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限界

私の人生というのはいつだってそうだ。

気が付けば最悪に近い状態になって。

そんな状態になってそれじゃあこれを何とかしてくれと放り投げられる。

誰がそんなものを放り投げてくるのかと聞かれると難しい。


神様が放り投げてくるんだと昔誰かに聞いた気がする。

誰だったか思い出せはしないけど。

私は今神様としての仕事を頑張っている。

一応神様をやっているがそんな酷い仕打ちを他人にしたことはない…はずだ。


他のコトさんやミヨさん。ロクスケさんやシロクロちゃんもそういうことはしないはず…。

いや。シロクロちゃんはそうとも限らないか…。

むしろ最悪をどんどん作って放り投げるタイプではある。

…優しい子なんだけどね。


ただまあこの現状がシロクロちゃんが放り投げてきたかと言えばそうではないし他の誰のせいでもない。

…それじゃあ私たち以外の神様がいてその神様のせいなのかもしれない。



「なあ!メルナ!動きを止められないのか!あんたの固有魔法そういうの得意だろう?」

「何度か試してみました!ダメです!あの人たちそもそも意識がないですよ!意識失わせても動くのを止めようがないです!」

「ああもう!時間稼ぎしかできないじゃない!鳴らすは幅音(コード)!音色は青緑(ビリシアン)!」


私達は急にむくりと起き上がった『英雄』達が一目散にこちらに襲い掛かってきたのを何とかしている最中だ。

先ほどまでとは違って意識はなく、動きは完全に別物らしい。

みんな気を失っていたらしいのがガクンと一斉に動いてこちらに襲い掛かってきたのだ。

目は虚ろでこちらを見ているのか見ていないのかわからないが動きは洗練されている。


あらためてこの世界の人達の戦闘能力は著しく高い。

センゴクの人達が前線に出て振るう武器はあまりにも鋭い。

連合軍が連携を取り兵器で以てこちらを制圧する様は恐ろしく。

ギルドの人達が使う合奏は私の想像を遥かに超えてくる。


グィネヴィアさんは強風を起こしてふらついた『英雄』たちを魔法で出した()であれよあれよと遠くに放り投げていく。

魔法っていうのは驚くほどいろいろなことができると思っていたけどこんなにも色々な魔法を使える人は実はグィネヴィアさん以外にはほとんどいないらしい。


「多分…もうすぐだと思います。」

「本当に大丈夫なのか?何言ってんのか全然わからなかったけど…。」

「ええっと…それに関しては私もよくわかっていないんですが…。」

何せ急な話だった上にコトさんがすごく難しいことをがががーっと言っていてそれを聞いたヨハネさんがこれまた難しい言葉でいくつか質問をしていて…よくわからなかった。

それでも。


「コトさんが大丈夫だって言ってたのできっと大丈夫です!私達は時間を稼ぐことに集中しましょう!」

樂器で具現化した大きめの金槌を振り回してなんとか殺さないように吹き飛ばしていく。

手足を折って動けなくしようかなとも考えたけど。

どれだけ怪我をしながらでも気にせず真っすぐ突っ込んでくる彼らはきっと自分たちが傷つくのを気にせず動き続けるだろう。

現状グィネヴィアさんが魔法で吹き飛ばし、私はそれを魔力で補佐することしかできていない。


「グィネヴィアさんの方も何かないんですか!色んな魔法使えるし敵を動けなくする魔法だっていくらでもありそうじゃないですか?」

「いくらでもはないよ!いくつか試したものの…あいつら振りほどく力が強いんだよ!」

「力が強い代わりに動きはそんなに速くないから助かってますけど…。」


力の強さの割に動きは単調でまっすぐ向かってきてひたすらに武器や兵器や魔法でひたすらに攻撃をし続けている。

今の所はグィネヴィアさんもうまく対応できてはいるが…これがずっと続けばグィネヴィアさんもまずいかもしれない。

そもそもこの人はどれだけの間戦い続けているんだろうか。

勿論戦い慣れてはいるんだろうけど…。


「おい!こっちはもう魔力ほとんどすっからかんなんだ!もっと魔力回せ!」

「…はい!」


…もうしばらくは大丈夫だろう。

グィネヴィアさんも何故かすごく楽しそうにしている。



─────────────────────────────




…シロクロさんはずっと作業を続けている。

もうコトさん達3人が向こうに行ってからそれなりに日数立つけど今回に関してはほとんど遅延させないままずっとリアルタイムで作業を続けている。

何をしているかは…なんとなくはわかるけど…シロクロさんの思考はあまりにも情報量が多くて読み切れない。


私の能力は相手の全てを理解できるわけではなく文字として表示される情報を読み上げる必要がある。

シロクロさんは…思考が早いうえにいくつも並列しているので…。

本気で全部読もうと思えば小説を1分で一冊読むくらいの覚悟を要求される。

…できなくはないんだけどやり続けたらたぶん脳みそ焼き切れるのでそれはまあできないという事と同意だ。


私の記憶についてだが…実はあまり思い出せていない。

ある時以降は朧気ながら思い出せてはいるんだけど…それより前の記憶は驚くほど思い出せてない。

少しずつはっきりとしていくのでその時の感情だったり背景だったり鮮明になっていくのでそのうちに思い出せるんだろう…と思っているけど、焦るものは焦る。


「えへへ!えへへ!!えへへへへへ!!こうだな!こうだね!いいねいいねいいね!」

ここ数時間はいつもに増してテンションが高い。

いやいつもテンションは高いのだが…とんでもない事になっている。

普段からあまり停滞というのはしないタイプではあるが研究が佳境に入っているのかとんでもないスピードで作業をしている。


「ああ!これがこうなるとそうなっちゃうのか!なるほどね!調整調整!」

シロクロさんの元の世界ではパソコン端末と言えるほどの端末は無かったはずだけどいつの間にか完全に使いこなしている。

使いこなしているのかどうかも私にはわからない。

私は一応全部の機能を読もうと思えば読めるけれど全部を読む気にはなれない。

ただシロクロさんは何もわからないままにめちゃくちゃにのめり込んでやりたい事をやりたいようにやっている。


まあ私よりは全然使いこなしているんだと思う。


「よし!もうちょい!もうちょい!よしよし!これさえ!おおお!」

「この方向だったか!ああすっごく遠回りしちゃった!まとまったし!出力して!よしよしよしよし!」

「産まれた!よし産まれたよぉ!いいねぇ!かわいいねぇ!キュートだねえ!それじゃまずは…」


…どうやら何か産まれたらしい。

え??まって??産まれた??なにが??




─────────────────────────────






「あー。まあこんなもんかぁ。」

「…。つまらんな。」

「俺は楽しかったけどなぁ。まあ。ご満足いただけなくて残念だわ。」


思った以上にまだまだ差があったなぁ。

武器は一つ残らずへし折られて体中傷だらけでボロボロ。

それに比べて敵さんは無傷。

あれだけ武器を打ち込んだっていうのに何で傷一つついてねえんだ。


「…そもそも戦いを楽しむつもりはない。目的を達成するためにここにいるだけだ。」

「はっはっは。そうかい。そりゃ失礼したなぁ。」

「…気に入らないな。」

「思い通りにならねえもんさ。なにもかもなぁ。」

「なぜその状態で余裕でいられる。」


んん?余裕なんかねえけどなぁ。

「もうお前達が勝つことはない。」

「そうだなぁ。」

「あちらは拮抗しているようだが私が合流すればすぐに済むだろう。」

「まあそうなるよなぁ。」


頭をガンと蹴り飛ばされた。

いってえ。

真横にすげえ勢いで吹っ飛ぶ。

「やたらと丈夫なようだがお前ももうまともに戦える状態じゃない。」

「だったらもう少し優しくしてくんねぇかな。俺さぁずっとボロボロなんだわ。」

「ああ。イラつくな。どうして弱い癖に脆い癖に何もできない癖に虚勢を張る。」


「虚勢を張れるほどの元気はねえよ。ただまあ。ひとまずは満足できたなって言うのが正直なところかな。」

「満足か。こんな状況で?」

「まあ。俺の方はともかく目的は達したみてぇだからな。」

「…は?」


ゴゥンゴゥンと何の音かわかんねえけどどんどん近付いてきているのがわかる。

まあヨハネが手筈通りにこちらに向かってるってことだろう。

流石に寝っ転がってるのを捕まえて乗っけてはくれねえと思うし最後にひと頑張りすっかぁ。


「くそ!この音!飛行手段か!逃がすと思ってるのか!」

「わりいな。」

すっとその場から消えて死角に回り込む。

そのまま空中に足場を作って一気に駆け上る。

タイミングばっちりだ。


コトの旦那が用意してくれたでっけえ『ヒコーキ』。

真っ白で丸っこい本体に鳥みてえな羽が付いてる。

でっけえ鉄の塊が空を飛ぶって聞いたときは信じられなかったがほんとに空を飛んでるんだから大したもんだ。

「はっは!こりゃすげえや!」


もうすぐそこに来てたからまあこのまま乗り込むとしよう。

入口の扉みてえなところを見つけたのでしがみついてどんどんと叩く。


それにしても。

ここまでシンクンの能力を温存した甲斐があったな。

なにせあの速さだ。

予想されてたら逃げきれねえよあんなバケモン。


「よっし!なんとかなった!それじゃここらで退散するわ!またやろうぜ。次にはもうちょいまともに遊べるようにはなっとくわ。」

距離を考えれば聞こえているかは微妙なところだがまあ聞こえてなかったとしても次にあったらまた言えばいいさ。


何とか扉を開けてもらって乗り込むとどうやら俺が最後だったみてぇで師匠やらギルドのグィネヴィアやら子供(ガキ)どもと勢揃いだった。

「うわあ!ロクスケさん!ぼろっぼろじゃないですか!」

「ん。ああ師匠。そっちは無事そうだなぁ…。」

「…そうですね。ただみなさんかなり疲労しています。何とか全員…本当だったら『英雄』の人達もみんな助けられたらよかったんですけど…。」

「まあ。しゃあねえさ…今回ばっかりは敵が強すぎた。俺も…かなりしんどいなぁ。」


まずいな頭がぼんやりしてきた…このままぶっ倒れるな。流石に無茶しすぎた。

「それでも何とか一人は拘束して連れてきたんですけど…。ほら見てくださいロクスケさん。あ!寝ないで!こら!」


完全に限界だったようで徐々に意識が薄れていく。


「この人です!ラクネって呼ばれてた敵の幹部連れてきたんですけど!この人ってセンゴクのヤシロヒメさんにそっくりなんです!…ああもう。寝ちゃった。どうしよう。」


師匠がとんでもねえこと言ってる気がするが…まあいいか。

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