エッホラサッサ
俺達ぁ愉快な魔王軍
野を越え山越えエッホラサッサ
俺達ぁ建てるぞ魔王城
木を薙ぎ倒して土慣らし
トンテンカンテン作るのさ
戦士も兵士も魔導士も
全員シモベにしてやるぞ
3食おやつに昼寝付き
お腹いっぱい食べれるぞ
ケーキにカレーにハンバーグ
いっぱいいっぱい食べれるぞ
僕も私もあなたも君も
明日にゃきっと魔王軍
さぁさみんなでエッホラサッサ
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地鳴りのような音で目が覚める。
…うるせえなあ。
色んな音が聞こえてくる。
ガタガタだとかキュルキュルだとかガンガンだとかドンドコだとか。
身体はまだ寝たがってたが目を閉じてても寝られる気がしねぇ。
目を開いて身体を起こす
…というかよくこんなうるせえなか寝てたな俺。
それにしても…変な夢見たな。
気が付けば室内に担ぎ込まれていたようでちゃんとしたベッドの上で寝かされていた。
どこだ?ここは?
少しだけ警戒するがなんも拘束もされず傷の手当てもされててすぐそこには食事も用意されてる。
まあ師匠やら大将やらが作った部屋ん中だろうと予想はつく。
ぐっと軽く伸びをして体を捻る。
ぐぉぁ…痛ったぁ…。
…こりゃ思った以上に身体はボロボロだなぁ。
体のあちこちを痛みに耐えながら一通り伸ばしていく。
よく考えたらこっちきてからほとんど毎日体中ボロボロだな。
ただ今回はぶっちぎりで酷えな。
よく生きてたなぁ。
完全にあのまま死んでてもおかしくなかった。
戦う前から消耗してたが「それさえなければ」とかそんなレベルじゃなかった。
少なくとも俺の全力を出した。
その上で完全無欠に惨敗だったわけだ。
…ゲントクにも最初はボロボロに負けたけど今回のはさすがにちょっと堪えるな…。
俺はどこまで強くなれば勝てるようになるんだろうな。
まあぶつくさと落ち込んでても仕方ないので用意されてた飯を食う。
干した肉と野菜を挟んだサンドイッチと…お。あんぱんだ。
水差しから直接水をグイっと飲んでサンドイッチを少しずつ食べ始める。
がつがつと食いたいところだが限界を超えて動きまくったせいでのども胃腸もやられてるので少しずつしか食べられねえ。
…うめえな。
甘じょっぱくて大味な感じは師匠の味付けだな。
干し肉は固いが薄く切ってあるからかみちぎれねえことはない。
白っぽい黄色っぽいソースがちょこっと酸っぱくて食欲をそそる。
野菜もシャキシャキしてうめえけどこの世界はほとんど野菜ねえはずなのにどうしてんだろうな。
沢山用意してあったのをもそもそと食べてるとコンコンと扉をたたく音が聞こえる。
「失礼いたします。Mr.ロクスケ。起きていらっしゃいますか?」
「ああ。起きてるよ。」
「メリダです。ヨハネの秘書の…お入りしても?」
「ああ。」
「お食事中でしたか、大変失礼いたしました。」
「いいよ。俺も聞きてえことはいくらでもあるし。」
「質問ですか。私に答えられることでしたらなんなりと。」
「そんじゃ聞きたいんだが…ここはどこだ?」
「ここですか…。ええと。そうですね。」
場所を聞いただけだがメリダは困ったみたいに目線を泳がせている。
「ええとそうですね。客観的な事実をお答えさせていただきますと。」
「我々がいるのはマスターメルナが創りそして改造された魔王城であり…。」
「現在我々は連合国の領地とギルド領地のちょうど境目あたりを魔王城を作成しながら進行しているところになります。」
「…はあ?」
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移動を始めたらしくまた大きな音が鳴り始めた。
自分でも驚くほどぐっすりと寝ていたが流石にそろそろ起きるとしよう。
ここに来るまで数日間ほとんど眠れず、ほとんど戦い続け、気の緩みが許されない状況だった。
安心して眠れると言う事が単純にとても嬉しい。
さて。
ぐっすりと寝てすっきりとした頭を動かしていこう。
現状整理するべき情報があまりにも多い。
あたしがよくわからないうちにいろんなことが勝手に進行していて、あたしもいたあの場所でもあたしが分からない事ばっかりだった。
一つ言えるのは…空を飛べる乗り物なんてのがあるとはとても思わなかった。
今あたしたちがいる場所もそうだ。
簡単な説明を受けただけだがどうやら今のあたし達は『動く城』の中にいて移動を続けているらしい。
改めて、メルナ達はあたしの知らない世界から来たんだと痛感する。
あたしはどうするべきなんだろう。
ギルドのみんなを守る為にやるべき事をやるのは変わらないが…
今現在どう言う状況なのかもよくわかっていない。
「大魔女グィネヴィア。ごきげんよう。迎えにきたわ。」
「イゾルデ…あぁ。イゾルデ。おまえ…よかったなぁ。」
「流石に死んだと思ったわ。今でもなんで生きてるのか不思議なくらい。でもね。体はとっても元気。」
「あぁ。そうか。嬉しい…。すっごく嬉しいよ。」
大切な仲間をまた失う所だったが今回は誰一人欠けずに済んだ。
「だめよ。大魔女グィネヴィア。そんな顔をして。まだ戦いは終わってないんだから。」
「…ああ。そうだな。」
あくまでも急場を凌いだだけであり大切なのはまだまだこれからだ。
「着いてきて。ロクスケ様の目が覚めたから集まって話し合うらしいわ。」
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「皆さん集まっていただきありがとうございます。」
「皆さんといっても全員に集まっていただいたわけではなく僕、メルナさん、ロクスケさんとグィネヴィアさんにヨハネさんの5人で話し合いの場を作らせていただきました。」
「他の方たちはそれぞれに役割を果たしています。」
「ええ。もう事態は完全に動き出しているので。あとは相手が体勢を立て直す前にやりきるのみです。」
「もちろん更に進んでいけば対応するべき事象や倒すべき敵との戦いはあります。」
「ですが…。現状こちらが完全に優勢ですので。このまま主導権を相手に渡さず勝ち切ってしまいましょう。」
「先ほどの戦いでのロクスケさんとメルナさんの活躍が大きいですね。」
「メルナさんのラクネ奪取もそうですが…現地への移動やイゾルデさんの救助。そして強敵相手に何もさせず情報を持ち帰ったロクスケさんは個人的にMVPですね。」
「グィネヴィアさんを始めとしたギルドのメンバーを保護できたこともですが、敵の主力の内の一人であるラクネを捕縛できたことが決め手となりました。」
「アスラと呼ばれる存在がロクスケさんを圧倒する程の強敵であることも事前に把握できていなければかなりの脅威でした。しかし能力の傾向を把握できれば対策が打てます。」
「そして『英雄願望のハガネ』でしたか。そうですね。現状この二人と…詳細不明の…ナナホシさんもいましたか。」
「彼らはもちろん脅威ではあります。」
「脅威ではありますが。」
「我々にとって一番の問題が敵の集団洗脳の能力者だったのでそれを確保してしまえばあとはメルナさんの力で全力で外堀を埋めていくだけで勝てます。」
「その他全てを支配してしまえば例えばその三人…それに加えてセンゴクのゲントク及びダイミョウが残ったところでどうすることもできません。」
「強力な敵に関しては…僕も戦います。全力で。」
「正直なところ僕とメルナさんとロクスケさん。この三人がいて負けるというイメージは難しいです。」
「更には連合国の優秀なブレーン達やグィネヴィアさん達の樂団を十全に利用できればほぼ確実に勝つことができる…。」
「いえ、もちろんまだまだ油断は禁物です。」
「しかし攻略までの目途は立ちました。」
「ここからは更にメルナさんの負担は増えるとは思いますが…他の皆さんもサポートをお願いします。」
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なるほど。
思っていたよりもかなり有利な戦況であるらしい。
私はみんなでヒコーキで帰ってきてからロクスケさん達が目覚めるまでずっと料理を作り続けている。
そう。なんと現在のこの会議も魔王城内のキッチンで行われている。
みんなで私が作る料理の下ごしらえや材料を保管庫から取り出したり食器の準備をしながらコトさんの発言を聞いていた。
そのコトさんも口では作戦の事を話しながらもずっとホイップクリームを泡立てていた。
ロクスケさんに至ってはなんか分身してるんじゃないかって程色々な雑用をこなしている。
本当に便利だなこの人。
ここにいない人達は『魔王城』の改築に関して奔走しているようだ。
連合国やコトさんが中心になって作られた『魔王城』ではあるが…どうやらギルドの魔法技術もどうにか組み込み更に性能を上げるらしい。
すごいなー。
「あとは…そうですね…。報告しておくことがあるのですが…。なんと言ったらいいか…。」
これまでずっと淀みなく話し続けてきたコトさんだったがここにきて言葉に詰まっている様子だ。
「報告しておく事?なんだい?なにか問題でもあったっていうのかい?」
グィネヴィアさんは唯一ほとんど働いていない。
しかも味見と称して色んな物をつまみ食いばかりしている。
さっきはコトさんのホイップクリームもぺろりと舐めて「甘味が足りないんじゃあないかい?」と言っていた。
ほんとにこの人は…!
「いえ。新たに協力者が一人この場に加わるのですが…。」
とその時。キッチンの扉がキィと開いた。
「お待たせだよ!ついにこの時が来た!にゃはは!!」
うん?この声は…。
と扉のほうを見るも…あれ?誰もいない?
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ!空は轟き!大地はうねる!」
いや…下の方から声がするな…。
「主役は遅れてやってくるもの!諸君お待たせしたね!」
ずいぶん低い位置でくるくると回っている…その姿は…。
「訳あって名前は言えないが!パンダナイトと!私の事はそう呼んでくれ!」
…パンダのぬいぐるみのようなシロクロちゃんがびしっと天井を指さしてポーズをとっていた。
遂にシロクロちゃん参戦かあ…楽しくなりそうだなあ。