結婚式の夜に、挙動不審になる花嫁さん。
村のみんなに祝福されて、本日は私とレオンの結婚式とあいなりました。
おつきあいをすっ飛ばして結婚。
政略結婚で会ったその日に夫婦になるなんて話も、貴族ではよくある話。
そう考えると半年一緒に過ごしてきたレオンとの結婚は、十分期間があったと言えるかもしれません。
でも、ですよ。
隣に立つレオンを直視できません。
私もレオンも、村に古くから伝わる婚礼衣装。
空のような青の織物に金糸の刺繍が施された、異国情緒あふれるものです。
いつも作業着なので、きれいに整った装いのレオンを見るのは初めて。
背が高いし顔立ちは精悍だし、なんていうかそう、かっこいいんです。
村の広場に、今日のために設えられた婚礼用の祭壇の前でお祈りをして、レオンと向かいあいます。
「それではレオン、ゲルダ。誓いの口付けを」
「は、はい!」
レオンと手を取り合い、口づけをかわして、胸の鼓動が早くなるのを感じます。
誰かといてこんなにも胸が高鳴ったことはありません。
顔が熱い。
これからどんな顔をしてレオンと向き合えばいいのかしら。
夫婦って、どんな感じで話せばいいのかしら。
結婚式のあと夕方の仕事を終えて家に帰ってからも、どうしていいのかわからなくて頭を抱えてしまいます。
ロウソクの明かりだけの部屋で、ベッドに座ります。
「ゲルダ、今日はやけに静かだな」
「あああ、だ、だって」
もうだめです、無理です。
なんていうんですかこういうの。
頭の中が真っ白です。
レオンが隣に座って、ベッドが大きくきしんで、心臓が破裂してしまいそう。
こんなことなら、同級生の子女たちがおすすめしていた恋愛小説を読んでおくべきだった。
娯楽本に興味がなくて読まなかったツケが今になってくるなんて。
読んでおいたらこういうときどうしたらいいか参考になったかしら。
そして、こんなに戸惑うほどレオンのことを好きになっていた自分に驚きました。
「あ、あの、レオン」
「どうした?」
「今日から改めて、よろしくお願いします」
深呼吸して、レオンの胸に手を当てて、レオンの鼓動も早くなっているのを感じます。
表情に出にくいだけで、レオンも緊張しているのね。
かすかに口角をあげて、レオンは頷きます。
「ああ。これからよろしく、ゲルダ」
人生で二度目の口づけをかわして、ベッドが二人分の体重を受け止める。
翌朝、照れくささのあまり顔を見ることができなくて、「落ち着きがなさすぎだ」ってレオンに笑われてしまいました。
勉強はできても恋愛は初心者なんです。
お手柔らかにお願いしたいです。
ゲルダはこれが初恋なのでした。