2.婚約破棄
短期連載中
なんとか観劇の件はごまかす事が出来たミラマシェーリだったが、寧ろそれが彼の浮気を助長させてしまった。
年が明ける頃にはフェリオは浮気を反省することはおろか何人もの女性との目撃情報が彼女のもとへと届くようになった。
初めのころはいつもの事かと思っていたミラマシェーリだったがそれも限界がある。いつも冗談めかして思いのたけを受け止めてくれていた文通相手のYですらも最近はフェリオとの別れを勧めてくる始末だ。
ミラマシェーリは別れを告げるためにフェリオを公爵邸に呼び出した。
隣には既に詳細を話してある公爵である父もいる。
「フェリオ、貴方との婚約破棄させていただきます。」
「ミラマシェーリ、本命は君だよ。他は全部『浮気』なんだ。」
「だからその『浮気』が私を苦しめているのがわからない?」
ポカンとするフェリオ。
ミラマシェーリはその表情を見で自嘲気味に口の端をゆがめた。
「本当にわからないのね。それじゃあ無理だわ。」
「すまんね、フェリオ君。私も娘と同意見だ。浮気相手の中から本命を探してくれ。」
最後まで黙っていた公爵からの決定事項にフェリオはがっくりと項垂れた。そのまま使用人たちに付き添われて退出していく姿をミラマシェーリは晴れ晴れした気持ちで見送る。
結婚適齢期を過ぎた彼女に次の相手が見つかることはかなり難しいことだがそれも些細なことだ。今のミラマシェーリは一人ではない。なんでも話せるYという大切な宝物のような存在がいる。彼女は早速、事の詳細を報告するために大切な友へ手紙を書いたのだった。
数日のち、王城で王子殿下が王女の忌明けを表すささやかな夜会を開くこととなり公爵の位を持つオーラス家にも招待状が届いた。
「これいかないと駄目なんだよね。」
ミラマシェーリは招待状を見てため息をついた。流石にフェリオと婚約破棄をしたばかりでは気が重い。ほとんどの人が彼がダメ人間だったと解っているがそれでも女性の側からの婚約破棄となれば気の強い女と思われるのは避けられない。暇を持て余している彼らの噂話の的になるのはまっぴらだった。
「お嬢様、外出ついでにあの私書箱に寄ってきましたらお手紙が届いていました。」
「ミーナ、ありがとう。」
ここ最近Yからの手紙が途切れていたので心配に思って自分の使用人として倶楽部に登録したミーナに出かけるたびに見てくるように頼んでいたのだ。ミラマシェーリは急いで封を開ける。
『次の王宮での夜会、出席するなら8時に庭園で会いませんか?』Y
ミラマシェーリは夜会の出席を決めた。
ごく一部の上流貴族のみが招待されている夜会とはいえ各々同伴者がいてその縁者も出席となるとそれなりの規模の集まりとなる。知り合いも多ければ初めて顔を見る人物もいた。この会場のどこかにYも来ているのだろうか?待ち合わせの時間まで後三十分程ある。
ミラマシェーリは会場までエスコートしてくれていた兄と別れ知り合いの令嬢達の輪に加わった。
「ごきげんよう。皆さん」
「ごきげんよう、ミラマシェーリ様」
ミラマシェーリに比較的好意的な令嬢の集団なので皆にこやかに挨拶を返してきた。
「大変でしたわね、でも別れて正解ですわ。」
「彼、こないだも下町辺りで町娘と一緒の所を見かけましたわ。」
「まあ、ついにそこまで……まあもう関係ない方ですから良いんですが。」
やはり噂話の中心はミラマシェーリとフェリオの婚約破棄。あれから彼は何度か公爵邸を訪れてミラマシェーリとの面会を申し出ていたが会うつもりは一切ないのでいつも丁重にお断りしている。その合間をぬって女遊びとは呆れてものが言えない。
「そう言えば、今回の夜会は女嫌いのエルデバラン殿下のお相手探しも兼ねているって噂御存じ?」
自分の話題から話が逸れたことにホッとしながらミラマシェーリはあまり興味はないがこの場を離れるわけにもいかずそのまま殿下の話題に耳を傾ける。
女嫌いというのは少し話を盛りすぎではあるが、まだ年若い頃に隣国の姫との婚約が白紙になった事が原因でそれ彼は以来特定の婚約者はおろかどんな令嬢とも噂になっていない。その代わり常にヤリリス王女に付き添っているため一部の下世話な界隈では妹一筋のシスコンとまで裏で噂されている。
と、ここまではわりとよく聞く話だった。そしてその妹の王女がこの世を去ってしまったのだから悲しみは計り知れない物だったわけで、悲しみを埋める為にもついにシスコンを卒業するのではないかというわけだ。
「遠目に殿下をお見かけしたけど相変わらずお美しいお顔だったわ。」
「そうね、奇跡が起きて見染められないかしら。」
「殿下はお声も素晴らしいそうよ、耳元で囁かれたいわ」
各々婚約者がいる彼女たちは扇で口元を隠しながらクスクスと笑う。彼女たちの本心が何処にあるのか知る由もなくミラマシェーリはそっとその場を離れた。
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