10話 誰よりも上に立つべきは feat.クリストフ
僕の人生は常に二番手だった。
二男だからベルクマン家を継ぐことはできない。
成績優秀な兄は両親やまわりの人間の期待を一身に集めた。
僕の役目は利用価値のある他家に婿入りしてコネをつくること。
兄のおまけでしかないクソみたいな人生だ。
父上が決めた婚約者ゲルトルートもいけ好かない女だった。
まず、公爵家のひとり娘であること。
伯爵家より格上。生まれたときから僕より上位にいる。
そして貴族の子女が通う学院での成績は優秀。
ゲルトルートが一位を取るせいで、僕はどれだけ家庭教師をつけようと首席を取れない。
睡眠時間すら削って勉強しているのに、だ。
こんなに努力している僕が報われないのはおかしいだろう。
だから考えた。
あいつのほうが下になれば僕が優位になる。
商売の上でもハリエラ家は目の上のたんこぶだった。
ハリエラ家の力を削げばいい。
大手商人であるウィンザー家をはじめ、ハリエラ家を蹴落としたい貴族や商家はいくらでもいた。金さえ払えば汚い手を使って偽の証拠をでっち上げてくれた。
笑えるくらいうまく事は運び、ハリエラ家は没落。
婚約破棄を言い渡したときの、ゲルトルートの顔を思い出すだけで全身の肌が粟立つ。
いつもすました顔をしていた女が、僕より優位にいたゲルトルートが、地べたを這いずり薄汚いワンピース一枚で山に放り出されたあの日は、祝杯で年代物のワインを二瓶空けた。
どうせならボロ雑巾のようになって庶民ぐらしの辛さに泣く様子を見てやりたいから、ベルクマン領の山に捨てるよう指示した。
計算通りエンデ村に行き着いたようで、農業商人から「女の子を雇ったのか銀髪の若い娘が、いつも泥まみれで働いている」と聞いた。
あのゲルトルートが農作業。
笑いが止まらない。
おそらく村人から聞いて、ベルクマン領だと気づいたはずだ。
「クリストフ私にはあなたしかいないの。何でもするから助けて」と地に頭をついて泣きついて来たなら妻にして、ハリエラ家の再興を助けてやろう。
あいつは一生僕に頭が上がらなくなる。
そうさ。
僕は誰より努力してきた、ゲルトルートより上にいるべき人間なのだから。
何日で音を上げるか、いつベルクマン邸を訪ねてくるか。
楽しみでしかたがない。
次回ゲルダ視点に戻ります。
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