怪医×怪物 ~カイカイ~
「王都ランヴァーナ」
この国にはひとつの伝説が残っている。
かつてなにもなかったこの地に一夜にして周辺国を統治し、最大級の王国を創り上げた。と
田舎育ちの少女 イミュ・ラルマスはこの春王立医者学校を卒業し故郷で診療所を開くために帰郷の馬車に乗り込んだ。馬車が走り出すと共に手を振ってくれている友人の姿がどんどん遠くに小さくなっていった。別れを惜しむ気持ちを紛らわそうとするように、イミュは揺られる馬車の中で少し眠った。
???「……アァ…ァ」
(…? 誰かが泣いている?なにか私は夢を見ているのだろうか。)
一度起き上がって辺りを見回してみても何もいなかった。
あるのは明るくなり始めている夜空だけだった。
御者「もうすぐムケ村に着きますよ〜お休みになっておられるのなら起きて荷物等の準備をして下さ〜い」
イミュ「あっ、はい!」
(…さっきのはなんだったんだ。)
村の入口の石橋前に着いた時にはもう太陽は登っていた。
御者「またのご利用お待ちしてます〜」
私は荷物を持って馬車を降り、御者にぺこりと軽く一礼してから石橋を渡って広場へ歩いていくと、村のみんなが待っていた。
「おかえり!」「立派な顔になったな!」とみんなが私の帰郷を歓迎して出迎えてくれた。
イミュ「ただいまみんな!」
懐かしい顔ぶれに昔を思い出しながら少しみんなと話していると、奥から村長のガズ・ラウテが急いで出てきた。
ガズ「おぉぉぉイミュぅぅぅぅ!元気だったかぁぁぁ!」
イミュ「ガズぅ!ただいま!!」
ガズはイミュが物心つかない頃、両親の居なかったイミュを親代わりに育てた本当の親のような存在なのだ。
再会のハグを済ませるとガズは言いました。
ガズ「よぉぉしっ!今日は宴だァァァ!!」
イミュ「もう笑 ほんと親バカなんだから笑」
ガズ「夕方からやるからなっ!それまで荷物やら整理してゆっくりしておきな!本当におかえり。」
イミュ「うん、ありがと!それじゃあまた後でね!」
そう言って私はみんなに手を振って一度山上の小屋へ荷物を運ぶ事にした。
荷物を持って山道を歩いている時、急に頭痛と共に何かが聞こえてきた。
???「……アッ…ァ..」
イミュ「…っまたこの声…あなたは誰なの?」
ふっと声はまた聞こえなくなった。
いったいあなたはどこにいるの。
気がかりではあるが、私はまた荷物を持って山道を歩いた。
小屋に着くと自分の部屋を作るよりも先に診療所としての色々を始めた。薬の入った瓶を並べたり、看板を立てたり、気がつくと太陽はもう頭の上まで登っていた。
開業への準備を済ませるとぐぅ〜とお腹が鳴った。
イミュ「あっ…笑、もうお昼か〜山から降りてちょっと何か食べようかな、財布財布っと(ガサゴソ)あった。ついでに足りない雑貨や食材も買ってこようっと。」
ガチャッ
しっかりドアの鍵を閉めて村の方へ降りていった。
イミュ「お昼何にしよっかな〜♪」
鼻歌でも歌いながら店に入り席まで移動すると、なにやら後ろの席からうわさ話が聞こえてきた。
客A「最近村のはずれで夜になると【出る】らしいんだよ」
客B「え〜ただのうわさでしょ?笑 信じないよ笑」
客A「見た人が言うにはなにか小さな動物じゃない影がうろうろしてたんだって」
客B「ふ〜んそうなんだ笑」
(出る、かぁ。おばけ苦手なんだよなぁ私…)
イミュ「あっ、会計お願いします!」
買い物メモを取り出して色々と店を回り始め、気がつけば日が傾いていた。
イミュ「ふぅ、これでよしと。ありがとね!」
紙袋を持って店を出て家へ帰ろうとした時、後ろから
「泥棒だぁ!!誰か捕まえてくれぇっ!」と食べ物屋の店主の声が聞こえてきた。振り向いたその時目の前に小さな影が迫って来ていた。
ドンッ
???【おねがい…やだっ…お腹が空いただけなのっ…】
!? あの声だ、頭に直接語りかけて来るようにまたあの声が聞こえた。
咄嗟に避けられずイミュは尻もちをついた。その子はすぐに立ち上がって山の方へ逃げていってしまった。
イミュ「あぁっ!待って!」
急いで追いかけようとしたので紙袋も持たずに走り出した。もう日も落ちかけていた夕暮れの事だった。
次第に辺りは暗くなり始め、少し雨も降ってきていた。
広場では宴の準備をしている頃だった。
村人「ありゃ、いっけねぇ 雨が降ってきやがった
村長〜!宴は明日にしませんか〜?村長〜?」
ガズ「……」
村人「村長〜?」
ガズ「ん?あっ、あぁ」
村人「大丈夫っすか?」
ガズ「あぁ…なんだか少し嫌な予感がしてな。」
すっかり山道に入ってしまった。
イミュ「はぁ…はぁ…待ってってばっ!」
だんだん距離が縮まってきた。すると追いかけている内にあの子は木の根に躓いて転んでしまった。
???「フギャッ」
イミュ「やっと追いついた…はぁ…はぁ…
怖がらないでっ、何もしないから」
そう言って近づいた瞬間、私は驚きを隠せなかった。
(!? 人間じゃ…ない? 赤色の肌に、右目の上のこれはなんだ…?角か?)
見た事もない生き物に出会ったような感覚で頭が混乱した。
そして次の瞬間、あの子の角が光り始め目の前が真っ白になってしまった。
(…ここは、どこだ? さっきまで森にいたはずなのに)
戸惑いながらも辺りを見回していた次の瞬間、いきなり周りが火の海へと変化した。
???【……あさん…おかあさんっ!おきてよおかあさん!ひとりにしないでよ!おかあさ……】
ぼんやりしていてよく見えなかったが、さっきの子の声は確かに聞こえた。…これは、この子の記憶なのか…?
すると一気にまた視界が真っ白になり、目を開けると頭痛が酷かったが元の森に戻っていた。
イミュ「うっ…今のは…」
??? 「ヴゥゥゥ…グゥゥゥゥル…フゥー…ウゥ…」
威嚇するかのように喉を鳴らしながらこちらを睨んでいた。でもイミュはすぐに気づいた。その子の目は今にも零れそうなほど涙が溢れそうな様子だった。
???【…こわいよ…たすけておかあさん…どこにいるの…?
…やだっ…しんじゃないたくないっ…】
…怯えているんだ。この子はひとりが怖かったんだ。
???「グアァァッ!アアッ!」
泣きながら飛びかかってきたその子に、イミュは咄嗟に左腕を前に出した。
ブシャッ
前腕から血が飛び散ったけれど、私はそのまま右腕でこの子を抱くように手をこの子の後ろにまわした。
イミュ「っ…食べてっ…いいよ…怖がらないで…ひとりで寂しかったよね、辛かったよね…もう…大丈夫だからっ…私が…一緒に居て…あげるっ…」
ひとりだった私と一緒に居てくれたガズのように、私もこの子をひとりにさせないと思って私はこの子の頭を撫でた。
???「…ウゥッ…ア゛アァァッ…アアッ…アァ」
その子はそのまま腕の中で泣き始めた。
どうやら私の想いは伝わってくれた様だった。
イミュ「…うん…よしよし……いい子…だね」
本格的に降り始めた雨の中
ふたりしかいない薄暗い森で
ひとりの医者は不思議な少女に出会った。
御読み頂きありがとうございます。
17歳の拙い文章でしたが面白いと思っていただけると幸いです。ご感想やコメントを頂けるととてもよろこびます。
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