表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/104

鳴らすは福音

ああ。

これはきっと死んだな、と思った。

それ程までにとんでもない力だ。


わたしは。

ほんのわずかな時間を稼ぐこともできなかった。

それどころか、今のわたしは何故このまま死ぬのかすら理解できていない。


犬死にだ。


顔のすぐ真横で爆ぜる音が聞こえる。

これは避けられない。

全く予想外の出来事にわたしは最早それを避けるという選択肢すら思い浮かばない。


遠くで何かが聞こえた気がした。


そして私はなけなしの抵抗を試みたものの。

一切逆らうことも出来ず

一切何も出来ず。

意識を手放した。




─────────────────────────────




がらぁんがらぁん


演奏された樂曲が鳴り響き

それをかき消すような爆発音が耳を劈く中


その鐘の音は妙な存在感を持って鳴っていた


がらぁんがらぁん


力一杯に鳴らされたその音は

爆発の音にかき消されることもなく

その場にいる全員の耳に確かに届き


世界の運命を大きく変える




─────────────────────────────




聴き覚えのある鐘の音に少しの間呆然となる。

そして少し遅れて状況を理解する。

ああ。

間に合ったんだ。

来てくれたんだ。

「ピリカは…無事に伝えてくれたのかぁ…よかった…」


体が急に軽くなった気がした。

胸が痛いくらいに鼓動が高鳴っている。

鐘の音が鳴る方を見れば見覚えのある青い髪をしたエルフがこちらに走ってきている。

メルナが来てくれた。

メルナは私が見ているのに気付いてより一層強く鐘を振り鳴らす。


がらぁんがらぁん


急に魔力量がぐわんっと増えて制御が上手く効かなくなる。

えっこれもしかしてメルナの魔力が乗ってるのか?

このままだと…制御し切れるか?


背筋を伸ばし、呼吸を整える。

大丈夫だ。

魔力はあたしに向けられている。

このままの魔力量ならなんとか制御できる。


がらぁんがらぁんがらぁんがらぁんがらぁんがらぁん


うわぁやめろ!

ニコニコしながらとんでもない量の魔力を流し込んでくるな!

遂に制御しきれず魔力が流れ込む。


膨大な魔力を急に注がれて梟達が一気に10倍以上の大きさに膨らんだ。

敵にまっすぐ向かっていた数十羽の梟は完全にコントロールを失いあたしの指揮から外れて滅茶苦茶な軌道でぶつかり合っている。


「あっ。」


周囲の空気がひゅっと集まっていく。

一瞬だけ音が消える。

押し合いになってギュッと潰された一羽の梟が膨大な魔力を内包出来ず爆ぜる。

周りの梟も爆風を受けて連鎖するように誘爆していく。

これまでも充分に大きな音で爆発していたがそれを遥かに上回る轟音が鳴り響く。




─────────────────────────────



うわぁ。

なんか大変なことになってる。

グィネヴィアさん達の演奏と爆発音が聞こえる方向に向かってきてみれば『侵略者』の人と戦っていたから急いで向かってきたんだけど…。

とんでもない威力の爆発魔法で『侵略者』を吹き飛ばしてる。


グィネヴィアさん達の魔法はやっぱり規格外だ。

威力も。規模も。

もしかしたら私達が来なくても対処できていたのかもしれない。

あ。グィネヴィアさんが演奏を一旦止めてこっちに走ってきた。


「おい!下手くそ!お前!いい加減にしろよ!」


なんかグィネヴィアさん怒ってる。怖い。

え?なんで怒られてるんだろう。


「イゾルデがいたんだぞ!…そうだお前なんか治療できたよな!あぁまずは探さないと…!」


グィネヴィアさんは怒っていたかと思うと今度はおろおろと動揺している。

イゾルデさん?


「こいつだろ。これは流石に師匠が不注意だからちゃんと謝っときな。」

どこからかヌッと現れたロクスケさんがエルフの女の人を肩に担いでる。

ああイゾルデさんだ、久しぶりだなぁ。

え?なに?状況が全然分からないけど私ロクスケさんにも怒られてるの?なぜ?


ロクスケさんの肩から下ろされたイゾルデさんを受け取り抱える。

どうやら気を失っているようでうわぁ!ちょっと焦げてる!

「イゾルデさんどうしたんですか!爆発に巻き込まれちゃったんですか?今治しますね!」


急いで横になれるだけのスペースを用意して布を敷き治療に取り掛かる。

外傷は…少し火傷をしてるようだけどそこまで酷くなさそうだが衰弱している様子だ。

癒やしの魔石を用意して慎重に魔力を注ぎ込む。


「…師匠ってたまにすげえ頭悪いよな。」

「え?今何か言いました?」

ロクスケさんが小声でボソッと何か言っていたがうまく聞き取れなかった。


「いや、あんまり治しすぎるなよ。それ結構やばいからな。」

…まあ今は緊急事態だからロクスケさんが小声で何か私の悪口を言っていたとしても気にしてる場合じゃない。

「ああ。それは確かに気をつけた方が良さそうですね。」

この世界にはなぜか回復魔法がない。

私が使える回復魔法をグィネヴィアさんに教えようとしたけどこの世界の人達は回復魔法が使えないようだ。

何か相性の問題とかあるのかなぁ。


「そんじゃ俺行ってくるからそっち頼むわ師匠。」


ロクスケさんは言うだけ言うとまたどこかに跳んでいった。

ここまでも私たちを運んでくれていたしここにくる前にもボロボロになるまだ戦ってたのに元気だなぁ。

いや。とりあえず今はイゾルデさんだ。


「ひとまずイゾルデを急いで安全な場所に。あいつはバケモンだ。さっきの爆発でも無事だろう。あいつをなんとかしないとまずい。」

「ん?ああ大丈夫ですよ多分。ロクスケさんがそちらに向かいましたので。」

「1人で?いや…あの男が強いのは知ってるが…アレ相手に?1人で?」

「うーん。まあ勝てないとは思いますけど…。でもきっと任せちゃっても大丈夫ですよ。」




─────────────────────────────



「あの爆発で無傷なのかよ。バケモンだなぁ。」

どういう理屈かは分からねえが何事もなかったかのように突っ立ってる。

全身に焦げ跡ひとつついちゃいねえ。

「あっはっは。かなり強えってことだなぁ。名前はなんて言うんだ。」


姿が消えた。

ギンッと鉄が擦れる音が鳴る。

刀でギリギリ受けたがもう少しで首が飛んでた。

「首をまっすぐ狙ってくるか。遊びがねえなぁ。」

ああ。たまらなく愉快な気持ちになる。


ゴンッギンッガンガンガンガンッ


獲物は金属製の棒みたいだが一撃が重い。

なんとか刀は折れてねえがこれを受け続けたらまずい。

刀に意識が向いたタイミングで蹴りを入れる。

腹に入ったが…重いな。

多少は後ろに飛んでくれたみてえで間合いが多少開く。



「強いなぁ。お前。異常に。あっはっは。どうやったらそんなに強くなれんだぁ?」

こちらの言葉にピクリと反応を見せる。

鋭い目でこちらを少し睨んだ後。

ふぅと息を吐いて全身を少し弛緩させる。


「アスラだ。」

「あん?」

「名前だ。貴様が訊ねただろう。アスラだ。」

「なるほど。名前な。アスラか。へぇ…。」

「同じだよ。貴様と。鍛錬を積んで。自分よりも強い奴を倒し続けて。」


声を聞いて少し驚く。

髪が長えとは思ってたが。こいつ女か。


「ある時突然『異常』に強く成った。それだけだ。」

ああ。やっぱり。

こいつも『固有(ユニーク)』か。


じっと見ていたはずだがまた消えた…いやなんとか目で追えた。

背後を取られそうになるがなんとか体を捻る。

棒での攻撃を刀で弾く。

が。速さよりも重さに振った攻撃だったようで思ったよりも振りが遅い。


しまった。

反射的に攻撃を受け止めようと刀で受けたが。

受けさせられた。

始めから狙いは刀だったようだが気付いた時には遅く。

重く鋭い衝撃と同時に嫌な音がした。


「あっはっは。容赦ねえなぁ。」


刀は折れちゃいないもののぐにゃぐにゃに歪んで使い物にならなくなった。

思わず顔に蹴りを入れるも避けられる。

こいつ…かなり強えな。

ゲントクとは違う方向に全く勝てる気がしねえ。


流石にこのままでは不味いと距離を取る。

離れすぎれば合流されるだろう。

追えるくらいには近付きすぎず離れすぎず。

んー。どうすっかなぁ。


「まだ戦うのか。そんな剣で戦えるのか?」

「ま。そこらの雑魚ならこれでも十分なんだがなぁ。」

「試してみるか?そこらの雑魚と同じかどうか。」

「あっはっは。いや悪いな。馬鹿にするつもりはねえよ。どう考えたところでお前は俺よりも遥かに格上だよ。」


刀を捨てる。

流石にこれは持ってても邪魔になるだけだ。

「格上過ぎて勝ち筋が全く見えねぇ。いやぁ。こんなことがあるもんだなぁ。」

刀の代わりに。

全部をぶつけることにする。


「…なんだそれは?」

「ああ。悪いな見苦しくって。残念ながら格上との戦いは模索中でなぁ。」

「いや。見苦しいもなにも…それでどうやって戦うつもりだ貴様は。」


「まあそれもこれから探っていくさ。俺なりの強さって奴をさ。」

遂に100話!これからもよろしくお願いします!

10000PV超えておりました!とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ