デートをしたいと嫁におねだりされた feat.レオン
「レオン。デートをしましょう」
結婚式をあげてからひと月ほど経った朝の仕事終わり。
ゲルダが唐突に言い出した。
ゲルダの後ろでは近所のおばさんたちがニヤニヤと何か企んだ顔をしている。
何を吹き込まれたんだ、この箱入り娘は。
もともとは公爵令嬢だったこともあって、ゲルダは庶民生活に疎いところがある。
洗濯はおろか、芋の皮むきもまともにできなかったくらいだ。
そんなゲルダがデートをしたいと言い出した。
ろくなこと教わってないだろうと予想がつく。
こいつは冗談を吹き込まれても気づかないんだ。
「……嫌、なの?」
俺がいつまでも返事をしないから、ゲルダはホウキを持ったまましょげて視線を落とす。
「わかった。わかったから、そんな顔するな」
根負けした俺をからかうようにジョンが短くワンとないた。
そんなわけで、仕事を片付けウェルターの町にやってきた。
ふだんここに来るのは食材や作業服の買い足しくらい。
デートという目的で来たのは初めてだ。
そもそも、デートって何すりゃいいんだ。てきとうにそこらの雑貨屋でも覗いてりゃいいのか。
街を歩くカップルは腕を組んで目的もなく歩いているように見える。
俺にあれをやれと?
一歩後ろを歩いていたゲルダが、大きく息を吸い込んでオープンテラスの喫茶店を指差した。
「レオン、そこの喫茶店でお茶をしましょう! あーんってデザートを食べさせ合うのが正しいデートだってレティシアおばさまが言ってました」
「ぶっ」
こいつ馬鹿だ。やはり変なことを吹き込まれていた。
「嘘に決まってんだろうそんなの!」
「え、でもほら」
ゲルダが示す先には、俺たちとそう年の変わらない若いやつが実際に「あーん」をやっている姿があった。
「嫌だ。俺はそういうキャラじゃない」
「そう……」
しょぼくれてあからさまに気落ちするゲルダ。頭がいいのに何かネジが足りないんだよな。
「……せめて、ほら。これくらいなら付き合ってやる」
ゲルダの手を引いて、普段買い物している市場をめぐる。これまでは手を繋ぐなんてことはしなかった。
ゲルダはどこかの貴族の娘だと思っていたし、いつか生家に帰るんだろうと思っていたから。
雇い主と従業員以上の深い関わりを持とうと思わなかった。
でも今は、夫婦になったのだから。
腕を組んで歩くだのあーんだの、こっ恥ずかしいことはしたくないが、少しは譲歩する。
「ありがとう」
手を繋ぐのも充分嬉しいようで、ゲルダは上機嫌で笑う。
それがとてもかわいい。
惚れた弱みというやつか。
村に帰ったあと、村長やマックスたちに「手を繋ぐだけなんてお前それでも男か!」「もっとガーッといけガーッと!」「男気を見せろ!」ともみくちゃにされたのは解せない。
END
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
レオンはヘタレオン。いつかきっと、そのうちひと目もはばからず路上チューするように……ならないな。
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