6.名も知らぬ貴方へ
短期連載中、
最終話。
お付き合いいただき感謝です。
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こんにちは名も知らぬ貴方へ
もう二度と会えない人に、今更言えない言葉をどうしたら伝えられると思いますか?
相手の優しい手を離してしまった後に気づいた自分の気持ちがすごく苦しい。
ミミ
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ミミ様
そういう時は気晴らしが必要だね。
是非、行ってきて。
L
一晩かけてあの手紙の山を全て読んでしまった。
そしてこの感情を自分だけではとても処理できるわけにはいかず……ミラマシェーリは溢れる思いを手紙にしたためて投函した。
きっと他人が見ても意味の分からない文章だろう。
読み流して捨てられても構わない。
彼への思いを吐き出したいだけだから。
誰かが読んでくれれば良いとそれだけを想っていたのに、予想外に少し経って返事が来た。
そして封筒に同封された一枚のチケットを見た瞬間ミラマシェーリの思考は完全に停止した。
クワイエ劇場のプレミアチケットが一枚。
自分が投函したのは宛名のない《誰が持って行くか分からない》あの部屋の中央にある宝石箱のはず。その中からたった一枚を彼が持っていくという『偶然』があるのだろうか?それこそ、いつだったか知り合いの令嬢が言っていた『奇跡』に近い確率。ミラマシェーリは震える手でチケットの日にちを確かめる。
「………ズルい。明日の夜なんて、悩む暇もないじゃない。」
☆☆☆
このまま劇場に入ったら取り返しのつかない事が起こる気がする。
ミラマシェーリは劇場の入口に立ちこのまま帰りたい衝動を必死にこらえていた。
手続きを終えて薄暗い通路を抜けると見覚えのあるシートがある個室が見えた。
ミラマシェーリはチケットの番号と同じナンバーの部屋に入る。
「いらっしゃいませ。お嬢様」
「あ、以前お会いした執事さん。」
ミラマシェーリが入った部屋にいたのはエルデバランが観劇をしていた時に付き添っていた男性だった。
「その節は、ありがとうございました。」
ミラマシェーリはペコリとお辞儀をする。
男性はニコニコと微笑む。
「ここに殿下がいると思いました?」
「……はい。」
「おやおや、そんな顔を真っ赤にされて。どうやら殿下の心配は杞憂のようでしたね。」
初老の男性はクスクスと笑う
「心配ですか?」
「はい、貴方様がもし今もお怒りのようならこのまま二度と会わずに終わりたいと、そう申しておりました。」
「そんな……私、会いたいです。」
一日悩みまくってここまで来たのだ。
自分の思いを確かめるためにも一目だけでも会いたい。
そして彼に触れたい。
「大丈夫です。隣に殿下はいらっしゃいます。」
彼が言い終わる前にミラマシェーリは駆けだしていた。
今いる部屋を飛び出して、隣のドアを開けるのももどかしい。
「殿下」
「ミラマシェーリ」
二人はしっかりと抱き合う。
「ごめんなさい、殿下。私、貴方を傷つけました。本当は優しい方だって知ってたのに。」
「謝るのは私の方だよ。君が婚約者の嘘に悩まされていたのを知っていたのに私は彼と同じことをしていた。」
「違う、殿下の嘘は、私の為の優しい嘘。」
「そんなものは無いよ、許してくれ。ミラマシェーリ。」
今にも泣きそうなエルデバランの顔をミラマシェーリはじっと見つめる。
自分は怒っていないとどうしたら伝わるのだろう?ミラマシェーリは暫く考えたのち彼の首にそっと腕を回した。
そしてそのまま唇を重ねる。
触れるだけの優しいキス。
唇を離すとミラマシェーリはそっとエルデバランに囁いた
「今度嘘をついたら別れますから覚悟してください。」
「ああ、もう絶対しない。」
見たかった彼の自信に満ちた笑顔で宣言され微笑むミラマシェーリ。
その麗しい美貌を目にしたエルデバランは、そっと彼女に優しいキスを落とすのだった。
第一部
Fin
これで、第一部終了。
番外編、続編、考えていますので
この後はゆっくり更新していきます。