【閑話】執事の裏話
閑話です。
裏話なので短いです。
殿下には文通相手がいる。
相手は、ミラマシェーリ・オーラス伯爵令嬢
とても聡明で行動力のあり寂しがり屋なご令嬢で、つい最近は浮気をされたことが原因で彼女から婚約破棄をした。
女性側からの婚約破棄は相手のどんな行動が原因だとしても女性側が狭量と思われることが多い。そして我慢が出来ない扱いづらいご令嬢は次の相手が見つからないことが多分にある。本来ならすぐにでも彼女の家が次の婚約者を探すのだが今は娘の心情を思い計って動けないようだ。
そして、殿下は目下その彼女と文通している。
殿下が文通を始めたのには理由がある。勿論遊びというわけでもなく、昨年崩御された妹のヤリリス様の遺志を継いでの事だった。
病巣で出来ることが制限されていた彼女にとってミラマシェーリ公爵令嬢と手紙のやり取りは大変貴重なもので手紙の内容が気になれば体調が許す限りご自分で出かけていくことすらあった。
勿論お一人では不安がある為、時間が許す限り兄である殿下が付き添われ、御兄妹の残り少ないであろう貴重な時間がそれによって有意義なものに彩られていたことは間違いない。だからこそヤリリス様は最後まで彼女の事を心配していた。勿論、殿下も。
暫くは正体を伏せたまま続けらえた文のやり取りも日が経つにつれ深刻さを増しついには、一つの問題は解決、そして新たな火種が生まれたのち、文通は静かに終わりを告げた。
しかし、話はそこでは終わらなかった。殿下は何を思ったか文を送り続け、新たに来ない文を求めてある指令を元ヤリリス様の使用人に託した。
《薄い花びらの透かしが入っている封筒を見つけたら持ち帰る様に》
男子禁制の友好俱楽部に殿下の文を持ちながら多くの文の入った箱から《目当ての封筒》を探してくる。それは偶然登録が残っていた彼女にしか出来ないであり、主が死亡した今、半年後の更新までしか有効期限のないとても儚い希望だった。
かの令嬢が文を続けているのかやめてしまったのかも分からず続くその行動にいっそ本人宛に屋敷に手紙を送れば良いのでは?と進言した事があったが断られた。
『自分からの手紙は強すぎるから』と。
一瞬意味が分からなかったが、王家のからの手紙が届けば返事を強要する、ひいては行動を促すものとなる。それを殿下は望んでいないのだった。
浅はかな自分の考えを恥じたことは言うまでもない。しかし、絶妙のタイミングで奇跡が起きた。時々違う手紙を引いてしまい当たり障りのない返事を返したこともあった手紙だったが最近になり御令嬢の物と思われる手紙を見つけたのだ。内容も殿下にとってかなり前向き、というか彼女の苦悩の跡が色濃く出ているものだった。(因みにこれを複数の人間が読んだ事がご令嬢にバレたらかなり深刻なことになりかねない)
殿下はすぐにご自分についての事とは思わなかったのかとても迷われていた。
新しい恋をしているのか、彼女の怒りが収まっていないのなら会う資格がないのだとか、しいては手紙を返すこと自体気味悪がれないか?とか。
実際のところ手紙の山を見たことはないので良く分からないが使用人の女性曰く、毎回かなりの量の手紙の中からそれらしい手紙を人目を避けて探し出ていたらしい。彼女の苦労を考えると返事は出すのが礼儀かと思うのだが、受け取るご令嬢側からしたらかなり驚愕の手紙だろう。
殿下から暫くして、あの劇場のシートを二部屋用意するように言われた。
一室ではなく二部屋。
なんとも煮え切らない殿下だと思ったが、やっと決心したのかと少し安堵した。そして用意されたチケット共に手紙はかの令嬢へ届けられ、やっと仲直り。
殿下と、ご令嬢の文通が再開された。
ただし違う事が一つ。
手紙は倶楽部の私書箱ではなく直接オーラス邸宛へ届けられる事。
「グラン、今日も頼む。」
「行ってまいります。」
今日も私は殿下の手紙を持ってオーラス邸へと急ぐのだった。
そろそろ二部がかけそうなので
近々公開予定です。