表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/15

12話 全ては、クリストフがゲルトルートより優位に立つため

 ことが起こったのは村長宅。

 雪解けが終わったある日、村にベルクマン家の馬車が現れました。


 農作物の買い取りをする商人以外来客がないような村ですから、みんなで様子を伺っていました。

 領主の家の者がエンデに来るとしたら、税に関する話でしょうか。


 馬車から降りてきたのはクリストフとその側仕えたち。


 馬車を降りて、革靴に泥がついたのを見て短く舌打ちするクリストフ。

 そのまま村長宅に入っていきました。

 

 間を置かず、ウード村長の怒鳴る声、クリストフが声を荒らげているのが聞こえてきます。


 そして村長宅の扉が乱暴に開け放たれ、クリストフが喚き散らしました。


「出てこいゲルトルート! お前、お前、よくも! こいつらに妙な入れ知恵をしやがったな!!!!」


 なんで、私の名前が出てくるの。


 私は山に捨てられて以降、一度たりとも本名を名乗っていないのに。

 村の人が私の名を知るはずありません。


 なら、クリストフは最初から私がこの村にたどり着いたことを知っていたということ?


 心臓の音がうるさい。

 見つかったら大変なことになるような気がして、息を殺して納屋に隠れます。


「出てこい! ゲルトルート! 逆らうなら、村を燃やすぞ!」


 どなり声とともに、クリストフの手に炎が集まっていく。


 クリストフの家系、ベルクマンは炎魔法に長けているのです。


 このままじゃ村のみんなが危ない。

 私が出ていくことで収まるなら。


 立ち上がろうとした私の肩を、レオンが押さえました。


「危ないから下がってろ。あいつ、何をするかわからない」

「で、でも」


 レオンはつかつかとクリストフに歩み寄り、問いかけます。


「領主の家の者がそんなに大きな声を出して。どうしたんだ」


 クリストフは歯ぎしりしながら、羊皮紙を出します。


「おいお前、これに血判を押せ。村長でだめなら村長以外の全員から同意をもらう」


 突きつけられた紙にさっと目を通し、レオンは力任せにそれを破り捨てました。


「【ベルクマン家別荘建築のため無条件で土地の権利を領主に返納すること】


バカにしているのか? 俺たちはひい爺さんの代からここに住んでるってのに、こんな身勝手で追い出されなきゃならないってのか!? 前回増税のときの約束だった村の設備保全すらしてないくせに」


 散り散りになって風に飛ばされていく紙を見て、クリストフはツバを飛ばして喚く。


「やはり、お前らエンデの人間に文字を読めるやつはいなかったはずだ! なぜこれを読める」

「答える必要はない。こっちの意見を無視して勝手なことしてやがる領主に敬意なんか払うもんか」


 村のみんなが出ていき、レオンに加勢します。手に手にクワやすき、斧を持って。



「そうだそうだ! 金だけむしり取って何もしねえくせに勝手なこと抜かすな!」

「おらも立ち退きに同意なんかしねぇ!」

「帰れ!」


 クリストフと従者に向かって次々と泥玉やイシツブテが投げられる。

 クリストフはスーツについた汚れを手で拭い、わなわなと震えます。


「よくも、よくも、よくもよくもよくも! この服はお前ら農民が一生働いても買えない、職人のオーダーメイドなんだぞ!?」


 怒りに任せて、クリストフが巨大な炎の玉をつむぐ。


「やめて!!」


 とっさに飛び出して、レオンを背にかばい、反射呪文を唱えます。

 向けられた魔法を相手に返す呪文。

 クリストフのような攻撃力はないですが、私が唯一使える魔法です。


 炎が霧散して、クリストフとにらみ合うかたちになります。


「ゲルダ。危ないから出てくるなって言っただろう!」

「みんなが危ないってときに、黙って見ていられないわ」


 クリストフは私を見てもちっとも驚かない。

 やっぱり、最初から私がエンデ村にいると知っていたのね。

 私の姿を頭からつま先まで舐めるように眺め、喉の奥で笑います。


「久しいなゲルトルート。公爵令嬢だったお前が泥まみれの農民姿なんて、滑稽だなぁ。学年首席だったお嬢様が底辺ぐらし。くくくくっ」



 クリストフの口から出る言葉は、私を心配し気遣うものではなく……私をあざ笑うもの。

 私に婚約破棄を言い渡したあの時と同じ。


「いい暮らしに慣れたお前には、そんな生活耐えられないだろう? 地面に両手をついて頭を下げ、『一生逆らいません、あなたの妻にしてくださいクリストフ様』と言うなら家を再興する手助けをしてやってもいいぞ」


 ああそう、それが目的。

 そんなくだらないことのために、私を見下したいがために、ハリエラ家を陥れたのね。



 心の底から怒りがわきあがる。


「私はゲルダ。ただの農民ゲルダ。それ(・・)はゲルトルートという方におっしゃってください」



 私は逃げない。

 絶対、クリストフに膝を折ったりなんてしない。

続きが気になると思ったら、★とブックマークをお願いします!


感想、レビューもお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] しかし、まあ、目的がしみったれている。失笑どころでなく、可哀想なくらい小物。マウント取り、ご本人にとっては大問題だった(理解不能)のでしょうが、完全に猿山のお猿さん化していますよ。駄々っ子が…
[良い点] どうしましょう・・・・。 何回読んでも、作者様別作品のあの王様のように「歪んでしまった背景」があるんだって言い聞かせても、 クリストフを現段階では好きになれない~~~~!! ゲルダを辱める…
2023/02/03 18:48 退会済み
管理
[一言] ええぞ! もっと言ったれ!(゜Д゜;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ