいありますし…ミヨさんがいれてくれたお茶もあります。」

「メルナさん。まずは…お腹いっぱい食べましょう?」

「わたし…」


「あの世界に…もう戻れないんですか…?」


コトさんに聞きたかったことを質問した。

でもこの質問をするのは少し怖くて。

返事を聞くのはもっと怖かった…。


「…戻れません。」

コトさんは…言葉を選んで…絞り出すように答えた…。


「そう…です…か…」

あれ?まずい?あたまがまっしろになる。


「一度移動して死んだ世界へは…どんなことがあっても戻ることはできません…。」


「えっ…でも…わたし…まだあの世界でやらなきゃいけないことがたくさんあって…」

「フーちゃんとスーちゃんに…ごはんあげないと…いけなくて」

鬼人族(オーク)の人たちは…私の為にお酒をたくさん作ってくれるって…」

「ロクスケさんも…わたしにそろそろ勝てそうだからって…」

「ああ…ああ…」

「他にも…私色んな人と約束をしていて…」

「わたし・・・どうしたら・・・いいんですか・・・」


「まずは…そうですね…お疲れなので…美味しいご飯を食べて…沢山寝てください…」

「…はい」

「それで…。目が覚めたら…またお話をしましょう…。」

「…はい」


コトさんに言われたのでご飯を食べよう。

しばらくぼんやりとしていたらミヨさんが食事を持ってきてくれた。

「お待たせしました。メルナさんの大好きなオムレツカレーですよ!」

「あ…ありがとうございます…。」

「あとはサラダとスープとお茶と…食べ終わったらケーキも持ってきますね!」

「はい…。」


「ふふふ。私もここで一緒に食べてもいいですか?」

「えっ」

そういいながら自分の分の料理をもって私の向かい側にミヨさんが座る。

「私も用意してたらおなか減っちゃって…久しぶりにメルナさんと一緒にご飯を食べたくなりました!」

「あぁ…どうぞ…わたしも…ミヨさんと会いたかったです…。」

「うふふ!嬉しい!それじゃあご飯食べましょ!」


ミヨさんが美味しそうにオムレツカレーを口に運ぶ。

「美味しい!」

ミヨさんが美味しそうに食べるので私もつられてスプーンですくった卵とカレーとご飯を食べる。

「…おいしい。」


口いっぱいに卵のまろやかさとカレーの心地よい辛さが広がる。

「美味しいですよね!私もこれ大好きです!」

「はい…とっても美味しい…です…?」


突然。眼から流れた涙がぽたりとカレーの上に落ちた。

「あれ…?」

流れ出したら止まらなかった。ここまで泣かずに耐えたのに。

「ああ…ごめんなさい…止めます…」

わたしは目を押さえようとする。


しかしそれよりも先にミヨさんがその場でくるんと回転して立ち上がりギュンッとこちらに突っ込んでくる。

「とぅ!」

「うぉあ」

避けようとしたけど避けられなかった。

組み伏せ…られたかと思ったら私はミヨさんの胸の中に抱かれていた…。


「ふふふ。ようやく泣いてくれましたね…メルナさん。」

「ええ。ミヨさん。だめですよ…涙も…そうだし口周りも…汚れて…。」

「いいから!まずは涙を全部出しちゃいましょう!」

「えっ。ええ?」

確かに涙は止まらないがそうしたらミヨさんの服が汚れてしまう。


「うわっあ、あ。」

「よしよし」

「でもミヨさんの服…が…」

「洗えばいいです」

「でも…ああ…わたし…みっともない…」

「みっともなくないです」

「うぅっ…ああぁ…迷惑に」

「めいわくじゃないです」

「ああっ…あああ…」

「うえぇぇああああわああああああああ…ああああああああぁ…」

自分でも驚くほどたくさんの涙が流れてきた。


「よしよし」

ミヨさんは私の頭を撫でてくれる。

その手はとてもやさしい。


「ああああぁ…みんな…あの世界にいた人たちは…とっても楽しそうで…」

「そうなんですね…」

「でもたまにつらそうにしている人たちもいて…だから私頑張ってぇ…ええぇえぅ」

「頑張ったんですねぇ」

背中もポンポンしてくれる


「私…ずっと一人で寂しかったからぁ…最近はお友達もできてぇ…」

「うんうん」

「いろんな人たちが頑張ってたから…わたしも頑張ろうって思ってぇ…」

「メルナさんはずっと頑張ってましたよねぇ」

「でもぉ…でも…ぉ全部…わたしのせいで…もう…ずっと…会えなくてえ…。」

「それは…寂しいですね…」


「そぅなんですよぉおおおお…わたし…もう会えないって…すごく寂しくて…あああああぁん」

もう鼻水も涙もいろんなものが止まらない

「寂しいですね。メルナさん。大切な人にもう会えないのって寂しいですよね…。」

「うえええぇ。あぁあああああん。寂しい…いやぁ…また…会いたい…よぅ。」

「会いたいですよねえ…ごめんね…ごめんなさいね…メルナさん…。」

「うえええぇ。ミヨさんのせいじゃないですよぉおお。」

「私が…メルナさんをあの世界に送らなければ…この世界に呼ばなければ…」

「あぁあああああん。ミヨさぁん!違いますよぉお!それはぁ…違いますっ!」


それは違う。断じて違う。

「私は…ずっと一人で寂しかったんです…だからこの世界に呼んでもらえて…あの世界に送ってもらえて…とっても…楽しかったです!」

一生懸命に鼻をすすりながらミヨさんにはっきり言ってやる。

よく見たらミヨさんも涙で顔がぐしゃぐしゃだ。


「この世界に来たことは後悔はないです!ミヨさんとコトさんも大好きです!そして送ってもらったあの世界の人たちも大好きで…だから今はちょっと辛いけど…送ってもらわなければよかったとは…絶対に思いません!」

「そうですか…?」

「そうですっ!わたしが…ふがいなくて…全部終わっちゃって…申し訳なくて…!」

「メルナさんはふがいなくないです…!メルナさんはすっごく強くて…すっごく優しくて…!」


その後も二人でわんわんと泣いた。


泣きながらいろんなことを話した。

石斧を振りながら家を建てていた時の事だったり。

いろんな場所に最初の集落を作っていた時の事だったり。

私が山の上に城を建てていたことだったり。

その城にあの4人組が来た時の事だったり。

その後にも彼らが城を訪ねてきたときの話だったり。

フーちゃんとスーちゃんについての話だったり。

色んな人達に親切にしてあげた話だったり。


話終わってようやく涙が止まったときには食事はすっかり冷めていた。


でも冷めたカレーを二人でニコニコ笑いながら食べたらなんだかすっごくおいしかった。

残った食事を二人でたっぷり平らげておなか一杯になったところにミヨさんがデザートのケーキも持ってきてくれて。

二人でお腹が苦しい!と悲鳴を上げながらケーキもちゃんと食べきった。


「ふぅ…お腹いっぱいです…」

「く…苦しい…食べ過ぎちゃいましたね」

「悲しい時にはお腹いっぱい食べる!と偉い人が言っていたそうですよぉ…。」

「ケーキは…やめておいた方がよかった気もします…。」

「でも…ケーキは食べないとだめですよぉ…」

「そうですねぇ…」


食べ終わって二人でゴロゴロとしている。

いっぱい食べておなか一杯になったら少しだけ眠くなってきた。

「あー。美味しかったですねぇ。」

「そうですね。やっぱりここのご飯はとっても美味しいです。」

「でもでも。メルナさんが作った料理もすっごくおいしそうでしたよ?」

「え?そうですか?私自分で作ってもここの料理のおいしさを思い出して敗北感ばっかり感じてましたよ?」

「うふふ。私が作ったご飯をそんな風に喜んでもらえてうれしいです。」

「…え?ここの料理って全部メルナさんが作ってたんですか?」

「そうなのですよー。は…コトさんも自分の分は結構自分で作ったりもするんですけど放っておくとおんなじものばっかり食べるので基本的には全部私が作っているのですー。」

「へえぇ!ミヨさんの料理だっただなんて恐れ多い…!」

「えっへん!よきにはからえ!」

「ははぁ…!今度わたしも作って皆さんに食べてもらっても…いいですか…?」

「ぜひぜひ!うわぁ!メルナさんのご飯楽しみだなぁ!今度といわず…明日また作ってくださいよ…!」

「えへへ…ミヨさんみたいに美味しくは作れないですよ…?」

「それじゃあ二人で美味しいご飯をいっぱい作りましょう!」


「そいつぁ。いいな。俺も師匠の飯がずっと食いたかったところだ。」


「え?」


「よぅ!師匠!久しぶり!…なんかちっさくなったか?」


そこにはもう行けない世界でもう会えないはずの…眼帯を付けた男が…

コトさんの隣で…私が知っているより少しだけ年齢を重ねた状態で立っていた。

先日初めてのいいねとポイント評価をいただきました!

励みになりますありがとうございます!

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