4話 洗濯の前に、一番大事なものがありませんでした。
朝の仕事は終わったわけですが、私は大変なことにきづいてしまいました。
服がないのです。
今着ているものを洗濯するには、着替えなければなりません。
私の服は着の身着のままだった、今着ているものだけ。
レオンのお母さまが亡くなったのは何年も前ということで服は処分してしまったそうです。
くれた靴は、たまたま倉庫に一足残っていただけ。
かと言って服を買うまでずっとこの服のままというわけにもいきませんし。
恥を忍んで、お隣に住んでいるレティシアというおばさまに相談しました。
「あれゲルダちゃん。どうしたね」
「すみませんおばさま。私、服がこれしかなくて。お給料を貯めて新しいお洋服を買ったらお返ししますので、お借りしてもよろしいですか?」
「……なにか事情がありそうだね」
レティシアおばさまは深くは聞かず、奥の部屋に案内してくれます。
「あたしが若い頃に着ていたもんだけど、こんなのでよかったら借りるなんて言わずもらっておくれよ」
「まぁ! いいんですか?」
サスペンダーがついたズボンや前掛け、シャツを数枚。きちんとお洗濯をすれば着回せるでしょう。
袖を通してみたらサイズがピッタリです。
「似合ってるよ。あたしの若い頃そっくりだ」
「ありがとうございます」
端がひび割れた小さめの姿見に映してみると、おばさまの言うとおりけっこうサマになって見えます。
鏡越しに、レティシアおばさまにお願いします。
「あの、服をいただいた上にお願いごとをするのは厚かましいとは思うのですが、お洗濯のしかたを教えていただきたいのです」
「洗濯をしたことがない? お母さんに教わらなかったのかい」
「お母様は私を産んですぐ亡くなっています。それで、お父様が……」
「ああ、全部言わなくていいよ。大変だったんだね」
のっぴきならない事情があると察してくれたようです。
タライや水の用意をしていると、ちょうど近所のおばあさまたちもお洗濯をするというのでご一緒します。
「そうそう。洗濯石鹸をつけて擦るんだ。水を替えて、すすいだら絞って、日当たりのいいところに干す。うまいじゃないか」
「はい、ありがとうございます」
一着すすぎまで終えるだけでも、腕がかなり痛くなってしまいました。
絞ったあとでも水が滴っています。
「あははは。あんた力無いねぇ。こうするんだよ!」
とレティシアおばさまが絞ると水がたくさん流れ出ます。
私、本当に力が無さすぎですね。自己嫌悪に陥ってしまいます。
皆さん毎日これをなさっている。メイドたちも毎日やってくれていた。
風にはためくワンピースを見て、私の当たり前は庶民の非常識、改めて認識しました。
メイドたちにお世話され、生かされていたんだと。
それからレオンが作ってくれたお昼ごはんを食べます。
仮眠をしようとベッドに横になったら、気絶するように眠りに落ちました。
夕方になってまた叩き起こされて、朝と同じことを繰り返します。
ああ、自分が汗臭すぎる。おばさまにいただいたばかりの服も、半日の仕事で汗まみれになりました。
お風呂に入りたいです。
「レオン。この村ではお風呂ってどうしているの?」
「山の方に温泉が湧いているから、みんなそこに行く」
「温泉!」
山を領地に持つ貴族は、よく湯治旅行をしています。年配の方ですと温泉のすぐそばに別荘を持つほどだとか。
ハリエラ家の領地にはなかったし、私は入ったことがなかったのです。
「これから行くか」
「行きます!」
農具を倉庫にしまって、戸締まりをして、いざ温泉です。