プロローグ
それは、本当にたまたまだったと思う。
仕事が終わり、友人達と飲んだ後酔い醒ましを兼ねてそこら辺をほっつき歩いてたら、見てしまったのだ。
暗い路地裏に中学生女の子が1人、複数の男に詰め寄られている。
それを見てまず最初に思ったのが、うわあこの時代にもそんな漫画みたいな場面あるんだなぁ、ということ。
そしてこんな時間にどうしてこんなところを1人でほっつき歩こうとするかなぁ、ということ。
まあ俺は酔っ払ってたし、深く関わるのはよそうと思って女の子には悪いが何も見ていなかったフリをしてその場をすぐに立ち去ろうと思った。
でもそんな考えはすぐに吹き飛ぶ。
何故なら。
その女の子は。
「……あのー、お兄さん達。そこで何やってるんですか?」
「あァん?なんだァテメェ」
「恐喝なら警察の方に来てもらいますけど……」
そう言ってスマホを開き、電話を警察に繋ごうとする。
「あァ?警察だァ?どうせフリなんだろ?」
「フリじゃないですよー」
「だったらそのスマホ寄越せよ」
「……いやまて、よせ」
男の1人が俺のスマホに触ろうとした瞬間、もう1人の男が何かに気付いたのか手を引かせる。
そしてこちらには聞こえない声でヒソヒソと話したと思ったら。
「……チッ、しゃあねェ」
「いくぞ」
そう言って、その場から立ち去ってしまった。
「ん〜……まあいいか」
警察に通報まで後ワンタップだった電話アプリを閉じ、スマホをしまう。
文字通り、フリではなかったという訳だ。
「……大丈夫?怖くなかった?」
そうして俺は女の子と向き合う。
女の子は伏し目がちになりながらも、なんとかこちらに向いてくれた。
「……平気です」
「そっか、よかった」
ボサついた髪を雑に後ろに纏めている。
肌は不健康そうで、血色が悪い。
前髪も長く顔がよく見えない。
けれども、それでも。
俺は確かにその風貌に覚えがあった。
俺が知っているそれとは確かにかけ離れているが、でも、それでも確信を持って言える。
ーー俺の初恋の女の子だと。
俺がそのことに気付いたからこそ、男達を追い払ったのだ。
下心満載だが、それが好きな子に関係しているというのなら飛び込んでしまうのは当然だ。少なくとも俺は。
だがしかし、俺は大変な失態をしてしまった。
俺は今酔っている。ただの酔っ払いおじさんである。
そのことを俺はすっかり失念していた。
己の心に秘めたそれを晒すことなく、墓にまで持っていくつもりだった、"それ"ーーー。
「君が好きだ」
「……………………は?」
女の子は目を丸くしてしまった。
当然だろう。
しかし俺は酔っ払っているせいでその異変に気付かない。
だからこそ、突っ走ってしまったのだ。
「俺は君が子役をやっていた小学生のころからずっと好きだったんだ」
もう一度言うが、俺は20歳をゆうに超えたおっさんだ。
そして女の子は中学生ほど。
……お分かりいただけただろうか。
だからこそ、俺は墓にまで持っていくつもりだったのだ。
しかし現実とはかくも厳しいもので。
女の子は俺が先程真剣に言った言葉をしっかりと、聞いてしまった。
ならば、こんな反応が返ってきても当然のことなのである。
「……キモい」
女の子は眉間に皺を寄せながら、そう言った。
これが女の子にガチ恋した俺こと『春谷遥輝』と、女の子ーー『高坂絵里』の出会いであった。
初投稿です。
緩く書いていきたいと思います。
更新は気ままに。