パンダ☆ナイト
最初に目を付けたのは隔世と現世で通信ができるということだ!
こちらとあちらで情報を行き来させられるということはこちらからシグナルを送ればあちらで自由自在に動くことができるのではないか!
その推論をもとに手駒たるパンダナイトちゃんを送り込む計画は始まった!
が!想像以上に難航しちゃってこんなにも遅くなっちゃった!悲しい!
まずは最初に勿論コトちんに聞いてみたんだよ!
二つの世界をどうやってつないでるのかって!
わくわくしながら返事を待ってたらさ!なんかうんうん唸った挙句に「よくわかっていないんですよねぇ…」ですってよ!
なんでよ!
科学ってのぁそういうもんじゃないでしょうよぉ!
と考えてから…いや…なんとなくできちゃってそれをなんとなく使って行っちゃうのも科学だよなぁと納得した!
とはいえだよ!二つの世界をつなぐこの謎の技術はどうにも応用が効かないってことだよ!
現状音と光が送れていてそれをどうにか『私』に変換出来たらなあと考えて考えて。
ああそうだ別に私自身があっちに行く必要はないんだなと!
そりゃあね!ロクスケちゃんとかメルナママとか直接戦う人たちは直接言ったほうがいいんだろうけどさ!
私には碌な戦闘能力はないんだからああでもないこうでもないって最悪いつまでたってもあっちに直接行けないよりかは…!
「この姿でこっちに来ることを選んだんだよ!」
「なるほどなぁ…。」
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ロクスケさんはよくわかってなさそうだった。
そういう顔をしている。
まあ私も分かってないし当然と言えば当然だ。
「そして!光をこちらに送り込むことでだよ!それらをデジタル信号に変換して!それをもとにこの体のジャイロ機構やラックアンドピニオンを利用してだね!」
「まあ詳しい説明は後にしておこうぜ。今は速度優先だ。嬢ちゃんにやってもらう事だって山ほどあるんだろう?」
「おっとオットそうだったね!この私によるシン・魔王城の最終調整が必要になるしみんなにやってもらう事も説明しないといけないからね!」
「…はぁ?」
どうやらグィネヴィアさんにとっては初めての体験だったらしく口がぽかんと空いてしばらく固まった後にようやく声が出たようだった。
「あたしはそれなりに長く生きてるけど…」「3000年でしたっけ」「うるさい。こんなに小さくて好き放題動く兵器をあたしは知らないぞ。…いつの間に連合軍はこんな訳の分からない兵器を完成させたんだ?」
「ははは。大魔女グィネヴィア。それは連合国の技術によるものでもないぞ。僕にもさっぱりだ。」
あれ?連合国の技術ならあれくらいは簡単に作れるんじゃ?
「僕が運転した飛行機といい…彼らは僕等と比べても技術力は圧倒的に高いはずだよ。悔しいけれどね。」
そういうものなのかぁ。…よくわかんないけど科学の世界でも色々とあるらしい。
「取り立てて。そこのメルナ嬢が使っている『電気』という代物はどうやらとんでもないポテンシャルを持っている物らしい。」
ヨハネさんの発言を受けてこの場にいるほぼ全員が一斉に私の方を見る。
ええ?…急に私の方を見られても…!
私が使っている電気の魔法が特別なものだと言われても…私にはよくわからない。
あれってびりびりして動けなく出来るから便利だけど…それが今のシロクロちゃんとどう関係しているのかはわからない。
「…え?なんですか?みなさん…目が怖いですけど…。」
「そう!ここの文明っ!科学力ぅ!は高度に成長してはいるものの…『電力』と『モーター』が無いからね!これ一つ放り込むだけでガラッとこの世界は変化を遂げるはずだよ!」
そこまでなの?
私には何一つ理解できない。そもそも『もーた』ってなに?
ひたすらに何もわからないまま注目を集めたので反応に困り…ちらりとロクスケさんの方を見ると…。
腕を組み堂々と目を閉じていて…。
ああ。よくわからない話ばっかりだから寝ちゃったのか。
「現状電気を使った駆動システムを把握している人がこの場だとシロクロさんだけになるんですよね…。」
コトさんは複雑そうな顔をしている。
え?コトさんが一番詳しいんだからコトさんが全部担当すればいいのでは?と思ったけどまあ他ならぬコトさんがシロクロちゃんの方が適任だっていうんだったらそうするのが正しいんだろう…。
ちょっと不安ではあるけど…。
「うにゃはは!みんな私の言うことを聞いてくれれば全部何の問題もないからね!なにせもう8割以上は完成してるんだから!」
こうしてシロクロちゃんによる魔王城の改造計画が始まった。
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「だめだぁ!だめだだめだぁ!おしまいだぁ!」
こうしてシロクロちゃんによる魔王城の改造計画は頓挫した。
…いやまだそんなに時間たってないけど…。
パンダのぬいぐるみのようなシロクロちゃんは仰向けになってジタバタと駄々をこねている。
「なんでだよぉ!なんでみんなこんな簡単なことがわかんないんだよぉ!優秀なエンジニアなんだろうがよぉ!」
わざわざ私のところに来たということはきっと愚痴を聞いてほしいのだろう。
「うーん。シロクロちゃんにとっては簡単なことなのかもしれないけど…この世界の人たちにとっては全く知らない初めての事なんだから仕方ないんじゃないの?」
「あいつら!私がこんな風にちんちくりんだから舐めてんだよ!うえええん!まだ操作慣れてないからたまに転ぶんだけどさ!後ろについてるカメラで見たら笑ってるんだ!ひどいよ!」
「それは…想像するととっても可愛らしいね…。」
こんな可愛らしいぬいぐるみがよちよちと歩いてて何かにつけてこてんと転んだらそれは微笑ましいだろう。
そしてそんな可愛らしいぬいぐるみが自分が理解できないような高度なことを言っていたところで上手く飲み込むのも難しいだろう。
「パンダは可愛いのは自然の摂理だからしょうがないよ!百歩譲ってね!でもさ!だからといってさぁ!」
パンダの中で何かが動いているらしくギュイーーンと高い音が部屋に響く。
「こうなったら前の世界みたいにみんな私の思い通りに改造して…!」
「それはだめ。」
「うわぁああん!そうだよねぇ!そもそもあれやったのは私じゃないしぃ!やらないしぃ!」
「…はぁ。メルナママの美味しいご飯が恋しいよ…!」
「そうだね。今回の事が落ち着いたらみんなでおいしいご飯いっぱい食べようか。」
「…いっそ本当に体ごと来れたらよかったのになぁ…!不便でしゃあないよぉ…!」
「シロクロちゃんは本当だったら来れなかったんだもんね…。でもそんな可愛い姿だけどシロクロちゃんが来てくれて私すっごくうれしいけどなぁ。」
「…私もメルナママに久しぶりに会えて嬉しいけどさぁ…!」
「シロクロちゃんは『狂想』があるし色んな事を知ってるから簡単だって思うのかもしれないけどね。連合国の人達は…一生懸命に知らないことを理解するので手一杯なんじゃないかな。」
正直なところシロクロちゃんが何を言っているのかは私にはわからない。
連合国の人達も優秀な人たちが揃っているとはいえ、シロクロちゃんほど理解力が高くはないだろう。
「でもあいつらぁ…!」
「それじゃあ…どうやったら理解してもらえるかをシロクロちゃんが精いっぱい考えてみたらいいんじゃないかな?シロクロちゃんならきっとできるはずだと思うな。」
「うむぅ…!」
考え込んでしまった。
…現状。
魔王城の改造に関してはシロクロちゃんがほとんど取り仕切っているらしい。
色んな計画をシロクロちゃんが立ててそれを受け取ったコトさんが代わりに指揮を執っていたらしいが…。
今回のこの世界でのいろんなことをコトさんに頼りすぎているしシロクロちゃんが頑張ってくれるとコトさんの負担も少しは減ってくれるし嬉しいんだけどな。
「よし…!もうちょい…!頑張ってみる!」
「うふふ。頑張って。」
駄々をこねていたシロクロちゃんはのそのそと立ち上がり…部屋を出ていこうとしたところ。
扉の外から話しかけるタイミングをうかがうメリダさんと目があった。
「メリダさん…シロクロちゃんをよろしくお願いしますね。」
「え…ええ!もちろんですとも。ただ…その…シロクロさんの見た目があまりにも可愛すぎてしまい…申し訳ありません。」
ぺこぺことお辞儀をするメリダさんを見る限り…今後はきっと仲良く協力できるんじゃないかなという気がした。
「ところで…マスターメルナ。コト様の姿がどこにも見当たらないのですが…何か御存知でしょうか?」