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97話 見えない壁

阿部花次郎先生が描く本作コミック3巻が発売中です!

「駄目だな……」


 俺は閉ざされた城門を見て言った。


 ヴェルムに入った俺たちだが──こうしてヴェルムに閉じ込められてしまっている。


「ふん!!」


 エリシアが拳で城門の鉄扉に拳を繰り出すが、びくともしない。

 鉄扉は見えない壁に覆われているようだった。


 その見えない壁は城壁だけでなく、空にも展開されていた。


「《炎龍》!!」


 少し離れた場所では、空に向かって巨大な炎を放つセレーナが。

 しかしその極大の炎をもってしても、見えない壁は破れなかった。


「エリシアの馬鹿力とセレーナの魔法でも駄目……何より、アレク様の魔法が全く効かないなんて」


 俺も闇魔法を使ったが、壁に穴は開かない。

 地面を掘って地下から開こうとしたが、地下にもその壁は展開されていた。


 そもそもこの壁からは、魔力の反応のようなものは感じられない。

 無色透明のガラス……そんな感じだった。


 レヴィンの話だと、この壁はこの街が襲われた際に展開されていたらしい。

 そうして逃げ場をなくした住民たちは、黒衣の女にやられた。


 しかし黒衣の女だけは、壁から出入りすることができた。


 黒衣の女が悪魔であることは間違いない。


 つまりは、悪魔はこの空間を出入りする術を持っているわけだ。


 その術は当然闇魔法だと思うのだが……俺の闇魔法では、開くことはできなかった。【転移】も使えない。


「俺の考えつかない闇魔法があるのか、それとも全く未知の技術でできているのか……」


 俺が頭を悩ませている中、市街を調べていたラーンが帰ってくる。


「アレク様、ただいま戻りました。やはりレヴィンさんの言うように、装置の類は何も見当たりませんね」


 ユーリは怖がるように言う。


「ラーン……一人でよくこんなところ歩けるね」

「アレク様のためなら、何の苦でもありません。人々の苦しむ声を聞くのは、悲しいですが……」


 ラーンはそう答えた。


 俺は先程、レヴィンにこの街で何か残されていないか聞いた。

 彼が言うには壁に関連するような装置はないという。そもそも、この街を襲った時に展開されたのだから、装置や魔道具で生み出された壁ではないのだろう。


「他に何かあったか? どんな些細なことでもいい」

「文書もなく、食料もなく……本当に何もありませんでした。ですが、一つ気付いたことがあります。空をご覧いただけますか?」


 その言葉に、俺は空を見上げる。


 すると、高い空に鳥──おそらくはアロークローが飛んでいるのを見つけた。


「あの鳥がちょうどこの街に向かってきますね。見ててください」

「壁にぶつかるんじゃないのか? ──消えた?」


 鳥は壁のあるあたりまでくると、すっと消えてしまった。


 ユーリが目を丸くして言う。


「そ、外から触ると消えちゃうの?」


 ラーンは頷いて答える。


「はい。消えてしまうのです。すでに数匹が消えているのを目にしています。皆、壁がないように向かってきては、痛がることもなく一瞬で消えます」

「外からも入ってこれないわけね。でも、中からじゃ消えないよ? 外なら、なんか攻撃が効くのかな?」


 ユーリの言うように、外からなら壁を破る手段があるのかもしれない。


 しかし、アロークローも先程からセレーナが火炎を空に放っているのは目にしているはずだ。

 ……それで空に近づこうとするだろうか?

 もしや、外からは中が見えないとか?


 新たな疑問が生じるが、ともかく外からも中から行き来できないのは分かった。


 外に仲間を呼べれば、更なる情報を得られるかもしれないが──

 眷属たちには外界に出ないよう言ってあるし、連絡手段もない。

 連絡が取れたとして、そもそも壁を破壊できそうなやつもいないな……


「八方ふさがりだな。対策もせず足を踏み入れた俺のせいだ」

「そんな。私たちがアレク様の魔法に頼りっきりだったせいです」


 エリシアは申し訳なさそうに言った。


 他の三人も大人なのに面目ないと謝る。


「俺が決断したんだ。俺が悪い。だが、今は嘆いていても仕方ない。 ……そこで一つ、試してみたいことがある」


 ユーリが訊ねる。


「試してみたいこと?」

「悪魔の召喚だ。ミレスで学んだ闇の召喚術。それを今ここで使う」


 エリシアは真剣な面持ちで言う。


「なるほど。悪魔を使役して開くわけですね。ですが」

「ああ。使役できるかは分からない。そもそも召喚できるかも不明だが。とはいえ、今試せそうなことはそれぐらいしかない」


 ラーンが頷いて言う。


「ある意味、召喚術の実践にまたとない好機かもしれませんね」

「もし従わなければ、私たちで倒すだけ。やりましょう!」


 セレーナもそう答えてくれた。


「頼りにしてるぞ。だが、召喚獣は魔力を使い果たすと消失する。無理して攻めずに、魔力切れまで防御に徹すればいい」

「かしこまりました」


 皆、真剣な表情で頷く。


 俺も頷き返すと、手を前の街路へと向けた。


「では、召喚しよう──来たれ、来たれ──光届かぬ場所から来たれ……悪魔よ」


 マレンと同じ詠唱を響かせ、闇の魔力を集める。


 以前は俺の闇の紋から結構な量の闇の魔力が吸われてしまった。

 今回はそうならないよう、召喚に使う闇の魔力を慎重に集めていく。


 そうしてついに黒靄が生じると、俺はそれを街路の上に放った。


 黒靄は街路の上で膨張すると、やがてすうっと消えていく。


「おお!!」


 セレーナが声を上げる。


 俺たちの目の前には、紫色の肌の人型が立っていた。頭に赤黒い双角を備え、背中には蝙蝠のような黒い翼を生やしている。


「間違いない、悪魔だ──成功したんだ」


 マレンは黒狼を召喚したが、俺は悪魔を召喚できた。

 やはり闇の魔力の量によって召喚される存在が決まるのだろうか。


 悪魔はこちらをじっと見るだけで、微動だにしない。


 エリシアは剣を構えながら警戒して言う。


「今まで見た悪魔は口が悪かったですが……彼は無口ですね」


 今まで見た悪魔は皆、人への憎悪や軽蔑を口にしていた。

 ある意味、人間らしい一面があったと言える。

 しかし目の前の悪魔は、何も喋らない。


 なんというか、霊以上に不気味だ。


「そもそも、喋れるのかな。 ……お前の名は?」


 俺がそう訊ねるが、悪魔は何も答えない。


 無視しているのか、そもそも俺の言葉が分からないのか。


 だが以前あった黒狼は、俺の発したマレンを守ってほしいという言葉に頷いていた。


「……命令なら聞くのかな? 手を振ってくれないか?」


 俺がそう言うも、悪魔は手を振らなかった。


 しかし目はこちらに向かっている。

 無視しているのではなさそうだ。


 ……となると、言葉が分からないのか。


「えっと……こうだ。こうして手を振れるか?」


 俺はそう言って手を振ってみせた──その時だった。


 悪魔は瞬時に俺たちの前から消えた。


「──っ!?」


 俺はすぐに《闇壁》を周囲に展開した。

 エリシアも聖魔法で壁を作ってくれる。


 魔力の反応を追うと、空中に悪魔が《転移》していた。

 悪魔は闇の魔力を槍にしたものをこちらに放つ。


「いきなり攻撃してきた?」


 最初は何もしてこなかったのに、急にこちらを攻撃してきた。

 馬鹿にしていると思われたか?


 セレーナが剣を構え訊ねる。


「アレク様、いかがしましょう? 反撃しますか?」

「いや……様子を見よう。どのみち、長くはいられない」


 悪魔は空中を移動しこちらを闇魔法で攻撃するが──そのたび、体が透明っぽくなってきた。


 魔力がどんどんと失われている証拠だ。


 そんな中、悪魔は見えない壁にぶつかりそうになる。


 しかし悪魔は壁をすり抜け、外界へと出た。


 ユーリがそれを見て声を上げる。


「壁をすり抜けた!」

「悪魔は出られるようですね。あ、また中に戻ってきました」


 ラーンの言うように、悪魔は壁を出入りできるようだ。


 出入りするとき、体の色がさらに薄くなっている……

 となれば、やはり魔法で出入りしているのか。

 

 その後も悪魔は移動しながらこちらを攻撃した。


 しかしついに魔力切れの時が訪れる。 

 闇魔法を放つと、霧散するように消えてしまった。


「消えちゃった……壁は?」


 ユーリがそう言うと、セレーナが先ほど悪魔が出入りしていたあたりの壁に向かって炎を放つ。


 しかしその炎は、壁に弾かれてしまった。


「くっ、駄目か」


 悔しそうにするセレーナ。

 皆も再び、残念そうな顔をする。


 だが、悪魔の召喚で明らかになったことがある。

 それはやはり、闇魔法で出入りできるということ。


 魔力の壁で阻まれているのでないとしたら……ここは外の世界と別の空間なんじゃないか?


 例えば、《パンドラボックス》は俺が作りだした空間だ。

 ここはそれと似たような空間なのかもしれない。


「壁を壊すのではなく、空間からこの街ごと出すイメージ……」


 俺は街を包むように、闇の魔力を展開した。

 そしてパンドラボックスにモノを出し入れするイメージで、街を出してみる。


「……どうだ?」

「何かされたのですか? 見た目に変化はありませんが……あっ」


 エリシアが城門の扉を押すと、先程とは違い簡単に開いた。


 ユーリは門の外へと歩いてみる。


「壁が消えている!!」

「空も──おお、壁がない!」


 セレーナは空に爆炎を打ち上げて言った。


「何をしたのですか、アレク様?」


 驚くラーンに俺は答える。


「俺たちは別の空間にいたんだ。この街も別の空間にあったんだよ」

「私には空間がどうとかはさっぱりですが、よくお気づきになられましたね!」


 セレーナが言うと、ユーリも声を上げる。


「さっすがアレク様! どんなときも本当に頼りになるなあ」

「いや、もとは俺の失態だ。今後は気を付けないとな……と、さっそく魂が」


 空を見上げると、街にいた人々の魂が空に消えていった。


 そんな中、レヴィンがやってくる。


「アレク様!! 壁を取り除いてくださったのですね!!」

「ああ。これで皆、自由になれるな」

「なんとお礼を申し上げればいいのか……!」

「礼は不要だ。こちらも色々情報を教えてもらったからな」


 レヴィンには壁の他にも、当時の帝国やティアルスのことなどを教えてもらった。


 ティアルスの街や鉱山の場所、川などの地形など、今後の開拓に役立つ情報を得られた。簡単な地図が作れたほどだ。


 また、魔鉱石の採掘場はそもそも拝夜教の者たちが開いたことや、昔の帝国人は闇の紋章持ちを無能と蔑んではいたが迫害していなかったことなども知ることができた。

 至聖教団も当時は存在しなかったという。


「それよりも、お前たちは」

「はい……謝るべき相手がいる。会えるかは分かりませんが、必ず罰は受けます」


 その言葉に俺は頷く。


「最後に改心してくれてよかったよ。 ……そうだ、一つ聞き忘れたんだが、お前たちは俺たちを襲う様に命じられたのか? それとも侵入者はああして排除するように言われていたのか?」

「は、はい。侵入者はそうして殺すよう我らは作られていたようですな。ですが、今まで侵入者はおりませんでしたのでなんとも。アレク様たちが、黒衣の女以来、初めて見た外部の者です」


 コイン自体が俺たちを感知したのだろうか?

 それに、俺たちが来る前は街の様子や魔力の反応が外から分かった。

 特に魔法を使わなくても街に入れた。


 装置がないなら、誰かが見ていて……


 俺は静かに周囲の魔力を探りながら答える。


「そう、か。まあ近場はずっと人間が近寄らなかったみたいだからな」

「そんな中アレク様が来てくださり、本当に助かりました。ありがとうございます。 ……それでは、私も」

「ああ……全てが終わったら、安らかに眠ってくれ」

「お慈悲に感謝いたします。願わくは、あなた方に神々のご加護と恩寵がありますように」


 レヴィンはそう言うと、すっと消えていった。


 エリシアは手を合わせて唱える。


「安らかにお眠りください……行きましたね」

「ああ……だが」


 魔力を探っていた俺は気付いてしまった。


 街の外にいる、隠しきれない強力な魔力の反応を。


 俺は城門を出て、反応の方向──東の丘を見る。


「あそこか……ずっと俺たちを見てたのか──」

「え? な、なんのことです?」


 ユーリは周囲をきょろきょろと見回す。


「あの丘だ。そこに、何かがいる」


 あの魔力なら、ここに届く魔法を撃ってきてもおかしくないが……


「会いにいってくる……皆は一度アルスに」

「いえ、一緒に行きます」

「そうか。なら、行こう」


 俺は【転移】で東の丘の近くへと向かうのだった。

阿部花次郎先生が描く本作コミック3巻が発売中です!


単行本でしか読めないカバー裏のおまけなど、三巻も魅力いっぱいの一冊となっております。

ぜひ読んでいただけますと幸いです!!


書影です!

挿絵(By みてみん)


商品情報です!(KADOKAWA公式サイト)

https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000757/

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