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平穏の条件

夢を見る。

一人になったときの夢だ。

あの頃の私はまだほんの小さな子供だった。


やっと少し話ができるようになったくらいの時に色んな人とお話しするのがとても楽しくて。

その日も里に住む大魔法使いだと自称するおじいちゃんと話をしていた。


おじいちゃんの話は面白かった。

「結局杖で殴った方が早い」だとか「石をぶつけたら大抵の動物には勝てる」だとか。

私は魔法についていっぱい教えてもらいたかったけど

魔法については「魔法とは心の所作でありその真髄は自然と一体になる事」としか言わなかった。

今にして思えば本当に魔法を使えたのかも疑わしい。魔法使ってるの見たことないし。


「メルナちゃん、打撃の基本は円と直線だ。ギュンッ!グルン!ズドン!だよ。」

「おじーちゃん、まほうがいい。だげきはもういいよ。」

「そう。人体の弱点は正中線に集中しているからね。基本はあごかこめかみか足だけど当てられないと思ったときには正中線を狙いなさい。」

「おじーちゃん。わたしビリビリのまほーがいい。ビリビリのまほー。むらのおねーちゃんがつかってた。」

「人と戦う時には狙いを上下に散らすんだ。最初に頭を狙い意識を上に持って行ったところで足元を狙えばたいていは避けられない。」

「おじーちゃん。おなかへった。けーきたべたい。」

「そうか。じゃあこの打ち込みが終わったらおひるごはんにしようか。」

「やったー」


私はよくおじいちゃんと一緒にご飯を食べていた。

おじいちゃんの料理は基本的には簡素なものだったがたまに作ってくれる木の実のケーキがとっても美味しかった。

ただその日は里の様子がいつもと少し違っていた。

「ちょっと様子を見てこよう。メルナちゃんはここで待っててね。」

私は一人で待っていた。

ずっとずっとまって待ちくたびれて。




…朝だ…またあの時の夢かぁ。

このままゴロゴロとしようか少しだけ迷って体を起こす。

スーちゃんとフーちゃんに餌を作ってあげないと。

きっと二人ともお腹を減らして待っている。

いつもこれくらいの時間になると控えめに鳴き声が聞こえてくる。

たまに寝坊したときにはだんだんと声が大きくなってくるのでいつも目が覚めたらすぐにご飯の支度をするのだ。

お肉と野菜。果物も混ぜてあげると喜ぶので少しだけ入れてあげる。

お皿にこんもりと盛って門の外に出る。

少し離れたところに二匹の竜が行儀よく座っている。

フーちゃん表情はきりっとしているが私が持つ餌をじっと見てまったく目を離さない。

スーちゃんはこちらを見つけてうれしそうにそわそわしている。座ってはいるが後ろ脚は今にも立ち上がりそうになっている。

「ごはんだよー。おなかすいたー?いい子で待ってて偉いねぇ。」

それぞれの前に餌を置いてあげる。まだ二匹ともじっとしている。

「よし!たべてもいいよ!」

すごい勢いでがっつき始めた。気持ちいい食べっぷりで見ていてこちらもお腹が減ってくる。


さて。

皿を片付けながら今度は自分の朝食を用意する。

とは言っても作り置きしてあるパンと干し肉とサラダで簡単に済ませるのだが。

食べながら今日の予定について考える。

ひとまず『農場』を軽く手入れしつつ野菜やらを収穫しておこう。

作り置きの料理も心もとない感じになってきたのでパンやらピクルスやらスープやらも作っておこう。

そういえばお肉も少なくなってきたので昼過ぎからは狩りに出て適当に何か捕まえてこよう。

「おーい!師匠!いるんだろー!入るぜぇー!」

…せっかく予定を考えていたのに予定変更になる予感がした。


「ロクスケさん、前にも言いましたけど私は師匠じゃないです。弟子は取りません。」

「よぉ師匠!元気そうで!何よりだ!それより早く!こいつら止めてくんねえかなぁ!」

フーちゃんとスーちゃんの猛攻を器用に避けながらロクスケさんが話しかけてくる。

この2匹は基本的に私以外には襲い掛かるように教えてある。

ただまあロクスケさんはここに何度か来ているのでじゃれついている程度だ。

真剣に襲い掛かっているわけではない。

「まったく…はぁ…スーちゃん!フーちゃん!おすわり!」

フーちゃんとスーちゃんは姿勢正しくその場に座り込んだ。


「はっはっは!相変わらずこいつらはええし力つええな!いい修行になるぜ!」

「…お一人で来たんですか?何の用事です?」

「いや、ヤスケもいる。まだあいつドラゴン怖えみてえでよぉ。」

ロクスケさんは振り返りヤスケさんに声をかける。岩陰からひょっこりと出てきた。

「やぁ!おはようねーさん!遊びに来たぜ!」

「おいこらヤスケ!遊びに来たんじゃねーだろ!大事な用事があってきたんだ!」

「へっへっへ!吾輩はロクスケの付き添いでご飯を食べに来たんだよ!ねーさんのご飯美味しいからね!」

「それで大事な用事というのは…?」

「おう!もちろん世界の災いに関しての事よ!あとはついでに修行でもつけてもらおうと思ってな!」

「…それじゃ修行ということで適当にドラゴン狩ってきてもらっていいですか?」

「適当にでドラゴン狩らせるなよ!」

「ドラゴンのお肉を今切らしてるんですよ。あなたたちちょくちょく来てはいっぱい食べていくじゃないですか。」

「なるほどな!それだけ世界の災いに対して一生懸命ってことだな!さすがに二人じゃドラゴンはきついから師匠も付いてきてくれよ!」

「はぁ…それじゃお昼過ぎたら出かけますのでそれまではフーちゃんとスーちゃんと遊んであげてください。武器使っちゃだめですよ。」

「ぁん?いやだよ!あいつら相手に武器無しで昼までって無理だろ!おい!刀持ってくな!」

「フーちゃんスーちゃん。たべてよし!」

「おいこら!師匠!ざっけんな!」

「ねーさん!吾輩まで!死んじゃうって!!」

「それじゃあやる事ありますんでまたお昼に来ますね。」

「ああああああああ!」「うおぉぉぉおおおお!」


まあ死ぬことはないでしょう。

「たべてよし」は「相手を殺さずに追い払え」という命令だ。

それにあの二人は強い。

たまにロクスケさんは城の中で子供のように仰向けになりじたばたしながらだだをこねるので組手をすることもあるが毎回こちらも制圧するのに必死だ。

この間なんて木刀が私の顔をかすめて傷をつけられた。

さすがに女性の顔に傷をつけるという大罪を許すことは出来なかった私は手加減なしの足払いをして気を失うまで顔を殴り続けたが意識を取り戻した後もボコボコの顔で何事もなかったかのようにこちらに話しかけてきた。


パンを捏ねながら最初に彼らが来た時に話し合ったことを思い出す。

「提案になるのですが…。今後も『旅のエルフさん』には『魔王』を続けてもらいたいのですが…。」

「わかりました。私と一対一で勝負をしてほしいんですね。外に出てください。どうぞ私の事は殺すつもりで来てください。私もそうします。」

「違います!!…待ってください…喧嘩を売っているわけではありません…どうか最期まで話を聞いてもらえますか…。」

「もう発言が完全に魔王だもんな」

「ロクスケ!!お願いだから黙っていてくれ!!」

「わかったわかった。ここはお前に任せるよ。」

「それで…?どういう事ですか?内容によっては命の保証は出来ませんよ。」

「魔王が嫌だってんならそういう発言はやめたほうがいいんじゃねえの?」

私はガルルとうなりながらロクスケさんを威嚇する。


「まあまあ…ひとまず順番に説明をさせてもらいますね。」

「そもそもが私の親たちが死ぬ前の話です。そうだいたい60年ほど前の話ですね。」

「そのころ私たち人類は集落単位で争いばかりしていました。」

「きっかけはつまらないことでした。やれそちらの集落が売っている物が高いだのうちの集落の獲物をそちらの集落の民が狩ってしまっただのという。」

「しかし一度争いが起こってしまえば争いが争いを産みます。まあ争いといっても殺し合いではなく基本は代表者を出し合っての話し合いでたまに暴力沙汰に発展する程度ではありましたが。」

「だんだんとエスカレートしていってそのまま放置していたらいつかは殺し合いに発展していったでしょう。」

「そんな争いですがある日をきっかけにおさまります。」

「大きな嵐が各集落を襲ったんですよ。死者もでるほど大きな嵐でした。」

「各集落は争っている場合ではなくなりました。なにせその嵐は魔王が原因と言われていましたから。」

「そう。魔王です。我々人類は魔王と敵対することで戦いをやめたのです。」

「このまま我々が潰しあっていては魔王に滅ぼされてしまう。そうかんがえたんですね。」

「その日から我々人類は魔王を倒すために協力しどこにいるのかを探し戦うために力を付けてきました。」

「10年間はどこにいるのかも分からない魔王を必死で探し続けていました。そして10年探し続けて我々はある噂を耳にしました。」

「この大地の一番高い山には魔王が住んでいて危険だから近寄らないようにという出所不明の噂です。」

「魔王が住んでいる場所がわかった我々は魔王を倒すために一致団結しました。」

「そうして集まりここに来たのが我々ということですね。」

「そう。もし魔王がいないとなれば我々は団結をすることをやめ、また争いを始めてしまう可能性が高いのですよ。」

「さらに言うならばこの大地の民族全員を団結させてそれらの王にロクスケがなるためには…」

「魔王は我々でも叶うことがない強大な敵であり人類全員が協力して倒す必要がある…となった方が都合がよいのです。」

「なので…非常に心苦しくはあるのですが…」


「なるほど。そういう事だったのですね…。」

どうやら私という魔王がいなくなると色々と都合が悪いらしい。

…魔王と呼ばれることは不本意ではあるが魔王が残っている事が平和につながっていることは理解できた。

「まあ…わかりました…。」

「そうですか!ご協力いただけますか!大変に助かります!」

「それで私はいつまで魔王でいたらいいんですか?」

「はい!まずは各集落の代表者を集めて会議を開きます。そこでこのままバラバラでは魔王には勝てないので全員で協力した国を作ろうとそう提案しますので。そこで意見がまとまり国が出来たら討伐隊を出し全員で魔王を倒せたと!そのように話を持って行きますので!」

「…まあそうですね。どちらにせよ私はここに住み続けるわけですから皆さんがそれで仲良くできるっていうなら魔王と呼ばれても…いやですけど…しょうがないですよね…。」

「ありがとうございます!では今後誰も近寄らないようにこちらの方で魔王の事を恐ろしいものだと脚色して噂を流すことにしましょう!」

「…仕方ないですね。お任せしますよ。」

「ではまず魔王は恐ろしい魔法を使いドラゴンなどの恐ろしい魔物を従えていると噂を流しましょう。よかったですか?」

「あー。まあ確かにドラゴンは城の中で飼っていますので嘘ではないですね。」

「……え??」

「あれ?知っていたわけじゃないんですか?ではお見せしますのでこちらの部屋にみんな来て下さい。」


「フロストドラゴンのフーちゃんとストームドラゴンのスーちゃんです。大丈夫ですよ噛みません。」

「フーちゃんスーちゃん。挨拶して。大丈夫。この人達は敵じゃないですよ。…今のところは。」

「未来永劫あなた様の味方ですとも!!なあみんな!!」

「いや…驚きました…まさか本当にドラゴンを支配下に置いているとは…。」

「支配下だなんてやめてください。ドラゴンは野生で生きているのを従えるのは大変ですが卵から生まれたドラゴンは人懐っこくて可愛いペットなんですよ。」

「…なるほど。まあ集落に戻ったら我々は竜を従える魔王に手も足も出なかったと、そう伝えることにしましょう。」

「ふふふ。実はこの子たちも結構ドラゴンにしては強いので戦ってみますか…?」

「お願いですので勘弁してください…。」


さて。野菜の収穫も終わった。

パンの熟成もそろそろ済んだころなのでかまどオーブンで焼いて彼らに食べさせてあげよう。

丸く捏ねたパンを焼きながら採れたての野菜を水につけておいて残っている肉を全部焼いていく。

スープを作りポテトを薄く切って油で揚げていく。

パンが焼けるいい匂いがしてきたのでかまどオーブンを覗いてみる。

いい焼き色がついていたので取り出しパンをナイフで上下に割っていきちぎった野菜と焼けたお肉を挟んでいく。

ちょうどポテトもいい具合に揚がったのでそろそろ声をかけようかな。

「フーちゃん!スーちゃん!おすわり!ロクスケさんヤスケさん!ご飯ができたので食べますか?」

「あぁ…ぜぇ…ぜぇ…今行く…ヤスケ…大丈夫か…」

「ぜぇ…ひぃ…何度死んだかと思ったよ…何とか生きてる…おなか減った…」

「今日はサンドイッチを作りましたよー!スープとポテトも付いてます!冷める前に早く来てくださいー!」

さっきまで倒れていた二人だったがメニューを聞いてこちらへ一目散に駆けてくる。


「さて。そちらの水で手を洗ってください。おかわりはありますので慌てて食べなくても大丈夫ですよ…。」

「ああ…生き返る…相変わらずうめえな…。師匠は流石だぜ…。」

「吾輩何度死ぬかと思ったよ。でもこのご飯が食べられるならって頑張ったんだ!」

「うふふ。そんなに褒めても何も出ませんよ。夜にはケーキも作りましょうかね…。」

「やったぁ!ねーさん大好き!」

「まったくヤスケはうまく使われてんなぁ…。」

雑談をしながらもりもりと私が作ったご飯を食べる二人を眺めている。


「それじゃあ食べ終わったらドラゴンのお肉を狩りに行きましょうかね。」

「…それ。冗談じゃなくてホントに行くつもりだったのかい?」

ヤスケさんは口をもごもごさせながら目だけをこちらに向けて言った。

「…ドラゴンならあいつらいるだろ?あいつらじゃ駄目なのか?」

「だめに決まっているでしょう。次冗談でもそんなこと言ったら武器を取り上げてドラゴンの巣に放り込みますよ。」

「…いや。悪かった…。許してくれ…。今後は気を付ける…。」

フーちゃんとスーちゃんを食べるくらいならまず貴様たちから食べてやろうか!

とは思ったが言わなかった。私は魔王ではないからそんなことは言わない。

「わかってもらえたら何よりです。さて。じゃあ私は片づけをしてきますので食べ終わったら食器を持ってきてくださいね。」


まったく…まあ賑やかなのはいいことですね。

たまにきて美味しくご飯を食べてもらえるというのはやっぱりうれしい。

夜ごはんもおいしい料理をたくさん作ってあげよう。

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